一章三話「命の抗い」(1)
連絡事項:6月23日 仕事のほうが忙しくなり、今の仕様のままだといつ投稿できるのかわからないので、20ページから4~6ページ程度変えようと思ってます。
それに伴い、1話2話のほうも切り分けることに致しました。
故にこの話からが今回、新しく投稿された話です。
気が付くと目の前に白と灰色の世界が広がっていた。
白い平原とゆっくりと舞い降りる雪たち。辺りを見渡すと雪の降り積もった灰色の山々が壮大に佇んでいる。
それら見回してから刀弥は正面を見た。
視界の先ではゲートから現れた人々が一直線に出口を目指し歩いていた。
途中、兵士たちが彼らを止めて検査をしているが、行きのときと比べると簡素な検査だけで済まされているようだ。
逆にこちらに向かう人たちは先程、自分たちが受けた検査と同じものを受けているのが見える。
よく見ると、並んでいる人の多くが馬車を引き連れたり、大きな荷台を運ぶ乗り物に乗ったりしている。
荷物は大半が木箱でそれがいくつも積まれて載せられている。動くときの様子から、かなり重たいものであることがわかった。
鉱物資源が豊富だという話なので、恐らく輸入目的か転売目的でそれを買った商人たちだろう。この世界はそうやって、金銭を得ている訳だ。
ふと、体が冷えてきた。
先程、リアからフード付きの外套を受け取ったことを思い出した刀弥はすぐさまそれを着ることにする。
「それじゃあ、刀弥行こうか」
外套を着ると隣から見知った声が聞こえた。
振り返ってみると、声の主はリアだった。
「ああ」
そうして、二人は出口に向かって歩いて行く。
少し進むと、一人の兵士が二人に声をかけてきた。
兵士たちの格好は鎧ではなく、代わりに毛皮と思わしき白い上着とズボンという防寒を重視した服装だ。
「すいません。念のため簡単な検査をさせてもらいます。ご了承ください」
「わかりました」
素直にそう答えると、他の兵士たちが二人のボディチェックをしていく。
「こちらには観光で?」
「いえ、リアフォーネを目指して」
「リアフォーネ……つまり、ラーマスを目指しているのですね」
ラーマス。そこにリアフォーネに繋がるゲートがあるのだろう。
後でリアにどのくらい掛かるのか聞いてみようと、刀弥は頭の隅でそんなことを考えた。
「はい。そうです」
「道はわかりますか?」
「あちら側の兵士さんから聞きましたので」
「では、大丈夫ですね。一番近い町であるファルスはあの洞窟の中です」
兵士の指差す少し先、そこにはぽっかりと大きな穴が空いていた。
「ありがとうございます。刀弥行こ」
リアに連れられ、刀弥は彼女と共にその洞窟へと向かうのだった。
――――――――――――****―――――――――――
洞窟に入った途端、寒さを感じなくなった。
「あれ?」
そのことに気付いた刀弥が背後を振り返る。すると、雪が途中で遮られているという光景が彼の目に入った。
「寒さと雪の侵入を遮っているのか。だとするとこれも魔具の力か?」
「刀弥。どうしたの?」
背後を振り返って呟くに刀弥にリアが歩み寄ってくる。
「ん? ああ、寒さと雪の侵入を防いでるなと思って……」
その言葉にリアも刀弥の見つめている先を見る。
「あ、本当だ。きっと、魔具の力だね。雪と寒さの遮断と一定温度の維持、後この明かりとかも町自体が分配のマナを使ってやってるんだろうね。どれも町自体に必要なものだし」
言われ天井を見上げると、確かにほのかに明かりを灯している物が天井にぶら下がっていた。
「ほら、見上げてばっかりいないで、先へ進もう」
「あ、悪い」
そうして歩いていると、やがて二人は広い場所に出てきた。
「うわぁ」
「リアの言ったとおりだな」
リアが感嘆の声を漏らし、刀弥は感心の声をあげる。
『寒さを凌ぐために採掘で掘った穴を広げて、そこに町を作ってるって話だよ』
この世界に来る前にリアが言った言葉。
その言葉のとおり、町は洞窟の中にあった。
広く掘り広げられた洞窟の中に、建物が密集して並んでいる。町の中央は広く開けており、そこにマナの収集装置が置かれていた。天井の一番高いところにはかなり大きな明かりがあり、太陽と見間違うほどの光を町に降り注がせている。
そんな中で、人々は通常の暮らしを営んでいた。
リアが思わず駆け出していくが、途中でクルリと身を回すと町を眺めたままの刀弥に声を掛ける
「ほら、刀弥も早く!!」
