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無限の世界  作者: 蒼風
六章「波紋の心」
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六章二話「動機」(6)

「いやはや~。こいつは一本取られたね~」


 あはははとそう言いながらルードは頭の後ろを掻いた。

 彼の後ろでは頭を擦りながら研究者が立ち上がる。


「まさか、体を回転させてあれを飛ばしてくるとはな」


 呆れるような感心するような声で呟く研究者の眼前、そこには穴だらけとなったゴーレムの残骸が群となって広がっていた。全て子ドラインの一度の攻撃によってもたらされたものだ。

 残骸に開いた穴は小さなものでそれが一体のゴーレムに数百と付けられている。中には穴のほうが多すぎて原型すらとどめていないものまである始末だ。


「構成員達は下がらせて正解だったな」

「そうだね。僕達が乗っていたゴーレムも落ちちゃったし」


 そう言ってルードが背後を振り返る。すると、そこには羽が欠けて墜落した鳥型ゴーレムの姿があった。


「いや~、羽がやられた時はどうなることかと思ったけど、案外人間の体ってのは丈夫みたいでよかったよ」

「完全に他人語だな」


 そんなルードの態度に呆れてしまう研究者だが、今はそれよりも気にしないといけないことがある。


「それで、ドラインは?」

「親子揃っての逃避行の真っ最中。方角はあっち」


 そう言ってルードが指差す。その方角の先にあるのはイステリアという街だ。


「まずいぞ」


 焦る研究者。別に街に被害がでてしまうことを心配しているのではない。街からの迎撃でドライン達が死んでしまうのを恐れているのだ。


「ルード!! ゴーレムは使えるのがどのくらい残ってるんだ!?」

「ん~? 九割以上が格納状態で残ってるよ~」


 叫ぶように尋ねる研究者にルードが余裕のある声で答える。

 その内容に研究者は驚いた。無理もない。見える範囲だけでもかなりの数のゴーレムがドラインにやられたのにも関わらずそれがほんの一握りの戦力でしかないと言っているのだ。

 桁外れの保有量に自然と研究者は目を細めて見つめてしまう。

 こいつは一体何者なのだろうか。

 国の軍隊であってもそれだけのゴーレムを保有し維持し続けるのは難しい。こういうものは作ったり買ったりすれば終わりという訳ではないのだ。

 摩耗する部品の修理や交換、動力となる燃料の補給――最もこれは動力をマナにすれば自前からの分配である程度解決はできるのだが、ゴーレムの数を考えると本人の負担が激しく時間が掛かる――。どんなものであってもこういうのはついて回る。

 それはつまり労力と金銭が掛かるという事だ。当然、その値はゴーレムの数と――細かい事を抜けば――乗算の関係にある。

目の前の少年はそれ程大金持ちという印象はないし、それだけの事ができる人物なら否が応でも有名になる。しかし、彼の噂は膨大なゴーレムを操り気ままに行動するという『遊滅(ゆうめつ)の人形遣い』という噂のみ。その噂の中でも彼が大金持ちという情報はなかった。


