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アンリーズナブル  作者: 犬犬尾
第二章 アルヒスト攻防戦
81/113

幕間 昵懇の誓いを三人で いちっ!

また長くなったので二話に分けました。

明日、同じような時間に投稿します。

 大雨の後の日のことだ。

 シュウは師匠に連れられて、濁流が洪濤こうとうを生みながら流れる河岸際かしぎわに居た。


『俺、金持ちが嫌いなんだよな……』


 ヤンキー座りで河を眺めながら、師匠は急にそんなことを言ってみせた。


『なんだよ急に……』


 シュウは唐突な告白に、足元にあった石ころを蹴り飛ばし、呆れ顔で返事する。


『いや、金持ちって、潜在的に金持って無いやつを見下すじゃん?』


『流石にそれは偏見というか、言いすぎなんじゃねぇのか……?』


 何を言い出すのかと、シュウは呆れて正論で返す。だが師匠は『チゲェよ……』と、逆接を言うと、


『例えば近寄ってくる奴らを、金持ちは金にたかって来る卑しい奴らだって、見下すだろ?』


 何とも含蓄がんちくがありそうなことを言って来た。いっちょ前に言ってきやがった。

 稀に一目置くようなことを言って来るのが、シュウの師匠イクサである。その所為で、偶に本気なのではないかと騙されることもあった。


 果たせるかな、今回は嘘か真かどちらなのだろうか。

 シュウは『そういうもんなのか?』と、半信半疑になりながら返す。


『あぁ、あれは確実にそうだったぜ。だから金持ちになっちまったら、もとい、過去最高に金を持ってる俺は、先入観で近寄ってくる奴らを、金に集る卑しい奴らだと思っちまう訳だ』


 途中から半信が四半信、半疑が半疑足す四半疑に変遷したシュウは「ほうほう……で」と、あっさりした対応をとって、その場でヤンキー座りする。


「だから俺は! そういった潜在的な見下しや、先入観を唾棄だきする為に、とある行動に移すことに決めたんだ!!」


「んで、その行動ってのは?」


 座ったままでいた師匠は、自信満々に握り拳を固めて空を見上げる。その彼に、シュウはもう一度あっさりした対応を取った。

 矢庭に溢れて来る根拠の無い自信。こういう時の師匠は突拍子もない奇行を、さも当然のことのようにやってのける馬鹿な部分がある。


 シュウの四半信と半疑足す四半疑は、完全な疑懼ぎくへと衰耗してしまった。


——こいつは絶対に、今から変なことをする。


 長い間、師匠と過ごした所為か、シュウは彼の気ままな性格を熟知していた。


「ふふーん、聞いて驚くなよ! その行動とはな……」


「とは……?」


 シュウは阻止してやろうと、洒然と言葉尻をオウム返し。

 師匠はニヤニヤしながら立ち上がると、ポケットの中をいじり始め、


「財布を濁流の中に投げ捨てることだ!!」


 矢庭に財布を川へと投げ捨てたのだ。


「何やってんのぉぉぉぉ!?!?!?!?」


 阻止してやろうと師匠を催促したシュウも、唐突過ぎる行動には為す術がなかった。


——は? マジで何やってんのこいつ!?


 川の中へ投げ捨てられた財布は濁流にのみ込まれ、藻屑もくずとなってしまった。


 話の流れからてっきり、数日だけ質素な生活を送るだとか、時間をかける類のことだと思っていたのだ。

 だが実際は、突拍子も突拍子。刹那的なものであった。師匠と長い時間を過ごしてきたシュウでさえも、無比の奇行には対応することが出来なかった訳だ。


 その財布の中にあった金は、シュウ自身が回収屋で必死に稼いだ金も入っていたのに。その後、金銭に余裕がなくなって、師匠と共に慌てて川の中を探し回ったのは、難艱なんかんな思い出である。


「なにそれ!? 面白過ぎじゃない!? ぷふふ! あぁおもしろ! おかしい! アハハハハ! ダメ! 面白過ぎて息が出来ない! ぷぅふふぷ!」


「ふ、ふふ、プハハハハハ!! 馬鹿すぎるな! シュウの師匠は!!」


 シュウはミレナとエンタクに師匠がどれだけ馬鹿な奴なのかを、つまみながら話した。

 当然、生前という言葉は使わずに濁しながらだ。


 エンタクとミレナは、中央で仰臥ぎょうがしているシュウの方を見ながら、師匠の奇行を聞いて哄笑した。ミレナは丸まって捧腹絶倒ほうふくぜっとう。エンタクは口に手を当て、笑い涙を双眸に浮かべている。


