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アンリーズナブル  作者: 犬犬尾
第三章 絶対ルマティ教社会主義国 ルマティア
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第5話 軽い試験

 エンタクが入隊式の終わりを告げ、大勢の男女が席から立ちあがって移動し始める広場。

 来年、警備隊に入隊する嫩草たちが集まっていた場所に、四人の少年が円状に座っていた。

 うち二人はグーダとハオで、残りの二人は緑髪の誠実そうな美少年と、人情味あふれる熱そうな亜人——ネズミのような大きな耳を持つ少年だ。


 二人はアンコウエンに住むハオの友達である。


「巨岩をぶった切ったことといい、四人を圧倒しちまうエンタク様かっけぇ!! ちょーかっけぇぜぇぇ!!」


 グーダの叫び声が、静粛である必要がなくなった広場に響く。

 入隊式が終わり、オドの量を測るために壇上の方へ移動する大衆。グーダ達が列に並ばず椅子に座ったままでいるのは、あとから測定するつもりでいるからだ。


「シシ、言っとくがグーダ! これからどんどんかっけぇ所見れるぜ!!」


 興奮するグーダの肩を、ハオは得意そうに叩きながらサムズアップする。


「全く、羨ましい限りだよハオ……今までエンタク様から直接、訓練を受けていたのだろ?」


「そうだぜ。俺達は今年まで訓練を受けられなかったってのに……だのにお前は、ガキの頃から訓練受けさせてもらってるって、羨ましい限りだぜ。ったくよぉ……」


 緑髪の美少年がハオに向かって羨ましいと言うと、亜人の少年がそうだそうだと嫌味っぽく欣羨きんせんする。


 ハオと違い、二人の少年は今まで訓練を受けることが許されていなかったのだ。やれることは、自己研鑽のみ。


 通常、訓練を受けられるようになるのは、警備隊に入隊する試験に合格し、成人——十八歳以上になってからである。

 だがハオは十四歳という歳で、更に警備隊に入隊せずに、エンタクやローガから訓練を受けていたのだ。

 友達とはいえ——いや、貴賤きせんのない間柄であるからこそ、特別扱いされているハオに嫉妬してしまっていた。


「まぁ、俺の親父とじっちゃんは、警備隊の隊長だし、才能がダンチっていうか、当たり前の待遇と言うか?」


「言っておくが、そうやって才能にかまけていられるのは今の内だぞ、ハオ。私達とて、何もせずにここまで過ごしてきた訳じゃない」


「そうだぜこの野郎! 直ぐに追い抜かしてやるからな! ハオ!!」


 ハオは羨望せんぼうを向けて来る二人の心境を知ってか知らずか、得意げに鼻を鳴らして煽る。その煽りに、緑髪の美少年は誠実なイメージを崩さないまま、優然と煽り返す。亜人の少年はというと、分かり易く眉毛を吊り上げ、青筋を浮かべてふつくむ。


「やってみろよバァロォ! ま、絶対無理だろうけど!」


 二人の売り言葉を、ハオは勝利宣言で買ってみせる。


「んだと! すかしやがってこの!!」


 煽り耐性の低い亜人の少年は、ハオに歯ぎしりしながら詰め寄った。その彼とは真逆である緑髪の美青年は、憮然ぶぜん嘆息たんそくする。


 煽られたら飽きるまで煽り返し、やられたら疲れるまでやり返す。三人はそんな少年同士らしい関係だった。


 警備隊に入っても、三人ともまだまだ子供らしさは抜けきらない。


「そういや、俺二人の名前知らないんだよな。自己紹介しね?」


 ただ一人、会話に馴染めていなかったグーダが、突としてそう言う。

 一人だけ仲間外れは嫌ということだ。

 

