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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

疑惑

作者: 雨月 宙

 肌寒い。こういう時は、人肌恋しく、誰かの温もりを求めてしまうのは自然の流れ、なのかもしれない。

 ただ、誰でもいい訳ではなくて、密かに付き合ってる彼女がいい。

 でも、彼女とはコロナで会えていない。最近は、コロナも落ち着いてきているから会えるかと期待していたが、存外、彼女が顔が知れている仕事なだけに、忙しくて会う暇さえもない。

 そうすると彼女に会えないのが寂しく、家に帰り暖房器具をつけているのに心が寒い。

 そんな時、彼女の他にも私にアピールしてきた子がいたなと思い出して、その子と付き合ってたらどんな未来だったのだろうか?とふと思うことがある。もしかしたら、寂しい夜を迎えずに楽しく二人過ごせたのかもしれないし、もしかしたら、今と変わらないかもしれない。


 そうすると昔、二十二歳の頃に知り合った一人の女性の事を思い出す。

 彼女には、女性と付き合った事が無いと嘘を付いている手前、言い出す事のできない人。

 今までは思い出も薄れて、思い出す事は殆どなかった人。

 今でも好きかと言われれば、いいえ。と答えられる。彼女がいるから。彼女が、心の傷を癒してくれたから。


 ただ、あの時は、あの人が好きで、私のたった一人理解者であったのは確か。


 二十二歳


 家族とは疎遠。友達とは何となしで、深い繋がりもなく、家族の悩みを打ち明けられる相手がいなかった。

 父親の暴力的な態度が、男性に対する嫌悪感を、付き合った彼氏のイメージとは違う態度と束縛と見えすいた欲望に更なる嫌悪感を増幅させて別れてしまってから、誰かを好きになる事諦めていた。

 でも、仕事をし出せば、合コンなんて若ければ誘われるのはごく普通。


 そう、あれは会社の人に人数合わせで誘われた、気乗りしない合コン。

 それも笑える事に、後から知った事だが、全員既婚者。で、よくよく後から聞けば、男共は、騙して、不倫をイケナイ遊びとして楽しむ連中ときたもんだ。

 今思えば、馬鹿馬鹿しい、快楽者の集まりの合コン。

 付け加えて、一緒に行った女性達は、そいつらの誰かしらとやったんだから本当、馬鹿みたいな話。


 正直つまらなかった。付き合った男以下、年上だけど見えすいた欲望がやっぱりチラホラ感じられる会話。

 一次会でさよなら、バイバイ、一生会いたくないと自分の車へ乗り込んだら、男数人が私の車へ乗り込んで、拉致。

 あの時は、気娘よろしく、怖くて、大人しく男の車へ乗車。


 深夜のハイテンションドライブ。らりってんのかといえば、酒入ってる。捕まれ。いやいや、その当時はまだ、規制も緩くて捕まることもなし。


 ついた場所は、遊び人が行きそうな六本木のクラブ。治安最悪そうで、ギラギラした目の背の高い黒人さんがうじゃうじゃ。にやってこっち見て、恐ろしくて、男共と尻軽女付いていくしかない。


 中は本当、吐き気の溜まり場。鼓膜が痛い程の重低音が鳴り響いて、薄暗く、タバコの煙で咽せそうで、臭いも籠ってて最悪。

 小さいハコに、バーカウンターとDJブースと何かテーブルがちらほら。


 これ、やってんなって男女がちらほら見えて、嫌悪感が増幅。


 でも、逃げることはできなくて、欲望を顔に貼り付けた男に酒を無理に煽らされて、よく分からない状態。

 

 一人の男が手を引いて、私を奥に連れ込む。人でぎゅうぎゅうなハコ、呑み込まれれば、自力では出られない。だって、もう一人仲間が私達を隠すようにとおせんぼう。両手は広げてなかったけど。


