幕間 昵懇の誓いを三人で いちっ!
また長くなったので二話に分けました。
明日、同じような時間に投稿します。
大雨の後の日のことだ。
シュウは師匠に連れられて、濁流が洪濤を生みながら流れる河岸際に居た。
『俺、金持ちが嫌いなんだよな……』
ヤンキー座りで河を眺めながら、師匠は急にそんなことを言ってみせた。
『なんだよ急に……』
シュウは唐突な告白に、足元にあった石ころを蹴り飛ばし、呆れ顔で返事する。
『いや、金持ちって、潜在的に金持って無いやつを見下すじゃん?』
『流石にそれは偏見というか、言いすぎなんじゃねぇのか……?』
何を言い出すのかと、シュウは呆れて正論で返す。だが師匠は『チゲェよ……』と、逆接を言うと、
『例えば近寄ってくる奴らを、金持ちは金に集って来る卑しい奴らだって、見下すだろ?』
何とも含蓄がありそうなことを言って来た。いっちょ前に言ってきやがった。
稀に一目置くようなことを言って来るのが、シュウの師匠イクサである。その所為で、偶に本気なのではないかと騙されることもあった。
果たせる哉、今回は嘘か真かどちらなのだろうか。
シュウは『そういうもんなのか?』と、半信半疑になりながら返す。
『あぁ、あれは確実にそうだったぜ。だから金持ちになっちまったら、基、過去最高に金を持ってる俺は、先入観で近寄ってくる奴らを、金に集る卑しい奴らだと思っちまう訳だ』
途中から半信が四半信、半疑が半疑足す四半疑に変遷したシュウは「ほうほう……で」と、あっさりした対応をとって、その場でヤンキー座りする。
「だから俺は! そういった潜在的な見下しや、先入観を唾棄する為に、とある行動に移すことに決めたんだ!!」
「んで、その行動ってのは?」
座ったままでいた師匠は、自信満々に握り拳を固めて空を見上げる。その彼に、シュウはもう一度あっさりした対応を取った。
矢庭に溢れて来る根拠の無い自信。こういう時の師匠は突拍子もない奇行を、さも当然のことのようにやってのける馬鹿な部分がある。
シュウの四半信と半疑足す四半疑は、完全な疑懼へと衰耗してしまった。
——こいつは絶対に、今から変なことをする。
長い間、師匠と過ごした所為か、シュウは彼の気ままな性格を熟知していた。
「ふふーん、聞いて驚くなよ! その行動とはな……」
「とは……?」
シュウは阻止してやろうと、洒然と言葉尻をオウム返し。
師匠はニヤニヤしながら立ち上がると、ポケットの中を弄り始め、
「財布を濁流の中に投げ捨てることだ!!」
矢庭に財布を川へと投げ捨てたのだ。
「何やってんのぉぉぉぉ!?!?!?!?」
阻止してやろうと師匠を催促したシュウも、唐突過ぎる行動には為す術がなかった。
——は? マジで何やってんのこいつ!?