 名乗るなら自分から名乗る。そうリメアからさんざん教わっていたグーダは、名乗られる前に親指で自身を指差し、


「俺はグーダ! 土魔法師の十六歳!! 若頭こと、リメア・ニュートラルの護衛だぜ!」


 精彩に堂々と自己紹介した。


「私はケイシュン。火魔法師で、兄に警備隊の副隊長であるケインがいる。歳は十七歳、来年で十八になる。よろしく頼むよグーダ」


「おう! よろしくなケイシュン!!」


 グーダの次に自己紹介したのは緑髪の美少年ケイシュンだ。グーダは差し出された手を握り、握手を交わす。


 ケイシュンの言葉通り、兄のケインと彼の見た目はかなり似ている。大きく違うのは短髪か長髪かぐらいだ。

 来年からお酒が飲めるようになる彼が、兄のように酒豪になるかどうかはまた今度。


「俺はリクライ! 光魔法師で、親戚のねぇちゃんが副隊長のラウラだぜ! 歳はもうすこしで十八!! よろしくな!!」


「よろしくな! リクライ!!」


 最後は亜人の少年リクライだ。右腕を上げて、腕を組もうと促して来るリクライに、グーダは右腕を組んで返答する。


 ケイシュンと違って兄弟ではないので、ラウラはネズミの獣人だが、リクライはネズミの獣人と人間の亜人だ。

 似ているところは、大きな耳とネズミの尻尾だろうか。あと大雑把な性格も、似ていると言えば似ている。


「俺が風で、グーダが土、ケイシュンが火に、そんでもってリクライが光。四者四様だな。いい訓練相手になるんじゃねぇの?」


「だな……自分と違う魔法師と訓練できれば、実戦までに対策できる」


「おいおい、言っとくが、光魔法は対策なんてできないくらいに速攻だぜ」


 ハオの言葉に、その通りだと首肯するケイシュン。その彼の発言に、リクライが何を言っているのだと、ニタリと戯笑ぎしょうする。


「それを攻略するために訓練し、対策を練るんだぞ、リクライ?」


 だが、そう言われて引き下がらないケイシュン。論理的に言って、顔を傾けながら戯笑で煽り返す。リクライはそれを「へいへい。対策させねぇよーだ」と、憎たらしい顔で流した。


 会話はそこで一区切り。特に話すこともなくなると、ハオが「さて」と言って、徐に立ち上がった。彼は親指で壇上前——魔算機がある方を指差して、


「そろそろ俺達も列に並ぼうぜ。一番オドの量が多い奴が勝ね。勝った奴に一人ずつ、豚の包子ぱおずおごりな」


 有無を言わさず歩き出した。

 グーダが「乗ったぜ! 俺も肉食いてぇ!!」と、右拳を掲げながらハオについて走り出す。

 続いてケイシュンが「私が勝った場合は、抹茶の包子をいただこうか」と、要望を口にしながら二人に跟随こんずい

 遅れてリクライが「じゃあ俺が勝ったら饅頭まんとうな! ココナッツミルクと一緒に食うのが最高なんだ!!」と椅子から飛び上がり、はしゃぎながら三人に追いついた。


 四人は勝つ気満々、奮起ふんきしながら列に並んだ。


——他方のシュウ達も、


「行くわよシュウ!」


「行くか」


——オドを測りに席から立ち上がった。


——壇上前にいるリュウラン達の視点。


「あの、参考までに聞きたいんすけど……オドの量の平均って、どれぐらいなんですか?」


 いくつかある列の中心。その最前列に並んでいた騎士の男が、手を上げてフク達に問うた。


 オドの量の平均。確かに知っておきたい事だ。


 他よりも飛びぬけていれば才能があると分かるが、多くの者は比肩ひけんしている所為で、両者間の優劣しか分からない。真に自分が劣っているのか。そうではなく、ただ周りが優秀だけなのか。その正反対も然り。