 今、エンタクとミレナに笑い話として話せたことが、難艱な思い出の唯一良かったところだろう。


「だろ? それで一週間後くらいには、金欠になってんだぜ!? 馬鹿にもほどがあるだろ!? それで一緒に住んでた俺も、割食っちまうし!」


 ミレナとエンタクを交互に見て、シュウは言葉とは裏腹な笑顔でそう語る。


「本当に、シュウの言う通り豪胆な子なんだね! ぷふ!」


「豪胆と言うよりかは、向こう見ずというか、軽佻浮薄けいちょうふはくというか! ハハ!」


 笑いの余韻——「はぁあ」と息を吐きながら、ミレナとエンタクの笑いは終尾を迎える。シュウは「ただの馬鹿だよ、ほんと……」と、懐旧の思いを内包しながら、窓から月を見た。


 現在は温泉から上がって、離れの二階にいる。それも、知っての通り。何故かシュウが真ん中に入った川の字で、仲良く寝転んでいる状態だ。

 川の字に敷かれていた左端の敷布団を横にずらし、離れた場所で寝ようと思っていたのだが。どうしてか、エンタクとミレナはシュウを挟むように、敷布団を移動させたのだ。


 普通、男は真ん中にならないのでは。というか、恋仲でもない男女が同じ部屋で寝ること自体、おかしい事なのでは。そもそも、決められた結界内で一緒に過ごせばいいだけで、同じ場所と同じ時間に寝る必要もない。


 ただ、この思いはきっと成就しないだろう。いや、成就しない。

 シュウは諦めモードに入っていた。


「しかし、金持ちは潜在的に、金を持っていない相手を見下す、か……言い得て妙だな」


 ぽつり。エンタクは唇に人差し指を乗せ、そんなことを呟いてみせる。彼女のにわかな雑感に、ミレナが「その心は?」と、心中を問う。


「いや、少し前に出資した、差別意識論とかいう、変な研究をしてる奴らがな、差別意識は個人的な意識ではなく、社会的な意識である。そして支配階級から、被支配階級に強制されるものである、とか言ってきたんだ……でも、自然と溜飲りゅういんが下がったんだよね。だって、差別って加害者と被害者がいないと成り立たないだろ?」


 エンタクのもっとも至極である言葉に、ミレナは「確かに……」と、顎に手をてがう。


 差別意識論とは、何とも耳になじみのない言葉だ。

 領主という重鎮じゅうちんであるが故だろう。この時代、俗人では知ることさえできない情報を、彼女は伝手で知ることが出来る訳だ。流石領主様と言わざるを得ない。


「金を持っている者は、所謂支配階級。持っていない者は被支配階級と捉えることが出来る。なら、シュウの師匠の言っていることは、あながち間違ってはいないんじゃないかって、今ふと思ったんだ」


