五章三話「襲い来る者達」(3)
一方その頃……
刀弥達はと言うと、村人が集まる通路に敵が侵攻しないよう防衛に励んでいた。
戦線は既に角を曲がれば村人達が固まっている通路というところまで下がっている。故にこれ以上は下がれない。
「さすがにまずくないか?」
攻撃の雨を潜り抜け、敵の一人を斬り伏せる刀弥。そんな彼に他の敵が銃口を向けようとするが、その前にリアの魔術や他の革命軍の攻撃が彼らの反撃を妨害した。
そんな支援を受けつつ刀弥は新たな敵へと駆け寄る。縮地を用いた急速接近。相手が気が付く頃には既に刀弥の刃が振り上げられており、それ故に相手は逃れられない死を拒みながら倒れる事しかできなかったのであった。
だが、一人また一人倒した所で敵はまるで無尽蔵であるかのごとく次々と現れてくる。今もまた新たに姿を現した敵が刀弥に向けて風の弾丸を見舞ってくるところだった。
「まだ脱出できないのか?」
革命軍が作る人の壁まで後退して刀弥が彼等の一人に尋ねる。このままでは絶え間ない敵の攻めにこちらが疲労によって崩れてしまう。彼の問いはそうなる前にここを脱出できないのかという問いだった。
「脱出の方法はグレリムさんしか知らないんだ。彼がここに来てくれれば脱出できる」
既に脱出が実行が決定しているのは革命軍のメンバーから聞いている。にも、関わらず脱出が次の段階に移行していない。その事に疑問を持っていた刀弥だったが、メンバーの言葉で納得した。要するにここにいるメンバーは脱出の具体的な方法を知らないのだ。
「くそ!?」
つまり、それはグレリムが来なければ自分達はこのまま敗北してしまう事を意味している。数度のやり取りしかしていない刀弥としては本当に来てくれるのか不安で仕方がなかった。
そんなやり取りをしている間も敵の侵攻は続いている。中には風銃以外の武装を持った姿もチラホラと見え始めていた。
ガトリング状の武器で炎弾をばら撒き始める敵。放たれた炎弾は天井や壁、床に着弾すると次々と爆発を起こし通路に炎の花を咲き乱れさせた。
その攻撃に刀弥は堪らずバックステップで後退。安全圏へ退避すると直後にリアが風の砲撃を放った。
リアの撃つ砲撃によって敵の何人かが吹き飛ぶが、次の瞬間には新たな敵達が現れる。
「キリがないな」
そう言いながら斬波を飛ばす刀弥。
斬撃はカーブを描いて飛翔していく。そんな攻撃を敵達はバックステップで回避。すぐさま反撃のために銃口を刀弥へと向けようとするが、そんな彼等にリアが斉射した風の矢が殺到。その体を串刺しにした。
けれども、やはりというべきか。新手が現れお返しとばかりに反撃を見舞ってくる。
「まだ来ないのかな?」
「これは場合によったら……」
時間的にさすがに最悪の結果――つまり既にグレリムが死亡している可能性――を想定した行動を考えるべきではないだろうか。そう刀弥がそう思っていた時だった。
突然、大きな振動が巻き起こった。
その振動に刀弥達はもちろん敵達も驚き動きを止める。
やがて振動が収まり刀弥達も敵達も再び動き出そうとしていた頃、住民達が集まっているはずの角の向こうから待ち人が姿を現した。
「下がれ!!」
響くその声に咄嗟に刀弥達はグレリム元まで下がっていく。
反応できなかったのは敵達だ。いきなり相手が揃って下がっていく事に戸惑いを隠せない。
そんな彼等にグレリムは己の腕が抱えていた巨大な銃型武器の銃口を向けると躊躇うことなくその引き金を引く。
その直後、一筋の光が走り抜けた。光は銃口より放たれ真っ直ぐ通路の中央を突き抜けていく。
そんな光に反応できない敵達。だが、彼等が反応しようがしまいが関係ない。光の速さで走った弾道はその速度故に風を生み出し全てを蹂躙する。
結果、轟音と共に衝撃波が光の後を追いかけ全てを飲み込んでいった。当然、敵はそれに巻き込まれる。
吹き飛ばされる敵の体。中には光の直撃を受けて見るも無残な姿に変わった者までいる始末だ。