 知ることが出来れば自己を見直し、成長につなげることが出来る。


 いい質問である。


「そうですね……騎士や傭兵といった、戦う事を生業なりわいにしている人たちならば、平均で四万くらいでしょうか?」


 フクは今まで測定した統計から、目算ではあるが答えた。

 四万。その数値が基準。それよりも低ければ、自分の能力は低い。それは諦観ていかんと絶望、奮進ふんしんと希望の渾然一体こんぜんいったいの数値。


 最前列に居た男の顔が、緊張で引き締まる。


 男が唾を飲んで前に出ようとした時、


「どうやら、皆さん腕に自信があるようですし! 倍の八万以上はあって欲しいですね!!」


 今から測定する彼らの気も知らず、セイが口の横に両手を当ててハードルを上げた。

 いや、セイの少し面白がっている表情から類推るいすいするに、知っているからこそ言ったと言えよう。


『え? 八万も無いのにアンコウエンに訪れたの?』


 そう言っているように思える発言だ。

 大衆の多くが、彼女の発言に表情を笑顔でゆがめた。


 とはいえ最低限、八万ほどオドがあって欲しいのは事実だ。それぐらいなければ、少なくともアンコウエンに招集してもらった意味がない。


「オドの量を測定する時の注意ですが、機械の底に手を付け、全力で、最低でも十秒以上の時間オドを込めてください!」


 黒髪長髪の男が最後に何かありそうな注意喚起でくくり、軽い試験が——、


「おっと待った!」


 始まる前に、アウリヌスが豪然ごうぜんと大衆の前に躍り出た。

 何をしようというのか。多くの者は理解できないだろう。だが、彼がどういった人物なのかを知っているリュウランと子供は、行動の趣旨を理解していた。


「入隊祝いだ! 選別に俺様が最初にやってやろう! 俺様よりもオドの量が多ければ、エンタク様に直接練兵してもらえるぞ!!」


 そう、このに及んで見栄っ張りである。それも、エンタクが丁度いないこの時に。


「あの馬鹿たれ。エンタク様が練兵する相手はもう、決めてあるというのに……余計なことを……」


 リュウランはやれやれと溜息を吐いた。彼の横にいる短髪の好青年こと、ペルニオが「やはり父さんは小心者だな!」と、堂々と笑う。

 全く笑えることではない。


 大衆を鼓舞して、場を賑賑にぎにぎしいものにしようとした意図もあるのだろうが、どうしたものか。万が一、自分よりもオドが多い物が現れたらどうするというのか。エンタクが練兵する者が、自分よりも少なかった場合もそうだ。


 後先考えない癖があるのが、アウリヌスの悪い所である。


「む……」


 森から吹いて来る風の音を感じられる程に広場が静まり返ると、アウリヌスは魔算機に触れた。

 正確には、魔算機が中に入った機械に手を突っ込んだ、である。


 オドが込められ、機械の揺れる音が鳴る。十秒後、アウリヌスは手を引き抜き、悠然と腕を組みながら待った。数秒後、出て来た数字は、


「百五十万! どうだ!! ガハハハハハ!!! 貴様らに俺様を超えられるか!?」


 平均の三十七倍以上の百五十万であった。

 圧倒の数値。高言するだけの実力は備わっている。だから救えなくもある。


 大衆は「すげぇぜ……」と、アウリヌスが叩きだした数値に息を呑み、それを皮切りに、奮激ふんげきしながらオドを測り出した。

 七万、九万、十二万、八万、十万、十一万、六万。セイが言った最低値を下回る者が居つつも、それでも優秀な数値を出す者が多くを占めていた。


 これは幸先が良さそうである。


——リフ達の視点へ。


 早めに列に並んでいたリフとグレイの番が回って来た。

 リフは機械の中に手を入れ、


——オドを全部込める訳じゃないし、十秒以上全力で込め続けるってことは、時間に対する量から、オドの総量を計算してるのかな?


 そう熟察しながら、言われた通り十秒間以上オドを込めた。

 機械が軽く揺れる。


 離れて、文字が浮かび上がって来る部分を見て待った。


「五十三万か……結構いい方なのかな?」


 なんと出て来た数字は平均の十倍以上の数値であった。

 多くても、十五万程が関の山だったのに対し、リフが出した数値はダントツの五十三万。アウリヌスを抜いてだが、大衆の中では暫定ざんていの最高値である。


 光魔法師として優秀な理由が炳焉へいえんたるものになる。


『君には光魔法師としての才能がある』


 レイキの言葉を回視かいしする。


 レイキはこの才能のことも含めて使える駒だと判断し、達弁で籠絡ろうらくしてきたのだろう。いや、何が籠絡だ。自分の罪を軽くしようとする——、


「凄いなリフ!! 平均の十倍以上だぞ!!」


「なっ!? 急になんだよグレイ!」


「やっぱお前は昔からすげぇな!! 見て見ろよ! 周りの奴らも驚いてるぜ!!」


 露許つゆばかりだけだが、陰鬱いんうつな表情で潜思せんししていたリフの背中を、横から見ていたグレイが力強く叩いた。リフが少し怒りながら顧眄こべんすると、グレイは親指で後ろに並んでいた大衆に指を差す。