「わかったから。大声を出すな」
そう返して早足で彼女を追いかける刀弥。
町に入った二人は、そのまま町の中を散策することにした。
「鉱物資源が豊富とは聞いていたけど、宝石も結構採れるみたいだな」
刀弥がそう思ったのは露店の中にいくつも宝石を取り扱っているお店があったからだ。
透明なケースに入れられた色とりどりの宝石。中にはかなり高い値札の付いた宝石まである。
女性たちは皆、目を輝かせてそんな宝石を眺めていた。
男性も幾人かが興味深く覗いているが、時折、何かを考えているようなそぶりを見せていることからその動機は女性へのプレゼントだと推測できる。
そんな中、リアは彼女たちのように宝石に見とれることはなかった。
時々、宝石を前に足を止めたりはするが、それは物珍しさからであって、宝石だからという理由では決してない。
「リアは宝石とかには興味がないのか?」
それを不思議に思った刀弥が思い切って尋ねてみることにした。
「ん~、ない訳じゃないけど、あの人たちみたいにそこまで惹かれる物でもないかな」
彼の質問にリアは苦笑を浮かべて答える。
まあ、確かに全ての女性が宝石に色めき立つとは限らないだろう。
刀弥は一人納得して、二人は歩みを続ける。
次に二人が着いたのは、鉱石を取り扱う市場だった。
馬車や乗り物に箱詰めした鉱石を乗せる男たち。遠くのほうでは競りでもやっているのか、いくつもの大きな声が聞こえてくる。
そんな市場の中を二人は歩いていた。時折、二人の傍を馬車や乗り物が通りすぎていく。
「活気があるな」
「そうだね」
熱気のあるその雰囲気に、二人は思わず呑まれそうになる。
辺りには大きな箱がそこら中に置かれている。恐らく、中身は全て鉱石だろう。
既に買い手がついたものなのかはわからない。だが、いずれはどこかに運ばれ様々な物になって、人々に利用されることになるのだろう。
自分たちはその始まりにいる訳だ。
そう考えると感慨深いに思いにさせられる。
そうこうしているうちに、二人は市場の終わりまで辿り着いてしまった。
その先からは、酒場や飲食店の看板が立ち並ぶ飲食街のようだ。
それを見て刀弥は、お腹が減っているのを自然と自覚した。
「……そういえばそろそろ昼頃か」
「まあ、こっちじゃ夕方みたいだけど」
リアの視線の先にある時計を見ると、時計は四分の三ほど回っていた。中央に三二〇ティムという値が書いてあることから恐らく、ここの一日は三二〇ティム(二〇時間)なのだろう。
そうなると、この世界の現在時間は二四〇ティム。確かに彼女の言うとおり夕方だ。
「基準時間はまだ朝方なのにな」
腕時計を眺めながら刀弥は呟く。
刀弥のしている腕時計は準備のときに買ったもので、基準時間の時間と日付が刻まれている。
日付は一六二と表示され、針は一八分の五。つまり一〇〇ティムでかなり朝早い時間帯だ。
とはいえ、朝だろうが夕方だろうが昼御飯を食べていない刀弥たちがお腹を空かせていることに変わりはない。
「何かを食うか」
「そうだね」
食事をするという選択肢が出てくるのは当然のことだった。
とりあえず目についた飲食店に入る二人。
席に座ると二人は適当なものを注文した。少しして料理が運ばれてくる。
運ばれてきたのは、茹でたイモ類と豆のシチューとパン。
それを二人は食べ始める。
「で、これからどうする?」
食事をしながら、刀弥が質問を投げかけてきた。
それはさっさと次の場所へ行くのか、という意味だ。
町は夕方だが、自分たちにとっては起きてからそれほど時間は経っていない。
眠いという感覚にはまだ程遠い。
だから、このまま一気に次の場所まで行くのかと聞いた訳だ。
しかし、リアは首を横に振る。
「ラーマスまで一四日程掛かるから、こっちの時間に合わせるつもり」
「じゃあ、宿屋で部屋をとって休むのか?」
「そのつもり」
笑顔で返すリア。
そうしているうちに食事は終わり、二人は宿屋を求めて町を彷徨うのだった。
――――――――――――****―――――――――――
宿屋はあっさり見つかった。というより、見渡せばどこかに必ずあるといえるような状態だった。
行商など利用者は多いのだろう。
差別化を図るためか、寝心地の良いベッドを使っているとか、最高級の料理を出す食堂があるなどのアピールがあちこちの看板に書かれている。
「どれにする?」
「……普通でいい」
