村の為に、そして別れに備えて
ゼロは目を覚まして一時間、村を見て回った
ゼロ 「村の中に防衛機能は無し、あるのは村の周辺の木の壁のみ…か」
ゼロ 「これだけじゃあまりのも脆弱すぎる、ロケットラビット一匹でも…」
ゼロ 「もしも錬金が俺にも使えるのならと思ったが、錬金かぁ」
この村の生産品は錬金の質によって最終的な品質が変わるようだ。
鉄ならば強度、火への耐性、調理器具や武器防具に最適
銀ならば強度に加え光沢、食器や床板などに最適
金ならば光沢と柔軟性、装飾品などに最適
ゼロ 「しかし鉱石の数が多くて覚えきれん…」
ゼロ 「鉄と銀については使うだろうけど、金に関して言えばなぁ」
ゼロは超越のスキルによって装飾品の効果を受けられない為
どれだけ素材を消費して最強装備を作ってもただのおしゃれになる。
ゼロ 「てそうじゃない、そもそも錬金って誰でも使えるのか?」
その時システムが反応し錬金についての説明が現れる
~錬金について~
太古の昔錬金術師が残したとされる、錬金術の簡易化魔法
魔力の通りやすい状態の原石に魔力を流し込み、思うままに加工する魔法
しかし簡易化されたものである為錬金術と異なり制限が多い
ゼロ 「あ、これって特殊技能とかじゃなく魔法の類だったんだ」
ゼロ 「うん無理、よしザガンさんに相談してみよう」
そうして向かったのはザガンの工房
ザガン「村の防衛機能の強化?」
ゼロ 「そう、その為に錬金覚えようとしたんだけどさ」
ザガン「ありゃ簡単に覚えられるもんじゃねぇぞ?簡易化されてはいるらしいが」
ゼロ 「そう、だから建築に特化した錬金使える人いたりしないかなって」
ザガン「いや、錬金を使える奴なら誰でも建築に使えたりは出来るんだよ」
ザガン「ただ防衛設備って言われても、どうすればいいのか」
ゼロ 「王国の城壁みたいな感じで石、もしくは鉄で囲めない?」
ザガン「いや石じゃロケットラビットにすぐ壊されちまう」
ザガン「かといって鉄は使用量が飛んでもねぇ事になっちまうんだ」
ゼロ 「あぁ成程、鉄もそんなに量採れてないんだっけ」
ザガン「もっと奥に行きゃ採れるんだが…」
ゼロ 「行けない理由があるのか?」
ザガンは少し考える様子を見せた後に口を開く
ザガン「採掘場の奥はまだ制圧出来てねぇんだ、どんな魔物がいるか分からん」
ゼロ 「戦える人もいないから奥を偵察する事も難しいって事か」
ザガン「あぁ、だから次の遠征時期に国に頼んでみるつもりだ」
ゼロ 「それ俺が行こうか?」
ザガン「ば、バカ言っちゃいけねぇよ」
ザガン「奥に何がいるか分かってねぇって言ったろ?」
ザガン「悪い事は言わねぇ、やめておきな」
その会話の後、ゼロは採掘場の前に来ていた
ゼロ 「来ちゃった♪てそんなバカな事言ってる場合じゃない」
ゼロ 「金稼いで無いから武器も買えてないんだよなぁ…まずいかぁ?」
ゼロ 「………まぁいっか行ってみよう」
採掘場の中は入り口付近は掘られた痕跡はあるが
奥に向かうにつれその痕跡も少なくなってくる
ゼロ 「ここから先はまるで掘られてない、この先が未探索区域か」
ゼロ 「しかしこの奥に魔物がいるとして、入り口で襲われない事あるか?」
その時、洞窟の奥から何かが歩いてくる音がする
ゼロ 「ん?何かいる…」
赤い体、血塗られた棍棒、赤い色の布とバンダナに身を包んだ魔物が現れる
~モンスター情報更新~
ブラッディゴブリン:ゴブリンの上位種
【説明】
群れの中で生き残ったゴブリンが知恵をつけ生き延びて来たゴブリンの上位種