 そこには列からはみ出て、リフが出した数値を見ようとする者達がちらほら居た。


 グレイに視線を移すと、彼は肩に手を回して「頼りになるなホント」と、体重をこちらに乗せて来た。

 三十を超えても、子供の様な絡みをしてくるグレイ。その彼をリフは「重いって!」と、笑いながら引きはがした。


 全く、グレイは昔から変わらない奴だ。

 五十三万。この才能を最大限に伸ばして、活かさなくては。


「よし、次は俺の番だ! 恥をかかないように頑張らないとな!!」


 グレイは「悪い悪い」と言った後、握り拳を作って機械に手を突っ込んだ。 


「今から頑張っても、数値は多分変わらないよ、グレイ」


 オドを込めるのに頑張るもクソも無いだろう。リフはため息交じりに笑いながら、グレイに指摘する。彼は「うるせぇ……」とぼやいてオドを込め始めた。


「……お、十五万、この俺がか!?」


「平均よりかなり多いね。グレイも、セイさんが言っていた、魔法の素養がないだけで、オドの量は多いタイプなんじゃないのかい?」


 十五万という数値に一驚するグレイ。

 リフはセイが言っていた言葉を思い出す。


 秀抜しゅうばつとはいかないが、彼もまた魔法の素養がないだけで、オドの量自体は多い方なのであった。

 グレイが自慢の筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)のフィジカルで敵を制圧できたのも、オドの量が多かったからなのかもしれない。


「あぁ、それは嬉しいんだが、リフ。なんかお前に言われてもなぁ……」


 煽ったつもりはなかったのだが、煽ったように聞こえてしまったらしい。

 リフの言葉に、グレイは不服そうな表情で言葉を濁した。


「あぁごめん! そんなつもりはなかったんだけど……」


「ったく……頼りにしてるぜ! リフ!!」


 すぐさま謝ったリフに、グレイは握り拳を突き出して催促する。リフは「分かったよ」と、グレイの握り拳に自身の握り拳を当てて、壇上前から退場した。


 これから、自分達がどう成長していくのかが楽しみだ。


——数分後、アリス達の視点へ。


「二十二万、まぁ上々か……」


 オドを込め終り、出てきた数値にアリスは嬉しさと達成感を感じていた。


 二十二万。平均の五倍以上で、大衆よりも目立った数値である。後方支援がメインだった自分が、前線に立って活躍することが出来るという大いなる可能性に、喜楽きらくが込み上がってくる。


「四十二万か。俺のオドの量、中々いいと思わないか? なぁアリス……」


 そんなアリスに向かって、嶄然ざんぜんたる数値を出したクザブが殊更ことさら嘲弄ちょうろうしてきた。

 この男、俊異しゅんいだからといって調子に乗りやがって。


「はいはい多い、多いよ。すごいすごい。クっ、ムカつく奴め……」


 アリスは悪態を吐きながら壇上前から退場した。ふと後ろを振り向いてみると、ローレンが見当たらない。彼女は後ろから付いて来ていたクザブに「そういえば、アメニアは?」と、問いかけた。


「あいつは、エンタク様から測定するなって言われて、一足先にここを離れたぜ。俺も神剣がない状態で測定するのは、悪手だと思うからな」


 クザブの復答にアリスは「そうか……」と、呟いた。

 エンタクが広場に居ない理由は、ローレンが居ない理由と重なるものがあるからなのだろう。


 ローレンの今後はどうなるのか。少しだけ心配である。


——数分後、次は警備隊に入隊する予定だった嫩草たちと、傭兵たちに視点が移る。


「三十四万! とうっぜんの結果ね!」


「三十万……」


 金髪碧眼の少女が三十四万。白肌目隠れ少年が三十万。それぞれ名高い声価をもっている傭兵は、二十万を軽々と超える数値を出す。

 嫩草たちはというと、二十万とまではいかないが、十万を超える数値を出す者がほとんどだった。


 声価の無い傭兵たちは、十万を超える者は居ても割合は多くなく、平均は凡そ八万前後という結果になった。

 