川の中へ投げ捨てられた財布は濁流にのみ込まれ、藻屑となってしまった。
話の流れからてっきり、数日だけ質素な生活を送るだとか、時間をかける類のことだと思っていたのだ。
だが実際は、突拍子も突拍子。刹那的なものであった。師匠と長い時間を過ごしてきたシュウでさえも、無比の奇行には対応することが出来なかった訳だ。
その財布の中にあった金は、シュウ自身が回収屋で必死に稼いだ金も入っていたのに。その後、金銭に余裕がなくなって、師匠と共に慌てて川の中を探し回ったのは、難艱な思い出である。
「なにそれ!? 面白過ぎじゃない!? ぷふふ! あぁおもしろ! おかしい! アハハハハ! ダメ! 面白過ぎて息が出来ない! ぷぅふふぷ!」
「ふ、ふふ、プハハハハハ!! 馬鹿すぎるな! シュウの師匠は!!」
シュウはミレナとエンタクに師匠がどれだけ馬鹿な奴なのかを、搔い摘みながら話した。
当然、生前という言葉は使わずに濁しながらだ。
エンタクとミレナは、中央で仰臥しているシュウの方を見ながら、師匠の奇行を聞いて哄笑した。ミレナは丸まって捧腹絶倒。エンタクは口に手を当て、笑い涙を双眸に浮かべている。
今、エンタクとミレナに笑い話として話せたことが、難艱な思い出の唯一良かったところだろう。
「だろ? それで一週間後くらいには、金欠になってんだぜ!? 馬鹿にもほどがあるだろ!? それで一緒に住んでた俺も、割食っちまうし!」
ミレナとエンタクを交互に見て、シュウは言葉とは裏腹な笑顔でそう語る。
「本当に、シュウの言う通り豪胆な子なんだね! ぷふ!」
「豪胆と言うよりかは、向こう見ずというか、軽佻浮薄というか! ハハ!」
笑いの余韻——「はぁあ」と息を吐きながら、ミレナとエンタクの笑いは終尾を迎える。シュウは「ただの馬鹿だよ、ほんと……」と、懐旧の思いを内包しながら、窓から月を見た。
現在は温泉から上がって、離れの二階にいる。それも、知っての通り。何故かシュウが真ん中に入った川の字で、仲良く寝転んでいる状態だ。
川の字に敷かれていた左端の敷布団を横にずらし、離れた場所で寝ようと思っていたのだが。どうしてか、エンタクとミレナはシュウを挟むように、敷布団を移動させたのだ。
普通、男は真ん中にならないのでは。というか、恋仲でもない男女が同じ部屋で寝ること自体、おかしい事なのでは。そもそも、決められた結界内で一緒に過ごせばいいだけで、同じ場所と同じ時間に寝る必要もない。
ただ、この思いはきっと成就しないだろう。いや、成就しない。
シュウは諦めモードに入っていた。
「しかし、金持ちは潜在的に、金を持っていない相手を見下す、か……言い得て妙だな」
ぽつり。エンタクは唇に人差し指を乗せ、そんなことを呟いてみせる。彼女の俄な雑感に、ミレナが「その心は?」と、心中を問う。
「いや、少し前に出資した、差別意識論とかいう、変な研究をしてる奴らがな、差別意識は個人的な意識ではなく、社会的な意識である。そして支配階級から、被支配階級に強制されるものである、とか言ってきたんだ……でも、自然と溜飲が下がったんだよね。だって、差別って加害者と被害者がいないと成り立たないだろ?」
エンタクの尤も至極である言葉に、ミレナは「確かに……」と、顎に手を宛てがう。
差別意識論とは、何とも耳になじみのない言葉だ。
領主という重鎮であるが故だろう。この時代、俗人では知ることさえできない情報を、彼女は伝手で知ることが出来る訳だ。流石領主様と言わざるを得ない。
「金を持っている者は、所謂支配階級。持っていない者は被支配階級と捉えることが出来る。なら、シュウの師匠の言っていることは、あながち間違ってはいないんじゃないかって、今ふと思ったんだ」
「俺の師匠って、意外と馬鹿じゃない?」
急所を正確に射抜いたエンタクの説述に、シュウは師匠が馬鹿ではないと思ってしまう。ただ、千慮の一得や下手な鉄砲も数撃てば当たる、という言葉もある。
本当は賢いのか、それともただの馬鹿なのか。昔から掴みどころがないのが師匠らしい。