やがて、光と暴風が止み、辺りに静寂が訪れる。
刀弥が伏せていた顔を上げてみると敵のいた通路は酷い惨状となっていた。
壁や天井は剥がれへこんでおり、ボロボロの床の上には見るに耐えない死体がいくつも転がっている。
グレリムの放った一撃の凄まじさを物語っているそれらを見て呆然とする刀弥。と、そこにグレリムが声を掛けてきた。
「無事か?」
「……そっちの一撃で死ぬかと思ったけど、無事だ」
「なるほど。余裕そうだな」
若干余裕のあるやり取りを交わす刀弥とグレリム。そうしてからグレリムは皆を見回し次のような事を述べてくる。
「時間稼ぎご苦労。皆こちらに来たまえ」
そうして向かうのは村人達が固まっている場所。付いて行ってみると、そこにはポッカリと新たな道が開いていた。
「ここを通って脱出する。付いてきたまえ」
そう言って新たな道へ入っていくグレリム。村人達はというと一瞬、どうするか迷ったようだが、グレリムがズンズンと先へと進んでいくのを見て結局彼に従うことにしたようだ。
「それじゃあ、俺達も行くか」
「うん」
それを見て刀弥達も新たな道へと入って行こうとする。けれども、その時になってようやくネレスは見知った顔が見当たらないことに気づいてしまう。
「……あれ、兄さんは?」
「そういえば見当たらないね」
ネレスの言葉でオスワルドの姿がない事に気が付く刀弥とリア。
刀弥は急ぎ近くにいる革命軍のメンバーに尋ねる。
「なあ、オスワルドはどうしたんだ?」
するとメンバーは一度ネレスの方へと気まずそうな視線を向けたかと思うと、申し訳無さそうな表情で次のような事を告げてきた。
「……オスワルドさんなら村のほうで敵を足止めしている最中だ」
「そんな!?」
途端、顔面を蒼白にするネレス。あまりのショックに彼女は後ろへと倒れかけるが、直前に気付いたリアによって抱きとめられていた。
「無事なのか?」
「今のところはな……かなり、強いらしい。同じように足止めに残った仲間が既に何人かやられている。正直、そう長くは保たないだろう」
どうやら革命軍は最初から足止め部隊を諦める気であるようだ。
時間稼ぎという名の生贄。その事実に刀弥は内心怒りが沸き起こるが、彼らを責める気までにはなれない。彼らも損害や被害を鑑みてそういう判断に至ったのだろう。
むしろ、その事実に自ら助けに向かうという選択肢を選べない自分に腹がたってしまう。
「ほら、急ごう。ここでモタモタしてたらオスワルドさん達の行為が無駄になっちまう」
大人しくなった刀弥達を見てメンバーがそう言ってくる。その言葉に反応して刀弥とリアが視線を交わした、その時だ。
突然、ネレスが踵を返し村へと通じる通路へと向かおうとした。
彼女が何をしようとしているか。すぐに気が付いた刀弥は急ぎ追いかけ彼女を捕まえる。
「待て!!」
「放してください!!」
ネレスを止めようとする刀弥。それに彼女は拒絶の声をもって応えた。
「私は……私は兄さんのところへ行きます!!」
「だからって行かせられるかよ」
羽交い締めにしてこれ以上先へと行かせないようにする刀弥。そこにリアも加勢に入った。
「ネレス。今戻った所でもう間に合わないよ」
「そんな事、関係ありません!! 私は……私はまだ……兄さんに言いた――」
必死の形相で何かを言おうとするネレスだったが、その言葉が突然途切れる。理由はメンバーの一人が彼女のお腹に強い打撃を見舞ったためだった。
「付き合ってたらキリがないぞ。恨まれるだろうが、オスワルドさんの妹に死なれるよりかは遥かにマシだ」
「すみません」
礼を言う刀弥。
それにメンバーはいいってことよと返して彼女を抱き上げる。
「それじゃあ、急ごう。これ以上遅れたら本当にオスワルドさんに申し訳ないしな」
「そうですね」
通路の方では複数の足音が聞こえてきている。これ以上の長居はできそうにもない。
こうして刀弥達は新たな道の奥へと急ぎ向かうのだった