せっかくベッドで寝るのであればできれば気持よく寝れるベッドがいい。しかし、高いところは金の関係で避けたい。その妥協の結果だ。
「私も同感」
どうやらリアも同じ考えだったらしい。
丁度、その条件に合致しそうな宿屋があった。
二人はその宿屋に泊まることにしたのだった。
「いらっしゃいませ」
宿屋に入ると受付に座っていたおばさんが声を掛けてきた。
「すいません。二人ですが部屋は空いてますか?」
「一人部屋二つと二人部屋どっちも空いてますけど、どっちします?」
「一人部屋二つでお願いします」
すかさず刀弥がそう答えた。
さすがに二人部屋は前回、何事ともなかったとはいえ、できる限り避けたいところではある。
手続きを終え、差し出された鍵を受け取ると早速二人は部屋に向かうことにした。
だが、ふと視線を感じ、刀弥は足を止め背後へ振り返る。
「どうかしたの?」
そう問いながら、リアもまた彼が振り返った方向に視線を向ける。
けれども、視線の先には何もいない。
「いや、誰かがじっと見ていたような気がしたんだが……気のせいだったみたいだ」
「そっか。じゃあ行こう」
そうして二人は再び歩き始める。
そして部屋に辿り着くと、二人は一旦そこで別れた。
中に入ってみるとそこは温かみのある部屋だった。
紅緋色の壁紙と白の天井、床には赤橙色のカーペットが敷かれている。
窓側にあるベッドに触れてみると、柔らかな感触が返ってくる。十分満足できるレベルだった。
隣には浴室やトイレに続く脱衣所。
前回の宿屋と比べてそれほど部屋の構成に違いがないことから、この構成が標準的なようだ。
「刀弥。いる?」
と、そこにノックと共にリアの声が聞こえてきた。
「ああ」
返事をすると、彼女がドアを開けて中に入ってくる。
「どうした?」
「暇だったから来ただけ」
用件を訊いてみると、リアは笑みを浮かべてそう答えた。
考えてみれば、眠るまでまだ十分時間がある。かといって暇を潰せるようなものを刀弥は何も持っていない。
一緒に持ってきた本は、既に読み終えてしまった。
ならば、残るのは話をすることだけとなる。
「リアは今まで暇なとき、どうしてたんだ?」
「今まではすることもなかったら、荷物を整理し直したり魔術の勉強や修行とかしてたかな」
「それは建設的だな」
その話で刀弥はここのところ剣術の修行をしていないことを思い出した。
明日、起きたら修行をしようと彼は心に留める。
「でも、今度からは話相手もいるからね。訊きたいこととかいろいろあるし……」
「なるほど。で、何が……」
何が聞きたいんだと言おうとしたそのとき、ドアをノックする音が二人の耳に入った。
二人は顔を見合わせる。
「さっきの人かな?」
「他に心当たりないしな。何の用だろう?」
ただ、ノックの音が随分と低いところからしたのは気のせいだろうか。
とりあえずドアを開けてみることにする。
だが、ドアを開けてみると、目の前に誰の姿もなかった。
「あれ?」
慌てて左右を見回してみるが、やはり誰もいない。
イタズラかとそう思ったときだ。
「……あの……こっちです」
「え?」
声の聞こえた下へと刀弥が目を降ろしてみると、そこには小さな女の子が立っていた。
歳のは一〇歳くらいだろうか。肩まで伸びた本紫色の髪。花色の幼い双眸は見開いたまま、じっと自分のことを見上げている。
服装は寝間着のようで、その腕には何かのぬいぐるみが抱かれていた。
「えっと、何か用かな?」
予想外の訪問者に、とりあえず刀弥は用向きを聞いてみることにした。
それを聴いて彼女は少し逡巡したが、やがて、何かを決意したかと思うと次のようなことを質問してきた。
「えっと、お兄さんたちは旅の人ですか?」
「……まあ、そうだな」
嘘を言っても仕方ないので正直に答える。しかし、それが一体どうしたのだろうか。
すると、それを聞いて少女が言葉を続けようとする。
「あの……その……えっと……」
けれども、口ごもってしまい中々言い出せない。
そのうち、中々終わらない来客に疑問を持ったのか、リアが二人のもとに近づいてくる。
丁度そのときだった。
少女が大きな声で頼みごとをしてきた。
「あ、あのお話聞かせてください!!」
「……はい?」
それが刀弥の感想だった。
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できる限り同一表現の修正。
14/10/04
一部の語句の勘違いがあったので修正。