六章三話「進撃する怒りの元凶」(8)
「っ、たく一体いつになったら倒れるんだ?」
何度目かわからない斬撃を小型ドラインに刻み刀弥は愚痴る。
離脱しながら背後を振り返るとのろのろと小型ドラインが首の向きをこちらに変えるところが見えた。
最初の頃と比べると明らかに動きが落ちている。体力的のも弱ってきているのは確実だ。
ただなかなか倒れない。あれからかなりの数の傷を負わせ消耗させているのだが未だ倒れないのだ。
大型ドラインの意識を引いている連中の方もそろそろ限界に近づいている。
――こうなったら一か八か一気に仕掛けてみるか?
自問する思考。そんな時だ。
「どけどけ~~」
刀弥の後方、ミレイ達がいる方向からそんな声が届いてきた。
声につられて刀弥を始めとした一同がチラリとその方向へ視線を向けてみると――
「俺様のお通りだ!! 道を開けろ~!!」
そこには巨大なランスを構えて突っ込んでくる男の姿があった。ウィルバードに所属しているメンバーの一人だ。
彼の背後にはミレイを始めとした他のウィルバードの面々の姿もある。
「そんじゃあいくぜ」
「ヘマすんじゃねえぞ」
「その時は全員に昼ごはんの奢りね」
歩みを進めながらそんな軽口を交わし合うメンバー達。そうして彼等はそのまま巨大ランスを持った男を先頭に小型ドラインの方へと突っ込んでいった。
豪快に進んでいたためかすぐに小型ドラインは新たな外敵がやってきた事に気が付く。
グルリと巨体を旋回させる小型ドライン。直後、ウィルバードの面々は巨大ランスの男を残して散開した。
「いくぜ!! しっかりと踏ん張れよ」
それと同時に巨大ランスを持った男は徐々に速度を上げていく。
足の回転は早くなり足跡の間隔は段々と広がっていく。
巨大なランスが風の壁に穴を穿ちそれによってできた大気のトンネルの中を突き進む男。そうして彼は小型ドラインの傍までやってくると全勢いを載せた体当たり――もとい突きを小型ドラインにぶつけたのだった。
深々と巨大なランスが小型ドラインの体へと埋まっていく。
刺さったランスはあっという間に穂先部分が見えなくなるほどに埋没。結果、小型ドラインが痛みで暴れまわる事態となった。
そんな小型ドラインに他の面々が攻撃を始める。
まずは大剣を持った男が棍棒を持った少女に打ち上げられ天高く昇ると落下と同時に大剣を振り下ろし小型ドラインの体に大きな傷を作り上げた。
その傷に向かって弓を持った男が次々と矢を放つ。
鮮やかな速射で短い間に放たれた八本もの矢はそのまま真っ直ぐ飛んでいき、そのまま大剣が作り上げた傷口へと突き刺さった。
その攻撃で小型ドラインが仰け反ると今度は棍棒使いの少女がドラインの体を駆け上り一打。突き刺さっている矢の尻をしっかりと打撃し矢を更に深いところまで食い込ませた。
矢がさらに深く入ったことで再び痛みが走り小型ドラインが悲鳴を上げる。
そんなドラインに男が一人近づいていった。
男が使う武器は手甲。そのまま男は小型ドラインに手が届く距離まで近づくと速度を緩めることなくジャンプ。勢いそのままに右腕のストレートを繰り出した。
速度と全体重が乗った右ストレート。その衝撃は体内へと侵入し小型ドラインの内部からダメージを与える。
この攻撃に苦しいのか小型ドラインは呻くような鳴き声を漏らした。
そこへ剣使い達が次々と攻撃を加える。
剣、刀、レイピア、短剣、両手剣。様々な剣が小型ドラインを捉えその体を傷つけていく。
そうしてその最後、剣戟を受け怯んだドラインの体をミレイが駆け上り、そして頂上に辿り着いた瞬間突きの猛打を雨のように繰り出した。
たちまちのうちに小型ドラインの頭上に無数の穴が開いていく。けれども、その穴も少し時間が経つとすぐに肉の壁によって埋められ閉じてしまう。
