窮屈なパーティー 【月夜譚No.243】
仮面越しの視線が痛い。豪奢な仮面で顔は覆い隠されているというのに、その視線だけは遮断できないらしい。
少女は広いホールの隅に避難して、そこにあったソファにそっと腰かけた。口から漏れ出るのは、微かな溜め息。
自分がこんな煌びやかな場所に相応しくない存在だということは、重々承知している。義兄にどうしてもと頼まれて仕方なくここにいることを、大きな声で触れ回りたい気分だ。
つい数カ月前に貴族に拾われた少女は、どういうわけか自分には勿体ないくらいの優遇を受けた。義父も義母も義兄も、こんなにみすぼらしい少女を可愛がってくれる。今日だって可愛らしいドレスと金縁の高そうな仮面を宛がってくれた。
どうしてこんな状況になったのか、それは少女にも分からない。義父達は何思って、何の為に少女を家族に迎え入れたのか、訊いても教えてはくれないから、知りようがない。
正直、今の生活は窮屈だ。しかし、以前までの汚い路地で物乞いをしていた頃と比べたら、天と地ほどの差がある。あの生活には、もう戻りたくない。
「やあ、こんなところにいたんだね」
声がして顔を上げると、長身の青年が立っていた。仮面をしていても、その下でいつものように優しく微笑んでいるのが分かる。
差し出された手を握り返すと、義兄の温かな体温を感じた。
少し窮屈だけれど、こんな気持ちになるのは悪くない。少女は微笑み返して、一息に膝を伸ばした。