第4話 入隊式2
突然、壇上前まで歩いてきた謎の四人の男。一人は騎士。他の三人は傭兵である。全員が邪悪で下劣な笑みを浮かべて、エンタクを見ていた。
「どういう意味だ?」
エンタクはそう言って、先頭で跪いている騎士の男に睨みを利かせる。彼女の表情には糸毫の怒りが孕んでいた。
「そのままの意味でございます! 我々は、エンタク様を男性だと思いこの地に招集された身です!」
「見知らぬ、たかが若い娘の命令など、真に受け止められましょうか!? 先程の技も! きっと我々を騙す謀に違いない!!」
「男ですらなく!! ましてや我々よりも若く見える小娘が!! あのような芸当をいとも容易く行えるとは思えません!!」
「そもそも! 女性が頂点に立っていることが不自然なのです!! もしかするとエンタク様は既に逝去していて、たかが偶像に我々は騙されているのかもしれませんぞ!! 皆々様!!」
騎士の男に続き、残り三人の男が詭弁を言い連ねていく。特に、最後に発言した男は立ち上がって、広場の方を見て声高に主張した。
希薄がすぎる根拠。だがそれでも、広場に居るその他大勢は疑念に顔を顰めた。確かにそうかもしれないと。何らかのトリックかもしれないと。
こうなれば言ったもの勝ちだ。広場はまたも喧擾になってしまう。
「あいつら、一体何を?」
「でたぜ、出しゃばりが……」
四人の聊爾な発言に、傭兵であるグレイが立ち上がって四人を見やる。騎士のクザブは座ったまま、お手上げのポーズで呆れていた。
当然の反応と言えよう。エンタクの披露した離れ業の数々を見て尚、見当違いなことを言っている愚か者たち。
冷静に判断できるのならば、グレイのように驚くか、クザブのように呆れるか、それに後は、
「あの子たち、急に何を言って!!」
立ち上がったミレナのように色然と怒るのが大概だろう。
「…………」
彼女の横で座っているシュウは三者三葉の理とは違う、深思の反応をとっていた。
前に立っている四人は、本当にただの馬鹿なのだろうか。
実際、アンコウエンで魔獣達が操られてしまった過去もある。件の四人も操られている可能性は否定できない。できないのだが、
「ぐへへへ」「うひひひ」「クカカカ」「ぬべべべ」
どうにもそうは思えないのが、シュウの結論であった。
四人とも、目に生気が宿って——というか、エンタクの容姿を見て、隠す気もなく目をギラギラさせ、これでもかと鼻の下を伸ばしている。
ただ己の衝動に従っているだけの馬鹿にしか見えない。
到底、操られているとは思えない、品性の欠片も無い浅劣な人物であるという根拠が、四人の表情にあった。
傭兵ならまだしも『謹厳実直』『清廉潔白』の象徴である騎士がこの醜態。シュウには呆れ以外の感情が湧いてこない。
「ちょっと私、あいつらに一言言って!?」
「ミレナ」
ムッとした顔で、壇上前に歩いて行こうとしたミレナの手をシュウは掴み、
「わぁ!?」
引き戻して椅子に座らせた。
「気持ちは分かるが、ここはエンタクに任せよう」
「なんでよ! 仲間があんな疑い方されてるのに、ムカつくじゃない! あぁいうやつは、一言言って分からせてやらないと!!」
座らせたミレナにシュウはそう言う。対し、ミレナはムッとしたままの顔でありながらも、シュウの言葉をしっかりと傾聴。その上で、ぷんぷんと人差し指を立てて反論してくる。
一言どころか、身を以って分からせてやるべきだが、
「だったら尚更だ」
「もう! どういう意味!?」
「一番ムカついてるのは俺達じゃなく、本人なのに疑われてるエンタクだろ……?」
それをやるべきはエンタクだと答える。
頬をリスのように膨らませていたミレナは、シュウの諭しに「それは、そうだけど……」と、熱を冷ますように頬から空気を吐き出した。