凶暴性、素早さ、攻撃力、防御力、どれをとっても危険度が高い魔物
ゼロ 「待って?ゴブリンより先に上位種に当たるの?」
ゼロ 「あいや、ロケットラビットいたんだからレベルは高い地域なのか」
~モンスターステータス更新~
ブラッディゴブリン:level85
ゼロ 「レベル85ー?!」
ゼロ 「成程、そう簡単には通してくれなさそうだな」
お互い睨み合い膠着状態に入ったが、それを打ち破ったのはブラッディゴブリンだった
ブラッディ「ギシャアアアアアア!」
その雄叫びと共に一直線に飛び出し、棍棒を振り下ろす
ゼロは後ろに飛び退き棍棒を回避する
棍棒が当たった地面は崩壊し、土ぼこりを立てる
ゼロ 「うお、なんつー威力」
ブラッディ「ガアァァアアアアアアアア!」
ブラッディゴブリンの動きは熟練の剣士の様な動きをしていた
棍棒を剣の様に軽々と振り回し、隙の無い連撃を繰り出してくる
ゼロ (速い、ロケットラビットの比じゃないぞこれ)
更には狭い坑道の中での戦いに慣れておらず動きづらい
採掘跡の無い坑道だからか道が狭く、敵の横を通り抜けるのも難しい
思案しているとブラッディゴブリンは構えを取り始める
それは居合の構えだった
ブラッディ「ガァ!」
その声と共に今までの速度よりも速く接近し棍棒を振る
いきなりの事に対応できず、棍棒を腹に受け飛ばされる
ゼロ 「ガッハ!」
血を吐きながらも飛ばされ転がるゼロ
ゼロ 「ゲホ!ゲホ!はぁ…はぁ…」
ゼロ 「悠長に考えてる暇はないな…」
ゼロ (だがおかしい、ロケットラビットと戦った時の様な高揚が無い)
ブラッディゴブリンに意識を集中し攻撃をいなし、躱す事に全力を注ぐ
ゼロ (あの時との違いはなんだ、今の戦いとラビットとの戦いの違いは)
ゼロ (敵の数か?初めての戦闘だったから?それともこれがリアルの戦闘だから?)
ゼロ (ゲームの様に楽しめる訳ないって事なのか?)
上から振り下ろされる攻撃を横に躱し、そのまま横に振り払われる攻撃を
背中を地面に投げ出す形で回避し体を持ち上げゴブリンの腹に蹴りを入れる
ゼロ 「このままだとジリ貧だぞ…」
その時、採掘場の入り口の方から声が聞こえる
リア 「ゼロさーん!いらっしゃいますかぁ?!」
その声を聞いたゴブリンがターゲットを変え走り出す
ゼロ 「リアさん逃げろ!」
リア 「え?!きゃああ!」
その時、自分の心臓が大きく跳ねるのを感じる
まるで、燃え滾る闘志を知らせるかのように…
ゼロ (そうか…そういう事か…)
ドカァンと大きな音を立て土煙が上がる
その土煙が消えた時、リアの前にはゼロが立ち攻撃を防いでいた
~超越スキル発動条件更新~
スキル所有者が戦いを心の底から楽しんだ時に発動
誰かを守る為に戦う時、退けぬ戦いに身を投じた時
全てを超越するこのスキルが発動する。
ゼロ 「おらぁ!」
ゴブリンを殴り飛ばしリアの方へ歩く
リア 「ゼ…ゼロさん…」
ゼロ 「ごめんリアさん、少しここで待っててくれ」
リア 「あ、は…はい」
ブラッディゴブリンに向き合い笑みをこぼす
ゼロ 「Willing to Die!(死をも厭わず)楽しもうか!」
ブラッディ「ガアアアアアアア!」
下から振り上げられる棍棒を飛び跳ねゴブリンの後ろに回り躱す
足払いをかけて転んだ相手の腹に蹴りを叩き込むがゴブリンも躱す
ゴブリンが突進し棍棒を振り下ろし、横薙ぎ、体を回転させ再度横薙ぎ
最後に棍棒を上に構えての振り下ろしの四連撃を仕掛ける
だがゼロは三度目の横薙ぎのタイミングで棍棒の上に飛びあがり
