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無限の世界  作者: 蒼風
六章「波紋の心」
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六章三話「進撃する怒りの元凶」(10)

 いきなりの衝撃に驚くミレイ。背後を振り返ると刀弥が刀の柄でミレイの管槍を押し

ている姿が見えた。

 衝撃によって進む管槍の本体。すると、管槍の穂先が新たな感触を伝えてくる。

 その途端、小型ドラインが今までの中で一番大きな咆哮を上げた。

 余程の痛みなのか体を大きく仰け反らせる。


「っと」


 仰け反った勢いで小型ドラインから振り落とされてしまった刀弥。彼は先程登った時の要領で斬波の足場を作るとそれを伝って地面へと降りていく。

 一方、ミレイはというと深く刺さった管槍を離さなかった事で振り落とされるのを防いでいた。

 小型ドラインは仰け反った後も暴れまわっており、その暴れっぷりは止む気配がない。

どうやら刺さった管槍が暴れまわった反動で小型ドラインの脳を傷つけその痛みでさらに小型ドラインが暴れまわるという連鎖が繰り返されているらしい。

 それでもしばらくすると体力切れか小型ドラインの動きが目に見えて悪くなり最後には止まってしまった。

 その隙をミレイが見逃すわけがない。管槍に体重を掛けることで管槍をさらに奥へと届けせようとする。

 僅かだが奥へ奥へと入り込んでいく穂先。当然、小型ドラインもなんとか抵抗しようとするが体力切れのせいでノロノロとしか動けずミレイを振り落とせない。

 そうして管槍が三分の一ほど体内に侵入した時、唐突に小型ドラインは力を失い地面へと倒れてしまった。

 そんな光景を見て小型ドラインと戦っていた一同がざわめく。

 無理もない。ようやく一体倒したのだ。後一体残っているといえど、目に見える成果が確かに目の前に現れれば誰だって気分がよくなるだろう。

 けれども、そんな喜びも一瞬の間だった。皆、素早く大型の方のドラインへと視線を向けると一斉にそちらに向けて駆け出していく。

 ミレイもまたそんな集団を追いかけようとしていた。だがその途中、倒れた小型ドラインへと一瞥を送る。

 果たした。ようやく果たしたのだ。両親の、マグルスの仇を……

 無論、まだもう一体残っているがそれでもミレイとしては己の目的をたった今果たし終えたのだ。

 走りながら目を閉じ静かに両親とマグルスへと黙祷を捧げるミレイ。そうしてからミレイは速度を上げ集団に追いつくのだった。

 