天真爛漫な性格だが、なんだかんだ言って年の功が滲み出てしまうのがミレナである。
シュウは一度エンタクを見て「なら、一言言ってやるならエンタクだ」と言う。それから「それに……」と言って、ミレナに視線を戻し、
「大衆の前で自分がエンタクだって証明できたら、アイツら以外に疑ってた奴らも、信じざるを得なくなる。そうだろ?」
仲間のエンタクを信じろと、彼女の目を見て言った。
ここで自分達が出て行って問題を解決すれば、有耶無耶にされたと不満に思う者が出てきてしまう。
これではエンタクの名誉に関わる。それは避けたい。
そもそも、エンタクがあの男達に負けるとは思えない。彼女がエンタク本人であることも然り。例え証明のやり方が分かっていなくても、それだけは確信できる。
ミレナは数瞬だけ間を置いた後、余憤が混じっていた目を閉じ「そうね」と相槌を打つ。そして、
「シュウの言う通りだわ……ごめん、考えなしで」
普段通りの翠眼に戻し、少し悔悟した表情で謝った。
「謝る必要はねぇよ……ムカついたのは俺も同じだ」
シュウはミレナにそう告げ、エンタクと壇上前に立つ男達を見た。
エンタクが一番怒っていると言ったが、恐らく彼女はそこまで怒ってはいないだろう。品性の欠片も無い男達を見たエンタクの顔色が、如実にしている。
仮に怒ったとしても疑われた瞬間だけ。以降は呆れの感情が占めているはずだ。
「ふむ、分かっておるようで何よりじゃ、坊主」
シュウは隣に座っているローガに呼ばれ「じぃさん……」と振り向いた。
その顔はどこか誇らかな表情で、衒気っぽくてちょっとうざったい。
ローガは一言「ミレナ様」と呼び、彼女が振り向くと、何やら話し始めた。
「心配せずとも、エンタク様が全て収めてくれます。何せ、神将を超える紅蓮の神仙と呼ばれしお方。あぁいう輩を、反掌にいなしていらっしゃるからこそ、今があるのです」
「もう、分かってる。ローガはすぐ講釈を垂れようとするんだから。エンタクが言ってたわよ、そういうの中高年病だって」
ミレナの心を抉るか抉らないかの瀬戸際にある指摘に、 ローガは誇らかな顔のまま「えッ」と、声を漏らした。
今の『えッ』は、いつも飄々としているローガから発せられるとは思えない『えッ』であった。
具体的に言うとガチめの『えッ』だ。
言った後に固まった誇らかな顔も相まって、ミレナの指摘が盲点であり、確実にローガの心を抉ったことを証明していた。
シュウは気になって「なんだそれ?」とミレナに借問する。
「聞いてないのに、何でもかんでも講釈を垂れたがる悪癖だってさ」
彼女のオブラートに包む気のない答弁に、シュウは絶妙な顔で「すっげぇ辛辣……」と口にした。
中高年病。語呂的にも中二病の派生語といったところか。
知識や知恵を蓄えた者として、若い者や寡聞な者に善意で教訓を与えようとするのが年長者の性。まぁそれを余計なお世話と言われれば、それで終いなのだが。
歴史が繰り返すことを、その目で見てきたエンタク。常人とは言うことが一味も二味も違う。流石だ。
シュウはそれを真っ向から言われたローガを見た。
その固まっていた顔は、心なしか切ない顔に変わっている。何だかローガの悲しい気持ちが察せられて、憐察してしまう。
「はは、か、カカカカ! これは一本取られましたなぁ!」
ローガは皮肉を丸出しで呵々した。
——そんなことはさておき、視点はエンタクに変わる。
「貴様ら!! 一体何を!!!?」
リュウランは苛立ちを湛え、右手から疾風を放ちながら四人に詰め寄ろうとした。そこに、エンタクは宙に浮かんで「いい、リュウラン……」と、両者の間に割って入る。
「エンタク様!? 何故!?」
