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気まま

作者: 八百坂藍

 この木造の家の庭には勝手に客がやってくる。

そいつは塀に飛び乗ったり、家の前から歩いてきたり、たまに屋根から降りてきたりもする。器用なもんだ。不器用な俺としちゃ、羨ましくてしょうがねぇ。

こちらの視線に気づくと目を合わせてそいつはぴたりと動かなくなる。正直何考えてやがるのかはわからねぇし、特に伝えたいこともない。

多分俺もあいつもこの縁側でのんびりするのが好きで、そして無口なだけだ。だから目を合わせるってのは儀式みたいなもんだ。

通過儀礼は会えたと言わんばかりに、そいつの硬直はとけ、移動をはじめる。決まった位置はねぇ、いつもそいつは日向の位置まで動いて、寝転び出す。

1人の時間が好きだが、割と愛くるしいそいつはいても邪魔じゃねぇ。

こういう昼下がりも悪くねぇ。そう思いながら時が止まったように、会話もなく、動きもなく、そのまま眠りに落ちるのが週末の過ごし方だった。

ま、何事にも例外はある。冬はこの縁側を白く染めて俺を縁側から追い出した。歳なもんだね、若いときゃ庭まで雪をかいて、かまくらでも作ったもんだが、今は玄関口の通路を作るだけで充分に思えちまう。キリのいいところぐらいで、予想外にそいつは家に来やがった。いつもよく綺麗にしてるもんだと思っていたが、外は雪景色、車みたいに上に雪を積もらせてびちゃびちゃだ。

目を合わせたが、汚れてることを気にして意外と弁えてるのか、ちょっとそいつは困ったような顔をしていた。

ふむ。

何事にも例外はある。

俺はそいつを抱き抱えて雪をまず落とす。気心がしれた仲だとこいつも思ってるんだろうか、抵抗することはなく、されるがままだ。

玄関を開けて妻を呼ぶ。

「母さん、悪いがタオルを用意してくれ。」

「あら」

持ってきてくれた妻はあら、と言いはしたが何も言わずニコニコした笑みをこぼして廊下の奥に消えていった。きっと無口な俺達が面白かったのだろう。

慣れねえことのはずだが図太いのかなんなのか、タオルで拭いてもなおされるがままだし、こいつは声も出さねえ。俺が知らないだけでもしかしてこいつ、他の何かなのか?と改めてまじまじと見たが、何も気にしてなさそうな顔をしていた。図太いだけだろう。

初めてもてなした客を居間にいれてやると、いつものように自分の気にいる場所を探し始めた。日向があるわけではない、難航するそいつを見つつ俺はこたつに足を入れる。しばらくしてそいつは俺に目を合わせにかかってきた。

相変わらず何故合わせにくるのかはわからんが数秒の沈黙のあと、俺の腕の中にそいつは入り、腰を落ち着けた。

寒い日だ。温もりを求めたって悪くはないだろう。

またすぐそこの縁側の時間を夢見るように、俺たちは船を漕いだ。


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