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1 わたしは影の一族の女

短編『わたしはただの使用人!(下女の娘ですから)』の裏側の話です。

 わたしらが暮らすこの王国は近隣の国の中でも大国だ。


 もともとこの国の周辺は小国が数多く点在していたそうで、国というには烏滸がましいくらいの、一地方の領主という方が正しい小国ばかりだったという。


 それが今から三百年ほど前に周辺国で流行り病が蔓延したことで、今の国への礎が築かれた。

 この国はもともと鉱物資源も食料となる作物を育てるための耕作地も、潤沢にあった。

 病が流行った時も、国民にも余力があり深刻な被害は出なかった。

 周辺国は立地などにより、この国ほど余力がなく国民だけでなく王侯貴族まで罹患してしまった。

 この国は助けを求めてきた国へと援助の手を差し向けた。

 助けられた国の多くは王侯貴族が亡くなってしまい、国として機能しなくなってしまったそうだ。

 そういう国を見捨てられずに併合した結果、もともとの小国だった時より、五倍の広さを持つ国となった。

 それから二百年の間に様々な事情により、この国に併合されることを願う国が幾つも現れ、最初の国土より十倍以上の広さとなっていった。


 そして今の王より二代前、その王より併合された土地を治める領主たちへと命がくだされた。

 曰く、娘を後宮に出すようにと。

 理由は……後宮といっているが、本当はただの行儀見習いで、地方と王都との作法の差をなくすために教える為だと伝えられた。

 ちなみに領主になっているのは、もともとそこにあった国の王族もしくは高位貴族だった者たちだ。


 領主たちは最初戸惑ったが、男性と違って女性には学ぶ場所がなかったことから指示に従うことにした。

 それと共に娘たちは密かに夢を見た。

 実は王は年若く大変見目麗しいと評判で、王のそばに侍りたいと思う貴族女性は多かった。

 だから後宮に入ることによって、見初められて王の隣に立てるのではないかと、期待をしたのだ。


 娘を連れて王宮へときた領主たちは、自分の判断が間違っていたことに、すぐに気づかされることになった。


 王は娘を連れてきた領主たちとにこやかに話し、此度のことに他意はないと言った。

 そして、娘を預かることに対して誓約書を用意していた。

 内容は、娘に必要な教育を受けさせることと、そのために後宮に滞在させると書かれていた。

 領主は律義だなと思いながら、その誓約書にサインをした。


 誓約書を受け取った王は、態度を一変させた。

 領主たちのことを嘲笑いながら、この誓約書は領主が王家に逆らわないことを誓うものだと言った。

 領主たちは騙されたことに気がついたが、もうどうしようもなかった。

 名を縛られてしまったので、逆らうことは出来なくなった。

 娘も……文字通り後宮へと入れられて会うことも出来なくなってしまったのだった。


 そう、この王は領主たちを信用していなかった。

 なんとか彼らを支配下に置きたいと考えていた。

 考えた結果、後宮を作りそこに人質の意味も持たせて、領主の娘を集めることにしたのだ。

 ついでに領主たちには魔法契約で誓約させて、逆らえないようにすることにした。


 つまりこの王は好色で小心者だったのさ。



 さて、領主たちを屈服させた王は、それでもまだ安心できなかった。

 なので、自在に動かすことが出来る者たちを用意することにした。


 それがわたしら影の一族だ。


 わたしらはもともとこの国に使えていたんだ。

 その頃の一族の仕事は主に諜報活動を得意としていてね。

 王はわたしらのことも名前を縛ることで、意のままに操るようにしたのさ。


 だが、全員の名を縛るのも大変なことで、考えた王は一族を掌握する長の名前を縛ることに決めたのさ。

 名を縛られると嘘をつけなくなるらしくてさ。

 一族のことを聞かれたら答えないわけにはいかなかったそうだ。

 そうやって、わたしらはこの国に縛られてしまったのさ。


 先代の王も父親に負けず劣らずのクズだったね。

 前王が考えた誓約書をそのまま使っていたのさ。

 領主は代が変わると王宮に……王へと挨拶に来るだろ。

 そこで新しい誓約書が用意されていて、新領主の任命のための必要書類とかなんとか言って、名を書かすのさ。

 中には慎重な者もいたようだけど、どれだけ慎重でも用をなさなかったみたいでね。

 誓約書はどうなっているのか知らないけど、二重構造とかで表に書かれていることしか認識できないようになっているとかで、誰も見破ることが出来なかったというさ。

 どれだけ口惜しかろうと、誓約しちまえばそこから逃れることはできなかったんだと。

 それに先代は名に縛られていたから、誓約することが不利に働くなんて伝えたくても出来なかったんだよ。

 お貴族様ってえのも、かわいそうなもんだね。


 わたしら影の一族の諜報活動は余所の国ばかりじゃなくて、自国の領主に……だけじゃなくて、全国民が対象だったさ。

 わたしはそんなに器量がいいわけじゃないから、王都民と王宮の下働きの者たちが担当だった。

 どちらも噂を探っていたんだけど……えっ? 

 噂は噂だろうって?

 いやいや、噂ってものは中々侮れないものがあるのさ。

 どこかで漏れ聞いたことが流れる場合もあるし、中には意図的に流されたものもあるじゃないか。

 そう言った意図的に流された噂を拾って、元を突き止めるのも大切な仕事なんだよ。

 下働きの間に流れる噂話こそ、侮れないねえ。

 彼らは見ていないようでよーく見ているからね。


 貴人たちは下働きのことを人間だと思っちゃいないかもしれないけど、そういう下の人間ほど上の人間のことを見ているものさ。


 まあ、それで密かに処罰された家があったとしても、わたしらには関係ないことなのさ。



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