「あぁいう馬鹿は、痛い目に合わなければ分からない。何より、この公の場で分からせることができれば、他の馬鹿たちの抑止にもなる」
止められた理由が分からないリュウラン。その彼に、エンタクは冷然と他人事のようにそう言った。
「しかし!!」
憤慨を抑えられずにいるリュウラン。敬重している者が本人なのかを疑われ、重ねて女性蔑視すらもされてしまったのだ。
従者であるのであれば、憤慨して当然だ。
「いいから、僕のいうことを黙って聞け……分かったな」
そのことをエンタクが理解していない訳もなく。彼女はそれを知った上で、理由があるとリュウランを抑える。リュウランはエンタクの威圧に「はい! わ、分かりました!!」と、怒りを恐懼へ一変——両前足を上げて懾伏した。
エンタクは意気消沈したリュウランをよそ目に、宙から降りて壇上に立つ。
そして四人を物理的に見下した状態で、
「今の発言! 領主であり神人でもある僕への侮辱であると、分かってのことか!?」
広場の者達にも聞かせるように大声で、男達に威脅の言葉を浴びせた。
「————貴方こそ! 偽物と言われて焦っているのでは!?」
騎士の男は「チッ!」と、小さく舌打ちした後、そのままエンタクに反言する。
流石、大衆の前で本人かどうかを狐疑してきただけはある。たかが威脅で、尻込みするような輩ではないようだ。
「そうか! 相分かった!! ならば僕がエンタクであると証明できた際は、公然と流言飛語を吹聴した者として、極刑に処す! 神を主とする国で、その神の血を多く引く神人を侮辱したのだ!! 異論は不可能だと知れ!!」
何が目的かを考えるのは後回しにして、エンタクは徹底的に舌戦することに決めた。
「当然です!! 却って引き下がれない発言をしたこと、後悔するのです!!」
大衆はエンタクと四人の男達との舌戦に、いつの間にか固唾を飲み、広場は両者の声だけが響いていた。
「では、僭越ながら! 先ほどの貴方の発言、自分よりも立場の低い者、或いは能力の低い者の命令を、真に受け止められるか、という言葉! ごもっともだと思います!!」
「そしてエンタク様は、神将を超える兵だとお聞きします!」
「ですので! 先程の言葉に則り! 我々と、この場で真剣勝負を願いませぬか!? 本当の兵ならば、我々と一騎打ちしたとしても、なんら問題はないはずです!」
「我々に勝てば! 貴方が本物のエンタク様だと、ここにいる全ての者が納得するでしょう!!」
事前準備でもしていたのか、先刻と同じ順番で発言していく男達。
ここに来て、清々しい程の真剣勝負。エンタクは心中で驚愕していた。
常人には到底不可能な技を目の当たりにしたのにも関わらず、舌ではなく力で本人証明をさせようとは。
エンタクの見立てでは、アルヒストの歴史や政治といった、領主であり神人であるならば知っていて当然の知識だったり、魔刻印による押印、歴史的な建造物や遺産などによる証明だと思っていたのだ。
それが真剣勝負。本当にただの馬鹿なのか。どうにも引っ掛かる。
ただ、この好機をみすみす見逃す必要もない。
「いいだろう!! 手っ取り早くて都合がいい!!」
「「「感謝します! 二枚舌だと証明してみせましょう!!!」」」
エンタクはその勝負を承諾。四人は謝意を伝えると立ち上がった。
エンタクは壇上から飛び降り、四人と同じ場所に立つ。
「では私から! 僭越ながら、真剣勝負の形式はこちらが決めさせていただきます!」
「構わない。そっちの方が、僕が勝った際に周囲も納得がいくだろう」
先頭に立つ騎士の言葉にエンタクは即答する。
この程度の男ならフラグではなく、ありとあらゆる形式でも負けないだろう。当然、自負ではなく事実としてだ。
「…………試合の形式は、先に一撃を決めた方が勝とさせていただきます」
