血のつながりが嫌悪を大きくしていった。私は、ナイフを握りしめている。
私は、耐えられなかった。とうとう爆発してしまった。
目の前には、私の祖母である前伯爵夫人が血まみれで倒れている。そして私の手には血まみれのナイフがあった。
「あー、とうとうやってしまった。」
我に返った時の思いがそれだった。後悔はないけれど、涙があふれていた。
「おばあ様、私はあなたが大っ嫌いでした。あなたと血がつながっていることが嫌悪感に拍車をかけておりました。」
伯爵夫人は、伯爵家の一人娘だった。周りから蝶よ花よとそだてられたと聞く。夫人の母は、侯爵家の令嬢だ。実家の侯爵家も唯一の孫娘だったらしい。そんな人たちに育てられたのだ、我儘し放題だったようだ。本人はそれが当然と思っているのだから始末が悪かった。
伯爵家存続の為、婿を取った。婿は、おとなしく勉強が好きな人だった。しかし、貴族家でも底辺にいて、裕福ではなかった。婿の兄弟は、跡取りを除き、裕福な家に婿に入っている。頭脳は、兄弟全員すこぶる良かったのだ。孫たちは、「私たちが普通なのは、おじい様のおかげね。」
祖父が、大好きだった。
祖父が、早くに亡くなった。そこからだ。祖母の暴走がより過激になった。椿の木を縁起が悪いからと切らせた。池を造れば、勝手な妄想で潰していた。
私は、三人姉妹の末っ子の為、おばあ様と遊んでもらうことも多かった。その頃は、嫌っていなかったと思う。嫌いになった最初の出来事は覚えている。
あるお茶会にお呼ばれした時のことだ。初めてのお呼ばれにはしゃいでいた。緊張で、お茶をこぼしてしまったのだ。咄嗟に、おばあ様から教わっていた対処をした。
「まあ、なんてことをなさるんです。」
「平民みたいですわ。」
私は、他の令息に見下されてしまった。私は、教わったことをしただけなのに、何がいけないの?
「ドレスで、テーブルを拭くなんて。」
「何て、野蛮なんだ。」
私が7歳の時だった。それから、祖母の教えは、全て間違っていることに気がついた。姉たちには、そんな教えをしていなかった。私だけだ。
私は、祖母を避け続けた。だが、二人だけになると必ずちょっかいを掛けてきた。ちょんちょんとこずかれたり、席を立とうとするとドレスの裾を踏まれていたりした。行為は、大したことは無いが、私にとっては叫びだしたいほどの苦痛だった。
先日、私の婚約が決まった。しかし、早々に解消された。祖母の所為だ。婚約者が一人の時を見計らって、私のことをあることないこと語ったようだ。ドレスでお茶を拭いたこととかだ。いつの話よ、と思う。決定打は、私が祖母をたたいたことだ。耐えかねて手が出てしまったのだ。ハッとして、すぐ逃げ出したしまったが、謝らなかった。そのあと、私は一人で泣いたのだ。ただ、家族は私を批判しなかった。それが救いだった。
「私は、身内をそれもお年寄りをないがしろにする女性とは一生を共にできない。」
事実なので、反論もせず受け入れた。それが悪かったようで、噂が飛び交うようになった。もう、結婚もあきらめるしかない。なら、修道女になろうと決めた。
修道院に出発する日、礼節として祖母に挨拶に行った。そして、どうしても聞きたかったことを聞いた。
「なぜ、私だけだったのです。」
「貴方が、おもしろく素直に私の言うことを信じてくれたからよ。」
笑って、何でもないように答えた。私は、祖母のオモチャだったのだ。
「おばあ様、私はあなたが大っ嫌いでした。あなたと血がつながっていることが嫌悪感に拍車をかけておりました。今、分かりました。血の繋がったおばあ様だからこそ、もっと嫌いになりたかったのに嫌いになれなかった自分が許せません。」
おばあ様は、何も言えず横たわっている。
私は、おばあ様の血の付いたナイフを握りしめている。
読んでいただいて、ありがとうございます。




