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アンリーズナブル  作者: 犬犬尾
第三章 絶対ルマティ教社会主義国 ルマティア
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第4話 入隊式2

 突然、壇上前まで歩いてきた謎の四人の男。一人は騎士。他の三人は傭兵である。全員が邪悪で下劣な笑みを浮かべて、エンタクを見ていた。


「どういう意味だ?」


 エンタクはそう言って、先頭で跪いている騎士の男に睨みを利かせる。彼女の表情には糸毫しごうの怒りが孕んでいた。


「そのままの意味でございます! 我々は、エンタク様を男性だと思いこの地に招集された身です!」


「見知らぬ、たかが若い娘の命令など、真に受け止められましょうか!? 先程の技も! きっと我々を騙すはかりごとに違いない!!」


「男ですらなく!! ましてや我々よりも若く見える小娘が!! あのような芸当をいとも容易く行えるとは思えません!!」


「そもそも! 女性が頂点に立っていることが不自然なのです!! もしかするとエンタク様は既に逝去せいきょしていて、たかが偶像に我々は騙されているのかもしれませんぞ!! 皆々様!!」


 騎士の男に続き、残り三人の男が詭弁を言い連ねていく。特に、最後に発言した男は立ち上がって、広場の方を見て声高に主張した。

 

 希薄がすぎる根拠。だがそれでも、広場に居るその他大勢は疑念に顔をしかめた。確かにそうかもしれないと。何らかのトリックかもしれないと。

 こうなれば言ったもの勝ちだ。広場はまたも喧擾になってしまう。


「あいつら、一体何を?」


「でたぜ、出しゃばりが……」


 四人の聊爾な発言に、傭兵であるグレイが立ち上がって四人を見やる。騎士のクザブは座ったまま、お手上げのポーズで呆れていた。

 当然の反応と言えよう。エンタクの披露した離れ業の数々を見て尚、見当違いなことを言っている愚か者たち。


 冷静に判断できるのならば、グレイのように驚くか、クザブのように呆れるか、それに後は、


「あの子たち、急に何を言って!!」


 立ち上がったミレナのように色然しょくぜんと怒るのが大概だろう。


「…………」


 彼女の横で座っているシュウは三者三葉の理とは違う、深思の反応をとっていた。


 前に立っている四人は、本当にただの馬鹿なのだろうか。

 実際、アンコウエンで魔獣達が操られてしまった過去もある。件の四人も操られている可能性は否定できない。できないのだが、


「ぐへへへ」「うひひひ」「クカカカ」「ぬべべべ」


 どうにもそうは思えないのが、シュウの結論であった。

 四人とも、目に生気が宿って——というか、エンタクの容姿を見て、隠す気もなく目をギラギラさせ、これでもかと鼻の下を伸ばしている。


 ただ己の衝動に従っているだけの馬鹿にしか見えない。


 到底、操られているとは思えない、品性の欠片も無い浅劣せんれつな人物であるという根拠が、四人の表情にあった。

 傭兵ならまだしも『謹厳実直』『清廉潔白』の象徴である騎士がこの醜態。シュウには呆れ以外の感情が湧いてこない。


「ちょっと私、あいつらに一言言って!?」


「ミレナ」


 ムッとした顔で、壇上前に歩いて行こうとしたミレナの手をシュウは掴み、


「わぁ!?」


 引き戻して椅子に座らせた。

 

「気持ちは分かるが、ここはエンタクに任せよう」


「なんでよ! 仲間があんな疑い方されてるのに、ムカつくじゃない! あぁいうやつは、一言言って分からせてやらないと!!」


 座らせたミレナにシュウはそう言う。対し、ミレナはムッとしたままの顔でありながらも、シュウの言葉をしっかりと傾聴けいちょう。その上で、ぷんぷんと人差し指を立てて反論してくる。


