五章二話「革命軍」(5)
翌日……
刀弥はドアの向こうから響くノックの音で目を覚ました。
寝ていたベッドから起き上がり、ノロノロとドアへと向かう。
「誰?」
「あ、私」
ドアの向こうにいたのはリアだった。
「どうしたんだ?」
「ちょっと、聞きたいんだけど……ネレスそこにいる?」
どうやらネレスを探しているらしい。
「いや、いるわけないだろ」
「そりゃそっか」
一応、理解しつつも聞きに来たようだ。とりあえず刀弥はドアを少し開け顔を出すことにする。
「なんだ、起きたらいなかったのか?」
「そんなところ」
それで数少ないの心当たりだった刀弥の元へ来たということらしい。確かに彼女の行き先に心当たりがあるとすればまず互いのところだろう。
「俺も探そう。ちょっと待ってくれ」
そう言って刀弥はドアを閉じると、急いで準備を始めるのだった。
そうして刀弥の準備が整うとすぐさま二人は基地内を回り始める。
「とりあえずどこから探す?」
「方針としてはネレスの事を聞きながらオスワルドさんを探す感じかな」
確かにそれがベストな方法だろう。互いの場所にいないのなら後はオスワルドのところだけだ。
そう思っていると通路の向こう側から人が来た。やってきたのは今話していた当の本人だ。
「あ、オスワルドさん」
リアが声を掛けるとオスワルドは刀弥達の存在に気が付く。
「君達か。ネレスはどうしたんだ?」
どうやらオスワルドの元にも行っていないらしい。
「私達のところにいないからてっきりオスワルドさんのところかと思ってたんですけど……」
「いや、悪い。今日はまだ会ってすらいないんだ」
そう言いながらオスワルドは表情を曇らせる。行方がわからないと聞いて心配になっているのだろう。
「……俺も探そう。ひょっとしたら基地内で迷っているのかもしれない」
確かにと内心で刀弥は同意し、周囲を見回す。
現在、視界に見えるのは狭い通路。そのせいで視界は狭く後は壁とドア、そして明かりぐらいしか目に映る物がない。
通路は入り組んでいるという訳でもないが、見晴らしが悪い上に似たような光景ばかりだ。この場所に慣れていないのであれば迷う可能性は十分にあるだろう。
「その方がいいな」
「すみません」
刀弥達もまだこの場所に慣れているわけではない。そのため、道を熟知しているはずのオスワルドが手助けしてくれるのは正直ありがたかった。
「気にしないでくれ。妹が関わっているんだ。見て見ぬ振りという訳にもいかない」
そんな二人の礼にオスワルドは苦笑で応える。そうして三人はネレスを探すために基地内を探しまわり始めたのだった。
先頭はオスワルド、その背後に刀弥とリアが続くという並びで通路を歩く三人。道中、革命軍のメンバーと出会う度にネレスの事を尋ねてみるが、返答は見ていないという内容ばかりだった。
「一体、どこにいるんだろう?」
見つからないネレスの姿に心配そうな顔を見せるリア。それはオスワルドも同様だった。
「もし、誰も見ていないところで苦しんでいたら……」
あってほしくない可能性を呟きながら奥を睨む。そんな彼を刀弥は背後から眺めていた。
と、そんな時だ。
通路の奥、そこにあるドアが開きその中からネレスが姿を見せる。
「ネレス!!」
彼女を見つけ走りだすオスワルド。それに刀弥達も続いた。
一方、ネレスはというとオスワルドに叫びに反応して刀弥達の方を向く。それと同時に彼女の背後のドアから今度はグレリムが現れた。
「!? グレリム様」
彼の姿を認めたオスワルドは慌てて走りだした足を止める。
「オスワルドか」
「すみません。妹が何か粗相をしましたか?」
一瞬、出てきたドアへと視線を向けるオスワルド。それに従い刀弥達はドアの方を見るとドアにはネームプレートが付いていた。ネームプレートの名前はグレリム。どうやらあそこは彼の私室らしい。