「あははは~。どうしたのさ~? 呆然としちゃって」


 当のルードは研究者の内心を知ってか知らずか、呑気に声を掛けてくる始末だ。

 けれども、その声で研究者は今、自分達が何をすべきかを思い出す。


「!? こうしている場合ではない。急いで追いかけなければ」


 既にドラインはこの場から逃げるように去った後だ。すぐにでも追いかけなければ街からの迎撃とドラインがぶつかり合う事になってしまう。


「え~、別に急ぐ必要はないんじゃないかな?」


 しかし、研究者の慌てっぷりに反してルードはのんびりとした態度でそう答えた。


「な!?」


 その反応に研究者は絶句してしまう。


「な、何を言っているんだ」

「いやね~、戦力はかなり残ってるよ。でも、やっぱり結構な数が削れているわけだし~。これ以上は使いたくないな~って思っちゃうんだよ」


 そう言うルード。だが、その本心は今口にした言葉通りではないはずだ。その証拠に声は愉快そうに明るく表情も笑みを浮かべている。

 これは間違いなく何かを企んでいる顔だ。

 そんなルードの顔を見てそう確信する研究者。


「で、このまま黙ってドライン達を街の連中にくれてやるつもりなのか?」


 そのため研究者はルードの真意をを探るべくそのような問いを投げ掛けた。


「うん」


 彼の問いにあっけらかんと首を縦に振るルード。けれども、それは研究者の知りたい返事ではない。


「……まさか、約束を違えるつもりではないだろうな?」


 目を細め怒気を込めて質問する研究者。

 別に本気でルードが裏切るとは思ってはいない。

 この眼の前の人物はマイペースで時に自分達を振り回すが、だからこそ興味がある事には自分から飛び込んでくる人物なのだ。

 彼の興味のある計画はまだ途中の段階。これまで飽きられた兆候が全く見られなかったことから裏切られる可能性はかなり低かった。


「安心して。まだ楽しめそうだからそんな事するつもりはないよ」


 その予想通り、ルードがそう言ってドラインが去った方へと視線を向ける。

 彼の返答に『それは楽しめなくなったら何かをするつもりだという事か?』という疑問を得てしまう研究者だったが、結局『こいつなら有り得る』と考えをまとめその考えを一旦頭の片隅に収める事にしたのだった。


「……とりあえずここからは観客として舞台を見に行くつもりなのだな?」


 何にしてもルードが手を出してがっていないのは確かだ。だが、約束を破るつもりがない以上、ドラインの確保だけはしっかりやるつもりがあるのは間違いない。

 と、なればすぐに思いつくのはイステリアにいる連中にドラインを弱らせてもらい両者が弱ったところで確保するというのが一般的な見解だ。

 彼の確認にルードは首肯。


「うん。舞台を見てお土産を手に入れて帰る。そういうつもりだよ」


 一旦、研究者の方へ首を向けそう応じるとすぐに顔を元の方向へと戻した。


「……一体、何が目的なんだ?」


 とりあえず手段は理解した研究者。けれども、何故ルードがそれを実行しようと思ったのかその動機がわからない。

 唐突に思いついた事なのは確かだろう。この流れそのものが想定外(イレギュラー)の出来事なのだ。もし事前に考えていたのだったら、自然な流れを装うかまたはバレバレの芝居がかった行動をしているはずだ。

 不思議に思う研究者。そんな彼にルードは両手を広げてみせると期待に満ちた満面の笑顔で次のように告げたのだった。


「いやだって、あの街の人達にとってはいろいろと因縁ある敵なんでしょ? だったら、彼等にぶつけた方がいろんなドラマが見られるんじゃないかなって思って」

「……悪趣味だな」


 そんな彼の動機を究者はその一言で切り捨てる。


「いや~、それほどでも~」


 しかし、――恐らく、わざとであるだろうが――その言葉にルードはあはははと笑って照れる仕草を見せたのであった。


「……もういい。さっさと追いかけるぞ」


 もうこれ以上喋っても疲れるだけだと悟り、ルードにドラインを追いかけるよう指示をだす研究者。


「あいあいさ~」


 その要請にルードは素直に応じた。

 傍に新たな鳥型ゴーレムを呼び出すと二人はそれに乗り込む。


「とりあえずお土産が手に入ったらさっさと帰るつもりだから、他に連中には帰る準備をさせておいてね」

「わかった」


 ないとは思うがイステリアの連中がルード達を追いかけてくる可能性もあり得るので用事が済んだらさっさと帰るのは賢明な判断だろう。実際、これが終わればここでの要件はもうない。

 鳥型ゴーレムが飛び立つ。その羽ばたく背に乗りながら研究者は眼下を見下ろした。

 見えるのは木々の群れが倒れたことによってできる道。それがドラインが通った後だ。

 随分と離されたようで道の先を見ても二体のドラインの姿を確認することはできない。距離から考えるとイステリアの人々がドラインを発見するのは夜の日を跨いだ頃だろう。

 予期せぬドライン二体の襲撃に人々はどう反応するだろうか。

 予測される動きとそこから導き出されるいくつもの結果。

 研究者はそれを思考しながら道の先を眺め続けていたのだった。




           二話終了

とりあえずこれで二話は終わりです。

次は三話、ドラインとイステリアの人々との戦いが始まります。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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