あとがき
この物語には、悪者がいません。
灯を減らそうとした人はいませんし、
街を壊そうとした人もいません。
登場人物たちは皆、それぞれの立場で合理的で、誠実で、正しい選択をしています。
危険を避けることも、生活を守ることも、過去の功績に誇りを持つことも、
どれも本来は責められる行為ではありません。
それでも灯は減っていきました。
この物語で描きたかったのは、
「誰かの悪意による崩壊」ではなく、
「正しさの積み重ねによる崩壊」です。
社会の仕組みは、ある条件のもとでは完璧に機能します。
しかし環境が変わり、人口が変わり、選択肢が増えたとき、
かつて人を守った制度は、静かに限界を迎えます。
そのとき問題になるのは、
誰が悪いかではなく、
仕組みが現実に合わなくなっているという事実です。
それでも私たちは、日々の生活の中で合理を選びます。
無理をしない道を選び、危険を避け、得になる方を選ぶ。
それはとても自然なことです。
けれど、その選択が積み重なった先に、
どんな未来が待っているのかを考える機会は多くありません。
灯が下がっていく音は、特別な破滅の音ではありません。
それは、何も変えずに今日を繰り返す音です。
もしこの街の一人だったなら、
あなたはどんな選択をするでしょうか。
合理を選ぶでしょうか。
誠実を守るでしょうか。
自由を優先するでしょうか。
それとも、制度そのものを変えようとするでしょうか。
正解はありません。
ただ一つ確かなのは、
選ばないこともまた、未来を決める選択だということです。
この物語が、
誰かを責めるためのものではなく、
社会の仕組みと自分自身の選択を見つめ直すきっかけになれば幸いです。




