捨てきれない情
「おーい!こいつらを早く治してやってくれ!」
大戦に参加している兵士長が負傷したものを連れてやって来た。
「うちは兵士はお断りだから!辞めてから来てくださいね!!」
オータムが言った。
「なんだと!いいから早く治せ!!」
兵士長は声を荒げて言った。
オータムはため息をついて叫んだ。
「ジーク先生!兵士がここに来てます。治療を希望してますけど…」
ジークはすぐやってきて言った。
「ここにいるのは全て戦争に巻き込まれてる者ばかりだ。戦争屋には治す気はない。帰れ!」
「つべこべ言わずに治せ!さもないと痛い目にあうぞ!!」
兵士長は呪文を唱え始めた。
ジークはため息をつき、指を動かした。
すると、兵士長の腕がポロッと落ちた。
「うおぉぉぉ!な、なんだ!何をした!!」
「俺は伝説の魔術医師と呼ばれている。お前ごときに痛い目にあわされる俺じゃあないわー!わははは!!」
―だいぶストレスがたまって、この人たちに憂さ晴らししてるな―
オータムは思った。
兵士長は土下座して言った。
「頼む!俺はいい!負傷しているあいつらだけでも治療してやってくれ。頼む!あいつらには帰りを待っている家族がいるんだ!」
「…お前らが傷つけたものに家族はいないのか?戦争に巻き込んだものに家族はいないのか?」
「…」
「死ね!お前らみたいなやつらは皆死ね!」
「あんた人の命を差別するのか?」
「する!ここでは、俺がルールだ。治すか治さないかも俺が決める!」
オータムは黙って聞いていたが、やがて口を開いた。
「兵士を辞めなさい。二度と人を殺さないと誓うなら、治してもいいですよ!」
「…兵士を辞めるなんて言ったら、国に反逆者扱いで家族もろとも死刑になる!…それはできない。」
「選びなさい。家族もろとも国を捨て、北へ逃げるか…それとも今ここで死ぬか!」
「…わかった。あいつらにも事情を説明して説得する。」
「約束ですよ!ジーク先生。治してやってください。」
「…しょーがねーなー!!面倒くさいなあ!」
―なんて医者だ―
兵士長は思った。
数か月後
兵士が診療所に来た。今度は兵士長を連れて…
「…頼む!約束を破って今更こんなところに来れた義理じゃないのはわかっている。だが…だが、このままじゃ…このままじゃ兵士長が死んじまう!!」
ジークはそう言った兵士の胸ぐらをつかんで叫んだ。
「今度は何人殺したんだ!帰れ!」
「誓う!今度こそ国を逃げるって誓う!!国を出て追われるのが怖かったんだ!頼む今度こそ約束を守るから!!」
「お前たちの約束に何の意味がある!この世には救えねーバカどももいる。お前たちみたいなのだよ!」
ジークはそう言い放った。
兵士は泣き叫び、ジークに襲いかかってきた。
ジークは呪文で、兵士を吹き飛ばし気絶させた。
そして、兵士長もろとも外へつまみ出した。
1日後
兵士は目を覚ました。
傍らには兵士長が横たわっていた。
―そーか…結局兵士長を救えなかったんだ…-
兵士が横たわりながら涙を流していると、兵士長がピクリと動いた。
兵士はすぐさま起き上がり兵士長を見た。
兵士長の負傷は全て治っていた。
「なあ、オータムいつまで戦争が続くんだろうな…」
「さあ…でも、先生が非情になりきれない所…私好きですよ…」
「…何が…あいつらはまた人を数えきれないくらい殺して…いつかはお前たちの大切な人まで殺すかもしれないんだぞ…俺はそんな奴らを…見捨てきれないんだ…」
「…」
魔術医師ジークの苦悩は続く