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無限の世界  作者: 蒼風
五章「別れの果てに」
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五章三話「襲い来る者達」(10)

 終わった。

 目の前の事実を確認して、オスワルドは安堵する。

 あの傷なら致命傷に違いない。

 ほっとすると同時に最早機能しない心臓から痛みがほとばしってくる。その痛みに苦悶を浮かべてしまうが、その一方心の中は晴れやかだった。

 狭い場所での妨害を加えての接近射撃。その策自体は破られたが、実のところ突破され心臓を撃ち抜かれる可能性は事前に想定し覚悟もしていたのだ。

 心臓を撃ち抜けばまず相手は油断する。ならば、残り時間の少ないオスワルドはこの事すら有効的に利用すべきだと判断したのだ。

 結果、初期の想定は打ち破られたが、事前に想定したおかげで次の行動にはスムーズに移行できガーブラを撃ち抜くことに成功した。


 膝が限界を迎え力を失う。

 前に投げ出されていくオスワルドの体。その中で彼が思い浮かべるのは最愛の妹の姿だ。

 とりあえず自分ができる方法の中で彼女を守ることには貢献した。無論、彼女がいる戦場がここではない以上、守りきったとは言い難い。

 しかし、最早自分の足で彼女の元へ向かうことはもう不可能だろう。助けに行けない以上、彼ができるのはその脱出に間接的に貢献するのみ。そしてそれは今果たされた。

 今、彼の中の想像の妹は病気を治して元気に赤土色の大地の上を走り回っている。できるならば見てみたいと願ったその光景。それが叶うことはもうないだろう。けれども、この願いはきっと仲間達が果たしてくれるとオスワルドは信じていた。


 体が地面の上に横たわる。けれど、倒れた体の主は起き上がることはない。

 顔に浮かぶのは安らかなる微笑。それがこの体の主に救いがあった事を告げていた。

 風が吹く。寂しげで乾いた風の音。その音はまるで体の主を、この世界の未来を願って倒れた者達を弔う鐘の音のように辺りを駆け巡り、そしてその魂を安らぎへと導いていく。

 やがて、風は止みあとに残るのは物言わぬ死者のみ。

 こうしてこの村での争いは終わりを迎えたのだった。

 



      ――――――――――――****―――――――――――



「刀弥!?」


 左腕を切り飛ばされ倒れていく刀弥を見て、思わずリアは叫んでいた。

 左腕を切り飛ばされバランスを崩していくパートナー。そんな彼にオランドがとどめを刺そうとしている。

 すぐさまリアはもっとも魔術式の構築の早い魔術を構築。そうして風の矢が一つ、オランドに向かって解き放たれた。

 攻撃に気付いたオランドは飛び退き回避。動けない刀弥から目を放し攻撃を放ったリアへとその視線を移した。その事に走り出していたリアはひとまずの安堵を得る。

 リアに警戒を移したのなら、刀弥がすぐにとどめを刺される事はないだろう。けれども、あのまま放っておくのも危険だ。

 バッサリと切断された傷口からは大量の血液が流れ出ている。あれをすぐに止めなければ結局死んでしまうことに変わりはない。

 幸い、リアはあの傷を塞ぐ術を持っている。だが、問題はその傷を癒せる隙がないとことだ。もし、刀弥を癒そうとすればその途端、オランドの切断がリアの首を狙ってくるのは間違いない。それ故に今すぐ彼の傷を癒すことができないのだ。

