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10 愚かな王妃のおかげで大手を振って王宮を出て行けるのさ

 本当の真実はあれだけど、奴らが見つけた事実は『国を傾けることになった末の王女は、五歳の時に亡くなっていた』ということになった。


 それでも、まだあきらめきれないのか、王と王妃に娘っ子を会わせることになってしまった。

 所謂面通しってやつだね。


 娘っ子は動揺して、手に汗をかいていた。

 顔は平静を保っていたけどね。

 ん? 

 なんで汗をかいていたって知っているかって?

 そりゃあ、娘っ子と手を繋いでいたからさ。

 わたしゃ、娘っ子の母親だよ。

 手くらい繋ぐだろう。


 もちろん面通しをさせると聞いて、わたしは抗議したさ。

 そうしてしぶしぶ王妃たちに会わせることを了承したとも。


 面通しはあっさりと終わったね。

 王妃は娘っ子の顔を見て、不思議そうにみてきた。

 しばらくして「こんな平凡な娘ではないわ。それではやはり亡くなっていたのね」と呟くように言ったのさ。


 娘っ子は部屋に戻るとホッとした顔をした。

 王妃が娘っ子のことを判らなかったことに、安心したのだろう。


 ふっ 

 魔女様の魔法を甘くみんじゃないよ。


 王妃は魔女に色を奪わせた後、もう一つ命じたという。

 それは他の王族に末の王女への関心を薄れさせるというものだった。

 魔女様はその命を逆手にとって、王妃が末の王女にしたことを忘れさせたそうだ。

 だから、王妃及び王族たちは末の王女はあの部屋に居ると思い込んでいた。

 だけど何かの拍子に王宮から出ていかれると困るので、門番には子供の出入りには、特に注意するようにと通達したそうだ。

 そのうちにそういう命令を出したことも忘れたらしい。


 まあ、なんにせよ、連合軍にとっては『諸悪の根源だと思われた末の王女は、放置され捨て置かれた末に亡くなっていた可哀そうな王女』ということになった。

 そして娘っ子のことも『末の王女の身代わりにさせるために王宮に留め置かれた下女の娘』と、認知された。


 それからもう数日、わたしらは王宮に留め置かれた。

 今の王宮は連合軍の本部となっている。

 ここに居る使用人は一度解雇されてから、改めて採用されることになった。

 中にはもうこりごりとばかりに、王宮で働きたくないという人もいた。

 ここで働きたくないという人の動向をどうするか、ということを決めかねていたらしい。

 結局、王宮を一度全員出て行くことにして、その身を寄せる先を連合軍に知らせなきゃならないってことにしたようで……(嘲笑)


 いやー、甘いねえ。

 そんなんで王宮を出た後のわたしらのことを、管理できると思っているのかねえ。


 とにかく連合軍はそう決めたようだから、わたしは夫へと手紙を書いた。

 もうすぐ王宮から娘共々帰れると。


 これであの子にも伝わるだろう。



 三日後、身を寄せる先など必要なことを書かされてから、晴れて城門を出た。

 そこには……二年ぶりに会う夫とあの子の姿。


「ベラ、ラリマ」


 夫がわたしと娘っ子の名を呼んで、がしっと抱きしめてきた。


「お、おとうちゃん」


 娘っ子が打ち合わせた通りに、夫に拙い言い方で呼びかけた。


「おう、そうだ。とうちゃんだ。ラリマ、大きくなって……」


 そう言って、夫は目頭を押さえて涙をこらえる。


「あんた」

「ベラ」


 わたしも夫へ呼びかけて、ポロリと涙を落とした。

 夫はうんうんと頷きながらわたしのことをかき抱いた。


 しばし、家族の再会に浸っているように抱き合っていた。

 そろそろ頃合いかと思い、そっと夫から顔をあげて、夫の肩越しにあの子を見る。


「シシリー」

「ねえさん」


 わたしが名を呼べば、打てば響くように返ってきた。


「来てくれたのかい」

「もちろんよ、ねえさん。今まで大変だったね」

「ああ、それも今日で終わりさ。これからはいつだって会えるんだからね」


 そう言いながら笑顔を向けた。

 あの子はぎこちない笑みを浮かべて、それから娘っ子に目を向けた。


「ラリマちゃん、出てこれて良かったね」

「おばちゃん」


 娘っ子はあの子へと近づくと、ぎゅっと抱きついた。

 そして、ワンワンと大きな声で泣き出した。


 そっと周りを伺えば、こちらを見ている人達の中に涙ぐんでいる人が多かった。

 連合軍の兵士の中にも涙ぐんでいる奴がいた。


 それはそうだろう。

 王都に住む人々だけじゃなく、周辺国にもこの国の王族がやらかしたことは知らされているんだから。

 そして、今日、生贄にされかけた少女が数年ぶりに王宮から出て、父親や叔母に会うということも知られていた。


 ちらりと王宮の……城門の門番の待機室のほうを見れば、司令官がこちらを見ているのが見えた。

 驚いたように目を見開いているから、こちらの作戦は上手くいったようだ。


 そう、これも二年前に決めていたこと。

 王宮を出られなくて数年離れる場合は、娘っ子が出られる日にあの子が迎えに来ることを。

 わたしと娘っ子が似ていなくても、叔母と姪が似ているなんてことは多々あることさ。

 あの子がわたしのことを『ねえさん』と呼べば、顔は似ていなくても姉妹だと周りが認識するわけだ。

 髪の色と目の色が同じで、叔母と姪が似ていればね。


 わたしたちは夫がわたしの肩を抱き、あの子と娘っ子が手を繋いで帰宅の途についたのさ。


 向かった先には、あの子の夫の長とあの子の両親である娘っ子の祖父母、それから半年前に生まれた娘っ子の弟妹が待っていた。

 驚いたことに男女の双子を産んでいたのさ。

 娘っ子は初めて会う祖父母に驚き、可愛い弟妹にとても喜んでいた。


 そうそう、言い忘れていたけど、あの子の親である男爵夫妻は、あの子が王宮を出られた日に王宮にあの子のことを問い合わせている。

 娘に会わせて欲しいと。

 それに対し『侍女は亡くなった』と返事が来たという。

 男爵夫妻はその知らせを受けて爵位を返上したそうだ。


 そして、あの子が夫と住む隣の家にくらしているのさ。


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[一言] まんまと「なんちゃって影武者」をやったワケ!?
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