 大風おおふう。嫩草たちを子供だからと軽侮していた傭兵たちは、自分達が子供達よりも弱小なのだと、思い知らされることとなった。


 ——数十分後、今度の視点は後から列に並んだハオ達だ。


「さぁて、周りの奴らに、目にもの見せてやろうかな……よっと!」

 

 既にオドの量を測り終えたグーダとケイシュン、リクライ。「先に並んでいいぜ」と余裕綽々に言って、三人の後ろに並んだハオは右手のすそを肩までまくり、オドを込めた。


 いい手応え。機械が少し揺れる。ハオは手を引き抜いて、堂々と仁王立ちで待機した。


——やった! 俺の勝!!


 叩きだされた数値を見て、怡悦いえつな態度をとることなく——いや、瞑目して、鼻の下に指を当てている。怡悦を隠すようなスカした態度だ。

 そして、閉じた右目をチラっと開けて周囲を確認。誰かが反応してくれるのを、肩を高くして待つ。


「おぉ! すげぇガキが現れたぜ!! 五十五万だとよ!!」


「神童だ」「あれが天才って奴なのか」「痺れるぜぇ……」


「ふん、まぁ当然っつうか! 当たり前っつうか!」


 その時が来ると、ハオはやれやれと言いたげに、これでもかとスカした反応をとった。

 傍から見ていたケイシュンとリクライの二人は、


「ぁの野郎……俺達は三十五万だってのによ」「全くだ……あの殊更にスカした態度だけは、どうにかならないものか」


 と衒気っぽいハオに呆れの感情を示していた。

 誇示したくなるのは分かるが、限度というものを知らなさすぎる。才能があっても、まだまだガキなのが玉にきずか。


「まぁ、この中では俺が最強ってことで……異論はねぇよな! てことで、約束通り豚の包子おごりね!」


 壇上前から得意げに退場したハオは、グーダ達三人に鼻を鳴らして告げる。

 仕方ないと首を縦に振ったケイシュンとリクライ。ハオはうんうんと大きく頷く。


「…………? グーダも——ッ」


 ハオは返事の無かったグーダに『返事は?』と言いたげに詰め寄——、


「五十五万ってすげぇなハオ!! 俺はたったの十万だぞ!! 憧れるぜぇ!!」


 衒気っぽいことを気にせず——というかその概念すらなさそうに、グーダはハオの叩きだした数値に純度百パーセントの羨慕せんぼを見せた。


「って、素直に褒めんな! なんかハズいだろ……」


 ハオは今までに見ない反応に、赧顔たんがんしてグーダから顔を逸らしてしまう。

 グーダの隠すことのない、純度百パーセントの羨慕に当てられてしまっては、褒められ慣れていないハオなど、いちころなのであった。

 

「でも、すげぇもんはすげぇぜ!!」


「や、やめろって! 慣れてねぇからあんま褒めんな!!」


 それでも詰め寄って来るグーダを、ハオは顔を更に真っ赤にして突き放す。

 生意気なハオも、純粋な羨慕には弱かった。


「「…………」」


 ケイシュンとリクライは、勿怪もっけの幸いに見合った。

 グーダがハオの歯止め役になるとは。ケイシュンとリクライの二人は、息を漏らして解顔かいがんした。


——十数分後、視点は最後の方に試験を受ける、シュウとミレナに切り替わる。


「さぁて、私の番がやって来たわね!!」


 小さな胸を大きく張り、機械の前に立ったミレナ。その表情はどこか揚揚ようようとしていて、彼女が自信に満ち溢れていることを明瞭にしている。


 よほど自信があるのだろう。無いとは思うが、ミレナの顔が自信から絶望に落ちる所を見て見たくはある。


「僕、思うんですけど、アウリヌスさんより、多分ミレナ様の方がオドの量多いですよ……」


「私もそれは思ったわ。きっとおじさん、赤っ恥かくわよ……」


 ミレナが機械の中に手を突っ込むのを、余所から見ていたフクとセイがひそひそ話をする。

 最上位を併合した魔法を使って尚、オドが枯渇する事のないミレナと、そうでないアウリヌスとで、どちらがオドが多いかなど言うまでもない。


「えい! 大きい数字出ろ!! でろでろ!!」


 それはさておき、ミレナは真剣な顔で魔算機にオドを込めた。

 なにか一瞬、ボコッと機械が膨らみ爆発するかのような音が鳴ったが、気のせいだろう。オドの量が多すぎて、一瞬でも機械が破裂しそうになったなどと、そんな漫画のような展開などあるはずがない。


