表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限の世界  作者: 蒼風
五章「別れの果てに」
113/240

五章三話「襲い来る者達」(9)

 その音にガーブラは足を止めた。


「ん?」


 それは聞こえるはずのない音。それは生きている者だけが出せる音。それ故に最初ガーブラは信じられなかった。

 しかし、音は今も聞こえ続けている。

 何故、そんな音が聞こえるのか。不思議に思いガーブラはついに背後を振り返る。



 すると、そこには体から血を流しながらもしっかりと地面に立つオスワルドの姿があった。



「……へ~。まだ、生きてたんだ~。しっかり心臓を狙ったと思ったのに」


 そう言いながら自身が貫いた穴へと視線を動かすガーブラ。すると穴は心臓があると思われる場所の少しを上を貫いていた。レーザーは心臓を外していたのだ。

 やってしまったかと嘆息する。けれども、彼はすぐに気を取り直した。

 心臓は外してしまったが、穴から溢れ出る血液の量は尋常ではない。結局のところ、即死ではなかったが死の運命までは回避できていないのだ。

 むしろ、苦しみが増すだけ大変だろうにと内心で薄ら笑いを浮かべながら彼は口を開く。


「まあ、どっちにしても死ぬことに変わりはなさそうだしね~……どうする~? 今すぐ楽になりたい? それとも苦しみたい?」


 からかうような声色で相手を挑発するガーブラ。

 すると、その言葉にオスワルドは返事を返してきた。不可視の銃弾を放つという返事を。


「うおっと!?」


 すかさずガーブラはそれを避ける。

 甘い攻撃だった。相手は左手を銃に添えてから銃を持ち上げ引き金を引いている。あれでは添える段階で攻撃の意図に気づき余裕で逃げれてしまう。そのため、上手い連中なら構えと添える行為を同時にやってのけ時間を短縮してくるのだ。

 とはいえ、重症で苦しむ状態ではそれを意識する余裕もあるはずもない。


「おいおい、問答無用かよ~。余裕がないね~」


 再びオスワルドが返事代わりの射撃を見舞ってきた。

 それを伏せてやり過ごすガーブラ。


「そんじゃああ、まあ。楽に死なせてくれる事をご所望の様子だし、要望通りにしてあげるとしますか」


 そうして彼は左右二つの銃をオスワルドへと向けるのだった。

  