 一言どころか、身を以って分からせてやるべきだが、


「だったら尚更だ」


「もう! どういう意味!?」


「一番ムカついてるのは俺達じゃなく、本人なのに疑われてるエンタクだろ……?」


 それをやるべきはエンタクだと答える。

 頬をリスのように膨らませていたミレナは、シュウの諭しに「それは、そうだけど……」と、熱を冷ますように頬から空気を吐き出した。


 天真爛漫な性格だが、なんだかんだ言って年の功が滲み出てしまうのがミレナである。


 シュウは一度エンタクを見て「なら、一言言ってやるならエンタクだ」と言う。それから「それに……」と言って、ミレナに視線を戻し、


「大衆の前で自分がエンタクだって証明できたら、アイツら以外に疑ってた奴らも、信じざるを得なくなる。そうだろ?」


 仲間のエンタクを信じろと、彼女の目を見て言った。

 ここで自分達が出て行って問題を解決すれば、有耶無耶にされたと不満に思う者が出てきてしまう。

 これではエンタクの名誉に関わる。それは避けたい。


 そもそも、エンタクがあの男達に負けるとは思えない。彼女がエンタク本人であることも然り。例え証明のやり方が分かっていなくても、それだけは確信できる。


 ミレナは数瞬だけ間を置いた後、余憤よふんが混じっていた目を閉じ「そうね」と相槌を打つ。そして、


「シュウの言う通りだわ……ごめん、考えなしで」


 普段通りの翠眼に戻し、少し悔悟した表情で謝った。


「謝る必要はねぇよ……ムカついたのは俺も同じだ」


 シュウはミレナにそう告げ、エンタクと壇上前に立つ男達を見た。

 エンタクが一番怒っていると言ったが、恐らく彼女はそこまで怒ってはいないだろう。品性の欠片も無い男達を見たエンタクの顔色が、如実にしている。


 仮に怒ったとしても疑われた瞬間だけ。以降は呆れの感情が占めているはずだ。


「ふむ、分かっておるようで何よりじゃ、坊主」


 シュウは隣に座っているローガに呼ばれ「じぃさん……」と振り向いた。

 その顔はどこか誇らかな表情で、衒気げんきっぽくてちょっとうざったい。


 ローガは一言「ミレナ様」と呼び、彼女が振り向くと、何やら話し始めた。


「心配せずとも、エンタク様が全て収めてくれます。何せ、神将を超える紅蓮の神仙と呼ばれしお方。あぁいう輩を、反掌はんしょうにいなしていらっしゃるからこそ、今があるのです」


「もう、分かってる。ローガはすぐ講釈を垂れようとするんだから。エンタクが言ってたわよ、そういうの中高年病だって」


 ミレナの心を抉るか抉らないかの瀬戸際にある指摘に、 ローガは誇らかな顔のまま「えッ」と、声を漏らした。

 今の『えッ』は、いつも飄々(ひょうひょう)としているローガから発せられるとは思えない『えッ』であった。


 具体的に言うとガチめの『えッ』だ。

 言った後に固まった誇らかな顔も相まって、ミレナの指摘が盲点であり、確実にローガの心を抉ったことを証明していた。


 シュウは気になって「なんだそれ?」とミレナにしゃもん問する。


「聞いてないのに、何でもかんでも講釈を垂れたがる悪癖だってさ」


 彼女のオブラートに包む気のない答弁に、シュウは絶妙な顔で「すっげぇ辛辣……」と口にした。

 中高年病。語呂的にも中二病の派生語といったところか。


 知識や知恵を蓄えた者として、若い者や寡聞な者に善意で教訓を与えようとするのが年長者の性。まぁそれを余計なお世話と言われれば、それで終いなのだが。

 歴史が繰り返すことを、その目で見てきたエンタク。常人とは言うことが一味も二味も違う。流石だ。


 シュウはそれを真っ向から言われたローガを見た。

 その固まっていた顔は、心なしか切ない顔に変わっている。何だかローガの悲しい気持ちが察せられて、憐察れんさつしてしまう。


「はは、か、カカカカ! これは一本取られましたなぁ!」


 ローガは皮肉を丸出しで呵々(かか)した。

 

——そんなことはさておき、視点はエンタクに変わる。


「貴様ら!! 一体何を!!!?」


 リュウランは苛立ちを湛え、右手から疾風を放ちながら四人に詰め寄ろうとした。そこに、エンタクは宙に浮かんで「いい、リュウラン……」と、両者の間に割って入る。


「エンタク様!? 何故!?」


「あぁいう馬鹿は、痛い目に合わなければ分からない。何より、この公の場で分からせることができれば、他の馬鹿たちの抑止にもなる」


 止められた理由が分からないリュウラン。その彼に、エンタクは冷然と他人事のようにそう言った。


「しかし!!」


 憤慨を抑えられずにいるリュウラン。敬重けいちょうしている者が本人なのかを疑われ、重ねて女性蔑視すらもされてしまったのだ。

 従者であるのであれば、憤慨して当然だ。


「いいから、僕のいうことを黙って聞け……分かったな」


 そのことをエンタクが理解していない訳もなく。彼女はそれを知った上で、理由があるとリュウランを抑える。リュウランはエンタクの威圧に「はい! わ、分かりました!!」と、怒りを恐懼きょうくへ一変——両前足を上げて懾伏しょうふくした。