「結構、ダメージ入ったと思ったんだけどな~」
「全然、倒れないね~」
そんなドラインの様子を見て口々にそれぞれの感想を述べるウィルバードのメンバー達。
そこに小型ドラインと戦っていた集団がやってきた。
「大丈夫なのか?」
「ああ、大将はやられたが、やる気は皆しっかり残っているよ」
彼等を心配する指揮者の問いにメンバーの一人がそう答える。
そこへ刀弥がやってきた。
彼はメンバー達の反応やミレイの様子などから彼女が無事平静を取り戻している事に理解しほっとする。
「ま、とにかくは……あのちっこいのからだ。そうすればあと一息だ」
「……それが難しいから困っているんだが」
と、そんな中、話はこれからの作戦にシフトしていた。――ちなみに小型ドラインは動きを見せていない。どうやらそれなりに疲労はしているらしい。
「このままチマチマ消耗を狙ったってこっちが先に参っちまう。と、なりゃあ狙うのは一撃必殺しかねえだろ」
「脳天に一発か」
メンバーの提案に指揮者はう~んと腕を組み考えこむ。
確かにどれだけ生命力が高くても生物は生物。その中枢たる脳を破壊されてしまえば活動を維持することはできない。
しかし――
「やれるのか?」
そう、問題はそのの部分に一撃を入れられるのかという事だ。
ドラインの皮膚は表面は傷つきやすいが内部分はかなり丈夫だ。構造上骨はなさそうだが、それでも皮膚を突破するのはかなり難しそうである。
この指揮者の問いにその男はこう答えた。
「ミレイに任せれば大丈夫だ」
「え?」
驚いたのはミレイだ。まさか、倒せるかの問いに自分の名前が出てくるとは思いもしなかったのだろう。どういう事だという視線をその男に向けていた。
「精連突きをやってもらうのさ」
「あれを?」
問いと共に曇るミレイの表情。けれども、無視して話は続けられていく。
「俺の勘だと頭上から精確に同じ所を六回ぐらい連続で付けば脳に届くとは思うんだが……」
「六回って……ちょっと待って!? 私、まだ五――」
その言葉が予想外だったらしく慌ててミレイが口を挟もうとするが、その途端仲間にその口を防がれてしまった。
彼女の慌てぶりが気になったのか指揮者がミレイの方へと視線を向けようとするが――
「気にするな。とりあえずそういう事だ。問題は確実性を高めるためにできれば攻撃直前に動きを止めたいところなんだが……」
メンバーの男が続きを話し始めた事で自然と元の方へと視線が戻ってしまう。
「……つまり、我々にドラインの動きを止めてほしいということだな」
「話が早くて助かる」
両手を広げて肯定返す男。その男の説明を聞いて指揮者は腕を組み少しの間考えに没頭し始めた。
やがて指揮者は腕を解き男に返答を返す。
「わかった」
「よ~し、なら善は急げだ。ちょっと、耳を貸してくれ」
そうして指揮者と男はミレイから距離を取り何やら相談事を始めた。
そんな彼等を見てミレイは溜息を漏らす。
「……私、まだ最高記録は五回よ。それも最高潮での話だし」
「まあ、今のお前なら一回増やすくらい訳ないさ」
「そうそう。五回も随分前の話なんだし」
彼女の嘆きに次々とフォローを入れる仲間達。
一方、刀弥はというとミレイ達のやり取りを遠巻きから聞いていた。
どうやらミレイの精連突きとやらの最高記録は五回らしい。そのせいか上手く六回を成功できるのか不安なようだ。
けれども、仲間達の方はそんな不安を抱いてはいなかった。皆、今のミレイなら大丈夫だと信じている様子だ。
と、そこへ――
「よし。聞け!! これより新たな作戦の説明を始める!! 一度しか言わないからよく聞けよ!!」
指揮者の叫び声が響き渡った。
こうなると最早後には引けない。ミレイには是が非でも成功してもらうしかない。
こうして一同は小型ドラインを仕留めるための作戦を開始したのだった。