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無限の世界  作者: 蒼風
六章「波紋の心」
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六章二話「動機」(4)

 日の沈んだ森の中で凄まじい音が響き渡った。

 音の正体は木々が折れる音。軋みをあげ割れるように断裁された木々達はたった一度の行為によって容易くそれの口の中に収まってしまう。

 バキバキと響くそれの口の中。その中には木々が、地面が、そして生き物が収まっている。

 種類などそれにとっては関係ない。元よりそれは味や獲物などに頓着しないからだ。

 ただ喰らう。ただ満たす。それがその獣の意思であった。


 そんな獣を遠くから眺める影達があった。

 影達は一塊ではなく、それを囲むように隠れ配置されている。

 その顔には恐れなどなくただあるのは無の表情だけだ。

 そして、そんな影達の中にルードと研究者は混じっていた。


「わーお。これは惚れ惚れするような食べっぷりだね」


 本気で感心しているのか興奮の色が混じった声色でルードは呟く。


「そうか?」


 しかし、その感情を研究者は理解できなかったようで理解不能という顔を浮かべ、そんな疑問を返した。


「むしろ、俺は街の連中に同情するな。こんな大食らいが住んでる事に……」


 そうして視線を再びそれに戻す。


 二人の目前にいるもの。それは巨大な生き物だった。

 全身は黒くその体格は蛇やミミズのように胴体が長くなっており手や足といったものは存在しない。頭部には目や耳はなく代わりにいうべきなのかそのほとんどが巨大な口で占められていた。

口の形状は円状。その全周囲にギザギザの歯が何層にも重なっている。時折、チラリと見える口の中では何やら赤いものがうごめき粉々となった残りカスへと群がっていくのが見えた。

 あれこそが彼らが探していたもう一つの目的、即ち『ドライン』である。


「へぇ~。なかなか面白そうな獣だね」


 見るからに気味の悪い食事風景。で、あるにも関わらずルードの顔には笑みが浮かんでいる。


「……それでそっちの準備は済んでいるのか?」


 その事を研究者は指摘しようかとも思ったが、結局諦め話を進めることにした。どうせ言って改善してくれるような善良な人物でもないのだ。ならば、本題の方を進める方が効率的であると判断したのだ。


