第2話 安心という増幅
朝の補給所は以前より騒がしかった。
列に並ぶ冒険者が増えている。
だが納付台の前より、補給棚の前の方が長い。
回復薬の瓶が次々と減り、
修復粉の袋が空になっていく。
「今日は多めにもらっていく」
「どうせ補給は切れない」
そんな声が当たり前になっていた。
ロアンが苦笑する。
「最近よく出るな」
エリスは石板を見る。
消費量は確実に増えている。
一日ごとに、ほんの少しずつ。
遠征に出る一団の話が聞こえてくる。
「補給があるから奥まで行ける」
「多少無茶しても戻れる」
「失敗しても次がある」
以前なら避けていた森の深部へ入る計画が普通になっていた。
灯があることで、危険の重みが軽くなっている。
夕刻、冒険者たちが戻ってくる。
傷だらけの者もいるが、皆どこか満足そうだ。
納付台には核が並ぶ。
だがエリスは違和感を覚える。
以前より数が少ない。
それだけではない。
小さく軽い核ばかりが目立つ。
列そのものも短くなっていた。
かつては途切れなかった台の前が、今はぽつぽつと空く。
エリスは炉の灯を見上げる。
伸びてはいる。
だが昨日ほどではない。
(消費は増えているのに、戻りは弱い)
ロアンが小声で言う。
「最近、納めに来る人数が減ってないか」
エリスはうなずいた。
「一人が落とす核も、小さくなっています」
「皆、必要最低限だけ納めている感じです」
冒険者たちは悪気なく笑っている。
「重い核は運ぶの大変だしな」
「軽い方が楽だ」
「灯は十分だろ?」
誰も奪っていない。
誰も壊していない。
ただ、楽で安全な選択が増えただけだった。
夜、エリスは記録を比べる。
消費線は上向き。
納付線はゆっくり下向き。
まだ交わってはいない。
だが距離は確実に縮まっている。
(満ちているうちは気づかれない)
(減り始めてからでは遅い)
灯柱は今日も光っている。
だがその光は、支えよりも速く使われていた。
静かな崩れ方が、始まっていた。