ブラッディゴブリンの顔を蹴り飛ばす
ブラッディ「グゲ…グシャアアアアアア!」
ゼロ 「終わりだ…ブラッディゴブリン」
ブラッディゴブリンの袈裟斬りを躱し、ナイフを首に突き立てる
ブラッディ「グ…ギ…」
ナイフが折れ、折れた先が首に刺さった状態でゴブリンは倒れる
ゼロ 「ナイフ…返さず持ってて良かったな…」
リア 「ゼロさん!」
リアが走ってくる
リア 「ゼロさん!大丈夫ですか?!」
ゼロ 「大丈夫ですよ、これくらい」
リア 「なんで…こんな危ない事するんですか…」
リアの目には涙が浮かんでいる
リア 「危ないからやめろってザガンさん言ったって言ってました!王国の兵士に
頼むから大丈夫だって話だったじゃないですか!なのに…なんで…」
ゼロ 「それは…俺が戦えるからだよ、戦えるから解決する」
リア 「それで、貴方が死んだら…私は辛い…」
リアの言葉を聞いた瞬間、ゼロは驚いた表情をする。
そんな考えは無かった、至って平凡な大学ライフを送っていた。
生死を分ける戦いなんてしてこなかった、する事なんて無かった。
なのに、自分の中に自分の命を大事にする、その考えが無かったのだ。
自分がなんとかすればいい、その考えだけしかなかった。
普通の人間ならば足がすくむだろう場面で無感情
恐怖する場面で笑みを浮かべ、逃げ出す場面で前に行く
ある意味、まともではない。
リア 「帰りましょう…?ね?」
ゼロ 「そうですね、帰りましょう」
採掘場の外に出ると、もう日が暮れ始めており
空は夕焼け色になっていた
ゼロ 「あれ…夕方?」
リア 「ゼロさんが村の外に出た時間から、もう五時間経ってるんですよ?」
ゼロ 「え?」
ゼロ (俺そんなにあいつと戦ってたのか…)
リア 「まさか…五時間ずっと戦ってたとか言わないですよね…」
リアの目が怒りに満ち、ジト目でゼロに顔を近づける
ゼロ 「あぁいや……すみません」
リア 「ゼェェェェェロォォォォォさぁぁぁぁぁぁぁぁん?!」
ゼロ 「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その日村に帰った後、ザガン、スワレ、ララ、村長含む村人全員に説教を受けた
更にその日の夜、リアはゼロを離してくれなかった
~翌日~
ザガン「おう!昨日は眠…れてねぇなその顔」
ゼロ 「リアさんが離してくれなくて、リアさんが眠るまで起きてた」
スワレ「自業自得…貴方…無茶し過ぎ」
ゼロ 「必要だと思ったんだよ、結果怒られたけど」
ザガン・スワレ「当たり前」
ララ 「疲労困憊で帰ってきた時は心臓止まりかけたっての」
そう言ってララはゼロの頭を軽く引っ叩く
ゼロ 「いて」
スワレ「でも…どうして貴方、そんなに急いだの?」
ザガン「それもそうだ、なんでわざわざ一人で行った?」
ゼロ 「…王国に頼むと解決するか分からんし、俺は近い内にここを旅立つし
防衛設備を強化して安全に暮らせるようにしようと思ってさ」
三人 「………」
三人 「はぁ?!」
ララ 「わ、わざわざその為に一人で危険な事を?!」
スワレ「嬉しいけど…無茶はダメよ」
ザガン「おめぇって奴はよぉ…」
ララ 「この子、ホントに一人で旅立たせて平気かしら」
ゼロ 「???」
ザガン「だがまぁおめぇさんのお陰で鉄は大量に採れそうだ
だから四日もありゃ壁と門を鉄に変えられそうだぜ?」
ゼロ 「そっか、なら良かったよ」
その日ゼロは五日後、旅立つ事を決める
その話をリアにすると、「じゃあ四日は離しません」と言われた
なにがじゃあなのか分からない。