「バッチリ。合図一つでいつでも動かせるよ」

「……よし、わかった」


 彼らの作戦はシンプルだ。ルードのゴーレムで取り囲み物量を持って捕獲する。

 完全にルード頼み作戦だが仕方ない。なにせ人を使った場合、その被害が半端ではないほど膨大になってしまうからだ。

 それはドラインの巨体によってもたらされる被害によるものもあるが、もう一つドラインが持つ『特性』のせいでもある。

 ドラインが持つ特性に関してはここにいる全員が教えられている。

 研究者もその例には漏れていないが、特性の内容を知った時、彼は『特性』の被害にだけはなりたくないと即座に思ってしまった。今でも思い出すだけ身の毛がよだってしまう。


 ドラインはというと未だに食事を続けていた。囲まれている事に気づいていないのか実にマイペースな様子である。


「……よし、始めろ」


 そうして研究者はルードに指示を送った。

 指示を受けたルードは囲んでいたゴーレム達に命令し一斉に襲いかからせる。

 突然の襲撃に驚いたのがドラインの頭部が跳ね上がりその動きが固まった。そこへゴーレムが射撃を放つ。

 放たれたのは炎弾。放たれた炎弾の多くはドラインの皮膚の着弾。爆発を巻き起こしドラインの体に傷を作った。

 己を傷つけられて怒りの咆哮をあげるドライン。その強大な声量に森が震え出す。


「っーー!? …………なんて音量だ」


 不意打ち気味に食らった咆哮に研究者を始めとした構成員達は怯んでしまう。

 だが、あくまで怯んだのは人間だけ。ゴーレム達はというと怯むことも驚くこともなく淡々と射撃を続けていた。


「いや~。びっくりしたね~」


 あはははと笑みを浮かべながらその光景を眺めているルード。そこにようやく咆哮から立ち直り始めた研究者が声を掛ける。


「……っ……どうだ? ……やれそうか?」

「今のところは順調かな。たぶん、堅実にやっていけばちゃんと弱ってはくれると思うよ」


 遠くに見えるゴーレムと巨大モンスターの壮絶な戦いを眺めながらルードがそう返した。


「弱ったのが見えたら捕獲に入る」


 具体的には弱ったドラインを物量で拘束し、それからあの獣を強化し操る魔具によって支配化に置くという流れだ。

 一応、麻酔といったものも用意しているが、あの巨体である以上可能ならば自力で動いてもらいたいのが研究者の本音である。


「わかっていると思うが、迂闊に近づかせるなよ。心が傷まないとはいえ損害は少ないほうがいいからな」

「わかってるよ。だからこそ、時間は掛かるけど安全な射撃で攻撃してるんだから」


 と、そう言っていた時だ。

 突如、ドラインが大きく息を吸い仰け反った。

 そして次の瞬間、爆発音のような音と同時にドラインの口から強大な衝撃波が放たれる。

 いきなりの遠距離攻撃。けれども――


「知ってるよ~♪」


 ゴーレム達は悠々とこれを回避した。

 ドラインの口が大きい事もあって衝撃波の範囲は広い。けれども、衝撃波の移動方向が直進でしかない以上撃つことができる方向は前方だけなのだ。

 元々、前方は攻撃がきやすい方向である以上、ゴーレム達も回避の処理を優先し行動している。加えてこの攻撃は事前に情報として与えられていた。回避は必然の結果であったのだ。

 そうして続く射撃。絶え間ない爆発がドラインの周囲で起こっており、それに比例するかのようにドラインもまた激しく動きまわる。

 と、ここでだ。


「それじゃあ、ここで追加といきますか」


 ルードが新たなゴーレムを投入した。

 姿を現したゴーレムは先程までのと比べると一回りほど大きい。前のめりの姿勢となっていてその背には二門の砲が備え付けられている。言うまでもなく砲撃に特化したゴーレムだった。


「派手にいきますか」


 その言葉と同時に追加ゴーレム達による一斉砲撃が始まる。

 一際派手な音と共に巻き起こる大きな爆発。その爆発によってドラインの体力はさらに削られていくのだった。

 新たな攻撃手の登場にドラインは怒りを露わにし、その攻撃手の元へと向かおうとする。

 しかし、その侵攻をゴーレム達は新たな攻撃を使うことで食い止めた。

 彼らが用いたのは鎖。何もない空間から出現したその鎖を何体かのゴーレムが受け取るとそれをすぐさまドラインへと向かって投じたのだ。

 まるで意思を持っているかのようにドラインの方へと飛んで行きとその先についたピックでドラインに突き刺さる鎖。そうして突き刺さると同時に鎖は備わった力を発揮し己を固定させたのだった。

 後はゴーレム達で鎖を引くだけだ。

 数の暴力によって動きを抑えこまれるドライン。そこに射撃や砲撃が集中する。

 徐々にだがドラインの動きが鈍ってきた。それを見て研究者の瞳が細くなる。


「ルード」

「わかってるよ。タイミングを見て抑えこんで魔具を埋め込む。作業はゴーレムにやらせていいんだよね?」

「ああ、構わん」


 あの特性がある以上、抑えこんでいたとしても確実に安全とはいえない。ここは万全を期すためその方がいいと研究者は判断したのだ。

 やがてドラインの動きがピクリと止まる。ルードはそれを見逃さなかった。

 瞬間、射撃を行っていたゴーレム達が一斉にドラインに接近する。

 上から数を持って抑えにかかるゴーレム達。弱っている上に上から押さえつけられてはドラインも抵抗らしい抵抗はできない。

 そこに最後の一体が魔具を持ってドラインの頭部に降り立った。

 ゴーレムは持っていた剣で頭部に傷口を作るとそこへ魔具を埋め込む。

 痛みが走ったのだろう。ドラインが暴れようとするが弱っているのか抑えこまれているせいか弱々しい動きしかできない。

 そうして魔具の埋め込み作業が終了した。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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