 他の革命軍のメンバーが彼のもとに駆けつけてくれたらいいのだが、皆オランドを恐れてか戦闘領域に踏み込んでくることはなかった。

 仕方なくリアは思考を切り替える。

 とりあえず自分がすべきことは目の前のオランドの注意を引き付けることだ。

 そうすれば隙を見て革命軍のメンバーが刀弥を助けてくれるかもしれない。

 現状はそんな望みに賭けるしかない。

 切断の力が頬をかすめた。

 肌の内側が空気に触れたことでピリッと痺れるような痛みを感じてしまうが、それに構わずリアは新たな魔術式の構築に入る。

 そうして放たれたのは火球の群れ。火球はオランドを中心に一帯へと降り注ぐ。

 先程のやり取りで向こうの対応能力は把握している。故にリアは範囲攻撃を選択した。

 最も向こうも戦い慣れている人物だ。避けられる可能性は十分に高い。けれども、リアは構わなかった。

 この火球の雨は攻撃であると同時に相手の視覚を塞ぐ煙幕でもあるのだ。

 視界を塞げば相手の攻撃の命中は悪くなる。それは間違いない。

 先程の刀弥への攻撃がいい例だ。

 視線から攻撃位置を予測していることを逆手にとった引っ掛け。そんな奇策を使う以上、普通なら一気に相手の戦闘能力を奪わなければならない。

 オランドの性格などを考えた場合、まず間違いなく首を狙うはずである。にも関わらず先程の攻撃は刀弥の左腕を切断した。

 考えられる可能性の中で最も高いのは視線外の場所に斬撃を走らせようとした場合、その精度が落ちるという可能性である。

 そういう風に考えると左腕の負傷で済んだ刀弥は幸運だともいえた。とはいえ、それもしっかりと応急処置をすればの話。このままではその幸運も意味がなくなってしまう。

 地面へと着弾した火球が砂煙を巻き起こす。

 一帯を覆う赤土色。それを駆ける中で眺めながらリアは追加の火球を見舞う。

 再び砂煙の中で爆発が巻き起こった。その影響で赤土色の砂煙がさらに膨れ上がる。

 だが、リアは気を緩めない。爆発の音に手応えを感じなかったからだ。間違いなく相手はこの攻撃を避けた。そう彼女は確信した。

 その直後、右胸の辺りに切り傷が生まれる。

 裂けた布が風に舞い後方へと流れていくがそれを見送れるほどリアに余裕はない。すぐさま次の魔術式の構築に入る。

 だが、そこへ砂煙から飛び出してきた斬波が迫ってきた。

 仕方なく構築を中断し杖で受けるリア。反動で後ろへと飛ぶが、むしろこの方が足を止めない分安全だと判断する。

 そうして再び走り出し魔術式の構築に入ろうとするが、丁度そのタイミングでオランドが砂煙から飛び出してきた。

 飛び出すと同時に発動する斬撃。その視線の先はリアの右足元だ。

 間髪入れずリアはわざと姿勢を崩した。右足が浮き体が左へと傾くがそれを杖によってなんとか支える。

 そうやって攻撃を脱出した彼女はバランスを立て直し再び走り始める。その中で彼女は現状の厳しさを痛感していた。

 かなり厳しい。注意を引き付けるだけどもかなり骨だ。このままではリア自身が押し切られていしまう。

 刀弥の方も問題だ。あれから彼のもとに駆けつける影はない。どうやら他のメンバーもかなり精一杯のようだ。と、なるとこのままでは彼の身が危険となってしまう。

 なんとか隙があるのならリアが手当をするのだが、あのような人物と戦って時間稼ぎができるような人間など――


「!?」


 と、そんな事を考えていた時だ。

 突然、オランドの方へ向かって光の嵐が飛んでいくのが見えた。

 光の嵐の正体はグレリムが持つ大型の銃であるレールガンの射撃だ。

 いきなりの攻撃にオランドは反応が遅れた。直撃こそ避けたようだが、それでもその後の風圧によって吹き飛ばされる。

 そんな光景を呆然と見つめるリアだったが、力強い足音が傍から聞こえてことで慌てててそちらへと振り返る。


「グレリムさん」

「……何をしている。さっさと助けに行け」


 端的にやるべき事をやれと告げるグレリム。それでリアは刀弥の事を思い出した。


「すみません。お願いします」


 軽く頭を下げて駆け出すリア。

 そうして彼女は刀弥のもとへ急ぐのであった。



      ――――――――――――****―――――――――――



 左腕の辺りが温かい。

 意識が暗闇の中を彷徨うそんな中、刀弥はその感触で意識を覚ました。

 やがて、彼は閉じていた瞳をゆっくりと開ける。

 辺りを見回すと傍には屈み覗くリアの姿がある。それを見つけて彼はゆっくりと身を起こそうとし、いきなり左腕辺りに激痛が走るのを感じた。

 あまりの痛みに反射的に刀弥は視線を左腕の方へと移してしまう。そうして左腕の現状を見た彼はようやく左腕を失っていることを思い出した。


