カルチャーショック(なぜ抱きしめる?)
診療所に一人の男が入ってきた。
その男は受付に行くや否や受付の助手にハグをした。
「な、何するんですか!?いきなり!!」
「私、西の大陸で魔術医師をやっているモズといいます。放浪し医療魔術を学んでいましたが、この診療所の噂を聞きつけ是非ここで医療魔術を学ばせて頂きたいと思いやって来た次第です。」
「そ、そうですか…」
助手は戸惑いながらも、ジークを呼びに行った。
ジークはモズの元にもうダッシュで駆けつけて言った。
「うちの病院は来る者拒まずだから!歓迎するよ!!早速実力を…ちょ、ちょっと…なんで俺をいきなり抱きしめるんだい?」
「ああ、言うのが遅れまして…西の大陸の私の国は挨拶にハグをするのが風習でして。この国ではそう言った習慣はないみたいですね。」
「ふ、ふーんそうなんだ…とりあえず、今ちょうど治療してる最中だから俺の代わりにやってみてくれ。」
ジークはモズを代わりに治療させた。
治療の腕はまさに見事で、どの優秀な弟子より上だった。
かなりの魔術医師であることがわかったのでジークは即採用しようと声を掛けた。
「見事な腕だよ!!是非うちに…ちょっと…患者さんを抱きしめないで。」
「すいません。私の国ではこれが普通でして…」
「そ…そう。あの…採用なんだけどちょっと俺だけじゃ決めかねるから今日みんなと相談するよ。それまでは診療所の部屋に泊まってよ。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
モズは、ジークに熱いハグをした。
主な魔術医師、助手が揃った。
「すでに知っていると思うが、モズという優秀な魔術医師が採用を求めてきた。是非採用したいのだが、その…西の国ではすぐにハグする習慣があるらしくて…」
「…俺もされました。」
「私も。」
「俺も」
ほとんどの人がハグされていた。
「国の習慣だから…なんとか尊重してやりたいんだが、みんなどうかな?」
ジークの答えにみんなが頷きかけたその時、助手のアリーから信じられないような話を聞いた。
「でも…なんか友達になったらハグだけじゃなくキスもするって聞いたんですけど…」
「キ、キス!!」
全ての人がざわついた。
「よ、よし。キスは絶対にやめてもらうってことで!!」
その意見に満場一致で決定した。
モズの元へジークが話に行った。
「君を是非採用したい。」
「本当ですか!ありがとうございます。」
モズはジークに熱いハグをした。
「ただ…友達になったらキスをするって聞いたんだけど…それはちょっとこの診療所では辞めてほしいんだけど…」
「キスですか!?いくらなんでも友達にそんなことはしませんよ。」
「そーなんだ。そーだよね。」
ジークの声が軽くなった。
モズは続けて言った。
「キスをするのは親友と呼べるくらいの人だけですよ。ただの友達にはできませんよ!」
「…そーなんだ…あ、断っとくけどうちは上下関係は厳しいから!たとえば君と俺は先輩と後輩という関係で友達感覚で接しないように!そこだけ注意して!!」
「は、はい。わかりました。」
かくしてモズが採用されることとなった。