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無限の世界  作者: 蒼風
五章「別れの果てに」
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五章三話「襲い来る者達」(11)

 戦場に舞い戻った刀弥。まず彼はすぐさまオランドの背後へと回りこむ。

 わざわざ、敵に舞い戻ってきたことを教える必要はない。むしろ、気付かれていないならその点を武器として使うべきだ。

 そうして死角へと回った彼は足音を消して一気に近寄る。

 当然、相対しているグレリムは刀弥の存在に気付いていたが、相手に悟らせるような愚かなことはしない。それどころか回避や移動、果ては言葉を使うなどをしてオランドの意識を自分の方へと誘導してくれたのだ。

 おかげで刀弥はまんまと自身の攻撃圏内まで近づくことができた。

 間合いに入った刀弥は大地を踏みしめ、一気に接近する。そうして彼は速度を乗せた一刀をオランドに向けて放ったのだった。

 さすがのオランドもそれだけ近づかれれば嫌でも存在に気が付く。けれども、気付いた時には既に刀弥は攻撃のモーションに入っていた。手順を考えている余裕はない。

 反射的な動作で刀弥から放れる方角へと回避するオランド。刀弥が右手一本で刀を振っているせいもあるのだろう。刀弥の一撃はあっさりと空を切った。

 そうして攻撃を回避したオランドはすぐさま反撃に移り、これに対し刀弥はバックステップで逃れる。

 そこへリアの火球の群れが降り注いだ。

 砂煙を撒き散らして爆発していく火球。次第に周囲は砂煙によって埋め尽くされていく。

 そんな中を刀弥は走っていた。軌道としてはオランドに対し回りこんで接近するような形だ。

 そうして影が見えてきたと同時に彼は地面を強く蹴りつけ接近。一気にオランドの元へと肉薄した。

 けれども、オランドは背後から迫ってきた刀弥に対し右へと飛ぶことで刀の間合いから逃れる。そのついでに振り返る事を忘れない。


「一度読まれた手だから次には使わないと思って警戒しないと判断したのかい? 甘いよ」


 余裕を持った笑みで刀弥に話しかけてくるオランド。しかし、その笑みを浮かべたのは刀弥も同じだ。


「確かにそういう考えがなかったわけじゃない。でも、おまけだ」


 おまけという事は本命が別にあるということ。その事実にオランドが表情を固くしたその時。

 彼の背後から見えない斬撃が飛んできた。刀弥の斬波だ。

 彼は事前に斬波を放っていたのだ。自分が攻撃したと同時にオランドを襲うように速度を調整して。


「!? 小細工を!!」


 気づいたと同時にオランドは飛んでいたが、それでも避けきれない。右腕に傷跡ができる。

 そこへ刀弥自身が畳み掛けにきた。


「調子に乗るな!!」


 堪らず叫んだのだろう。その叫び顔には焦りと怒りが浮かび上がっていた。

 そうして彼は切断の力を行使する。だが、刀弥は右へのスピンで切断の地点を躱すと

そのまま接近を続行。今度は速度を乗せた突きをオランドへと見舞った。


「……しつこいな。怪我人の分際で」


 最早苛立ちを隠そうともしないオランド。直後、彼は左拳で刀弥の突きを逸らしにかかった。やり方としては左拳の甲で刀のみねを触れ外側へと押し出すという方法。

 みね側は斬れないとはいってもなかなか危険な上、かなり難しい方法だ。それをオランドはいともたやすく実現してしまう。

 刀が逸れたことでがら空きになってしまう刀弥の体。そこへオランドは右の拳を突き出してきた。

 鈍い音が周囲に響き渡る。左腕のない刀弥がオランドの右拳をまともに受けてしまった音だ。

 痛みのあまり膝をつきかける刀弥だが、そんな己を叱咤して左へと体を転がす。

 当然、動きを止めた刀弥を見ているだけのオランドではない。当たり前のように切断を力を放っていた。

 その力から転がることで逃れた刀弥は起き上がると同時に斬波を放つ。そうして当然のように避けたオランドに向かって刀を左肩に乗せるように構えると地面を蹴りつけ跳びかかるような感じで襲い掛かった。

 この攻撃をオランドは右の回し蹴りで迎撃。そうして刀の軌道が変わったのを確認すると直後には身を屈め、次の瞬間には刀弥の懐に飛び込んだ。

 そして構えていた両の拳を打ち込もうとする。

 けれども、オランドが拳を打ち込むよりも先に彼の腹を打ち付けたものがあった。刀弥が腰に下げていた刀の鞘だ。

 彼は刀の軌道が外されたと判断した瞬間、刀を放棄。蹴りこまれて回りだした身を利用して体を時計回りに回しながらオランドの方へと前進すると右手を腰に下げた鞘へと添えてその鞘の先を彼の腹へと突き出したのだ。

