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無限の世界  作者: 蒼風
五章「別れの果てに」
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五章三話「襲い来る者達」(8)

 火球の群が山を描いて急降下していく。

 敵を逃さぬよう広範囲に降り注いでいくそれを視界の上側に収めながら、刀弥は一気に突き進んでいく。

 右足が地面を踏みしめる度に痛みを訴えてくるが、なんとか無視し目の前の戦いに集中する。

 直後、火球が地面に着弾した。

 瞬く間に辺りに広がる爆発の華。それによって巻き起こった砂煙に刀弥は己の身を飛び込ませる。

 飛び込んだ直後、彼は方向転換。右へと向き変え反時計周りの円軌道をとった。

 そうして側面からオランドに襲いかかる。

 けれども、オランドは正面から来ることはないと踏んでいたのか、この攻撃にすぐさま反応を返した。向きを変えることなく刀弥へ斬撃を放ったのだ。

 これを刀弥は即座に回避する。身を伏せ斬撃を潜って避けるとそのままオランドに肉薄。刀を左から右へと振り抜いた。

 オランドに迫る刃。しかし、その刃はオランドが右へのサイドステップで離れた事で敵を裂くことに失敗する。

 下がったオランドはすぐに反撃。左足で右へと飛んだ刀弥の左腕に斬り裂かれた痕が刻まれた。

 そこへリアの放った風矢が砂煙をかきわけオランドに殺到する。

 矢の隙間を身を滑り込ませてこれを回避するオランド。そんな彼に向かって刀弥は斬波を放つ。

 風の矢のせいで避けられないオランドは斬撃によってこれを迎撃。直後に再び斬撃を刀弥に向けて発動させた。

 左へと体を傾けていた刀弥は即座に右へと反転。元々、左へ体を傾けていたのは相手の攻撃を誘うフェイントのためだ。

 そうやって攻撃を躱すとすぐさま正面へと一気に接近。そのままその速度を活かした突きを放った。

 けれども、その攻撃をオランドは斬撃をぶつけることで逸らし対処する。

 そうして体勢の崩れた刀弥に斬撃を放とうとしたが、そこへ新たな風の矢が飛翔してきた事でその計画を中断せざるを得なかった。

 左へと飛んで風の矢を避けるオランド。その間に体勢を立て直した刀弥は距離をとって息を整えることにした。


「崩せないな」


 感嘆と不愉快さで思わず呟いてしまう刀弥。気付けばいつの間にか砂煙も晴れていた。

 現状、リアと二人がかりで攻めているにも関わらず倒せそうな気配はない。

 攻めども攻めども、確実に対処され反撃を受ける始末だ。

 これまでのやり取りから斬撃は一度に一つしか発動させることができず連射もできないのは間違いない。

 その代わり指定された地点に出現するので大半の遠距離攻撃に存在するはずの射線が存在せず、それ故に防御が難しい。

 幸い刀弥は避ける事を基本としているので相性は比較的マシであるのだが、いきなり攻撃が出現するという現象に慣れていない事もあって攻撃タイミングを読みにくいのが現在の問題点である。

 なんとか相手の視線や絶好のタイミングを読み切る事でなんとか対応できているが、これをミスしてしまえばその途端、刀弥の体は真っ二つだ。

 また、防御に関しても相手の対応能力は高い。リアとの連携で攻撃を届かせようとしているのだが、相手は的確に対処し反撃を見舞ってきている。おかげで一度たりとも攻撃が届いたことはない。


 ふと、背と右足に意識を回す。

 慣れと戦闘への集中のおかげか、痛み事態は最初と比べ幾分かマシになっていた。だが、それでも痛みが力を入れるのを邪魔する点は変わらない上に、その力も時間の経過と共に入りづらくなってきている。加えて背中の傷も浅くはない。

 時間が経てば経つほど刀弥達には不利。そうなると短期決戦を狙うしかないのだが、攻め手がない以上下手な攻撃は隙を晒す事に他ならない。


 どう突破すべきか。

 再び走り出しながら刀弥は考える。

 これまで得てきた情報。自身とリアの情報。そして現在と周囲を構成する環境の情報。

それらの情報から自分達とオランドを比較する。

 まず速度では刀弥が勝っている。相手は比較的動くことはないため攻撃を回避することができるのなら接近は容易だ。

 攻撃のバリエーションもリアの魔術のおかげでこちらが多い。上手く用いればそうそう見切られることはないだろう。

 手数も二人がかりである以上、こちらが有利。

 一方、オランドに優位な点は攻撃が防がれづらいという点だ。それがある以上、彼は当てることに集中すればいい。つまり、刀弥達の移動先を予測すればいいという事だ。

 直撃でなくてもいい。当たりさえすれば確実に相手を消耗させることができる。そういう意味では中々凶悪な攻撃手段だとも言える。

 とはいえ、欠点もある。

 例えば先にも思考した同時発射や連射ができない点がそうだ。短時間続けて発動できない以上、一度発動させれば次の発動可能時間まで発動させることはできない。少なくてもその間は安全度が上がるという事だ。