「大丈夫?」


 心配そうにリアが尋ねてくる。その事に刀弥は表情を柔らかくして答えようとするが、なまじ痛みがキツすぎて作り笑いしか浮かべることしかできない。


「まあ、なんとかな」


 それでもなんとかそれだけは応じることができた。それから視線を移すと彼女の傍になんらかの処置をされた左腕があることに気が付く。


「あ、一応、簡易だけど保存処理だけはしておいたの」


 刀弥が何を見ているのかすぐにわかったのだろう。すぐにリアから答えが返ってきた。


「助かった」


 それに礼を言いつつ刀弥は視線を巡らす。

 現在、オランドと相対しているのはグレリムだった。戦いを見ていると情勢的にはオランドの方が有利といったところである。

 オランドの攻撃に対し反撃することなく避け続けているグレリム。防戦一方という状況だが、武器を考えれば必然の状況だ。

 グレリムの武器は威力や範囲こそ広いがそれ故に撃てば足が止まることになる。つまり、もし避けられればその瞬間必中を食らうことになるのだ。そうなるとグレリムが撃てるのは絶対必中の状況ぐらいしかあり得ず、結果安易に撃つことができないのだ。

 急いで助けに行かなければと思いすぐさま刀弥は立ち上がろうとするが、立った瞬間体が右に傾いてしまう。左腕を失った事で体のバランスが崩れてしまっているのだ。

 こんな時にと思ってしまうが、まともに動けなければただの的でしかない。仕方なく刀弥は今のバランスに慣れようとする。


「……刀弥。まだ戦うつもりなの?」


 そこへリアがそんな問い掛けを放ってきた。その言葉に刀弥は意識を彼女の方へと向ける。


「もうそれだけの怪我を負っているんだよ。これ以上は――」

「だからと言って下がっても事態が解決できるわけじゃないしな」


 悲壮な彼女の言葉。けれども、刀弥はそんな言葉に被せるように己の言葉を口にする。


「なんていうかな……待っているのが嫌というのか……う~ん、そうだな。どう言えばいいんだろう」


 そうして適当な言葉を頭の中で探す刀弥。やがて、彼は己が難得する言葉を見つけたのか何度か軽く首を縦に振りリアの方へと向き直った。


「他人に自分の運命を預けるのってなんとなく嫌なんだ。どういう結果になるにしろ自分で選んで自分で行動したいから」

「それで死んじゃうかもしれないんだよ?」


 意地悪なリアの問い。それに刀弥は苦笑交じりに頷く。


「まあ、そうだな。でもその時は自分で選んだことだからって納得できると思うし」


 その返答にリアは呆れたのか、天を仰ぎそれから俯き大きく息を吐いた。


「悪いな」

「そう思うなら死ななでね」


 そう言って立ち上がるリア。気がつけば刀弥も今のバランスに慣れていた。

 万全には程遠いたがこれなら十分動きまわることぐらいならできるだろう。

 そうして己の調子を確かめる刀弥。そこへリアが問いを投げ掛けてきた


「でも、どうするの? このままじゃさっきの二の舞だよ」


 さすがに無策で再戦するのは問題だと考えたのだろう。無論、刀弥とてそんな愚策を犯すつもりはない。



「向こうの戦い方を逆手にとる」

「……どういう事?」


 言葉の意味がわからないリアは素直に疑問を口にする。


「あいつは反撃のためにできる限りあの力を使わないようにしている。それを利用するんだ」


 そう言って刀弥はリアに作戦の概要を詳しく伝えた。


「……ねえ、刀弥。私がそれを使わなかった理由わかってる?」


 作戦を聞いて開口一番にリアが口にしたのはそんな問い。それに刀弥は笑みを崩しつつ首を縦に振る。


「じゃあ、危険だって事はわかってるんだね?」

「ああ。でも、今までの対応から見てもその系統に関しては防御方法を持っていない可能性が高い。恐らく『やられる前にやれ』という方針だったんだろう。割と構築に時間が掛かるものだしな」

「だと思う」


 これに関してはリアも同意を示した。その事に刀弥は内心自信を得る。


「それじゃあ、すぐに始めるとするか。実際、俺達も革命軍もかなり限界だ。ここで事態を大きく変えないとな」


 そう言って倒すべき相手へと体を向ける刀弥。それに反応してリアもまたそちらへと視線を向ける。


「じゃあ、頼んだぞ」

「そっちもちゃんと誘導してよね」


 軽い応答。それで行動する決心はついた。

 そうして走りだす刀弥。一方のリアも準備に入っている。

 行く先には一つの戦場。こうして刀弥は再びオランドに戦いを挑むためその戦場へと舞い戻ったのだった。

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