表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限の世界  作者: 蒼風
短章五章~六章「過ぎ去っていった時間の大切さ」
123/240

短章五~六「過ぎ去っていった時間の大切さ」(6)

「そうか。逝っちまったのか……」


 刀弥達の報告を聞いて酒場のマスターはしみじみとそう呟くと目を隠すように顔を伏せる。

 和馬とはそれなりに付き合いのあった人物だ。いろいろと思うことがあるのだろう。

 彼が和馬の死を受け止めている間、刀弥達はただ静かにそんなマスターを見つめ続けていた。

 やがて、彼がゆっくりと口を開く。


「ありがとな。付き合ってくれて」

「いえ、気にしないでください」


 むしろ、彼の頼み事のおかげで刀弥は同郷の者と出会えた。そう考えると彼の依頼に感謝したいくらいだ。


「……で、だ。お前さんにちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なんですか?」


 刀弥の方を見つめ尋ねてくるマスター。そんな彼に刀弥は首を傾げながらもそう答えた。


「お前さんの国じゃ、どういう風に遺体を処理してるんだ」


 どうやら聞きたかったのは遺体の埋葬方法らしい。


「俺の世界じゃ遺体は灰になるまで焼いて、基本的にはそれを墓に埋めます。ただ一部は入れ物に入れて手元、というか家にある専用の場所に置くことになります」

「なるほどな。ちと、面倒だけどできなくもないかな」


 刀弥の説明を聞いて考え混み始めるマスター。そんなマスターに刀弥は別のケースも提示する。


「人によってはその灰を風に飛ばすっていうケースもあるみたいだけど」

「……ほ~う」


 そちらの方が何か琴線に触れるものがあったらしい。マスターの考える仕草がより深くなっていった。

 やがて、マスターは顔をこう告げる。


「よし、その方法にするか」

「その方法って灰にして風に飛ばすって事ですか?」


 彼の口にした内容にリアが不思議そうな顔をして問いを返す。


「ああ、そうだぜ」

「どうしてまた?」


 刀弥もリアもマスターがあえてそちらの方法にした理由がわからなかった。

 考えてからその方法を選んだ以上、適当に選んだわけではないのだろう。と、なればそこには理論的にせよ感情的にせよ何らかの意図があるはずだ。


「いやまあ、簡単な理由なんだけど……あの人いろいろ旅してたわけだろ? 狭い墓に埋もれるより風にのってどこかへ行かせた方がいいんじゃないかと思って……な」


 少し恥ずかしそうにそう告げるマスター。

 そんな彼の意見に刀弥とリアはああと漏らして納得した。


「そういう理由ならいいんじゃないかな?」

「だな」


 彼の目的は会いたい彼女との再会だ。ならば、墓の中でじっとしているよりかはいいかもしれない。

 そう思い頷く刀弥とリア。

 そんな二人の反応を見てマスターは満足気な顔を浮かべた。


「んじゃあ、それでいくか。とりあえずは町長に連絡だな。爺さんはまだ小屋で寝かしたまんまなのか?」

「はい。どう対応したらいいかわからなかったもので……」


 死後の処置など、その世界の社会や文化、思想や宗教などで異なる。迂闊な事ができない以上、一番問題となりにくい処置は何もしないという事だ。

 そのため、刀弥達は和馬を見届けた後、すぐさま小屋を後にしこの酒場までやってきた。


「わかった。そっちは俺達でやっとくからあんた達はとりあえず待っていてくれ……と、そうだ。見送りのやり方はこっち流でやらせてもらうが、構わないか?」

「あ、はい。それはお任せします」


 さすがに和馬もお経で見送られる期待はしていないだろう。

 そんな事を考えながら刀弥はマスターの問いに頷く。


「それじゃあ、ちっと出かけてくるか。ゆっくりついでに店番も頼むな」


 そう言うとマスターはさっさと店から飛び出してしまった。

 確かにこういうのは迅速に動く方がいい。しかし、だからといって会ってそれ程経っていない人物に店番を頼むとは思いもしなかった。

 驚き半分呆れ半分の心情で呆然と見送る刀弥。気が付けばリアの表情も同様だった。


「……仕方ない。待つか」

「……だね」


 店には刀弥達以外には誰もないが、それは逆に言えば誰かが侵入しても誰も気付かないということだ。さすがに黙って帰るには危険な状況である。

 肩をすくめ留守番をする二人。


 マスターが帰ってきたのはそれからしばらく経った後の事だった。

 少し疲れた顔でこれからの手順を説明していく。

 その説明を相槌を打ちながら聞き入る二人。

 そうして話が終わり宿屋に帰る頃、既に空は闇夜に染まっていたのであった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 棺が通りを進んでいく。