 だが、その点は相手も既にわかっている事だろう。十中八九対抗手段をいくつか保有しているはずだ。


 では、推定される対抗手段とは何か。

 発動された死の刃を右へと回避しながら推理する。

 相手が持っている能力、得意とする戦い方、それらから推測される隠し手。

 己が持つ知恵を振り絞り、思案し否定しそして確証を固めていく。

 やがて、刀弥はその候補をいくつかに絞り込むことに成功した。

 その候補をさらに絞るために彼はさらに行動を起こす。

 地に足を踏みしめ己が身を前へと送る刀弥。当然、その先にはオランドの姿がある。

 刀弥の動きを接近するためだと判断したオランドはすかさず斬撃を発動。彼の進行方向先にその力を置いた。

 これに刀弥はサイドステップで対抗。右へと跳ねるように飛ぶことで斬撃から逃れることに成功した。

 そうしてそのまま彼は斬波を放つ。

 相手から見て左前方の方向から飛んでくる斬波。そのためオランドは右へと退避することを選択した。

 しかし、その動きは撃つ前から刀弥は予想済み。当然、斬波を撃つときにもそれを考慮していた。

 突然、斬波がカーブを描いてオランドが飛んだ左方向へと曲がる。

 この突然の変化にオランドは目を見張る。

 そのままオランドへと迫る斬波。一方、刀弥はというとそれを見送りながらオランドへと接近していた。

 オランドの飛んだ勢いや斬波の速度を考えると彼が着地するよりも先に斬波が到達するはずだ。

 空中にいる彼は動けないし、これまでのやり取りから考えてまだ斬撃は放てない。

 果たして相手はどう動くか。この行動はそれを確かめるためのものだ。無論、そのまま眺めて終わりにするつもりはない。もし可能ならば相手が動き終えたと同時に一気に仕掛ける腹づもりもある。

 そうして飛んでいく斬波。最早その距離は目前とも言える距離だ。

 結局、杞憂だったのか。当たりそうな斬波を見て刀弥がそう思った時だ。



 唐突に刀弥の放った斬波が消え去った。



 驚愕したのは一瞬だけ。すぐに刀弥は気を引き締め直し意識をさらに相手に集中させる。

 相手が行った方法は単純だ。拳の斬波による相殺。それで刀弥の斬波を防いだのだ。

 これまでの回避等から身体能力は高いのは把握していた。ならば、徒手空拳の類も十分こなせるのではないかと刀弥は考えたのだ。

 ダラリと下がっていた左拳が前に出ている。左拳を放ったという事だ。と、同時に右拳が引かれている。第二撃を放つつもりなのだ。

 その通りの攻撃が来た。

 放たれた右拳の力は刀弥の左肩目掛けて飛翔してくる。

 急いで避けなければならないが、焦って動けば相手の思う壺だ。

 何故なら既に斬撃を放てる時間に入っているからだ。間違いなく相手は回避先を読んで攻撃を放ってくるに違いない。

 そうして相手の視線に意識集中させる刀弥。と、相手の視線が一瞬刀弥から見て右へと動いた。

 恐らく逃げやすい右へと逃げると踏んだのだろう。

 ならば、刀弥は左へと避けるしかない。

 左肩目掛けて敵の斬波が迫っている以上、左へと避けるのは右と比べてかなり難易度が高い。加えて地面に着こうとしている足は右足。これを狙って撃ってきたとしたならばなかなかにいやらしい相手だ。しかし、そうしなければ避けられない。

 右足に力を込める。激痛が体を駆け巡り意識が堪らず力を落とそうとするが、それを意思で無理やり抑えこむ。

 歯を食いしばり右足で地面を蹴る刀弥。そうして彼の体は左へと飛んだ。

 斬波が右を通り過ぎていく。けれども、それを見送る暇は今の刀弥にはなかった。

 急ぎ刀を構え攻撃に入らなければならない。再び来たチャンスだ。確かめるだけのつもりだったが折角来たチャンスを逃せるほど悠長な状況ではない。偶然でも来たチャンスをものにしなければならないのだ。

 そうして刀を動かし構えようとする刀弥。しかしその時、彼は違和感を感じた。

 違和感の正体はわからない。けれども、何かが足りないのだ。何か、そう何気なくいつもあるはずのものが欠けているそんな感じだ。

 この違和感はなんだ。そう刀弥が思った瞬間だった。彼の眼前を『それ』が通り過ぎていった。

 視界の左端から飛んできた『それ』はクルクルと回りながら右へと流れていく。刀弥にしてみれば見慣れた物。最初は驚きなどなかった。けれども、何故という疑問を抱くと同時に思考が順々と浮かび上がっていく。

 何故、それがそこにあるのか。何故、それは離れているのか。そして、何故それは血を撒き散らしているのか。

 その疑問を抱きながら刀弥はそれがあるはずの場所へと視線を向ける。

 無意識のうちに早くなる心臓の鼓動。幾度も繰り返される予想と否定。だが、視線がそこへと向けられた瞬間、刀弥はその現実を直視してしまった。

 視線の先にあるのは本来ならば左腕があるはずの部分。だが、そこには本来あるはず左腕がなくなっていた。代わりに存在するのは鋭利に切断された傷口とそこからあふれる朱の滝のみ。

 左腕がなくなっている。ようやくそれだけの思考が頭の中に浮かんだ。

 そしてその直後、体と意思に悲鳴のような激痛が駆け巡る。

 体と頭中に響き渡るそれに苦しむ一方、刀弥はようやく違和感の正体を理解した。

 簡単な話である。本来ならばあるはずの左腕の感覚が欠けていた。ただそれだけの話であったのだ。

 激痛に苛まれ倒れていく刀弥。最早何かを考える余裕もない。

 そうして彼の身は赤土色の大地へと倒れたのだった。

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ただいま一章で名前だけがでた高峰麗華のショートストーリーを掲載中。01月05日:更新:零話終了
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