 そこでされたのは、ディープなキス。男の高鳴りが私の足にぶつかるほど密着しながら。

 離してほしくて、抵抗をするも、瞬く続く。


 一応社会人の常識があったのか、満足したのか、嫁にバレないギリギリの線がここだったのか、そこではされなかったのが救い。


 「またね、携帯に連絡する」


 勝手に携帯に番号登録。無理やり繋がれた恋人繋ぎ。

やっと離れて、地元着いて、朝迎えて、言われた、気持ち悪い笑顔で。


 愛想笑いの私。


 多少の汚れで帰ってこれた事に、神に感謝。


 でもやるせない。自分の車に乗り込んで、帰り道。

怒りで、口を痛いほど擦った。酔いなんてどっかぶっ飛んだ。だって、それほどに朝は寒い。冬だ。


 喉が急にカラカラ。

洗浄したくて、コンビニに飛び込んだ。一応ちゃんと車は、駐車場。


 「いらっしゃいませ」


 やる気のない店員。それもそうか、早朝、眠い時間帯。


 怒りに任せたまま、ドリンクコーナーの冷蔵庫の前。

がっと開けた。


 「うぁ」


 誰かの小さな驚く声。そっちへ視線向けたら、猫背のお姉さん。ロングコートのポケットに手を突っ込んで、のけぞった後、やれやれと上体を元に戻した。


 「あ...ごめんなさい」


 ぶっきらぼうな言い方だったかなと心配したが、お姉さんはヘラヘラ笑って、突っ込んでいた片手を出すと顔の前で手を振った。


 「大丈夫、大丈夫」


 そう言って、知らない私の頭をぽんぽんと撫でた。


 「てか、君の方が大丈夫?涙目だけど?」


 「え?」


 私は、ガラス張りの冷蔵庫に映る自分を見た。たしかに涙目。泣いてたんだって、その時気づいた。


 「よーし、よーし」


 「え?え?」


 その人に急に抱きしめられた。いい匂いと温もりが私を包む。

 気が緩んだ。声は上げなかったが、大泣きした。

 その人は黙って、抱きしめ続けてくれた。


 ひとしきり泣いたらスッキリした。


 何かどっと疲れて帰って寝たかった。


 その人が私の気持ち察したのか、私を解放。

 帰り際、レモンティー奢ってくれた。



 それから、何気なしにその人が気になって、いつも行かないコンビニに通った。

 昼間は絶対いない。夜も。朝方だけ。それもごくたまにらしく、何日目か忘れた頃に会えた。


 「あれ?君、あの時の...奇遇だね」


 「...奇遇ですね」


 奇遇じゃなくて、通い詰めてたことは何だか恥ずかしくて黙ってた。


 「...最近どう?」


 「へ?最近ですか?...まぁ、ぼちぼち」


 「......ふむ、じゃ、どっかドライブする?」


 「は?」


 「いやだから、ドライブ」


 本当にその人は唐突。でも、駄目?って可愛らしくはに噛むから、許してしまえる。


 早朝ドライブ。


 何度も何度も誘ってくれて、いつしか、そのドライブはデートになって、要は恋人になった。帰り際のキスは定番で、家の前。ちょっと家から見えにくい所で、ここらからは家は見える駅の駐車場。いけない事をしてるようで、いや、家の前だし、近所の人が見てたら最悪の事態だから、いけない事をだとは思っても止められなかった。


 そんな日々が続いた。体の関係は、なく。

それもよかったのかもしれず、ただ、彼女に抱きしめられてキスをするのが拠り所になっていった日々。


 女同士だから、そもそも秘密。誰も知らない。


 禁断。


 でも甘酸っぱい恋に酔いしれた日々にだって、終わりはくる。


 その人が急に姿を消した。当然、私は私ができる限りで探した。けど、その人からその人の情報は殆ど聞いてなかった。


 泣いて、泣いて、泣いて、置いてけぼりの失恋。


 それからは、絶対に女性とは付き合わないと心に決めた。痛手の傷は忘れるに限ると、男と付き合う。


 でも、やっぱりトラウマってへばりついてくるもので、付き合っても長続きしない。


 もういいやって、手術して体調崩す日々も続いてたし、面倒だから恋愛はしない決意。


 でも、将来不安になって、婚活。でも、そんな私が、結婚ゴールインなんてなるわけもなく。


 もうやだやだ、布団中から出たくない、仕事辛い、楽しくない、なんで私ばっかり、って時に、彼女と運命的に出会う。

 彼女にはよく見せたくて、付き合ってた女性のことは口にチャック。


 それが今でも重荷。


 でも、彼女の態度が最近冷たい。会ってくれない。懇願してるのに。

 愛してるって何度も何度も繰り返して、パートナーシップを願い出て、指輪を贈りたいって囁いた。

 それがいけなかったのか。

 家族になるのは、嫌だったのか。

 偶々、忙しい時期なのかもしれない。


 愛しくて愛しくて。


 もちろん、彼女も私を想っているという実感はある。


 けど、会わない時間が、不安を増幅させる。


 ありもしない未来を想像して、彼女を否定することもしばしば。

 何か勝手に嫉妬して、悶絶して、彼女を抱きしめたくて抱きしめたくて、キスしたくて、頭壊れた。


 そんな時にその人を思い出すって滑稽。


 彼女で頭がいっぱいで、写真見つめるだけでドキドキ動悸。


 でも、会えないから辛くて。


 そっか、あの時のあの辛いと一緒かと。


 本気で本気な二つの恋。


 一つは終わって、一つは...。


 終わりたくない。


 だから、会ったら全部正直に話して、結婚しようってもう一度囁くんだ。


 

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