「あれ……?」


 あるはずが……


「なんか数字じゃなくて、変な、読めない文字が出て来たんだけど……」


 ミレナは不安そうにキョロキョロしながら、助けてほしいとこちらを見つめてきた。


 嫌な予感がする。こういう時の予感と言うのは、高確率で当たるものだ。

 先程の機械の膨らみ。そして出て来た文字化けしたような文字。恐らくだが、ミレナのオドの量が多すぎて、魔算機が誤作動を起こしたのではなかろうか。


「ちょっと待って下さいねミレナ様。今、点検しますね」


 誤作動に気付いたフクが、機械の中から魔算機を取り出して点検を始める。

 何も異常がなかったのか。それから一分ほどの時間が経ったのち、フクは機械の中に魔算機を戻し、自分自身でオドを込め始めた。


 十万。異常なく、数値が出て来た。

 

「必要が無いと思って言わなかったのですが……」


「なになに、まさか私、オドの込め方間違ってた!?」


「そういうことではなくて……」


 申し訳なさそうに見て来たフクに、ミレナは謝るように返す。

 フクは誤解させてしまう発言をしてしまったことで、申し訳なさそうな顔を更に深め、


「実はこれ、まだ試作段階でして……オドの量が多すぎると、誤作動を起こしちゃうんですよね、アハハ」


 どうして誤作動が起こったのかを説明した。最後は思わず苦笑いだ。


「マジ!?」


 びっくり仰天するミレナ。

 やっぱりそうだった。嫌な予感が的中してしまった。


「ほらやっぱり、思った通りだったわ……」


 余所では、セイが駄目だこりゃと、額に手を当ててため息を吐いていた。


「ってことは、私ってアウリヌスよりオドが多いってこと!?」


 びっくり仰天したまま、もう一度こちらを見てくるミレナ。


 オドの量が多すぎると誤作動を起こしてしまう。となれば、オドの量が正確に出て来たアウリヌスとそうではないミレナでは、ミレナの方がオドの量が多いということになる訳だ。