「分かった」
「隠し武器はなし。そして使う武器は一つ、魔法は下位でお願いします」
「早くやり合え!!」「そうだそうだ!」「こちとら、お前等に出鼻を挫かれてんだぞ!!」
広場が盛り上がる中、エンタクは二度目の返事をしない。
ルールを追加するとは、こちらのことをある程度警戒してのことだろう。無計画ではないが、無謀な行動にますます無理解が募る。
何かしらの裏があると、留心しておいてもいいかもしれない。
「私はこの剣で」
「僕は武器を使わん」
引き抜いた剣を仰々しく空に掲げる騎士の男。それとは対照的に、エンタクは腰に手を当てた状態であっけらかんと称述した。
騎士の男は理解できなかったのか「は? 今何と?」と目を見開き、口を小さく開けた状態で固まった。
「だから武器は使わん」
「一体どういう、舐めるのも——」
「宣言する! 僕はお前の右耳たぶを狙う!!」
同じ佇まいで同じことを言ったエンタクに、騎士の男は激怒して叫ぼうとした。が、エンタクはそれを上から叩き伏せるように勁悍に宣言する。
「流石神人様だ!! 言うことが違う!!」「女性だからって舐めてんじゃねぇぞ!! お前等!!」「負けちまうぞ!! 男の癖によぉ!!」
広場はその宣言で、完全にエンタク側へと付いた。
失言の揚げ足を取られる気分は屈辱だろう。自業自得ではあるから、同情は全く湧いてこない。
「本当に、武器は使わなくてよろしいのですね!?」
「当然だ。二言はない」
「では、三、二、一、始めで、開始の合図とさせていただきます!」
エンタクが泰然自若と答えると、騎士の男は剣を胸の前にまで上げ、刀身を横に。オドを剣に込めていく。精神統一する男の真剣な顔が、刀身に映る。
対するエンタクは、腰から手を降ろすだけで構えない。
それがまた、騎士の男を激怒させたのか、オドがエンタクに向かって放たれる。
騎士の男は刺突の構えをとった。
不可視。騎士の男が剣を右手に持っている都合上、エンタクが狙う右耳たぶは死角になっている。
狙うならば、騎士の男が刺突攻撃をした後でなければならない。先に攻撃を当てる真剣勝負。宣言とは違う場所を狙ってもいいが。
果たして、エンタクはどうするのか?
——須臾だけ騎士の男に視点が移る。
男の狙いは二段構え。先手必勝の突き攻撃と、オドを込めた剣を囮にした、左手での風魔法攻撃である。
——大衆の前で、右耳たぶを狙うと宣言したことを呪うがいい。
その清雅な服をここで引きはがし、殊色を汚して醜態を晒させてやる。女に従うなど我慢ならない。
——あれ?
その泰然とした態度、表情、腹が立つ。
——どうして俺は、ここまでこの女に恨みを抱いて……
『ケケ、何を言っているんだ。女がムカつくんだろ? 女の命令なんか聞けないんだろ? ならば殺せ。殺して証明しろ! 男の方が優秀であるということをな!!』
——そうだ。その通りだ。
どこからともなく聞こえて来た唆しに、冷静になろうとした男の思考が再熱する。
——殺しころしころしころし! 殺してやる!! ころしてやるぅぅぅぅぅ!!!
「三、二、一」
カウントが始まる。
「始め!! はぁッ!?!?!?!?」
騎士の男が右脚に力を入れ、地面を蹴りつけエンタクに突進し——、
「「「ッ!?!?」」」
その時。エンタクの姿が男の目の前から消えた。それとほぼ同時に後ろから、細い何かが騎士の男の右耳たぶに向かって走る。
「いづっぅ!? 何が!?」
急な痛みに膝を付く騎士の男。男は痛みの発生源——右耳たぶに触れた。
「え…………?」
そこにはいつの間にか、火傷跡が残っていたのだ。
いつの間に、攻撃されたことに気付かなかった。
——それに、消えたエンタクは一体どこに?