 エンタクは意気消沈したリュウランをよそ目に、宙から降りて壇上に立つ。

 そして四人を物理的に見下した状態で、


「今の発言! 領主であり神人でもある僕への侮辱であると、分かってのことか!?」


 広場の者達にも聞かせるように大声で、男達に威脅いきょの言葉を浴びせた。


「————貴方こそ! 偽物と言われて焦っているのでは!?」


 騎士の男は「チッ!」と、小さく舌打ちした後、そのままエンタクに反言する。

 流石、大衆の前で本人かどうかを狐疑してきただけはある。たかが威脅で、尻込みするような輩ではないようだ。


「そうか! 相分かった!! ならば僕がエンタクであると証明できた際は、公然と流言飛語を吹聴した者として、極刑に処す! 神を主とする国で、その神の血を多く引く神人を侮辱したのだ!! 異論は不可能だと知れ!!」


 何が目的かを考えるのは後回しにして、エンタクは徹底的に舌戦することに決めた。


「当然です!! かえって引き下がれない発言をしたこと、後悔するのです!!」


 大衆はエンタクと四人の男達との舌戦に、いつの間にか固唾を飲み、広場は両者の声だけが響いていた。


「では、僭越ながら! 先ほどの貴方の発言、自分よりも立場の低い者、或いは能力の低い者の命令を、真に受け止められるか、という言葉! ごもっともだと思います!!」


「そしてエンタク様は、神将を超える兵だとお聞きします!」


「ですので! 先程の言葉に則り! 我々と、この場で真剣勝負を願いませぬか!? 本当の兵ならば、我々と一騎打ちしたとしても、なんら問題はないはずです!」


「我々に勝てば! 貴方が本物のエンタク様だと、ここにいる全ての者が納得するでしょう!!」


 事前準備でもしていたのか、先刻と同じ順番で発言していく男達。


 ここに来て、清々しい程の真剣勝負。エンタクは心中で驚愕していた。

 常人には到底不可能な技を目の当たりにしたのにも関わらず、舌ではなく力で本人証明をさせようとは。


 エンタクの見立てでは、アルヒストの歴史や政治といった、領主であり神人であるならば知っていて当然の知識だったり、魔刻印による押印、歴史的な建造物や遺産などによる証明だと思っていたのだ。