      ――――――――――――****―――――――――――



 刀弥やミレイを含む集団が大型ドラインを引きつけていた連中と合流した直後、遠距離攻撃の集団からの援護攻撃がきた。

 その攻撃によって怯む大型のドライン。その間に集団は新たな陣形へと展開する。

 形作られた陣形はくさび形。その形状をもって集団は大型ドラインに突撃を敢行した。

 接近した者達から仕掛ける絶え間ない攻撃が大型ドラインに襲いかかる。

 さすがに大型の方はその程度の攻撃で咆哮をあげたりはしなかったが、それでもうざいと感じたのか全身を使って刀弥達を蹂躙しようとした。

 この攻撃を刀弥達は散り散りになる事で避ける。

 そうして大型ドラインの周囲に人がいなくなった同時に再び遠距離攻撃が炸裂した。その支援を受けて再び集団は接近を試みる。

 だが、そんな彼等の目の前で大型ドラインが己の体をよじりその身を赤色へと変えていった。


「くそ、退避だ」


 指揮者の指示通り一気に距離を離す一同。けれども、ここでこの攻撃はかなり厳しい。

 毎回撃たれる度にかなり被害を出しているのだ。今、また撒き散らされたら大型のドラインを討伐するのはかなり厳しくなる。

 歯噛みする刀弥。そんな時だ。


「ご苦労様♪」


 聞き覚えのある声が頭上から降り注いできた。


「!?」


 その声に上を見上げる刀弥。と、同時に大型ドラインの真上から巨大な光が降り注いだ。

 光を浴びた大型ドラインはみるみるうちに炎を纏い始める。飛ばすはずだった赤い生き物たちは炎によって焼き尽くされ赤の雨が降る様子もない。

 光はしばらくの間、大型ドラインの元へ落ち続けていたが、やがて細くなっていき最後には消滅してしまう。

 後に残ったのは赤黒く焼けた大型ドラインの焼死体が残る――


「お、やっぱり生きてたか」


 否、声の通り死んではいなかった。残った力を振り絞るかのようにノロノロと動き出し地面へと頭を突っ込ませようとする。どうやら逃げる気らしい。

 しかし――


「逃さないよ」


次の瞬間、大型ドラインに鎖が巻き付いた。

 巻き付いた鎖から逃れようとする大型ドラインだが、鎖が丈夫なのか振り解ける気配が全くない。


「無理無理。さっきの攻撃で結構弱ってるからね。振り解く事なんてできないよ」

「……ルード」


 苦々しい口調でその名前を告げる刀弥。

 彼の見上げる視線の先には彼が告げた通りルード・ネリマオットの姿があった。

 彼は鳥型のゴーレムに乗っており同乗者として男の姿もある。光が降り注いだ場所の真上にいるのは空を飛ぶ一体のゴーレム。その腕には巨大な砲のようなものが担がれている。


「……ルード。疑問なのだが、何故この兵器を最初から使わなかった」


 男は責めるような視線でルードの事を見ていた。けれども、ルードはそんな視線に怯むことなくこう告げる。


「いやだってさ、今できたばかりだもん」

「は!?」


 間の抜けた驚きの声。実際、会話の内容を把握していない刀弥でもその言葉は衝撃的だった。

 今できたばかりだという事はここに来るまでの間――あるいは見ている間――にあの武器が作られたという事だ。

 彼等の周りには武器が作れるほど規模の何かが存在する気配はない。

 一体、どうやってあんな兵器を作ったのか。刀弥がそんな疑問を抱いていた間にだ。

 唐突に大型ドラインが短い鳴き声をあげたかと思うと突然、倒れ動かなくなってしまった。


「なんだ!?」

「どうしたってんだ」


 突然の変化に驚く人々。すると、大型ドラインの傍で何かが揺らめいたかと思うと次の瞬間、それが姿を現した。

 現れたのは人型のゴーレム。よく見ると人型ゴーレムの傍の大型ドラインの体には何かが埋め込まれている。どうやら大型ドラインが動きを止めたのはそれが理由らしい。


「ルード。お前、そいつをどうするつもりだ!!」


 何かを施した以上、殺していないのだろう。つまり、何らかの形でドラインを利用しようとしているということだ。

 彼の叫びにルードはようやく刀弥の存在に気が付く。


「あれ~? 聞いた事のある声が聞こえてきたかと思ったら……ひさしぶりだね~♪」


 懐かしむような楽しげな声で返事を返してくるルード。しかし、刀弥にしてみればその反応こそが不快となった。


「……もういっかい聞くぞ。そいつを捕まえてどうするつもりだ!?」

「怒らない怒らない。大体、必要なのは僕じゃなくて彼等なんだから」

「ルード。余計な事は言うな」


 刀弥の問いにルードは背後に乗っている研究者の方を振り返る。

そんな彼の言葉に研究者は嘆息混じりに返事を返した。


「それよりもさっさとこの場を離れるぞ」

「ちゃんと動くの? それ」


 それ――大型ドラインに一瞥を送り尋ねるルード。

 その疑問に研究者は大型ドラインを動かすことで返答した。

 いきなり立ち上がった大型ドラインに驚きながらも武器を身構える人々。


「あ、大丈夫大丈夫。ちゃんとこっちの制御下に置かれているみたいだから襲うことはないよ」


 しかし、そんな彼等の反応にルードがケラケラと笑いながら止めにはいる。

 ルードの言葉に一同は信じられないという表情を浮かべ、そうしてから大型ドラインの方を見た。

 大型ドラインは起き上がってからは特に動くこともなく大人しい。まるで先程までの暴れっぷりが夢だったかのようだ。


「嘘だろ……」

「マジかよ」

「あの子。一体何をしたのよ」


 いつしか彼等の視線は大型ドラインからルードへと移っていた。

 そんな視線を愉快そうな顔でルードは受け止める。


「それじゃあ、急かされてるし僕達はこの辺でおさらばといこうかな」


 その言葉に刀弥は『待て』と叫ぼうとし、けれどもすぐさまその口を閉じた。

 止めてどうするのだ。既に討伐の面々は多くが負傷や死亡しており、かなりマズイ状況であったのだ。

 連中が大型ドラインを使って何かをするのは間違いないが、だからといって彼等を引き止められるのかと聞かれれば正直かなり危うい。実際、想像してみても死傷者の数をさらに増やすだけの結果が大半である。

 それに元々ドラインとの二連戦というのが想定外で厳しい戦いであったのだ。彼らが片方をどうにかしてくれるというのなら討伐側としては是非そうして欲しいというのが討伐の人達の本音であろう。


 鳥型のゴーレムが羽ばたき去っていき、それに合わせて大型ドラインがゆっくりとした動作で背中を見せ進んでいく。

 皆、誰もが疲れた表情でそんな異様とも言える光景を見送っており、中には複雑そうな表情でそれを眺めている者もいた。

 刀弥は睨むような視線でそれを見ているだけだ。

今は倒すだけの力もなければ周りを巻き込むだけの度胸もない。

 ただ悔しげな表情でその後ろを姿を見ていることしかできなかった。

 

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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