「宣言通り、右耳たぶを魔法で狙ってやった。僕の勝だな」
——彼女は右手の人差し指を前に突き出し、騎士の男の背後に立っていた。
エンタクが何をしたのか講釈しよう。
彼女は騎士の男が刺突し切るよりも前に後ろへ回り込み、宣言通りに右耳たぶを火の針で貫いたのだ。
その証拠に、今エンタクが居る地面から、先ほどエンタクが居た地面にかけて、移動したであろう抉れた足跡が出来ている。
狙うならば、騎士の男が刺突攻撃をした後でなければならないと、誰が言ったか。物事に例外とはつきものである。
——視点はエンタクに帰って来る。
「「「すげぇェェェェ!!!」」」
エンタクの勝利に歓声が上がった。
「すごいわ!」
「あぁ、流石エンタクだ!」
シュウの腕に抱き着くミレナと、それを笑って返すシュウ。
二人以外の、エンタクが本人だと分かっていたグレイやクザブ達も、彼女の勝利に声を上げた。
「フ、不正だ!!! 不正をしたに違いない!!!」
「おいおい! そりゃねぇぜ!!」「そうだぞ!! 流石に見苦しいぜ!!」
剣を地面に投げ捨てて、騎士の男が歓声の中でも響き渡る程の声で激昂した。だが、そんな往生際の悪い言い訳など大衆は聞く耳を持たない。
「クソ! このままで終われっかよ!!」「ブチ分からせてやる!!」「女風情が、調子に乗るな!!」
騎士の男が「クソ! あり得ない!!」と負け腹を立てる中、傭兵の男達が怒火を振りまきながら詰め寄って来る。
エンタクは「ふぅ」と憮然とため息を吐き、
「さっきの勝負で、もう充分証明できたと思うんだがな……それでもやるのか?」
無益なことはする必要が無いと、語気を強くして傭兵の三人を見る。だが傭兵たちにとっては売り言葉に買い言葉。
三人は「当然だ!!」と、納めていた剣を次々に引き抜いた。
「卑賎だな……何かしらの目的があって、僕に真剣勝負を挑んできたんだろうけど……恥を雪ぐことが目的になってる自覚、ある?」
「黙れ! 試合のルールはどちらかが意識を失うまでだ! さっきみたいな小細工は通用しないぞ!!」
「馬鹿らしい。三人同時に掛かって来い」
見飽きたやり取りに、エンタクは言葉だけでなくジャスチャーでも『来い』と言う。
「その減らず口、叩き直してやる!!」
「はいはい……」
酒然たる態度のエンタクに向かって、傭兵の三人は一人ずつ順番に走り出した。
推察するに、彼らの策略は、攻撃を避けた後隙を狙うといったところだろう。
なに、何の問題もない。
「へブッ!?」
——一気に、
「うげぇ!?」
——乾坤炎輪で、
「アバァ!?」
——気絶させるのみ。
傭兵の三人が切りかかる暇もなく、エンタクは頓に出現させた乾坤炎輪で、背後から首を一撃。
残像が生まれる程の目にも止まらぬ速さで気絶させた。
「はい終わり……」
盛り上がりが最高潮に達する中、走る勢いを殺せぬまま転がって来る三人の首根っこを、エンタクはパパパッと掴んで捕らえる。彼女はそれらを右手一つでくるくる回し、来賓席の前に投げ飛ばした。それから、
「シノ、ギンジ。一応、裁判官に判断は任せるけど、多分そいつら終身刑だから、収監して、何の目的でやったのか尋問しといていいよ。あと法曹協会の支部に連絡もね……」
シノとギンジに事後処理を任せた。
二人を選出した理由は、恐ろしい程に教えるのが下手だからである。
感覚派のシノはシンプルに下手で、ギンジは性格の所為で教わる側がダレてしまうのだ。
それでも隊長副隊長に就いているのは、実力が突き抜けているからだ。
「「分かりました」」
咳から立ち上がった二人は、気絶した三人の傭兵を引きずっていく。
残りの一人。騎士の男はと言うと、
「クソ、クソクソクソ! 女に、女如きにッ!」
膝と両手を地面について、未だに負け腹を煮えたぎらせていた。
男の目に、先ほど投げ捨てた剣が映る。男は息を荒らしながら剣を握りしめ、オドを込めた。
刃が剣呑に光る。
エンタクの身体がピクリと微動した。
「殺してやる! 殺し! 殺し殺し殺し!——」
目に赤い血管を浮かび上がらせ、唾をまき散らせながら立ち上がる男。その右手に持たれた剣から、風魔法がエンタクの無防備な背中に——、
「おっと、そこまでだ」
放たれる前に、アウリヌスが騎士の男の右手を掴んで抑えた。
分身ではない。椅子の上に彼の姿はなく、瞬目で男の前まで移動したのだ。
「貴様誰だ!? は! はなせ!!」
「誰だって関係はねぇだろうさ! お前さんが今やろうとしたことは、殺人だ! 神人のエンタク様を殺そうとしたんだ!!」