「かもな……三千年という歳が、馬歯徒増に思えてくる」
「え!? エンタクって三千歳なの!?」
「マジか、果てしないな」
偶然にも、話の流れでエンタクの年齢が分かってしまう。
ミレナが驚いたように、シュウもエンタクの長命には驚きを隠せない。
「まぁ、正確に言うと、二千と九百いくつだけど……」
「うそ……私の三倍じゃん。もっと近い歳だと思ってたのに」
「ミレナは千歳くらいなのか……」
少しだけがっかりするミレナと、そんなぐらいなんだと相槌を打つエンタク。
ミレナは「まぁね……」と言って、こめかみを掻いた。
ミレナの千歳でさえも遠く及ばないのに、その彼女の三倍も生きているとは。正に長命富貴。生きるという事の連亘。
そのエンタクには、更に長生きしているであろう姉が居るのだ。
二十一歳程度で大人だと自負していた自分が、大馬鹿野郎に思えて来た。
「そうだエンタク! 子供の頃の話をするついでに、三千年前の話をしてよ!」
「分かった。だが、子供の頃の話をする前に、まず神人が胎生ではなく、化生である説明をしなくちゃいけないな」
「けしょう、ケショウ、化粧……え!? お化粧の話を!? どういう意味!? 濃いってこと!?」
「その化粧じゃない! 化けて生まれる方の化生!!」
ふふんと鼻高になったエンタクに、ミレナは違う化粧の方だと勘違いする。
どう間違ったら、粧う方の化粧だと勘違いするのだろうか。当然、見当違いなことを言っているミレナに、エンタクは百点満点のツッコミを入れる。
ミレナは「あぁ、そっちの……」と、納得のジェスチャーをした。
「逆になぜ粧う方だと思った……」
エンタクも同じことを思ったようだ。憮然と零した様は、ミレナの天然に辟易したことを明示していた。
「それで、化生ってことは、読んで字のごとくいきなり、化けて生まれるってことか?」
そんなことはどうでもいいとして、シュウはエンタクに質問する。
化生と聞くと、怨霊やら妖怪を思い浮かべるが、実際どのように生まれるのか釈然としない。やはり、いきなり目の前に姿を現すのだろうか。
「うん。ただ、いきなりではない。神人は、神から天啓を受けた二人の人類の元に、生まれ落ちるんだ」
エンタクは首を横に振って、少し違うよと填補してくれる。
「なにそれ! 御伽噺みたいで素敵じゃん!」
両手を組んで、目を燦然と輝かせるミレナ。彼女と同意見だ。
神からの天啓などいかにも異世界らしい。興懐がくすぐられる。
「へへ、素敵だろ? 神人は人類と違って、個体数は限りなく少ない。化生するのも、数百年に一度。だから、命を亡くさない為に、神は超自然的な『箱入りの管守』というものを設けたんだ」
「超自然的ねぇ……」
シュウは感興を口にする。
超自然とは、これまた異世界らしい言葉だ。神人という時点で敬仰される存在なのに、加えて数も寸毫で、化生という特殊な生誕の仕方。希少が過ぎる。
シュウにとってこの異世界はもう、御伽噺そのものと言ってもいい。
——ん、それにしても……
ただ少し、シュウには疑念が——、
「未熟児のまま生誕する人類とは違って、神人は成長した状態、現地の環境を、一人でも生きていける状態にまで成長して、生まれ落ちるんだ。神人は箱入りの期間中に、天啓を受けた二人の人類の経験や五感を通して、世界を学ぶことになる」
だがシュウの疑念を掻き消すように、エンタクはそう続けてみせた。
シュウの疑念とは、神人は化生するまでに、どういったやり方で世界を学ぶのか、というものだった。
もし仮に化生するまでの間、世界を学ぶことが出来なかったら、神人はその時間の分だけ学ぶことが遅れてしまう事になる。
しかし、そこは作り込まれた玄奥な世界。その遅れさえも生まないように、横紙破りな方法で対策されていた訳だ。
「すっごく愛されてるんだね。神人は……」
箱入りの管守に感心するミレナ。その彼女に、エンタクは「まぁな。過保護も過保護さ」と相槌を打つ。
