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無限の世界  作者: 蒼風
五章「別れの果てに」
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五章三話「襲い来る者達」(4)

 背中を掠める光線に冷や汗をかきながら次の建物の影へと避難するオスワルド。

 そうして建物の影に退避すると、今度はこちらの番とばかりに影から銃口を覗かせるとすぐさま反撃を開始した。

 敵へと向かい飛翔する風の弾。そんな風弾をガーブラは己の銃の装甲を使って防ぐ。

 剣を振るように銃を薙ぎ、風弾を弾いていくガーブラ。そうしながら彼は建物の上を飛ぶに駆け巡り影に隠れたオスワルドを狙える位置へと移動する。

 これに気付いたオスワルドは再び移動を開始。両者の間にできるだけ遮蔽物を挟むような位置取りを心掛けながら牽制のための銃撃を撃ち放った。

 そのような戦い方をするのには理由がある。ガーブラの武器だ。

 いくつかの撃ち合いを得て、彼はあの銃の弾がレーザーであることに気が付いた。

 レーザー、即ち光の速さで放たれる銃弾はその特性故に発射と同時に結果が訪れる。つまり、引き金を引いた時、銃口の先にオスワルドがいたならばその瞬間、彼の体に穴が一つ生み出されるということだ。

 そんな事態を避けるためにオスワルドは先程のような立ち回りを行なっていた。

 幸いなのはあの銃が連射できないという欠点があるという点だ。二丁持っているので油断はできないが、それでも閃光の弾幕に晒されないというのは不幸中の幸いである。

 しかし、そういう点を差し引いても依然状況はオスワルドに不利であった。

 なにせ、こちらの攻撃を相手はやすやすと対処している。笑みを浮べている様子から見てもまだ余裕があるのは間違いなかった。その証拠に相手は右手側の銃しか使っておらず、左腕の銃はほとんど撃ってきていない。

 その事実にオスワルドは歯噛みするが、それでもチャンスはチャンスだ。その隙をいかに突くかを考える。

 要は相手が二発目を撃つ事を決心する前に確実に仕留めればいいのだ。

 相手の優位点が弾速なら、こちらは連射と風故に弾の視認が難しいという点だ。相手の長所を殺し、自分の長所を活かす。これは戦いの基本だ。

 それが叶えられる状況を生み出すにはどうしたらいいのか。それをオスワルドは必死に模索する。

 と、そんな時だ。


「ところでさ~。俺達の戦力。どう思う?」


 追うことに少し飽きたのか、突然ガーブラが話しかけてきた。

 戦いの最中に気安く呼びかけてきたことをオスワルドは腹立たしく思うが、時間稼ぎができるのも事実だ。


「随分と大戦力だな。それだけ我々を潰すのは労力が掛かるということか。ならば誇らしい限りだ」


 故に彼はあえてその誘いに乗る。無論、皮肉を返すのは忘れない。

 けれども、ガーブラはそんな皮肉を受け流し笑みを浮かべながら次のように答えた。


「ああ、大戦力だよ。何せこんなへんぴなところに二部隊も戦力を投入するだもんな」

「!?」


 それを聞いて驚愕するオスワルド。顔にこそ出さなかったが、それでも内心では焦りに満ちていた。

 彼が言っていることが事実なら、もう一部隊この村に来ているということだ。恐らく、先の襲撃には加わっていない。ならば、どこで何をしているかという事になるが――


「……そういう事か」

「お、気付いちまったか」


 全てを察し苦味潰したような顔になるオスワルド。そんな彼の様子に気付いたのだろう。ガーブラは満面の笑みを浮かべていた。

 だが、ガーブラに構っていられない。オスワルドは急ぎ通信機に手を伸ばす。しかし――


「あー、駄目駄目」


 直後、そんな彼を妨害するためにガーブラが死角から飛び出し銃口をオスワルドの方へと向けた。

 反射的な動作で身を引くオスワルド。それが功を奏した。

 放たれたレーザーは通信機を貫き、先程までオスワルドの顔があった場所を通り抜けていく。もし反応が遅ければ、それでオスワルドは死んでいたであろう。

 その事実にゾッとするオスワルド。だが、それ以上に悔しくもある。

 先程の射撃。あれはオスワルドを狙ったものではなかった。間違いなくあれはオスワルドが持つ通信機を狙ったものであったのだ。恐らくオスワルド自身はそのついででしかない。