「俺の師匠って、意外と馬鹿じゃない?」


 急所を正確に射抜いたエンタクの説述に、シュウは師匠が馬鹿ではないと思ってしまう。ただ、千慮せんりょの一得や下手な鉄砲も数撃てば当たる、という言葉もある。

 本当は賢いのか、それともただの馬鹿なのか。昔から掴みどころがないのが師匠らしい。


「かもな……三千年という歳が、馬歯徒増ばしとぞうに思えてくる」


「え!? エンタクって三千歳なの!?」


「マジか、果てしないな」


 偶然にも、話の流れでエンタクの年齢が分かってしまう。

 ミレナが驚いたように、シュウもエンタクの長命には驚きを隠せない。


「まぁ、正確に言うと、二千と九百いくつだけど……」


「うそ……私の三倍じゃん。もっと近い歳だと思ってたのに」


「ミレナは千歳くらいなのか……」


 少しだけがっかりするミレナと、そんなぐらいなんだと相槌あいづちを打つエンタク。

 ミレナは「まぁね……」と言って、こめかみを掻いた。


 ミレナの千歳でさえも遠く及ばないのに、その彼女の三倍も生きているとは。正に長命富貴ちょうめいふうき。生きるという事の連亘れんこう

 そのエンタクには、更に長生きしているであろう姉が居るのだ。


 二十一歳程度で大人だと自負していた自分が、大馬鹿野郎に思えて来た。


「そうだエンタク! 子供の頃の話をするついでに、三千年前の話をしてよ!」


「分かった。だが、子供の頃の話をする前に、まず神人が胎生たいせいではなく、化生である説明をしなくちゃいけないな」


「けしょう、ケショウ、化粧……え!? お化粧の話を!? どういう意味!? 濃いってこと!?」


「その化粧じゃない! 化けて生まれる方の化生!!」


 ふふんと鼻高になったエンタクに、ミレナは違う化粧の方だと勘違いする。

 どう間違ったら、よそおう方の化粧だと勘違いするのだろうか。当然、見当違いなことを言っているミレナに、エンタクは百点満点のツッコミを入れる。

 ミレナは「あぁ、そっちの……」と、納得のジェスチャーをした。


「逆になぜ粧う方だと思った……」


 エンタクも同じことを思ったようだ。憮然と零した様は、ミレナの天然に辟易へきえきしたことを明示していた。


「それで、化生ってことは、読んで字のごとくいきなり、化けて生まれるってことか?」


 そんなことはどうでもいいとして、シュウはエンタクに質問する。

 化生と聞くと、怨霊やら妖怪を思い浮かべるが、実際どのように生まれるのか釈然としない。やはり、いきなり目の前に姿を現すのだろうか。


「うん。ただ、いきなりではない。神人は、神から天啓を受けた二人の人類の元に、生まれ落ちるんだ」


 エンタクは首を横に振って、少し違うよと填補てんぽしてくれる。


「なにそれ! 御伽噺おとぎばなしみたいで素敵じゃん!」


 両手を組んで、目を燦然さんぜんと輝かせるミレナ。彼女と同意見だ。

 神からの天啓などいかにも異世界らしい。興懐きょうかいがくすぐられる。


「へへ、素敵だろ? 神人は人類と違って、個体数は限りなく少ない。化生するのも、数百年に一度。だから、命を亡くさない為に、神は超自然的な『箱入りの管守かんしゅ』というものを設けたんだ」


「超自然的ねぇ……」


 シュウは感興かんきょうを口にする。


 超自然とは、これまた異世界らしい言葉だ。神人という時点で敬仰けいぎょうされる存在なのに、加えて数も寸毫すんごうで、化生という特殊な生誕の仕方。希少が過ぎる。

 シュウにとってこの異世界はもう、御伽噺そのものと言ってもいい。


——ん、それにしても……


 ただ少し、シュウには疑念が——、


「未熟児のまま生誕する人類とは違って、神人は成長した状態、現地の環境を、一人でも生きていける状態にまで成長して、生まれ落ちるんだ。神人は箱入りの期間中に、天啓を受けた二人の人類の経験や五感を通して、世界を学ぶことになる」


 だがシュウの疑念を掻き消すように、エンタクはそう続けてみせた。

 シュウの疑念とは、神人は化生するまでに、どういったやり方で世界を学ぶのか、というものだった。


 もし仮に化生するまでの間、世界を学ぶことが出来なかったら、神人はその時間の分だけ学ぶことが遅れてしまう事になる。

 しかし、そこは作り込まれた玄奥な世界。その遅れさえも生まないように、横紙破りな方法で対策されていた訳だ。


「すっごく愛されてるんだね。神人は……」


 箱入りの管守に感心するミレナ。その彼女に、エンタクは「まぁな。過保護も過保護さ」と相槌を打つ。


「天啓を受ける人類は、神人を育てるに足り得る存在だと認められたものだ。大体は男女で、例えば老夫婦だったり、新婚だったり、はたまた、婚姻関係ではない、姻族の男女だったり、同じ場所に居合わせただけの男女だったりもする……」


