9 城に軟禁の日々?
食事を終えたわたしらは使用人棟の各自の部屋へと戻らされた。
建物のそばには、厳めしい顔をした兵士たちがいた。
ハン やっぱり娘っ子のことを疑っているようだね。
これから裏取りをするんだろうけど、大丈夫。
細工は済んでいるのだから。
奴らが納得するまで、もうしばらくは王宮で暮らさなきゃならないだろう。
さて、それじゃあ親子として正しいことをするとしようかね。
「ラリマ、荷物を取ってきて母さんと一緒の部屋に行こうか」
娘っ子は驚いたように私の顔を見てきた。
それから嬉しそうに笑うと「うん」と大きく頷いた。
わたしらの御目付け役の兵士が訝しそうに見てくる。
「なんだい。わたしと娘が同じ部屋じゃないのがおかしいのかい。あんのクソ王がわたしの娘と認めてくれなくて、部屋を離されたのさ。クソ王が捕らえられたんなら、娘と一緒にいたっていいんだろ」
わたしゃ忌々しいとばかりに吐き捨てるように言った。
「は、はい」
兵士は気圧されたように返事をしてから、憐憫の目をわたしらへと向けてきた。
「さあ、この部屋が母さんの部屋だよ」
そう言いながら部屋へと入っていった。
扉が閉まり兵士の目が無くなると、娘っ子は力が抜けたのか床にへたり込んだ。
わたしは娘っ子を抱き上げると、ベッドへと座らせた。
部屋に置いていた水差しを持って……ああ、そうだった。
水なんか入っちゃいないね。
水差しを抱えて部屋から出ると、案の定わたしらの部屋……じゃなくて、娘っ子を見張っている兵士にわたしは話しかけた。
「水を汲みに行ってくるけど、私の可愛い娘になんかしようとすんじゃないよ」
「そんなことしません」
若い兵士だったので、しっかり釘をさしておく。
心外だという顔をされたけど、一応あんたらはこの国を制圧しに来てんだよ。
普通の戦争の場合、敗戦国の国民は悲惨な目に合わされると、決まっているだろ。
まあ、今回の戦争は戦争になっていないけど。
なるはやで水を汲むと部屋へと戻った。
わたしの顔をみて、娘っ子はホッとした顔をした。
やはり少しの時間とはいえ、一人にするんじゃなかったよ。
木のコップに水を入れて、娘っ子に持たせる。
「よく頑張りましたね。これを飲んで気をお静めください」
「ありがとうございます」
娘っ子はコップを傾けると、一息に飲み干した。
水差しを持ち上げてもう少しいるかと聞けば、娘っ子は首を横に振った。
サイドテーブルに水差しとコップを置くと、娘っ子と並んで座る。
娘っ子の肩に腕を触れさせたら、小声で話してきた。
『先ほどはありがとうございました』
『いいえ、わたしは何もしておりませんよ』
『そんなことはないです。皆さんはわたしを庇ってくれたじゃないですか』
『何のことです? あなたは洗濯女であるわたしの娘、ラリマですよ』
そう言って安心させるように、にっこりと笑った。
やはりこの子は分かっていたようだね。
もっと違う立場なら……と、夢想しそうになって、わたしは頭を振った。
それは言わない約束さ。
資質があろうとあんな奴らの尻拭いを、見捨てられたこの子に押しつけるのは、間違っていることだ。
案の定わたしらは王宮の使用人棟に軟禁された。
あまり集まることを良しとされないようで、食事の時間に全員が揃うことはなかった。
一つのテーブルに二人くらいが離れて座るように指示された。
けど、さすがにわたしと娘っ子は別々にはされなかったさ。
ここで別々にされたら連合軍は、この国の愚かな王たちと一緒ってことになるからね。
だけど奴らは、さりげなくわたしと娘っ子の様子を観察していた。
……本当はわたしらにもわかっていたことさ。
娘っ子とわたしが親子というのは、無理があるということに。
娘っ子は本当の母親に似て可愛らしい。
年々可愛さに磨きがかかっていると思う。
それに比べてわたしは平凡だ。
娘っ子と似ているのは髪の色と目の色くらいだろう。
だから母親役に選ばれたのだけど。
まあそれも、王宮を出られる日に解決する問題ではあるけどさ。
連絡手段が無いように見えるけど、影の一族には影の一族なりの情報の伝え方があるのさ。
王宮に軟禁されているとはいえ、連絡手段が全くないわけじゃない。
それに連合軍なんていうのは、結局はいろいろな国からの寄せ集めだろう。
そういうのを上手く使えば潜り込むことも簡単だぁーね。
長からもたらされた情報だと、末の王女の遺体が見つかったそうだ。
後宮の片隅に埋められていて、王家特有の金髪が残っていたそうで。
えっ?
王女は生きているんだから、遺体があるはずはないだろうって。
そりゃそうさ、あの遺体は別人のものさ。
ああ、誰かを身代わりにしたんじゃなくて、貧民街で亡くなった五歳くらいの女の子の遺体を運びこんで埋めたんだよ。
それなら、王家特有の髪ってのは何かって?
おいおい、あんたは忘れたんじゃないよね。
魔女に色を奪われたことを。
そうさ、奪ったのなら与えることも出来るってもんだろう。
それにねえ、長からの情報に面白いものがあったんだよ。
どうやら王家特有の金髪と瞳に、なにやら特別なもんがあったんだってさ。
これは連合軍についてきた魔法使い……じゃなくて、やはりこちらの協力者の魔法使いさ。
彼はもともとこの王家に興味を持っていてね。
それを合法的に調べられる立場を手に入れたくて、長に協力して連合軍に入った……あー、これも違ったね。
連合軍には入ってない、うん。
協力者として一緒に来たんだった。
ああ、いけない。どうも先に他のことを話したくなっちまう。
その前に見つかった遺体のことだった。
とにかくそういうことで、遺体に奪った色を纏わせておいたら、髪に残った魔力が王家特有だったとかで、末の王女は亡くなっていると判定されたってさ。