 ともかくオスワルドは物陰に隠れる。


「…………随分とこちらを舐めているみたいだな」

「好物はじっくりと楽しむタイプだからね~」


 余裕しゃくしゃくなガーブラの態度。それにオスワルドは我慢が限界に達しそうになるが、寸前で勝つためだと言い聞かせて己を落ち着かせる。

 そうしてから彼は物陰から銃口を覗かせ応戦。ひと通り撃った後に再び別の場所へと移動を開始した。

 その最中、彼はふと脱出を開始しているであろう仲間達を思う。



 どうか無事であってくれと……





      ――――――――――――****―――――――――――



 脱出組は追撃部隊との小規模な交戦は幾度かあったものの順調に進行していた。

 現在、刀弥達がいるのは最後尾。いわば殿の位置だった。実際、追撃部隊が来る度に撃退に動いている。それは今もそうだった。

 雨のように前方から迫ってくる火球の雨の隙間を縫うように潜り抜け先頭にいた敵兵を刀で斬りつける。

 跳ね上がるように振り上がった刀は敵兵の胴を一閃のもとに裂き、敵兵は血の噴水を吹き出しながら倒れていった。

 それを一瞥することなく刀弥は右へと飛ぶ。直後、彼のいた場所をいくつもの炎弾が襲いかかった。

 巻き起こる複数の爆発。刀弥はその爆発が生み出す風に乗って距離を稼ぐと、くの字軌道の二連続縮地で一気に近づく。

 敵は最初の軌道に騙され、そちらの行先へと射撃を見舞っている。フェイントに気が付いた時には既に刀弥は先頭の敵の眼前だ。

 走る剣閃。それで敵の胴を薙ぐと直後に彼は半歩右へと移動した。

 そうして刀弥は右足が地面に着くと同時に縮地を行使。その勢いを利用した左肩タックルで敵にたたらを踏ませるとその敵目掛けて刀を振り上げる。

 右下から左上の全身を回すような斬り上げ。それで相手を一撃で倒すと、振り上げと共に前に出していた右足で今度は左へと飛ぶ。

 そんな彼の背後ではリアが風の矢の群れを展開していた。

 前方を一瞥し敵達の位置を掌握すると、彼女はまるで指揮者のような力強い動作で杖を振り攻撃の合図を示す。

 その命令に風の矢群は即座に応えた。全てが線を描き放たれたのだ。

 それぞれが広がるような軌道で展開していく矢群。全て彼女の意図通りの相手へと向かって飛翔していく。

 そして殺到。一人あたり六~七本程の矢が敵兵たちに襲いかかった。だが、リアは攻撃の手を緩めない。既に彼女は風の矢を放つと同時に新たな魔術式の構築を始めていた。

 そうして続いて展開されたのは炎の収縮。一点へと集まった炎が巨大な球形を形作り唸っている。

 まるで暴れだす直前の炎を押さえ込んでいるかのような光景。そんな光景を眺めながらリアはそのさらに奥、倒すべき敵がいる前方へと視線を移した。

 既に刀弥は彼女の隣まで後退している。ならば、後は解き放つだけだ。


「いっけええええ!!」


 叫び炎に命じるリア。それで唸っていた炎は敵のいる前方へと解き放たれた。

 轟音を立て炎は砲撃となって道を突き進んでいく。

 炎が持つ熱とその熱によって生み出される風。それは狭い通路ではこの上なく脅威だ。

 放たれた炎の砲撃に敵兵たちは慌てて逃げていく。だが、全ては遅すぎた。

 炎の砲撃は全てを飲み込み焼き尽くし、そして蹴散らしていく。

 そうして砲撃が止んだ時、前方にあったのは黒い煙を上げる焼け焦げた通路だった。


「とりあえずこれで今度のは終わったようだな」


 通路の先へ目を凝らしながら、ひとまず終わったことに安堵する刀弥。それでリアが大きくため息を吐いた。


「これで何度目だっけ?」

「四度目だな。回数を重ねる度に人数が増えてきている」


 それはつまり、襲撃が来る度に二人に掛かる疲労が増えていくということだ。革命軍のメンバーの援護もあるとはいえ、さすがにきつい。

 刀弥にしてみれば初めての長時間戦闘。リアの助言などもあって、ここまでなんとか持ち堪えているが、精神的にはかなり限界だ。

 短時間の時には気にもならなかった緊張の維持による精神的疲労。だが、長時間ともなるとさすがに話が違ってくる。

 疲労が増してくると必ずといっていいほどやってくる緊張を解くことを進める誘惑。疲労が少ない時は簡単に無視することもできるが、長時間で疲労が積み重なってくると最早雑音状態だ。無視したくても嫌でも耳に聞こえてくる。

 しかし、一度でも誘惑に負けて緊張を解いてしまうと、再び緊張状態に戻るのは難しい。疲労故に緊張状態に入れないという事もあるが、入ったとしても元の状態に戻ることも困難だからだ。

 そのため、一度緊張状態を解いてしまうと再起動時に不完全なコンディションで戦わなくてはならなくなってしまう。それはつまり負ける可能性が高まってしまうという事だ。今の状態は負け=死という状態。負ける訳にはいかない。

 とはいえ、疲労が積み重ね続けるのも良くはない。疲労が貯まれば体の制御や思考をしっかりと行えず失敗してしまう可能性が高まってしまうためだ。

 状況にもよるが今回の場合のミスは死神の鎌も同然。よって、どこかのタイミング――無論、先のリスクも考慮した上で――で必ず疲労を取り除く必要がある。

 それを今だと判断したのだろう。


「お前ら、少し村人のところまで戻ってくるんだ」


 革命軍のメンバーが命令口調でそう言ってきた。

 刀弥としては命じられる覚えはないのだが、その口調にしたのはこちらを気遣い無理にでも行かせるためだろという事は理解できている。

 実際、体や脳は疲労を訴えていた。体の各部は熱を持ち、頭の方もまた思考し続ける事が叶わない。

 刀弥はリアを見る。心なしかリアの方も疲労の色を見せていた。息の間隔は広がっており、呼吸の量も僅かに増えている。

 刀弥の視線に気付いたリアが視線を返してくる。そうしてから少しして彼女は革命軍のメンバーに次のように答えた。


「すみません。お言葉に甘えることにします」

「おう、次に備えてしっかりと休んでこい」

「はい」


 元気な声で送り出す革命軍のメンバーに微笑を返すリア。しかし、その微笑は疲れの成果若干崩れている。

 だが、革命軍はあえて指摘しない。そのまま二人を送り出していく。

 そんな彼らに感謝しながら二人は最後尾から中側へと戻っていくのだった。

 

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