 それが真剣勝負。本当にただの馬鹿なのか。どうにも引っ掛かる。

 ただ、この好機をみすみす見逃す必要もない。


「いいだろう!! 手っ取り早くて都合がいい!!」


「「「感謝します! 二枚舌だと証明してみせましょう!!!」」」


 エンタクはその勝負を承諾。四人は謝意を伝えると立ち上がった。

 エンタクは壇上から飛び降り、四人と同じ場所に立つ。


「では私から! 僭越ながら、真剣勝負の形式はこちらが決めさせていただきます!」


「構わない。そっちの方が、僕が勝った際に周囲も納得がいくだろう」


 先頭に立つ騎士の言葉にエンタクは即答する。

 この程度の男ならフラグではなく、ありとあらゆる形式でも負けないだろう。当然、自負ではなく事実としてだ。


「…………試合の形式は、先に一撃を決めた方が勝とさせていただきます」


「分かった」


「隠し武器はなし。そして使う武器は一つ、魔法は下位でお願いします」


「早くやり合え!!」「そうだそうだ!」「こちとら、お前等に出鼻を挫かれてんだぞ!!」


 広場が盛り上がる中、エンタクは二度目の返事をしない。

 ルールを追加するとは、こちらのことをある程度警戒してのことだろう。無計画ではないが、無謀な行動にますます無理解が募る。

 何かしらの裏があると、留心しておいてもいいかもしれない。


「私はこの剣で」


「僕は武器を使わん」


 引き抜いた剣を仰々しく空に掲げる騎士の男。それとは対照的に、エンタクは腰に手を当てた状態であっけらかんと称述した。

 騎士の男は理解できなかったのか「は? 今何と?」と目を見開き、口を小さく開けた状態で固まった。


「だから武器は使わん」


「一体どういう、舐めるのも——」


「宣言する! 僕はお前の右耳たぶを狙う!!」


 同じ佇まいで同じことを言ったエンタクに、騎士の男は激怒して叫ぼうとした。が、エンタクはそれを上から叩き伏せるように勁悍けいかんに宣言する。


「流石神人様だ!! 言うことが違う!!」「女性だからって舐めてんじゃねぇぞ!! お前等!!」「負けちまうぞ!! 男の癖によぉ!!」


 広場はその宣言で、完全にエンタク側へと付いた。

 失言の揚げ足を取られる気分は屈辱だろう。自業自得ではあるから、同情は全く湧いてこない。


「本当に、武器は使わなくてよろしいのですね!?」


「当然だ。二言はない」


「では、三、二、一、始めで、開始の合図とさせていただきます!」


 エンタクが泰然自若たいぜんじじゃくと答えると、騎士の男は剣を胸の前にまで上げ、刀身を横に。オドを剣に込めていく。精神統一する男の真剣な顔が、刀身に映る。

 対するエンタクは、腰から手を降ろすだけで構えない。


 それがまた、騎士の男を激怒させたのか、オドがエンタクに向かって放たれる。


 騎士の男は刺突の構えをとった。


 不可視。騎士の男が剣を右手に持っている都合上、エンタクが狙う右耳たぶは死角になっている。

 狙うならば、騎士の男が刺突攻撃をした後でなければならない。先に攻撃を当てる真剣勝負。宣言とは違う場所を狙ってもいいが。


 果たして、エンタクはどうするのか?


 ——須臾しゅゆだけ騎士の男に視点が移る。


 男の狙いは二段構え。先手必勝の突き攻撃と、オドを込めた剣を囮にした、左手での風魔法攻撃である。


 ——大衆の前で、右耳たぶを狙うと宣言したことを呪うがいい。


 その清雅せいがな服をここで引きはがし、殊色を汚して醜態を晒させてやる。女に従うなど我慢ならない。


 ——あれ?


 その泰然とした態度、表情、腹が立つ。


 ——どうして俺は、ここまでこの女に恨みを抱いて……


『ケケ、何を言っているんだ。女がムカつくんだろ? 女の命令なんか聞けないんだろ? ならば殺せ。殺して証明しろ! 男の方が優秀であるということをな!!』


——そうだ。その通りだ。


 どこからともなく聞こえて来たそそのかしに、冷静になろうとした男の思考が再熱する。


——殺しころしころしころし! 殺してやる!! ころしてやるぅぅぅぅぅ!!!


「三、二、一」


 カウントが始まる。


「始め!! はぁッ!?!?!?!?」


 騎士の男が右脚に力を入れ、地面を蹴りつけエンタクに突進し——、


「「「ッ!?!?」」」


 その時。エンタクの姿が男の目の前から消えた。それとほぼ同時に後ろから、細い何かが騎士の男の右耳たぶに向かって走る。


「いづっぅ!? 何が!?」


 急な痛みに膝を付く騎士の男。男は痛みの発生源——右耳たぶに触れた。


「え…………?」


 そこにはいつの間にか、火傷跡が残っていたのだ。

 いつの間に、攻撃されたことに気付かなかった。


——それに、消えたエンタクは一体どこに?


