2 王家はクズばかり
それにしても先々代の王にされたことは、わたしら影の一族から忠誠心を失わせるのに十分なことだった。
えっ? どうしてわたしらがそのことを知っているのかって?
それはわたしらの長が慎重な人だったからさ。
あの日、長が名を縛られた日、わたしらの仲間がいつものように潜んで警護していたら、そいつの目の前で長は名を縛られたんだ。
で、先々王がバカだったのは、名を縛った時に影の一族がそばに居るかどうかを確認しなかったことさ。
……いや、確認したと言ったっけ。
あの部屋にいる影の一族の名を聞いたんだったか。
長はあの日の王の警護担当を知っていたけど、いろいろ危ぶんでいたから当日の担当を変更することにしたそうだ。
変更後の担当者の名前を知らせないようにと告げて、それから……ああ、そうだった。
その部屋には影の者は誰も入らないようにと、王が言ったと告げたのだ。
そのことで次代の長候補が察して、王も知らない隠し部屋にて警護することにしたそうだよ。
隠し部屋には次代の長候補が一人でいたと聞いている。
で、長の名前を縛ったあと、王はこう聞いたそうだ。
「この部屋に居る影の者の名を述べよ」と。
長はそれに対し、自分の名を告げたという。
王は重ねて「この部屋に居る影の名前を述べよ」と聞いたんだってさ。
ほんと、バッカじゃないかねえ。
だってそうだろう。
あの部屋の中には長以外、影の者は居なかったんだから。
他の者は部屋の外から警護していたんだからさ。
だから長は「この部屋に誰も連れてくるなとの仰せでした」と答えたのさ。
しばらく王は疑っていたようだけど、魔法誓約をすると嘘がつけないことを思いだしたのか納得したようで、長を部屋から退室させたそうだよ。
そういうわけで王の所業はわたしら影の一族に知れ渡ったのさ。
それから……重要なことは長に知らせないことになり、何事も次代の長を中心に進められるようになっていったんだ。
ただ、残念なことに長が亡くなった時に、次の長になった者も名を縛られてしまったけど……。
慎重に行動したのだけど、そしてどうやったのかわからないけど、気づけば名を縛られていたそうだ。
ただ、この時に長として名を縛られたのは先代が見込んだものではなかったそうで。
影の一族の上層部で話し合って、身代わりの長をたてることにしたんだと。
そうして時は移り、今の王になった。
この王は……はっきり言って、王の器でない者だった。
せっかく二代に渡って行ってきた魔法誓約の意味を判っていなかったようでね。
愚かなことに誓約書の管理をわたしら影の一族に任せたのさ。
名を縛っていることに安心していたのだろうね。
まあ、そんなことはどうでもいいのだけど。
そのおかげでわたしら影の一族は魔法誓約から解放されたからさ。
誓約をなかったことにはできなかったけど、次の長が誓約をする時に別のものを用意することができてね、誓約をしたふりをしたってわけさ。
つまり新しい誓約はなされなかったんだよ。
ん? 他の領主にも同じことをしなかったのはなんでかって?
さすがに愚鈍でも王は王さ。
領主たちがよっぽど腹芸が出来る者でない限り、魔法誓約から逃れたことを見破るかもしれないだろ。
そんな危険を冒すわけにはいかないさ。
いったいこの国に国民は何人いると思っているんだい?
それで……ああ、わたしらのことだったね。
一応わたしらは今までと同じように過ごすことにしたのさ。
どうしてかって?
いきなり影の一族が全員姿をくらますわけにはいかないだろ。
それにこの国以外にどこに行けっていうのさ。
名を縛られた以外は普通に給金をもらっていたからさ。
忠誠心はないけど仕事はちゃんとしていたのさ。
……えーと、どこまで話したっけ。
そうそう。
この国の王族のバカさ加減についてだったね。
今の王……だけでなく、その妻である王妃も側妃たちもろくでもない者たちでさ、そんな女たちから生まれた子もまともに育つはずがないだろう。
ん?
ろくでもないとは何かって?
ああ、それはさ、王妃が嫁いできた時には、側妃が二人、もう後宮にいたんだよ。
王妃はそのことを知っていたのさ。
それで……自分が嫁ぐ前に子供なんて出来たらことだろ。
それも男児だったら尚更さね。
そういうわけで王妃は魔女を頼ったのさ。
王妃が魔女に命じたのは、自分が子を産むまで他の女が子を産まないこと。
そうして嫁いできた王妃は待つほどもなく子を身籠ったそうだよ。
そのことが面白くないのは先に居た側妃たちさ。
王妃は嫁ぐことが条件で併合された国の王族で、側妃たちはこの国の貴族の娘。
それも伯爵家の娘で、身分的に王妃と張り合えるわけがなかった。
だけど王妃に子が出来たことを悔しく思った側妃たちは、それぞれこっそりと魔女を頼ったのさ。
側妃たちが願ったのは、生れてくる子を女児とすること。
そうして産まれた子は女児だったんだと。
そのあと、王妃、側妃が立て続けに妊娠したそうだけど、産まれたのは女児だけだった。
王妃に三人、側妃たちにそれぞれ二人の子がすべて女児だったことで、王は次の側妃を入れることにしたのさ。
その後、何人入れても産まれるのは女児ばかり。
気がつけば王女ばかり十五人産まれていたそうだよ。
ここで諦めて王女の誰かに女王とするべく教育を施せばよかったんだが、愚かな王はそんなことはしなかったのさ。
それどころか次々と側妃を増やして、色に溺れていったんだよ。
そんな王にお似合いの王妃や側妃たちは、王の寵愛を得ようと着飾ることばかりしていたんだよ。
そんな母親の姿を見ていれば、王女たちもどうなるかなんて、想像に難くないだろうさ。