復讐のゾラ
現れたのは、黒いフードを被り、顔の一部が甲殻で覆われた不気味な存在だった。
異様に長い腕と、焼け爛れたような皮膚を持つその者は、鋭い眼光で倒れたザイドとミラを抱くディランを交互に見た。
「……ザイドが……死んだ?」
新人の魔人——“燼灰のゾラ”は、信じられないというように目を見開いた。
「……娘まで……人間に奪われた、だと……?」
ゾラの全身から、黒い煙のような瘴気が立ちのぼる。
「貴様……ザイドと共にこの地を任されていた人間ではないな。なぜ奴がここで死に、その娘をお前が抱いている?」
ディランは剣を再び抜き、警戒を強めた。
「なんだ、今度は魔人のおかわりか? ……ザイドを仲間扱いするとは、笑わせるな。」
「黙れ。貴様にザイドの何がわかる……!」
ゾラが咆哮を上げた。
その声と同時に洞窟の天井が震え、石片がぱらぱらと落ちてくる。
「ミラを……返してもらうぞ……」
「させるかよ。お前も、そのザイドとかいうやつも、ミラに何をした?」
「貴様……ザイドが誰だったかも知らずに……!」
怒りのままにゾラは突進し、黒煙をまとった拳を振り上げた。
「っ、こいつ……!」
ディランはミラを抱えたまま横へ跳び、衝撃波をかわす。
洞窟の壁にぶつかったゾラの拳が、石を砕いて粉塵を巻き上げる。
洞窟の天井が震え、燼灰のゾラが怒りに満ちた瞳でディランを睨みつける。
「貴様……ザイドの死が、なんだかわかっているのか……!」
ゾラの拳が炎を纏い、闇の中で赤黒く光った。
「灰になれ……!」
ドォン!!
炎の拳が地面を砕き、ディランのいた場所を吹き飛ばす。衝撃波により洞窟内の壁が崩れ、粉塵が舞い上がる。
ディランはミラを抱えたまま後方に跳躍し、無傷で着地する。
「ちっ……こいつ、さっきの魔人より格段に手強い……!」
ミラをそっと地面に下ろすと、ディランは剣を抜き直した。
「おい、そこにいろ。絶対に近づくなよ」
ミラは震える手でグリを抱きしめる。
「こわい……鳥さん、どうしよう……」
主人公は画面越しに叫ぶ。
「大丈夫だ、ミラ……信じろ。今は動くな……!」
「……うん……」
ディランとゾラの間に火花が走る。
ゾラは黒煙の中から現れ、再び突進。ディランの剣が振り下ろされ、ゾラの拳と激突する。
ズガァンッ!!
激しい爆発のような衝撃。
吹き飛ばされる岩。空間が揺れる。
「貴様のような粗暴な剣士に、ミラを任せていたザイドの気が知れん!!」
「任されてなんかねぇよ。俺が勝手に連れて帰るだけだ……!」
……にしても、こいつ……さっきから“ザイド”って、何を言ってる? まさか、あの魔人が……そんなわけないよな……?
二人の叫びが交錯し、闇と炎の渦の中で、戦いはさらに激しさを増していった。
二人の戦いは熾烈を極めた。
剣と拳、炎と疾風が洞窟の空間を引き裂くように交錯し、その衝撃は岩を砕き、地を裂いた。
しかし、次第に力の差が明らかになっていく。
燼灰のゾラの体からは、黒煙と共に溢れ出す魔力が加速していた。
対するディランの息は荒く、剣の動きにも鈍さが見え始めていた。
「はっ……どうした、六騎士の名が泣いているぞ……!」
「クソッ……っ、まだ……!」
だが——次の一撃が、勝敗を決した。
ゾラの拳が、炎を纏ってディランの胸元に直撃。
「——がっ……!」
ディランの身体が宙に浮き、岩壁に叩きつけられ、そのまま地面に崩れ落ちた。
剣が離れ、血が広がる。
「……お、おい……嘘だろ……?」
主人公がモニターの前で言葉を失った。
ディランは、目を見開いたまま動かない。
その眼差しには、最後まで理解できなかった問いが宿っていた。
——なぜ、“ザイド”の名をあの魔人が口にしていたのか。
その答えを知ることは、ついに叶わなかった。
ゾラはゆっくりと息を吐き、視線をミラに向ける。
ミラは震えたまま、グリを抱いて後ずさる。
「ミラ……おまえは、俺が守る。……ザイドの……最後の願いだからな。」
その声に嘘はなかった。
ゾラはミラに手を差し出す。
「さあ、行こう。ここはもう……危険すぎる。」
ミラはしばらくその手を見つめていたが、やがて、おずおずとゾラの手に触れた。
「……とりさんも、いっしょ……」
「……ああ、神獣様も、もちろん一緒だ。」
洞窟の外へと歩みを進めるゾラは、ミラを片腕に抱え、もう片方の手でグリを支えていた。
だが、空気が変わった。