知識
目が覚めると、知らない天井が見えた。
どうやら異世界転生が完了したらしい。
しかし、中々説明が適当だったな。こんなんで大丈夫か。
世界の秘密がどうとか言ってたが、そんなこと俺にできるのだろうか。
体を起こし、腕や足を動かしてみる。明らかに子供の体であった。
「なるほど。子供からやり直しするタイプなのか。」
そう言って立ち上がる。それにしてもなかなか不思議な気分だ。
転生前の俺は身長が170センチメートル以上あったので、一気に縮んだようなもんだ。
子供の目線ってこんな感じなのか。もうこの年だと子供の頃の感覚は結構忘れている。
気になるのは見た目だな。転生前の俺は可もなく不可もない普通の顔だった。
今回はどうか。
「どこかに鏡はないか… お、あるな」
部屋に大きな姿鏡が置いてあった。鏡の前に立って自分の姿を確認する。
「おー、めっちゃかわいい!」
思わず自画自賛してしまった。まあ、まだこの体が自分だと思えないので自画自賛とは違う気もする。
なんか鏡を通して他人を見ている感覚。
鏡に映った俺は茶色の髪、くりくりとした目の男の子だった。
身長的に、5歳ぐらいかな? まだまだ童顔ではあるが、将来、イケメンになりそうな顔立ちである。
体も普通の幼児といった体型だ。
この世界の美的水準が地球と同じであれば、結構モテるのではないだろうか。
部屋をぐるりと見回す。かなり大きな部屋だ。推定5歳児にこんな部屋を与えるとは。
照明は中世ヨーロッパ的で、かっこいい。それに、壁の装飾もなかなかきれい。
この世界の経済状況とかよくわからないが、地球水準で考えると、この家はかなり裕福そうである。
これはかなりうれしい。もしかしたら貴族とかなのかもしれない。
生きるのに苦労はしなさそうだ。転生してもスラム街とかだったら、生きられる自信はない。
こちとら日本でそれなりにいい暮らしをしていたからな。
窓の外を眺めると、草原や畑が広がっている。集落のような家が密集しているところも見える。
これはかなり田舎だな。照明等からも感じたがここは地球の歴史的には中世ぐらいなのかもしれない。
地球の現代のような科学の発展は見られないし、基本農業を中心に生活を営んでいるのかもしれない。
とりあえず、部屋から出て見よう。おそらくだが、俺の両親がいるはずだ。
部屋を出て廊下を歩き、リビングらしき所に行くと、一人の男性と一人の女性がいた。
「おはよう。ノア。」
「おっ、おはよう。息子よ。」
女性と男性が挨拶をしてきた。とりあえず挨拶を返す。
「おはようございます。父上、母上」
二人はにこりと笑い、母親は料理、父親は本を読むのを続行した。
母親、父親ともに容姿端麗であった。この親からなら今の俺が生まれたのも納得だ。
おそらく、俺の態度は間違いではなかったようだ。
今まで疑問に思っていなかったが、言語はどうやら通じるようだ。
日本語を話している感覚で、異世界語を話している。
音は意味不明のようで、脳内では正しい意味に変換されている。そんな感じだ。
あと、疑問に思ったのが今まで僕の中にいた人格はどこに行ったのだろうか。
俺が今入ったことで消えてしまったのなら、非常に申し訳ない。
それに両親は見た目は息子、中身は他人の子供を育てることになるのか。
なんか、親からするとかわいそうだが、仕方がない。
「転生して違う人格なんです今日から」とか言ったら、不気味がられるかもしれない。
とりあえず、やるべきなのはこの世界について知ることだ。
そのためには、両親と会話するか、本を読むかだな。
どちらもレベル高いな。
今までの俺がどんな子供だったかわからずに会話を仕掛けるのも難しいし、本は多分読めない。
5歳児の識字率がどんなもんか知らないが、父親が持っている本の表紙の字を見るに無理そうだ。
こうなれば、親に読んでもらうか。読み聞かせだ。
そんなに不自然ではないし、本の内容もわかるし、会話も引き出せそう。
思い切って、父親に話しかけてみる。
「父上、私も本が読みたいのですが、読み聞かせてはくれませんか。」
父親は顔をあげて、少し驚いた顔をした。
「いつもおとなしいお前がそんなことを頼んでくるとはな。
父さん、うれしいぞ。よし、書斎の本をとって来よう。」
そういって父親は嬉しそうに書斎に向かった。
帰ってきた父親は絵本を何冊か持ってきて読み聞かせてくれた。
本の内容や両親との会話から、様々なことが分かった。
まず、俺の名前はノア・ベルナールというらしい。予想道理、5歳であった。
兄弟姉妹はいないようだ。
父親はオリバー・ベルナール。母親はオリビア・ベルナール。
ベルナール家はどうやらこの地域の領主だそうだ。
田舎ではあるが、領主だから、裕福なようだ。
また、世界についてだが、魔法が存在する中世ヨーロッパという感じだ。
やはり、魔法があるようだ。
この世界は火・風・土・水の四元素から様々なものができていると信じられている。
エンペドクレスと同じ考え方だな。四元素は魔法の属性も表している。
そして、基本的に魔法に適性のある者は一つの属性しか使えない。
まれに複数の魔法に適性がある者もいるが、ほとんどいない。
大昔に全属性使える者がいたことを示す書物もあるようだが、作り話だとされているようだ。
魔法という言葉に胸が踊る。誰しも一度は魔法を打ってみたいと思うだろう。
転生前の日本では「魔法使い」なんて、むしろ不名誉な称号で何の魅力もないが、この世界では違う。
「ありがとうございました。父上。」
「いやいや、お前が喜んでくれて良かった。
小さい頃からおとなしくて、自分から話しかけることの少なかったお前に頼られて父さんはうれしいよ。」
優しくて、子供思いのいい父親なようだ。息子に頼りにされて有頂天になっている。
「朝ごはんできたわよー」
オリビアの声を聞き、、俺とオリバーはリビングへと向かった。