「天啓を受ける人類は、神人を育てるに足り得る存在だと認められたものだ。大体は男女で、例えば老夫婦だったり、新婚だったり、はたまた、婚姻関係ではない、姻族の男女だったり、同じ場所に居合わせただけの男女だったりもする……」
「仲の良い関係っていうより、神人を適切に育てられる男女が選ばれるってこと?」
「その解釈で構わない」
エンタクの復答に、ミレナとシュウは再び感心する。
自分自身で学べない為、その点は通常の人類より不自由ではあるが、その分、命を亡くすことなく安全に、精良に世界を学べるということだ。
デメリットを打ち消しても、余りあるメリットだろう。
千思万考の末に編み出された雄図なのだと、感服してしまう。
「僕も例に漏れず、アンタクお姉ちゃんと、仲の良かった男の間で化生するはずだったんだけど……どうしてか、途中からアンタクお姉ちゃんと、コウタクお姉ちゃんの二人に変わったんだよね……」
「神人を育てる権利って、譲渡できるもんなんだな。そういうの、無理そうって感じがするが……」
疑問を口にしたエンタクに、シュウは直感を尽言する。
神が千思万考の末に編み出した雄図なら、譲渡ができないようにしていそうなものだが。実は千思万考ではなく、その場の衝動で編み出した、という訳でもないだろう。
強制的に移ったと考えるのが、自然だと思われる。
何か只ならぬ理由があって、仕方なく譲渡されたのではないかと、シュウは照察した。
「僕も、育てる権利の譲渡は聞いたことがないんだよね……実際できたんだから、何か方法があるんだろうけど」
「むむむぅ」と唸りながら、眉間に皺を寄せて考えるエンタク。シュウも同じく懊悩する。
と、そこにミレナが、
「ちょっと物騒な事言うけど、例えば、天啓を受けた子が死んじゃったら、どう、なるの……?」
正鵠を射るようなことを言ってみせた。
「そうか、多分それだ! それか、封印されたかだ!」
エンタクは目を見開いて、ミレナに指を差す。
「天啓を受けた者から世界を学べなくなったから、違う親しい誰かに、強制的に移ったってことか?」
「多分、でもなんで……」
答えが分かったところで、エンタクはどこか腑に落ちない様子を見せた。
何か、引っ掛かったことでもあったのだろうか。
同じ思いであったのか、ミレナが「どうしたの?」と、エンタクに声を掛ける。
露の間、エンタクは何も言わずに懊悩。その後、ミレナに対し「いや」と前置きをして、
「僕が化生するまでの間、アンタクお姉ちゃん、親しい男がいなくなったはずなのに、全く悲しい素振りを見せなかったんだよね……男のこと、すっごく好きそうにしていたのに……」
腑に落ちない理由を、悲しそうな表情で吐露した。
それは確かにおかしな事だ。エンタクの言葉から察するに、彼女の姉が冷血な人だということはないだろう。
「もしかしたら、エンタクに悲しいのを見せないように、英姿を装ってたんじゃない……?」
少し微笑んで、ミレナはそう言った。
エンタクは少し表情を陰らせ「そう、なのかな……?」と、言葉にする。
ミレナはエンタクの表情を、少しでも明るくさせようと「だってエンタクのこと、溺愛だったんでしょ?」と、優しく語りかけた。
「うん。だったら、なんだか少し悲しいな……」
エンタクは抱きしめていた枕に視線を落とし、その悲しく陰った表情を少しだけ濃くした。
ミレナは「そう、ね……」と呟き、言葉選びを間違えたと俯く。
どうも、沈鬱とした雰囲気になってしまった。
こうなってしまったら、なまじ漢である自分が場の空気を修繕するのが道理だろう。
「なに、まだそうと決まった訳じゃないだろ」
その中途半端な漢らしい言葉に、エンタクとミレナは「シュウ……」と、彼を見た。特にエンタクは、嬉しそうに微笑みながらシュウを見た。
大事な人が死去した、或いは封印されたのに、冷血ではない者が悲しさを隠しきれるだろうか。シュウは否だと断定した。
「アンタク様を、これから探しに行くことになるんだ。真実はその時に、聞けばいい……だろ?」
ミレナの言ったことが真実とは限らない。当たり前だが、自分の言ったことが真実だとも限らない。