 左右の脇には村人達。皆、顔を伏せており中には冥福を祈っているのか、棺が前を横切るのに合わせて意味深な言葉を呟く人までいた。

 刀弥達はというとどういう訳か棺を運ぶ側になっていた。

 どうもマスターがそういう風に話をつけたらしく、朝一番会った瞬間にそう言われた――当然、いきなりすぎて二人が驚いたのは言うまでもない――。

棺は本来であれば家から出発し墓場まで運ぶのが一般的な流れとなる。けれども、和馬の家は遠く、また遺体の処理も通常とは異なるのでルートは村の入口から始まり村の中央までというという話でまとまった。

 その村の中央には薪が積み重なっている。この薪の積木の中に遺体を入れ燃やすのだ。

 異例な方法のため、村人の間で驚きはあったようだがマスターが和馬の故郷のやり方にできるだけ近づけるためだと説明するとすんなりと納得してくれたという話を刀弥は聞いた。この辺りはさすが異世界慣れしているという事だろう。


 棺は木で作られたもの。温かみのあるデザインで小窓から見える和馬の表情は心なしか安らぎに満ちているようにみえる。

 そんな棺を刀弥達は担いで運んでいた。

 人々の死に対する反応は悲しみよりも死後の幸せを願っている方が多い。どうやらこの世界では別離を悲しむのではなく死者を弔うという意識のほうが強いらしい。

 そんな考えを頭の中に過ぎらせながら道を進む刀弥達。


 やがて、棺の運び手達は村の中央へと辿り着いた。

 すぐさま棺を薪のつみ木の中へと埋め込んでいく。

 そうして棺がしっかりと薪の積木の中に収まると、刀弥を含む棺を運んでいた人々は酒場のマスターを残してすぐに薪の積木から離れ始めた。

 マスターは薪の周囲に人がいないことを確認すると、薪に火をつけ始める。

 元々、薪にも燃えやすくなる液体か何かを染み込ませていたのだろう。火はみるみるうちにその規模を多くし巨大な炎の柱へと姿を変えた。

 陽炎を漂わせながら豪快に燃える炎。少し離れているはずの刀弥のもとにもその熱が届いてくる。

 他の人々はというとそんな炎の柱を呆然といった表情で眺めていた。

 やがて、もう十分だと判断したのだろう。村人達が各々の方法で火を消していった。

 勢いを弱め小さくなっていく炎。それはやがて黒い煙残して跡形もなく消えていく。

 そうして後に残ったのは燃え残った薪や棺の屑、そして和馬の遺骨。

 マスターが硬い道具で遺骨を叩くと遺骨はボロボロと簡単に崩れ落ちていく。

 そうやって崩れ落ちた遺灰を集めるマスター。そしてひと通り回収すると、それを容器に入れて刀弥へ手渡した。

 受け取った刀弥はリアへと視線を送る。それで何を頼みたいのか察したのだろう。リアが頬を緩ませて頷きを返した。

 そして彼女は魔術を行使する。

 起こったのは巻き上がる風。そよ風より強いが突風と比べると些か心もとない小さな風。けれども、刀弥にとってはそれで十分だ。

 風が起こったのと同時に彼は容器をひっくり返す。それで遺灰は宙へと落ちた。

 灰が風に乗る。高く高く天を目指すように登っていく灰。最早空中に散ったそれらは視認で確認することはできない。しかし、見えないにも関わらず人々は見えない遺灰が風に運ばれていく様を目で追っていた。

 風が吹いた。今度の風は自然の風。それが音を響かせ送別の区切りを付ける。

 それを合図に人々は散っていった。後に残ったのは後片付けをするための人だけで他は各々の日常の中へと戻っていく。

 けれど、刀弥とリアは未だ空を見上げていた。

 実らず、けれども意味のあった帰還の旅に満足していた老人の思いを胸に秘めながら……




短章終了

これで短章は終了です。

次週はまた話を考えるために一週間開くことになります。

どうぞご理解くださいますようお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拍手もらえたらやっぱり嬉しいです。
ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