「宣言通り、右耳たぶを魔法で狙ってやった。僕の勝だな」


——彼女は右手の人差し指を前に突き出し、騎士の男の背後に立っていた。


 エンタクが何をしたのか講釈しよう。

 彼女は騎士の男が刺突し切るよりも前に後ろへ回り込み、宣言通りに右耳たぶを火の針で貫いたのだ。


 その証拠に、今エンタクが居る地面から、先ほどエンタクが居た地面にかけて、移動したであろう抉れた足跡が出来ている。


 狙うならば、騎士の男が刺突攻撃をした後でなければならないと、誰が言ったか。物事に例外とはつきものである。


——視点はエンタクに帰って来る。


「「「すげぇェェェェ!!!」」」


 エンタクの勝利に歓声が上がった。


「すごいわ!」


「あぁ、流石エンタクだ!」


 シュウの腕に抱き着くミレナと、それを笑って返すシュウ。

 二人以外の、エンタクが本人だと分かっていたグレイやクザブ達も、彼女の勝利に声を上げた。


「フ、不正だ!!! 不正をしたに違いない!!!」


「おいおい! そりゃねぇぜ!!」「そうだぞ!! 流石に見苦しいぜ!!」


 剣を地面に投げ捨てて、騎士の男が歓声の中でも響き渡る程の声で激昂した。だが、そんな往生際の悪い言い訳など大衆は聞く耳を持たない。


「クソ! このままで終われっかよ!!」「ブチ分からせてやる!!」「女風情が、調子に乗るな!!」


 騎士の男が「クソ! あり得ない!!」と負け腹を立てる中、傭兵の男達が怒火どかを振りまきながら詰め寄って来る。

 エンタクは「ふぅ」と憮然ぶぜんとため息を吐き、


「さっきの勝負で、もう充分証明できたと思うんだがな……それでもやるのか?」


 無益なことはする必要が無いと、語気を強くして傭兵の三人を見る。だが傭兵たちにとっては売り言葉に買い言葉。

 三人は「当然だ!!」と、納めていた剣を次々に引き抜いた。


卑賎ひせんだな……何かしらの目的があって、僕に真剣勝負を挑んできたんだろうけど……恥をすすぐことが目的になってる自覚、ある?」


「黙れ! 試合のルールはどちらかが意識を失うまでだ! さっきみたいな小細工は通用しないぞ!!」


「馬鹿らしい。三人同時に掛かって来い」


 見飽きたやり取りに、エンタクは言葉だけでなくジャスチャーでも『来い』と言う。


「その減らず口、叩き直してやる!!」


「はいはい……」


 酒然しゃぜんたる態度のエンタクに向かって、傭兵の三人は一人ずつ順番に走り出した。

 推察するに、彼らの策略は、攻撃を避けた後隙を狙うといったところだろう。

 なに、何の問題もない。


「へブッ!?」


——一気に、


「うげぇ!?」


——乾坤炎輪で、


「アバァ!?」


——気絶させるのみ。


 傭兵の三人が切りかかる暇もなく、エンタクは頓に出現させた乾坤炎輪で、背後から首を一撃。

 残像が生まれる程の目にも止まらぬ速さで気絶させた。


「はい終わり……」


 盛り上がりが最高潮に達する中、走る勢いを殺せぬまま転がって来る三人の首根っこを、エンタクはパパパッと掴んで捕らえる。彼女はそれらを右手一つでくるくる回し、来賓席の前に投げ飛ばした。それから、


「シノ、ギンジ。一応、裁判官に判断は任せるけど、多分そいつら終身刑だから、収監して、何の目的でやったのか尋問しといていいよ。あと法曹協会の支部に連絡もね……」


 シノとギンジに事後処理を任せた。


 二人を選出した理由は、恐ろしい程に教えるのが下手だからである。

 感覚派のシノはシンプルに下手で、ギンジは性格の所為で教わる側がダレてしまうのだ。

 それでも隊長副隊長に就いているのは、実力が突き抜けているからだ。


「「分かりました」」


 咳から立ち上がった二人は、気絶した三人の傭兵を引きずっていく。

 残りの一人。騎士の男はと言うと、


「クソ、クソクソクソ! 女に、女如きにッ!」


 膝と両手を地面について、未だに負け腹を煮えたぎらせていた。

 男の目に、先ほど投げ捨てた剣が映る。男は息を荒らしながら剣を握りしめ、オドを込めた。


 刃が剣呑に光る。

 エンタクの身体がピクリと微動した。


「殺してやる! 殺し! 殺し殺し殺し!——」


 目に赤い血管を浮かび上がらせ、唾をまき散らせながら立ち上がる男。その右手に持たれた剣から、風魔法がエンタクの無防備な背中に——、


「おっと、そこまでだ」


 放たれる前に、アウリヌスが騎士の男の右手を掴んで抑えた。

 分身ではない。椅子の上に彼の姿はなく、瞬目で男の前まで移動したのだ。


「貴様誰だ!? は! はなせ!!」


「誰だって関係はねぇだろうさ! お前さんが今やろうとしたことは、殺人だ! 神人のエンタク様を殺そうとしたんだ!!」


 騎士の男はアウリヌスの手を振り払おうと暴れ出す。が、アウリヌスはそれを諸ともせず、男の右手を背中に回させて俊敏に拘束した。


「神人を侮辱し、剰え殺そうとした! これは未遂だろうと死刑以上の罪。人権剥奪まっしぐらだ!」


「テロ行為、又は甚だ悪質な犯罪に抵触したのが顕著だった場合、裁判による裁判官の判断無しで、人権剥奪の判断をすることが可能である……この言葉の意味、分かりますか?」


