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終幕の始まり

「死体は好きに使え。晒すも良し、弄ぶも良し。何に使うこと無く打ち捨てるというのであれば、それもまた良し」


 かつて【英雄】と呼ばれたその男は、鉄格子の向こう側から己の副官と呼ばれていた男にそう語った。ぎちりと、副官の革手袋が悲鳴のような軋む音を上げた。


「俺は俺のためにこの国を使い、あらゆる罪を犯した。死体だけでそれに報いられるのであれば如何様にも。俺は何を恨むこともない」

「……総帥」

「俺は既にその任を降りた。そう呼ばれるべきはお前だろう」

「…………何故、あなたが。あなたでなければならないというのですか」

「さて。お上にとっては理由なぞ無かろうよ。責任を背負わせられる都合の良い者が、たまたま俺だっただけのこと」

「あなたに咎はないはずです。そも、我々は戦争をしていたのですよ! 戦時下において、敵国を屠ることに何の罪がありましょう!」

「物事には限度があり、それを超えたならば相応の責を取らねばならない。……分かるでしょ、ファイさん」

「……この、分からずやのガキが」 

「……最後までガキ扱いか。でも、俺はその扱われ方、嫌じゃなかったよ」

「……今ならまだ間に合う。お前が望むなら――」


 【英雄】は静かに首を横に振った。そして聞き分けのない子どもを嗜めるような穏やかな表情を浮かべ、口を開いた。


「ダメだよファイさん」

「だが」

「俺たちは……マグナ=ロンドはやりすぎたんだ。勝者は確かに俺たちだ。だけど……いや、だからこそ。一線を踏み超えたのだから、誰かがその咎を背負わなきゃならない」


 煙草の煙を吐き出すように、細く鋭い息を吐いて、続けた。


「戦乱のない世に、戦争の英雄は必要ない。平穏な世界を維持するのなら、むしろ邪魔になる。……あなたはそれを理解しているはずだ」

「アレス……」

「そのための処刑だ。俺はそれを是とする。そうあるべきだと肯定する。……だから、この話はここで終わりだ。アレス・ヴェルグリンドは、好き放題暴れて処刑された。それだけの話」


 【英雄】アレス・ヴェルグリンド。またの呼び名を、【殺戮者】アレス。齢にして二七歳。そして享年も同じ歳となる見込みの男。

 ――これは三年間の戦争の果てに、本日、公開処刑の日を迎えた彼の物語である。

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