6 影の一族 本領発揮
さて、ここからが長の凄いところさね。
可愛い義娘……いや、娘を王宮に残すことになったことで、堪忍袋の緒が切れたのさ。
かねてから温めていた作戦を実行に移すことにしたんだよ。
まずは各国に噂を流したんだ。
この国の王族は民のことを考えないで贅沢三昧していると。
で、そのことをこの国の王族へと報告をした。
王族は慌てて城下に流していた噂を、各国に流すようにと言ってきたよ。
それがあれさ。
『その王国にはとても大切にされている王女様がいる』
ってやつさ。
あいつらは娘っ子を部屋から追い出したあと、何故か末の王女の名前を使って贅沢をしだしたからね。
きっと何か事が起こったら末の王女のせいにしようと考えたんだろう。
それと共に毎年税金をあげていっていたのさ。
心ある領主は領民にだけ辛い思いをさせられないと、自分たちも切り詰めているところがほとんどだった。
このままではその領地自体が駄目になるというところで、長の命を受けた影の者たちが次代の領主に接触していった。
王家により何が行われているのかを、伝えたそうだ。
次代の者たちは王家のやり様に怒ったが、現領主は魔法契約により名を縛られてどうしようもないのだとも悟ったそうで……。
だから……長からの提案に乗ることにしたそうだ。
領民の中でも弱い者たちを選んで、国外に脱出させることを。
隣国までの領民の護衛は影の一族が受け持った。
一人の領主が話しに乗ってくれたら、その後は早かった。
他の領主……おっと、次代の領主へと手紙を書いてくれて、事情を知ったその地の次代の領主も、同じように国外に領民を逃がしていった。
それがどんどん増えて行って、近隣諸国は対応に追われることとなった。
それと共にこの国の様子を探って、現状を知ることになったんだよ。
もちろんそれとなくわたしら影の者が情報を渡すようにしていったのさ。
ただ腹立たしいことに、『末の姫云々』の噂をそのまま放置していたのには、納得できなかったけどね。
そうしてこちらの予想より早い二年後、各国は連合してこの国に攻め入ってきた。
連合軍は驚いたことだろうね。
どこの領主やその家族も、領民と変わらないくらいに痩せ細っていたからさ。
もちろん抵抗もしないしね。
後で聞いた話だと、あまりな様子にそれぞれの国に救援の要請をだし、各領地を支援していったそうだよ。
ちなみにここで司令官を任されたある国の王弟は、最低限の人員を支援に回し(後から来る後続に任せるまでのつなぎとして)速度をあげて王都へと向かったそうだ。
四方八方から王都へと向かう連合軍。
だけど抵抗にはあわなかったが、支援をするために人員を割いて……などということをしていれば、行軍も遅くなるわけで……。
それを各領主(実は次代だったけど)は支援より、王族をどうにかしてほしいと王都に向かうようにと要請して……。
結局王弟は後続に指示を出すだけにとどめて、連合軍に先を急がせることにした。
後続は救援物資を乗せた荷馬車を引いてきて、辿り着いたところで炊き出しをおこなおうとしたが、先の領地もあるからと、数日分の食料を受け取った領主たちは自分たちで炊き出しをおこなった。
王都に着いた連合軍。
もちろん門は閉まっていた。
連合軍の名乗りに、門兵は動揺したようだが、開門しようとはしなかった。
連合軍は破壊鎚など持ってきていなかったので、どうやって門を開けさせようかと話し合っていると、何やら門の辺りが騒がしくなり、それからしばらくして門が開かれた。
そこに居たのは領民ほどではないが、それでも痩せている王都民だった。
「わしらは抵抗いたしません。どうぞ王城までお通りください」
と、従順の意を示したそうだ。
連合軍は拍子抜けしながらも、王城まで一気に駆け抜けた。
が、またしても拍子抜けすることになった。
城門は閉ざされることなく、大きく開け放たれていたのだから。
迎えたのは騎士団長と宰相。
どちらも疲れ切った顔をしていた。
二人は恭順の意を示し抵抗をしないことを約束して、城内を案内したそうだよ。
彼らは文官と兵士に指示を出していたようで、文官と兵士で組になり連合軍の兵士たちをつれて、官吏や兵士、使用人たちをそれぞれまとめると、部屋を割り当ててそこにいさせるようにしたのさ。
さて、そういうわけでわたしら下人も、下人用の食堂に集められていた。
ここに居るのは実は影の一族でも先鋭だ。
庭師のギムは薬使いだ。年寄りだからと侮って近寄れば、バラの棘に模した針で相手を動けなくすることは簡単さ。
料理人の下っ端のオーロはナイフの名手。気がついた時は首を掻っ切られていた、なんてことになるだろう。
掃除女のラーナは鞭使い。不穏な輩は鞭に絡めとられて拘束されちまうだろうさ。
わたしかい。
わたしはふつうに暗器使いさ。
もちろん洗濯女であるからそういうものを使って戦うこともあるけどね。
知ってるかい。
濡れた布は意外と使えるんだよ。
おっといけない、わたしらのことはいいのさ。
それよりも長だよ。
ここまでを綿密に計画して、やつらを誘導したんだよ。
ふっ 連合のやつらもまさか思いもしないだろうね。
自分たちの行動は、長によって誘導されたものだったなんてさ。