 すると、彼の隣に座っていた同じ紅眼の男女二人が席から立ち上がり、拘束された男の前に立った。

 その見た目は短髪の好青年と、長髪でスタイルの良い女性である。


「貴方は終わりということです」


「ひっ!?」


 紅眼の女性の言葉に、男は自身の最後を明察めいさつしたのか。その顔を慄然りつぜんとしたものにする。

 紅眼の女性が男を見下ろし、右足を強く地面に叩きつけると、


「地面から急に、なんか出て来たぞ!?」「しかも赤ぇ!」「血の球体か!?」


 突然、叩きつけられた地面から赤い液体が噴き出す。そして球体となって男を包み、宙に浮いた。

 大衆が驚きながら言った推理通り、その赤い球体は血で構成されている。


 紅眼の女性の傑出能力である。


 紅眼の女性がその球体に触れ、何かをしようとした時、


「プルウィア、そいつは殺さず、僕が気絶させた男達と一緒に収監しといて……」


 エンタクはその何かを——即刻処刑することを止めた。


「理由をお伺いしても?」


「勘だよ、ただのね」


 エンタクは紅眼の女性——プルウィアと呼んだ女性の質問に包み隠さず、根拠はないと報答した。


 殺そうとしてきた男の行動が、どうにも不自然だったのだ。情動とはいえ、負け腹だけで他人を殺そうとするのか、という疑念だ。


 何より、怒火の仕方が異常だった。まるで誰かに唆かされたかのような何か。

 目に血管を浮かべていたことといい、唾をまき散らしていたことといい。およそ理性と言えるものが欠落していたのだ。


 とはいえただの疑念。されど、疑わしいなら調べる価値はある。


「承知しました。殺さず、収監したのち、尋問します」


 プルウィアは赤い球体から手を離し、解除。中から白目を向いて、意識を失った男が出て来た。


——紆余曲折あったが、エンタクの圧勝である。


 後味はいまいちだが、ともかく、自分がエンタク本人かどうかを疑ってくる者は出てこないだろう。


「これで分かったはずだ! エンタク様のお力が!! そして、お前達の力など今の男達と何ら変わらんということが!! あっても誤差に過ぎんということがな!! 俺様はエンタク様の従者アウリヌスだ!! エンタク様とリュウラン殿を除けば、この場で最強の男である!!」


 一件落着すると、アウリヌスが両手を上げ、広場に居る大衆に向かって声高に宣言する。エンタクとリュウランを除けば最強。その言葉に嘘偽りはない。ただ、それだけでは言葉不足とも言え、


「ここでその宣言はずるすぎるよ! クソ父さん!」


「その通りです。万全ではそうかもしれませんが、私たちとの力量差は、その日の体調で埋まる程度のもの……煙草で臭い上に、見栄も張るとは……より一層見損ないました、クソ父上」


 調子に乗った発言をした父アウリヌスの姿を、彼の子供である二人は辛辣に非難した。

 アウリヌスの強さの指標がA+ならば、子供の二人はAだ。同じランクなのである。


 嘘を吐かずに見栄を張るアウリヌスの狡猾さに、子供の二人は引き気味の顔で見る。

 それを知っているエンタクも内心『うわっ』と、引き気味の感想を抱いていた。

 十年間、見知らぬ世界でもまれ過ぎて、内清外濁ないせいがいだくではなく内も濁ってしまったのではないだろうか。


「うるさい、今は少し黙ってろ!!」


 不要 (アウリヌスにとって) なツッコミに、アウリヌスは勘弁してほしそうにツッコミ返す。


「いいか!! 優秀な者はエンタク様に直接稽古を付けてもらえる!! 有象無象のお前らが、エンタク様に稽古を付けてもらえる可能性があるのだ!! それだけで幸運だと思え!!」


 やり取りを些事で終わらせると、アウリヌスは咳ばらいをして軌道修正。大衆には威厳を保ったままで、最後の仕上げを終えた。


 エンタクも『まぁ、どうでもいいか』と切り替えて、壇上に飛び乗った。そして、


「これで入隊式は終了だ!! 横やりが入った所為で出鼻を挫かれたが、 これからオドの量を測る試験を行う!! 全員、列に並ぶのだ!!」


 入隊式にピリオドを打った。

あらすじがころころ変わっちゃって申し訳ございません。

迷走中です。

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