第39話 狼藉の真相
会議室の扉が開き、中からぞろぞろと人が出てくる。
重要な会議だったのだろうか。会議室から出てくる老若男女は足取りが早く、引き締まった緊張感がある顔をしている。
その中、ミレナとシュウは廊下の端で立って、エンタクの退室を待っていた。
途中、二人は面識のあるローガに手を上げて挨拶。ローガは目を合わせた後、背中越しに手を上げて挨拶し返した。
ミレナがシュウを見て微笑する。シュウも微笑して返し、無言のまま数十秒待機した。
ずずっと、椅子を押して立ち上がる音が室内から鳴り、ミレナの長耳がピクリと反応する。
そして最後、エンタクと、空になった容器を盆に乗せ、跟随するフクとセイが、会議室から出て来た。
ミレナは壁から背中を離し、肩程まで手を上げ、
「あ、エンタク! 会議終ったんだね」
エンタクに近づいた。シュウも彼女に続く。
「うん、つつがなくな。リメアとローレンは、目を覚ましたようだな」
「はい。さっき会って、事情を話しました」
「リフとグーダは、大丈夫なんだな?」
「大丈夫だと思うわ。まだ寝たきりだけど……」
リメアとローレンのことについては、シュウから。リフとグーダについては、ミレナからエンタクに告げる。
エンタクは「そうか」と、腰に手を置き、
「守ると盟約しておいて、死なせてしまってはどうしようかと、思っていたんだ。お前たちは恩人だ。ここでしっかりと、療養してくれ」
言われなくとも、そうさせてもらおう。完全復活を果たすまで、このコウエンタクに居座らせてもらうつもりだ。
何故なら、ここには温泉があるから。前回の世界線で、グレイが北西の仙境に湧き出る温水がなんちゃらと言ってた。
ミレナに病床で寝ていろと言われ、暇すぎて色々思考を巡らせているうちに、思い出したのだ。
「分かった、ありがとうエンタク。そうさせてもらうわ……それより、何の会議をしていたの?」
「賊の動きが妙だったから、情報整理と、あと今後の動きを決める為の会議かな……賊が、アンコウエンに運ばれてくる物に、何かを仕掛けたと思われるんだ。ん、まさか手伝うつもりか……?」
リフとグーダが目を覚ますまですることがなく、何か出来ないかと考えていたのだが。バレてしまった。まぁ、仕方ないと言えば仕方がない。
会議室の横の廊下で待機して、何の会議をしていたのかと訊く。その時点で、こちらが何か出来ることはないかと、考えているのは察しが付いてしまうだろう。
「うん! 何か手伝えることはないかなって!」
詰め寄るミレナ。だが、エンタクは首を横に振って、
「流石に、そこまでは頼めない。これは僕たちの問題だ……領主として、神人として、民衆の目もある。社会問題の解決を、余所に頼むわけにはいかない」
拒否した。それもドが付く正論でだ。
確かに、領内で起きた問題の解決に余所者であり、かつ神子のミレナが手伝うというのは、領主の沽券に関わる。
この領主は、領内で起きた社会問題を余所者に任せるのか、という世論が出てしまうのは、充分あり得る未来だろう。
ミレナを引かせたいところだが、
「じゃあ、私達はこれから仲間! これなら問題ないでしょ?」
それは無理なようだ。屁理屈もいいとこ——否、牢乎たる理屈だ。仲間なら、困っている仲間を助けるのは不自然ではない。
決然とした双眸と表情。こうなっては、ミレナは止まることを知らない。意地でも押し通そうとするだろう。
「だが、だがなぁ……」
苦慮するエンタク。シュウはその彼女の顔を見て、小さく笑い、
「エンタク様、ミレナはこうなったら、頑として譲りませんから……俺達にも手伝わせてください。それに、敵にしているのは共通の相手です。俺達としても、敵の痕跡は調べておきたいんです……お願いします」
そうやって、ミレナと同じ理屈、同じ表情で押し通す。
エンタクは静黙を選んだ。そこに、
「エンタク様!! 私にも、扶助させてください!! イエギクさんから聞きました! 敵の中に神人のレイキがいたと!!」
後ろ。廊下の奥から走ってくる音——息を切らしたリメアが、五人の元に現れた。
「リメアさん……」「リメア」
リメアの登場に、シュウとミレナは少し驚きながら振り返った。
彼が現れるのは、シュウとミレナ共に予想外だったのだ。
遡行すること十分前。
『心して、聞いてください』
真剣な顔のシュウに、リメアは『はい……』と、一言だけ小さく返した。
精彩と温柔な空気を破ってまで始めたこと。リメアは何か、尋常ならざる話を切り出されるのだと、唾を飲んだ。
『急襲を仕掛けて来た賊の中に、レイキがいました』
『それは!?』と怪顛するリメアに、ミレナがこくりと頷く。シュウも『はい』と言葉を続け、