「仲の良い関係っていうより、神人を適切に育てられる男女が選ばれるってこと?」


「その解釈で構わない」


 エンタクの復答に、ミレナとシュウは再び感心する。


 自分自身で学べない為、その点は通常の人類より不自由ではあるが、その分、命を亡くすことなく安全に、精良に世界を学べるということだ。

 デメリットを打ち消しても、余りあるメリットだろう。 


 千思万考の末に編み出された雄図ゆうとなのだと、感服してしまう。


「僕も例に漏れず、アンタクお姉ちゃんと、仲の良かった男の間で化生するはずだったんだけど……どうしてか、途中からアンタクお姉ちゃんと、コウタクお姉ちゃんの二人に変わったんだよね……」


「神人を育てる権利って、譲渡できるもんなんだな。そういうの、無理そうって感じがするが……」


 疑問を口にしたエンタクに、シュウは直感を尽言じんげんする。

 神が千思万考の末に編み出した雄図なら、譲渡ができないようにしていそうなものだが。実は千思万考ではなく、その場の衝動で編み出した、という訳でもないだろう。

 強制的に移ったと考えるのが、自然だと思われる。


 何か只ならぬ理由があって、仕方なく譲渡されたのではないかと、シュウは照察しょうさつした。


「僕も、育てる権利の譲渡は聞いたことがないんだよね……実際できたんだから、何か方法があるんだろうけど」


 「むむむぅ」と唸りながら、眉間にしわを寄せて考えるエンタク。シュウも同じく懊悩おうのうする。

 と、そこにミレナが、


「ちょっと物騒な事言うけど、例えば、天啓を受けた子が死んじゃったら、どう、なるの……?」


 正鵠せいこくを射るようなことを言ってみせた。


「そうか、多分それだ! それか、封印されたかだ!」


 エンタクは目を見開いて、ミレナに指を差す。


「天啓を受けた者から世界を学べなくなったから、違う親しい誰かに、強制的に移ったってことか?」


「多分、でもなんで……」


 答えが分かったところで、エンタクはどこかに落ちない様子を見せた。

 何か、引っ掛かったことでもあったのだろうか。


 同じ思いであったのか、ミレナが「どうしたの?」と、エンタクに声を掛ける。

 つゆの間、エンタクは何も言わずに懊悩。その後、ミレナに対し「いや」と前置きをして、


「僕が化生するまでの間、アンタクお姉ちゃん、親しい男がいなくなったはずなのに、全く悲しい素振りを見せなかったんだよね……男のこと、すっごく好きそうにしていたのに……」


 腑に落ちない理由を、悲しそうな表情で吐露した。

 それは確かにおかしな事だ。エンタクの言葉から察するに、彼女の姉が冷血な人だということはないだろう。


「もしかしたら、エンタクに悲しいのを見せないように、英姿えいしを装ってたんじゃない……?」


 少し微笑んで、ミレナはそう言った。


 エンタクは少し表情を陰らせ「そう、なのかな……?」と、言葉にする。

 ミレナはエンタクの表情を、少しでも明るくさせようと「だってエンタクのこと、溺愛だったんでしょ?」と、優しく語りかけた。


「うん。だったら、なんだか少し悲しいな……」


 エンタクは抱きしめていた枕に視線を落とし、その悲しく陰った表情を少しだけ濃くした。


 ミレナは「そう、ね……」と呟き、言葉選びを間違えたとうつむく。


 どうも、沈鬱ちんうつとした雰囲気になってしまった。

 こうなってしまったら、なまじ漢である自分が場の空気を修繕するのが道理だろう。


「なに、まだそうと決まった訳じゃないだろ」


 その中途半端な漢らしい言葉に、エンタクとミレナは「シュウ……」と、彼を見た。特にエンタクは、嬉しそうに微笑みながらシュウを見た。

 大事な人が死去した、或いは封印されたのに、冷血ではない者が悲しさを隠しきれるだろうか。シュウは否だと断定した。


「アンタク様を、これから探しに行くことになるんだ。真実はその時に、聞けばいい……だろ?」


 ミレナの言ったことが真実とは限らない。当たり前だが、自分の言ったことが真実だとも限らない。

 ならば暗い理由で、育てる権利が譲渡されたのではないと信じるのが、心の状態として良いはずだ。良いに決まっている。


 エンタクの姉を探しに行くのなら、尚更だろう。暗い感情はない方が、エンタクの為にもなる


「そうだな……その通りだ! ごめん! 気を遣わせてしまったな! 全く、これから三人で一緒に過ごすっていうのに、一日目の夜からしけた話なんて、することじゃないもんな!」