 僅差どころか、誤作動を起こす程の差を付けての圧勝。


「だ、だろうな……」


——こいつ、主人公みたいなことしやがったぁ……


 シュウは顔を引きつらせた。


「「「すげぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」


 周辺にいた大衆が一気にミレナへと押し寄せていく。慌てるミレナを無視して、彼女はあっという間に囲まれ、周りに雑踏ができた。


「ばか、な……」「マジ、かよ……」


 調子に乗っていたアウリヌスとハオは、ミレナの段違いである才能にぽかーんと口を開けて、呆然自失としてしまう。


 ローガは「カカカ!」と笑い、リュウランは兀然こつぜんと無言で固まる。その他の隊長副隊長らも、目を丸くしていた。


——こん中で測定するの、すげぇ嫌なんだけど……


 大衆から弾かれたシュウは、疎外感を感じながら機械の前に立っていた。


「まぁ、当たって砕けろか……」


 頭の後ろをぽりぽりと掻痒そうようしながら、シュウは機械の中に手を突っ込む。

 ここは自暴自棄にはならずに、オドの量はしっかり測定しなければ。そうでなくては、わざわざ来賓席に座ってまで入隊式を見に来た意味がない。


 ここでオドの量を正確に測り、今後の闘いに活かす。


 全力でオドを魔算機へと込めた。

 ここで自分も、ミレナのように——漫画やアニメの主人公のように、魔算機に誤作動を起こさせたいが、まぁ普通に無理だろう。


 機械が少しだけ揺れ、シュウの周りに土煙が舞った。シュウは機械から手を抜く。

 そして数値が出て来る場所を見つめ、深呼吸をして翹望ぎょうぼうする。


 果たして、出て来た数値は。


「お、意外と悪くねぇんじゃ?」


——大衆の結果を見た後でも、そう言えるくらいにはいい結果が出た。




※ ※ ※ ※



 広場の端っこ。気絶した三人の男を、引きずりながら運んでいくシノとギンジの二人がそこにいた。


——役割分けた方がいいか……


「ギンジさん、連絡の方してくれない。アタシがこいつら運んでくから……」


「分かった、じゃあそっちは任せたよ」


 片手で一人ずつ、二人の男を引きずっているギンジに、シノは手を差し出して提案する。ギンジは一度止まった後、引きずっていた二人をどこか嬉しそうにシノに差し出し、へこへこして立ち去った。