 飛び込んだ勢いのせいでカウンター気味に入った鞘の打撃。その威力にオランドは思わず息を戻すように吐き出してしまう。

 そんな彼に刀弥は追撃の左回し蹴り。怯んでいたオランドは呆気無くこれを食らってしまった。

 蹴り飛ばされ地面を転がるオランド。そうして転がりを利用して起き上がった彼は怒りの形相を露わにする。


「……よくもやってくれたな」


 考えてみればようやく入ったまともな攻撃。オランドにしてみればかなり屈辱の事だったのだろう。その顔には少し前に見た怒りの形相が映しだされていた。


 けれども、刀弥はと言うとどういう訳かあっさりとバックステップで後退を開始。一気に距離をとり始めた。

 この事実にオランドは疑問を得る。

 当然だろう。ようやく一撃を入れたのだ。普通ならその勢いにのって攻めるのが当然の判断。なのに刀弥はその流れにのらず撤退を選んだ。

 恐らく何か狙いがあるはずだと考えるオランド。そうして彼はふと気が付いた。火球による煙幕の後から魔術師の少女が何もしてきていない事に。

 その直後だった。突然、頭上から雷の鉄槌(ミョルニル)が砂煙をかき分け落ちてきたのは……

 この事実に驚愕するオランド。急いで雷から逃れようとするがさすがに雷の範囲が広すぎた。

 ここにきてようやくオランドは刀弥達の狙いに気が付く。

 つまり、刀弥がオランドの気を引いている間にリアが広域系の魔術の魔術式を構築し、刀弥の離脱と同時に発動させるという単純な戦術だったのだ。最初に放った火球は刀弥の支援が目的ではなく魔術式を構築しているリアの隠すためのもの。

 そうして時間が来たと同時に刀弥は離脱。と、同時にリアが広域系の魔術を発動させオランドにとどめを刺すという流れだ。

 広域系の魔術は範囲が広いために逃れるのが難しい。これまでのオランドはその戦術に対して使わせないという方法を用いていた。しかし、今回はリアを視界から隠されていた事、刀弥の始末に集中しすぎたことが原因でその事に気が付かなかった。

 最早、逃れることは叶わない。

 信じられないという表情で頭上を仰ぐオランド。直後、彼の身に審判が下されたのだった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 刀弥はその様子を砂煙から出た場所で眺めていた。

 雷の落ちた衝撃で砂煙は吹き飛び、眼前には大きなクレーターが見えてくる。

 クレーターの中心には倒れたオランドの姿があった。衣服はあちこちが焼け焦げ体中には痣がついている。

 見るからにボロボロの状態。それでも刀弥は油断なく身構えオランドの反応を伺う。けれども、全く動き出す気配はない。

 そうして少しばかり時経った頃……ようやく刀弥は刀を鞘に収め身構えを解いた。辺りを見回してみると既に戦闘は終了しており、敵側が次々と撤退していく姿が見える。

 そんな敵達とは対照に革命軍は勝利で湧いていた。皆、困難な状況を無事に乗り越えたことを互いに確かめ合い喜んでいる。


「刀弥!!」


 そんな中、刀弥の名前を叫びながらリアが近づいてきた。彼女の手には簡易処理された刀弥の左腕が握られている。


「とりあえずどうにかなったな」

「本当、こっちはすごく心配したんだから」


 ほっと一息つく刀弥に対し眉を寄せ叱るリア。

 そんな二人の元へ近づく影がある。グレリムだ。


「助かった」


 グレリムの感謝の言葉。それでようやく二人は彼が近づいてきている事に気が付く。


「君達があれと戦い勝利を収めたことで敵は撤退することにしたようだ。おかげで無事に脱出することができそうだ」

「そうですか」

「それはよかったです」


 その事に顔が若干綻ぶ二人。

 けれども、その一方気になることがあった。


「ところでグレリムさん。村に残ったメンバーの方は?」


 そう。村に残った革命軍のメンバーがどうなったのか不明なのだ。

 覚悟の殿という事なので最悪事態の可能性は高いが全く望みがないという訳でもない。

 ネレスとて兄のオスワルドがどうなったのかは気になるだろう。そのためにも刀弥達ははっきりとした情報がほしいのだ。

 真剣な刀弥の問い。当然、彼の真意にグレリムは気づいているはずだ。

 目を伏せて少しばかりの熟考。やがて意を決したのか、グレリムはゆっくりと瞳を開き次のような答えを返したのだった。


「通信に全くの応答がない。すまないがそれが今答えられる全てだ」

「…………」


 それが真実なのは彼の声色、目で確信できる。

 互いを見合わす刀弥とリア。交差する二人の瞳は現在その答えに対する思考をやり取りしあっている。


 連絡がない以上、快勝という線は薄い。となれば考えられるのは辛勝、苦戦、あるいは既に敗北しているかのいずれかだ。正直なところ村の様子を見に戻りたいところなのだが、ネレスの事や刀弥達の現状を考えるとそんな余裕もないのが現実だ。


「一応、無事だった時はどうするのかも伝えてある。今のところそれで確かめるしかあるまい」

「……だな」


 己の左腕の現状を一瞥してそう答える刀弥。悔しいが今はそれしか確かめる術がないのだ。


「さあ、急ごう。モタモタしていたら次の襲撃がくるかもしれん」


 さすがに刀弥達もそれは避けたかった。

 そうして一同は急ぎその場を後にしようとする。

 皆、疲労困憊だがだからこそ新たな戦闘は避けたいのだろう。力を振り絞って一気に己の体を動かしていく。

 疲れた体に鞭打つためか、心なしか皆口から出る言葉に気合と力が入っていた。

 こうして生者は戦場より立ち去っていったのだった。


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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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