「そうね! きっと大丈夫よ! ポジティブに行きましょ!」


 エンタクとミレナは笑って元気を取り戻してくれた。

 任務完了。これで雰囲気は、沈鬱なものから精彩せいさいなものへ修繕された。師匠から漢を学んでおいて、常々よかったと思うばかりだ。


「取り敢えず、化生の話は今ので終わりだ!」


「子供の頃の話ね! 聞かせて聞かせて!」


 やっと聞きたい話が聞けると、ミレナはシュウの布団まで侵入。シュウの腹の上に顎を乗せ、エンタクを急かすように、彼の身体をぺちぺちと叩く。

 エンタクは右上を見ながら「ふふん! まぁそう焦るな……」と、腕を組んで胸を張る。まんざらでもない喜色に染まった顔。

 流石のエンタクも促促そくそくと求められてしまったら、嬉しくなってしまうらしい。


「僕が生まれ落ちた年は、十歳くらいだったかな。当時のアンコウエンは、エンザン、フイリン、キーシュン、トクチ―、ソーシュウ以外にもう二つ、南西にランタンカと、ビャクハイっていう主要都市があって、今よりも領域が広かったんだ。一応、事実上はアンコウエンの領地だけど、今は手付かずで、魔獣を内包した豪族や土賊たちの根拠になってるかな」


 ちょこっとエンタクちゃん、颯爽と登場。


 今から、アンコウエンの南西についての概略を説明するぞ。


 まず、アンコウエンの南西は標高が高く、高原や山が広がる地域だ。季節風による地形性降雨で夏は米を、冬は麦を育てる、もとい、二年三作の五大都市とは違い、南西は麦やイモ類、放牧などを主な農牧業としていたんだ。


 だが現在は、都市の形影けいえいは一切ない荒漠こうばくとした状況になっている。故に、アンコウエンを横断する商人や旅人、貴人らは、必ず護衛を雇わなければならないのが現状だな。

 ただし、アンコウエン外も基本、護衛は雇わなくちゃいけないから、別段おかしい事ではないぞ。


 それじゃあ説明終了な。


 ちょこっとエンタクちゃん、颯爽と退場。


「アルヒストは一国じゃなくて、確か二、三十国くらいはあったんじゃないかな? コウタクお姉ちゃんが南西から攻めて来る敵を、アンタクお姉ちゃんは東北から攻めて来る敵を、よく簡捷かんしょうにあしらってたかな……」


「それが今となっては、一つの国にまとまっちゃってるって考えると、宗教って凄いわ……」


「間違いない。故に頭は、だくを激して清をぐような、木鐸ぼくたくでなくてはならない。ただ、そう易々といかないのが世の理だ。邪教の所為で、宗教というイメージが悪くなるのは、憤懣ふんまんやるかたないものさ」


「世の中ってのは儘ならないものよね、ほんと……」


「ほんとな……」


 厳しい世界だと首を振るミレナに、エンタクはうんうんと頷く。


 シュウは共感し合うおばあちゃん同士の会話に、入れないでいた。


 何故ここで、エンタクとミレナのことをおばあちゃんと呼んだのかは、二人の容姿が年老いていても、違和感のない会話だったからである。

 会話に入れなかったのは、シュウの異世界造詣(ぞうけい)が浅いというのもある。が、何より会話に入れば「えぇ、知りもしないくせに、ぷぅぷぅ」と、わらわれるのが分かっていたことが、大きくあった。


 女の園に間違って迷い込んでしまった、愚かな男とでも表現しようか。

 こういう場合、どういった反応をすればいいのか分からない、中途半端に漢なシュウである。モテない理由も、そこにあるのだろうか。


「じゃあお待ちかねの、僕の子供の頃の話をしようか」


「お! 待ってました!」


 そんなシュウのことなど毫も知らず、エンタクとミレナの会話は楽しそうに続く。


「聞いて驚くなよぉ~」


 子供の様にはしゃぐミレナに、エンタクは勿体ぶったようなセリフを吐き、


「それはとても昔、今から約二千九百年前の話です……」


 昔話を叙述じょじゅつし始めた。

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