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4 転機 下女として働くあの子

 娘が成長するにつれあの子も何やら考え込むようになったそうでね。

 ある日、そばについている者から長に連絡が来たのさ。

 曰く「私、働きに出ようと思います」とね。


 長は驚いて、後宮のあの子の部屋へと行った。

 そこで何を話し合ったのか知らないが、その翌日から長の方針が変わった。


 それは『あの親子を王宮から脱出させる』ことにしたんだよ。


 そのためにまずは「あの子を下女として働かせることにした」と言ってきた。

 つまりわたしの管轄にくるってことさ。

 長からは普通に下女として扱うようにと言われたよ。


 あの子は働き者だった。

 聞けば家は貧乏男爵家だったから、王宮に働きに来たんだってさ。

 囲われてから家へとお金を送ることができなかったことを気にしていたから、一族の者が密かに男爵家と連絡を取った。

 あの子の両親は娘が無事だったことをたいそう喜んだようで、伝えに行った者のことを歓待しようとしたそうだ。


 そうそう、男爵家が貧乏なのはあの子の兄が病弱だったので、その薬代に金がかかったそうだよ。

 看病の甲斐なく幼いうちに亡くなったと聞いたけどね。


 さて、男爵夫妻と連絡(手紙のやり取りだけど)がとれるようになって、あの子の顔は明るくなった。

 いつか王宮を出て両親に娘を合わせるのだ、という目標ができたからさ。

 男爵夫妻も孫に会うことを願って過ごすようになったそうだよ。


 それで、あの子が下女になることにしたのは、よっぽどのことがなければ貴族と出会うことがない場所だったからだと聞いた。

 つまり王と顔を合わす心配のない場所ということさ。


 長は密かに下人を入れ替えて影の者たちであの子の周りを固めるようにした。

 勿論あの子の身を守るためさ。



 そうしてあの子が働きだして二年がたったころ、ある事件が起きた。

 王が何を思ったのか、あの子の部屋に先ぶれなしに現れたのさ。

 知らせを受けたあの子は顔色を青ざめさせて、すぐに部屋に戻ろうとしたよ。

 だってそうだろう。

 部屋には愛しい娘がいるんだからさ。

 わたしらはあの子を押しとどめた。

 娘についている影の者が機転を利かすだろうと思っていたからさ。


 しばらくして王が戻ったと知らせが来た。

 あの子は急いで部屋へと戻り、娘の無事な姿を見て涙した。


 娘を守っていた者たちは「男爵令嬢は産後の肥立ちが悪く亡くなった」と言ったそうで、愚かな王はその言葉を信じたという……。


 伝え聞いたわたしらは大いに笑わせてもらったさ。

 それに憤りもしたのさ。


 母を亡くした娘に一瞥をくれただけで、声もかけずに出て行ってしまったというんだよ。

 やっぱりあの王はクズ中のクズってことだね。



 さて、これであの子は王宮にいる理由がなくなった。

 ここからどうやって王宮から出るのかを思案しだしたときに、またしても衝撃的な事件が起こった。


 なんと王妃があの部屋に現れたというのさ。

 王妃は娘の顔を見ると顔色を悪くしてすぐに出て行ったという。

 そのあと、王妃付きの陰の者から王妃の独り言が届けられた。

 なんでも娘が一番王家の色を濃く受け継いでいることを、危惧したようなのだ。


 この王家の特徴は金色の髪にエメラルドのような輝く宝石のような瞳だ。

 王女たちの中で一番色濃く受け継いでいる、らしい。

 わたしは王どころか王女たちでさえ見たことがないからさ、そう聞いたって、ふ~んとしか思わなかったんだけど。


 そして数日後、王妃がまた娘のところに現れた。

 魔女を伴って。

 王妃は魔女に命じて娘から色を奪ってしまった。

 色を奪われた娘は、可愛らしい顔立ちだけど亜麻色の髪に榛色の瞳の、どこにでもいる子供に見えたのさ。

 それと共に娘は部屋を追い出されてしまったんだよ。


 あの子は連絡を受けてすぐに娘を迎えに行った。

 それから、下女たち使用人が暮らすところに連れてきたのさ。


 そうしたら、そこに魔女が現れた。

 魔女はあの子の色もを娘と同じ色に変えて使用人棟から出て行ったよ。


 それから、五歳と幼いながらも娘も下女として働きだした。

 あんな小さい子が小さな手で布巾を洗う姿は可愛らしくてね。

 守ってあげたいと思うだろ。


 ん? 

 なんだい、その顔は。


 へっ? 

 ああ、魔女があの子の色を変えた話かい。


 んん? 

 魔女は王妃寄りの者だろうって?


 馬鹿お言いでないよ。

 あの魔女はわたしらと協力関係にあるのさ。

 魔女って言っているけど、もともとはこの国の貴族の娘で、魔法を使う才能があったから魔女になっただけさ。


 あん? 

 あんた、そんなことも知らないのかい。

 わたしらはもともと魔力を持っているだろう。

 貴族平民関係なくだよ。

 だけど魔法を使うには魔力を上手く使って、魔法に変えなきゃならないのさ。

 これは誰でも出来ることではないからね。

 そうして魔法を扱える者……男性が魔法使い、女性は魔女と呼ぶのさ。


 それで、魔女が貴族だったということでわかるだろ。

 何かあったのかは。

 そうさ、魔女の大切だった人があいつらのせいで亡くなっているそうだよ。


 はっ? 

 魔女が復讐のために女児しか産まれないようにしたんだろうだって?

 バカなことを言いなさんな!

 魔女が何かする前に王家は呪われていたのさ。


 つまりさ、先々王と先王はどれだけの恨みを買っていたと思うんだい。

 魔女が手を出すまでもなく、王家は呪いのせいで女児しか産まれなくなっていたんだとさ。


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― 新着の感想 ―
[一言] >側妃たちが願ったのは、生れてくる子を女児とすること。  これのせいだと思ってた…
[一言] ほほお… 王様が元凶だったと…
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