「シノさんですか? 一人私に貸してください」


 樹木を足場にしながら、颯爽と移動するギンジ。その彼を見ていたシノに、女性が声を掛けた。

 シノが振り向くと、そこに居たのは紅眼の女性プルウィアだった。彼女の右手には、気絶した騎士の男が。


「あ、はい……お久しぶりです、プルウィアさん」


「お久しぶりです。申し訳ございません。何せ十年も、アンコウエンから離れていたもので……」


 シノは軽く会釈して、十年たっても変わらないプルウィアに挨拶する。対して、プルウィアは忘れてしまいそうになったことを謝って来た。


「大丈夫ですよ。プルウィアさんは、変わらず美しいですね」


 シノはそう言いながら、一人の男をプルウィアに手渡す。


 十年たったら変わってしまう普通の人間である自分と、十年たっても容姿が変わらないヴァンパイアのプルウィアとを比較してはならない。

 忘れられそうになったことに関して、傷つきはしない。


「あら、お世辞が上手くなりましたね、シノさん。心身ともに随分と成長為されたようで……妹さんも、健勝ですか?」


 クスクスと朗笑するプルウィア。

 妹とは、先ほど警備隊に入隊した金髪碧眼の少女のことである。


 来賓席から見ていたが、馬鹿が付くほど元気である。名前はノノチヨだ。


「元気も元気ですよ。アタシは元日で二十六、ノノは十八になります……プルウィアさんを見ると、変わらないのが何だか羨ましく思えてきますね」


「十年ですからね。定命なら仕方のない事です……ですが、老いることも、美しいことですよ? 成長ともいえますし」


「はぁもう、プルウィアさんには敵いませんね」


 時の流れとは残酷なもの。だがそれでもよいと、プルウィアは唇の前で指を立てて、婀娜あだやかに肯定してくる。


 シノはため息を吐いた後、プルウィアを見て微笑んだ。

 十年たっても頼もしいお姉さんのままだ。


「おねぇ様ぁぁぁ!!!」


「はぁ、面倒なのが……」


 すると、耳がキーンとなりそうな甲高い声が響いて来る。今度はネガティブな意味でのため息が零れてしまった。

 どこで、ノノチヨに場所がばれてしまったのだろうか。面倒なのが来てしまった。


「このノノチヨ、おねぇ様と同じ警備隊に入隊することが出来ましたよ! オドの量は三十四万でした!! 褒めてください!! おねぇ様!!」 


「凄いのは分かったから、ノノ、静かにして」


 長い金髪を指先でさらっと靡かせ、ノノチヨは自信満々に胸に手を当てる。

 ぴーちくぱーちく。やはりノノチヨはうるさい。


「ノノチヨさん、お久しぶりです」


「プルウィア様ですね! お久しゅうございます! 変わらずお美しい姿で!」


「あら嬉しい。子供の時から変わらず、健勝のようですね。ノノチヨさんも立派に成長為されたようで、何よりです」


 シノとは打って変わって、プルウィアはノノチヨに嫌な顔をせず婉然えんぜんと応対。微笑んでみせる。


 恥ずかしい。


 子供ならまだしも、ノノチヨは来年成人を迎える大人になる。ぴーちくぱーちく甲高い声でうるさく喋るのは、慎まなくてはいけないというのに。


 性格が自分とここまで違うのは、腹違いだからだろうか。


「ノノ……入隊のお祝いは後にしてあげるから、話は後にしてくれない? こいつらを運ばなきゃいけないの」


「ならばノノチヨもついて行きます! おねぇ様の右手はノノチヨにこそ相応しい役割! 早速、警備隊としての仕事をさせてください!!」


 やる事があると突き放そうとしたシノだが、ノノチヨは寧ろぐいぐいと詰め寄って来る。


「だぁめ。てかノノ、オドの量測ったんだし、アンタは行く場所があるんじゃないの?」


 シノは双眸を燦爛さんらんと輝かせているノノチヨの顔を引きはがし、彼女の唇に指を当てて優しく叱る。

 連れて行きたくないし、そもそも入隊式の後はどの地に配属され、どういった訓練を受けるのかなどの講習があるはずだ。だが、


「何もないですよ」


 返って来たのは何もないという廃忘はいもうしてしまう言葉だった。

 シノは「え? ないの?」と、とぼけた声で訊き返してしまう。


「はい! 集まるのは、二千人分の集計をした後かららしいですよ」


「まぁ、冷静に考えればそうか」


 そうだ、肝心なことを忘れていた。今回の入隊式はアンコウエンに住む嫩草だけでなく、傭兵と騎士も加わっているのだ。

 いつもの三、四倍は数が多くなっている所為で、収拾がつかなくなっている訳だ。


「そうです、シノさん。ノノチヨさんに、尋問の見学をしてもらうと言うのはどうですか?」


 プルウィアが手を叩いて、たちどころにそんなことを言ってしまう。

 当然、ついて行く気満々だったノノチヨは「是非見学したいです!」と、右手を元気よく上げて大賛成だ。

 シノは余計なことを言ってくれたプルウィアに「プルウィアさん!!」と、名前を一度呼んで怒った。


 警備隊に入ったとはいえ、ノノチヨはまだ兵卒へいそつだ。見学でも尋問などまだ早い。段階を踏ませてからでなくてはだめだ。

 それに尋問は、妹に見せられるようなことではない。


「いいではないですか。妹思いなのは分かりますが、ノノチヨさんはもう警備隊の一人。いつまでも子供という訳ではありません。ノノチヨさんの行動を尊重することも、必要なことです。エンタク様だけに頼らず、アンコウエンを安泰に運営していく為にも……」


 正論、図星を突かれてしまった。


 プルウィアが言ったことは、一理どころか二理も三理もある。

 今は『エンタクが出来るだけ早く、長期間外に出られるようにする』という目的があるのだ。


 確かに見学したところで、兵卒のノノチヨに得られるものなど少なくて当然だろう。

 だがその理由で——可愛い妹だからといって全てを否定して、初歩的なことばかりをさせていては、漸進は出来ても、急速な成長にはつながらない。


 プルウィアはそう言いたいのだ。


「先輩後輩、隊長副隊長などの優劣はあれ、我々は同じくアンコウエンを守る者同士。兵卒だからと信頼しないのは、道理に合わないことです。危険などありませんし、許可してあげてください」 


「プルウィアさん……もぉ! 分かりました!!」


 信認することも必要なこと。そう優しく提撕ていせいされたシノは、反論できませんと自棄気味に受け入れた。


「おねぇ様かわい!」


「ノノはうるさい!」


 ポッと頬を赤くしてからかってくるノノチヨに、シノは怫然ふつぜんと怒鳴る。

 本当に調子が狂わされる。プルウィアは寛大というか、磊落らいらくというか何と言うか。ともかく懐が広すぎる。


 シノは首を脱力させ、ため息を吐いた。本日三度目の溜息だ。


「では二人は私が、もう二人はシノさんにお任せしてもよろしいですか?」


「いいですよ。キッチリはかせます」


 異論などなく。シノは二人の首根っこをしっかり掴んで答えた。

 調子は狂わされたが、それはそれとして尋問に支障をきたすつもりはない。とどこおりなく迅速に処理するつもりだ。


「頼もしい事です。それでは……」


「「「ッ!!!」」」


 樹木を足場にして、三人は颯爽と収容施設に向かった。

今回で90万字超えました!

長かった……


そして待望の100万字まであと少し!

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