騎士の男はアウリヌスの手を振り払おうと暴れ出す。が、アウリヌスはそれを諸ともせず、男の右手を背中に回させて俊敏に拘束した。
「神人を侮辱し、剰え殺そうとした! これは未遂だろうと死刑以上の罪。人権剥奪まっしぐらだ!」
「テロ行為、又は甚だ悪質な犯罪に抵触したのが顕著だった場合、裁判による裁判官の判断無しで、人権剥奪の判断をすることが可能である……この言葉の意味、分かりますか?」
すると、彼の隣に座っていた同じ紅眼の男女二人が席から立ち上がり、拘束された男の前に立った。
その見た目は短髪の好青年と、長髪でスタイルの良い女性である。
「貴方は終わりということです」
「ひっ!?」
紅眼の女性の言葉に、男は自身の最後を明察したのか。その顔を慄然としたものにする。
紅眼の女性が男を見下ろし、右足を強く地面に叩きつけると、
「地面から急に、なんか出て来たぞ!?」「しかも赤ぇ!」「血の球体か!?」
突然、叩きつけられた地面から赤い液体が噴き出す。そして球体となって男を包み、宙に浮いた。
大衆が驚きながら言った推理通り、その赤い球体は血で構成されている。
紅眼の女性の傑出能力である。
紅眼の女性がその球体に触れ、何かをしようとした時、
「プルウィア、そいつは殺さず、僕が気絶させた男達と一緒に収監しといて……」
エンタクはその何かを——即刻処刑することを止めた。
「理由をお伺いしても?」
「勘だよ、ただのね」
エンタクは紅眼の女性——プルウィアと呼んだ女性の質問に包み隠さず、根拠はないと報答した。
殺そうとしてきた男の行動が、どうにも不自然だったのだ。情動とはいえ、負け腹だけで他人を殺そうとするのか、という疑念だ。
何より、怒火の仕方が異常だった。まるで誰かに唆かされたかのような何か。
目に血管を浮かべていたことといい、唾をまき散らしていたことといい。およそ理性と言えるものが欠落していたのだ。
とはいえただの疑念。されど、疑わしいなら調べる価値はある。
「承知しました。殺さず、収監したのち、尋問します」
プルウィアは赤い球体から手を離し、解除。中から白目を向いて、意識を失った男が出て来た。
——紆余曲折あったが、エンタクの圧勝である。
後味はいまいちだが、ともかく、自分がエンタク本人かどうかを疑ってくる者は出てこないだろう。
「これで分かったはずだ! エンタク様のお力が!! そして、お前達の力など今の男達と何ら変わらんということが!! あっても誤差に過ぎんということがな!! 俺様はエンタク様の従者アウリヌスだ!! エンタク様とリュウラン殿を除けば、この場で最強の男である!!」
一件落着すると、アウリヌスが両手を上げ、広場に居る大衆に向かって声高に宣言する。エンタクとリュウランを除けば最強。その言葉に嘘偽りはない。ただ、それだけでは言葉不足とも言え、
「ここでその宣言はずるすぎるよ! クソ父さん!」
「その通りです。万全ではそうかもしれませんが、私たちとの力量差は、その日の体調で埋まる程度のもの……煙草で臭い上に、見栄も張るとは……より一層見損ないました、クソ父上」
調子に乗った発言をした父アウリヌスの姿を、彼の子供である二人は辛辣に非難した。
アウリヌスの強さの指標がA+ならば、子供の二人はAだ。同じランクなのである。
嘘を吐かずに見栄を張るアウリヌスの狡猾さに、子供の二人は引き気味の顔で見る。
それを知っているエンタクも内心『うわっ』と、引き気味の感想を抱いていた。
十年間、見知らぬ世界でもまれ過ぎて、内清外濁ではなく内も濁ってしまったのではないだろうか。
「うるさい、今は少し黙ってろ!!」
不要 (アウリヌスにとって) なツッコミに、アウリヌスは勘弁してほしそうにツッコミ返す。
「いいか!! 優秀な者はエンタク様に直接稽古を付けてもらえる!! 有象無象のお前らが、エンタク様に稽古を付けてもらえる可能性があるのだ!! それだけで幸運だと思え!!」
やり取りを些事で終わらせると、アウリヌスは咳ばらいをして軌道修正。大衆には威厳を保ったままで、最後の仕上げを終えた。
エンタクも『まぁ、どうでもいいか』と切り替えて、壇上に飛び乗った。そして、
「これで入隊式は終了だ!! 横やりが入った所為で出鼻を挫かれたが、 これからオドの量を測る試験を行う!! 全員、列に並ぶのだ!!」
入隊式にピリオドを打った。
あらすじがころころ変わっちゃって申し訳ございません。
迷走中です。