ならば暗い理由で、育てる権利が譲渡されたのではないと信じるのが、心の状態として良いはずだ。良いに決まっている。
エンタクの姉を探しに行くのなら、尚更だろう。暗い感情はない方が、エンタクの為にもなる
「そうだな……その通りだ! ごめん! 気を遣わせてしまったな! 全く、これから三人で一緒に過ごすっていうのに、一日目の夜からしけた話なんて、することじゃないもんな!」
「そうね! きっと大丈夫よ! ポジティブに行きましょ!」
エンタクとミレナは笑って元気を取り戻してくれた。
任務完了。これで雰囲気は、沈鬱なものから精彩なものへ修繕された。師匠から漢を学んでおいて、常々よかったと思うばかりだ。
「取り敢えず、化生の話は今ので終わりだ!」
「子供の頃の話ね! 聞かせて聞かせて!」
やっと聞きたい話が聞けると、ミレナはシュウの布団まで侵入。シュウの腹の上に顎を乗せ、エンタクを急かすように、彼の身体をぺちぺちと叩く。
エンタクは右上を見ながら「ふふん! まぁそう焦るな……」と、腕を組んで胸を張る。まんざらでもない喜色に染まった顔。
流石のエンタクも促促と求められてしまったら、嬉しくなってしまうらしい。
「僕が生まれ落ちた年は、十歳くらいだったかな。当時のアンコウエンは、エンザン、フイリン、キーシュン、トクチ―、ソーシュウ以外にもう二つ、南西にランタンカと、ビャクハイっていう主要都市があって、今よりも領域が広かったんだ。一応、事実上はアンコウエンの領地だけど、今は手付かずで、魔獣を内包した豪族や土賊たちの根拠になってるかな」
ちょこっとエンタクちゃん、颯爽と登場。
今から、アンコウエンの南西についての概略を説明するぞ。
まず、アンコウエンの南西は標高が高く、高原や山が広がる地域だ。季節風による地形性降雨で夏は米を、冬は麦を育てる、もとい、二年三作の五大都市とは違い、南西は麦やイモ類、放牧などを主な農牧業としていたんだ。
だが現在は、都市の形影は一切ない荒漠とした状況になっている。故に、アンコウエンを横断する商人や旅人、貴人らは、必ず護衛を雇わなければならないのが現状だな。
ただし、アンコウエン外も基本、護衛は雇わなくちゃいけないから、別段おかしい事ではないぞ。
それじゃあ説明終了な。
ちょこっとエンタクちゃん、颯爽と退場。
「アルヒストは一国じゃなくて、確か二、三十国くらいはあったんじゃないかな? コウタクお姉ちゃんが南西から攻めて来る敵を、アンタクお姉ちゃんは東北から攻めて来る敵を、よく簡捷にあしらってたかな……」
「それが今となっては、一つの国にまとまっちゃってるって考えると、宗教って凄いわ……」
「間違いない。故に頭は、濁を激して清を揚ぐような、木鐸でなくてはならない。ただ、そう易々といかないのが世の理だ。邪教の所為で、宗教というイメージが悪くなるのは、憤懣やるかたないものさ」
「世の中ってのは儘ならないものよね、ほんと……」
「ほんとな……」
厳しい世界だと首を振るミレナに、エンタクはうんうんと頷く。
シュウは共感し合うおばあちゃん同士の会話に、入れないでいた。
何故ここで、エンタクとミレナのことをおばあちゃんと呼んだのかは、二人の容姿が年老いていても、違和感のない会話だったからである。
会話に入れなかったのは、シュウの異世界造詣が浅いというのもある。が、何より会話に入れば「えぇ、知りもしないくせに、ぷぅぷぅ」と、嗤われるのが分かっていたことが、大きくあった。
女の園に間違って迷い込んでしまった、愚かな男とでも表現しようか。
こういう場合、どういった反応をすればいいのか分からない、中途半端に漢なシュウである。モテない理由も、そこにあるのだろうか。
「じゃあお待ちかねの、僕の子供の頃の話をしようか」
「お! 待ってました!」
そんなシュウのことなど毫も知らず、エンタクとミレナの会話は楽しそうに続く。
「聞いて驚くなよぉ~」
子供の様にはしゃぐミレナに、エンタクは勿体ぶったようなセリフを吐き、
「それはとても昔、今から約二千九百年前の話です……」
昔話を叙述し始めた。