      ――――――――――――****―――――――――――



 体中が熱い。痺れるような激痛が胸部から伝わり、それと同時に浮遊感にも似た気だるさが意識を眠りへと(いざな)ってくる。

 根を張り巡らすように意識、体に広がっていくそれら。それにオスワルドは飲まれそうになっていたが、それでも寸前のところで踏みとどまっていた。

 理由は単純。倒れる直前にガーブラがこぼした言葉が彼を倒れたままにするのを拒ませたのだ。


『全く、オランドの奴は何やってんだか。たかだか逃げている革命軍と村人を襲うだけの仕事に俺までかりだすなんて』


 現状、仲間達がどうなっているかオスワルドにはわからない。だが、このまま彼を行かせてしまえば、まず間違いなく味方は劣勢になるだろう。

 そこには妹であるネレスもいるはずだ。


「……なんとかしなければ」


 ふと、漏れたそんな呟き。それで彼は意識を覚醒させた。

 目前にはガーブラの姿。両腕に握られたレーザー銃は今、オスワルドに向けて振り上げられようとしている。

 あれを避けなければ折角起き上がった意味がなくなってしまう。

 避けなければとオスワルドは己の体に意思を送る。しかし、起き上がったとはいえ体は五体満足という状態ではなかった。

 血は穴から流れ続け、力は満足に入らない。歩くための一歩を踏むことさえ億劫なほどだ。

 けれども、それでも彼は己の体を動かす。

 そうしてオスワルドは左へと出せる力を持って己の身を飛ばした。

 力加減も意識していない全力の一歩。バランスを制御する余裕もなかった。

 直後、彼のいた場所を二つの光線が通過する。間一髪だった。

 しかし、バランスを制御していない跳躍はその代償として彼の体を地面の上に横たわらせることになってしまった。

 跳躍の勢いによって地面の上をうつ伏せに滑るオスワルド。そんな彼をガーブラはすぐさま銃口で追おうとするが、その時には彼の身が建物の物陰に隠れるところだった。


 建物の影に退避することに成功しほっとひと安心するオスワルドだが、既に思考は別のことへと向けらている。

 すぐさま銃口を上に向け引き金を引くオスワルド。直後、頭上の屋根からガーブラの上半身が姿を現した。

 ガーブラは銃口を下に向けいつでもレーザーを発射できる体勢だったが、オスワルドに先読みされていたことに気が付くと慌てて上半身を引っ込める。

 この間にオスワルドはその場から退避。また別の物陰に自身を隠した。

 安全を確保したと同時に一瞬、意識が暗闇に引っ張られそうになったが、寸前のところで引き戻す。

 気を張り詰めてどうにか持ち堪えているが、どうやらそれも長くは保たないようだ。貫かれた穴からは未だ流血が続いているが手遅れである以上、塞ぐ手間も惜しい。

 時間がない。どの道長期戦では勝ち目がないのは明らかだ。と、なれば不意打ち狙いの短期決戦でしか勝利を得ることは難しいだろう。

 手段はある。後は実行に移すだけだ。迷っている暇すら惜しい現状、オスワルドはすぐに行動に移した。

 彼はすぐさま立ち上がると傍にあった建物へと飛び込む。

 それに気付いたガーブラがレーザーを一発放つが、その光線がオスワルドを捉えることはない。そのまま彼は建物の中へと姿を消した。

 建物に入られては外から攻撃を届かすのは難しい。仕方なくガーブラもその後を追って建物の中に入る。

 ガーブラが中に入ると同時にオスワルドは射撃。風銃の引き金を引き続け風の弾を連射で放った。

 狭い出入り口にいるガーブラは左右へ避けることができない。仕方なく彼は左右のレーザー銃の装甲を使って防御する事にした。

 その間にオスワルドは接近。互いの距離を詰めようとする。


「なるほどね~。さっきと同じことを狙おうとしていたわけか」


 これを見てガーブラは微笑。直後、彼はオスワルドの顔面に向かって何かを蹴りあげた。

 虚を突かれ咄嗟に腕を使い顔を守ってしまうオスワルド。よく見るとガーブラが蹴りあげたのは天井から崩れ落ちた破片であった。

 腕による防御をとった事で攻撃が一旦止まり、音のない空白が生み出される。

 これによって生まれた攻撃の隙をガーブラは逃さない。すぐさま彼は盾としていた二つのレーザー銃をオスワルドに向けようとした。

 出入り口よりマシとはいえオスワルドがいる場所も決して広くない。加えて周囲にはいろんなものが散乱している。避けるのはかなり難しい。

 しかし、オスワルドは避けることを選ばなかった。彼が選んだのは先程ガーブラが選択した方法。傍にあったテーブルを全力で蹴りあげたのだ。

 軽い材質でできたテーブルはオスワルドの全力の蹴りに応え、ガーブラの元へと放物線を描いて飛んでいく。蹴った場所が机の手前下部分というのもあったのだろう。物が置かれる面がガーブラの方へと修正されていく。

 オスワルドの狙いはテーブルによる視覚の妨害と射撃の妨害。相手が見えなければ精確に狙い撃てない上にテーブルがぶつかれば銃口の向きも変わる。それを狙った行動なのだ。


 ガーブラから見て正面斜め上方向から迫るテーブル。テーブルの向きもあって既にガーブラはオスワルドを直接見ることは叶わない状態だ。

 けれども、ガーブラは射撃を断行した。

 普通の人間なら間に合わない状況だっただろう。だが、ガーブラはこれまでの経験からギリギリ間に合うタイミングだと判断したのだ。

 狙いについても問題なかった。彼が見ているのは飛んでくるテーブルの下。そこからオスワルドの足が見えるためだ。足が見える以上、位置は把握できる。

 迫るテーブルと向けられていく銃口。両者は互いに競いあうように刻一刻とその目的場所へと動いていく。

 そうして先に辿り着いたのは二つの銃口の方だった。

 勝利を確信しニヤけるガーブラ。それと同時に彼は引き金を引いた。

 放たれる二つの光線。狙う場所は心臓があると思わしき地点だ。立っている場合と身を屈めている場合を想定して放たれた攻撃。

 結果、二つの穴がテーブルに穿たれた。


「ぐっ!!」


 その向こう側でオスワルドの呻き声が響いてくる。その事に思わず頬を緩ませてしまうガーブラ。

 そうして傷ついたオスワルドを確認しようと彼は飛んでくるテーブルを受け止めようとする。その時だ。

 開いた穴からオスワルドの瞳が見え、それと同時にガーブラの瞳にいくつもの穴が開いた。


「な!?」


 驚き目を見開くガーブラ。ゆっくりと下を見下ろしてみるとそこにはいくつもの弾を貫かれた自分の身体があった。

 その直後、飛んでいたテーブルがガーブラにぶつかる。

 飛んできたテーブルの勢いで倒れてしまうガーブラ。テーブルは反動で地面へと落ちていく。

 落ちていくテーブルの向こうにはオスワルドの姿。体には新たな穴が二つ作られており、内一つは間違いなく心臓を貫いていた。

 


「な、なんで……」


 確かにガーブラの攻撃は心臓を貫いていた。にも関わらずオスワルドは倒れず逆に反撃を放ってきた。その事実が信じられず疑問しか口に出ない。

 暗闇に飲まれていく思考。僅かに残された貴重な時間の中で彼の頭の中を占めていたのは混乱と疑問だけだ。

 最早、ガーブラに眼前の光景を注視するだけの余力はなかった。

 それ故に彼は気付かなかっただろう。

 目の前の敵の瞳が弱々しくしか輝いていないことに……

04/29

誤字を修正いたしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拍手もらえたらやっぱり嬉しいです。
ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