「いや、彼女が我々の組織についてもう少し知りたいというので私の部屋で説明をしていただけだ」
そんなオスワルドの問いに苦笑しつつそう答えるグレリム。その返答にオスワルドがネレスに視線を向けるとネレスは首を軽く立てに振って肯定を返した。
その返答にオスワルドは安堵を浮かべる。
「そうでしたか。しかし、いささか我々の事を彼に教えすぎではありませんか?」
どうやら彼も刀弥達が抱いた疑問を得ていたようだ。刀弥達も気になっていたことなので自然二人の視線はオスワルドと同じように問い掛けの視線となってグレリムに注がれていた。
「まあ、理由はある。一つは我々にとって重要な戦力である君が革命軍から抜けるのを防ぐためだ。そのため、妹君にはここが信用できる場所だと示しておきたかった。もう一つは単純に信用できると勘が囁いたからだ」
「……勘ですか」
二つ目の理由にオスワルドは明らか困惑仕切った表情を見せる。それは刀弥達も同様だ。あまりにもあやふやな理由にそれ以外の表情が浮かばなかったのだ。
「まあ、そんな顔をしてしまうのもわからなくはない。確かにそんな理由でとは思うだろう。しかし、私は自分の勘を割と信用しているのでね。実際、過去何度かこの勘に救われている」
「はあ……」
何とも言えない内容に刀弥は言葉を返せない。ただグレリムが己の勘をかなり信用していることだけはわかった。
「では、所要があるのでこれにて失礼する。本来なら部屋まで送り届けるつもりだったが……君達がいるのならそれも不要だな」
そうして歩き出し通路の角を曲がり姿を消すグレリム。そんな彼を刀弥達はただ呆然と見送った。
「それでネレス。グレリム様から直々に我々の事を聞いて納得できたのか?」
グレリムを見送ってからしばらく経った後……
オスワルドがネレスの方を向いてそう聞いてきた。
その問いにネレスは首に横に振って応じる。
「革命軍の考えを理解することまではできます。でも、納得まではできません」
「そうか……」
彼女の答えに残念そうに、けれどもどこか安堵の混じった表情を見せるオスワルド。それから彼はネレスにこう告げた。
「それがお前の気持ちなら、お前はそう思ってればいい」
「兄さん……」
「俺は俺の意思を貫く」
それは兄と妹の意思が分かたれた事を告げる言葉だった。
意思を秘めた瞳は強い光を灯しており、例え実の妹の言葉でも消え去ることは無理そうだ。
それがわかったのだろう。ネレスは辛そうな顔を浮かべている。
「ネレス。明日には帰るんだ。必要なら俺が送ろう」
淡々とした口調でそう告げるオスワルド。その後彼は刀弥達の方へと向き直る。
「妹が本当にお世話になりました。ほんの少しばかりですが、これはその礼です」
そう言ってオスワルドが差し出してきたのは複数の宝石だった。
宝石は通路の明かりを浴びて眩ゆいばかりに輝いている。見るからに上物の宝石だ。
「この国の通貨では場合によっては危ないでしょう。なので、宝石にしておきました」
刀弥達が抱いたであろう疑問。それに先回りする形でオスワルドが補足を加える。
「なるほどな」
その説明で納得する刀弥達。そうして彼は宝石をスペーサーにしまった。
「お二人の調査については先程、終了し開放しても大丈夫だろうという判断がなされています。いつでも出て構いませんが、どうしますか?」
「そうだな……どうせならネレスと一緒にここをでるか」
そうすれば途中までとはいえ彼女を守ることができるからだ。
リアはこの判断に賛成らしく先程から何度も頷いていた。
「わかりました。ではお二人はネレスと一緒に明日出発するとメンバーには伝えておきます」
そうしてオスワルドは去っていく。そのしっかりとした足取りは最早彼女に未練などないという風に刀弥に感じられたのだった。