『捕まえることは、前にも無理って言いましたよね? だから、せめて死体だけでもと、リメアさんの所へ運ぼうとしたんです。ですがレイキの死体が、立ちどころに消えたんです』
『死体が消えた……? 転移という事ですか?』
『だと思います……何故、レイキの死体を転移させたのかは分かりません。多分、敵に何か考えがあるんでしょうが、憶測の域を逸しませんから何とも……』
勝利してから、病床の上で沈思黙考して、レイキの死体が転移した理由を考えていたのだが。結局、憶測の域から逸することは出来なかった。
ミレナやローガ、エンタクにも意見を求めたが、三人とも自分と同じ結論——敵に何か考えがある、というものであった。
『そう、ですね……』
垂らした右手で握り拳を作って、リメアは視線を落とした。
『ただ、これだけは言えます。敵は、まだ奥深くに息を潜めている。そして、亜人迫害の発端となった、エドリックの事件は、レイキを斃しただけでは終わらない。もっと、根っこが深い問題だと』
『根っこが深い問題……』
眉間に皺を寄せ、ゆっくり小さく息を吸い、冷静を無理矢理に纏繞させたような声で、リメアは言った。
感情をかみ殺そうとしても、理性という堤防から溢流してしまう激情。
その一挙手一投足に、彼の感情の全てが詰まっていた。
瞬刻で理解できたシュウ。だがそれでも、これから向かう場所は、リメアが付いて来るには危険すぎる領域だ。
シュウは真剣な表情を崩さずに、リメアの目を見て、
『だから、恐ろしく強い敵が潜んでいる可能性もあります。でも、リメアさんは非戦闘要員。アンタを守れる保証はない。だから、リメアさん……』
その細い左肩に右手を乗せる。
落ちていたリメアの視線が、シュウの視線と合わさる。
『ここで引くのも、賢明な判断だと……』
シュウは降りることを勧告した。
そして、時間は現在まで進む。
五人の元に現れたリメアは膝に両手を突き、息を整え、
「そいつは、私の高祖父の仇なんです!! でも、そいつの後ろに、まだ息を潜めた敵が、高祖父の仇がいる!! 私は、高祖父の無念を、この憤懣を晴らしたいんです!! どうか、お願いします!!」
頭を下げて、エンタクに懇請した。
降りろと勧告されても、怯えずひるむことなく、初志貫徹し続ける。意地でも敢行しようとする決意が、そこにはあった。
ここまで覚悟を決めているのなら、こちらがどうこう言うのは筋違いだろう。
となれば、あとはエンタクが首を縦に振るかどうか。
エンタクは「ん……」と、沈思を始めた。数秒、しかして長い間。そして、
「そこまで頼まれたら、断る訳にもいかないな」
「本当ですか!?」「本当!?」
承認してくれたエンタクに、リメアとミレナが鼻息を荒くして詰め寄った。その二人の興奮に当てられたエンタクは、一歩後ろに後退して、
「手伝う側が言うセリフと、表情じゃないでしょそれ……」
呆気にとられながらツッコんだ。
本当にその通りだ。
リメアとミレナの表情は、純乎たる喜びそのもの。
本来なら、手伝ってもらう側のエンタクが、その表情で礼を言う側なのだが。おかしなことだ。それほど承認してもらったのが、嬉しかったということなのだろう。
「でも、嬉しいもんね、リメア!」
「はい! とても嬉しいです! 最高です!」
両手を上げてハイタッチを催促するミレナ。リメアは彼女の催促に応え、両手でガッツポーズ。
その馬鹿が付くほど嬉しがっている二人を見て、エンタクは「ハハ!」と、腰に手を当てて呵呵し、
「そうか、気に入った! だが、そうと決まれば、とことんまで付き合ってもらうからな!」
シュウ達と仲間になると、言外に承認した。エンタクの後ろで、フクとセイが暖かく微笑する。
エンタクに、リメアが「はい!」と敬礼。ミレナは「うん!」と返事をして、
「シュウ! 準備して、さっそく調査をしに行くわよ!」
シュウの袖を引っ張った。引っ張られたシュウは、そう急ぐなと言うように「はいよ」と、ゆるく返事をして、
「エンタク様、ありがとうございます」
振り返って、エンタクに謝意を伝えた。エンタクは首を左右に振り、
「礼を言うのはこっちだ。ありがとう、シュウ、ミレナ、リメア」
領主とは思えない愛嬌ある笑顔で、感謝を返した。
「あ、そういえば三人とも、呼び方は下の名前でいいか?」
ミレナは「全然おけ!」と、サムズアップ。リメアは「はい!」と、大きく返事。シュウは「大丈夫です」と、苦笑い。
二人のテンションに、ついて行けないシュウだ。
「分かった! それじゃあ行くぞ、先ずは魔獣達に聞き込み調査だ!!」
エンタクは颯然と右手を前に出し、今度は領主然とした立ち振る舞いで廊下を歩きだした。
その背中に、五人の仲間が続く。
※ ※ ※ ※
フクとセイはコウエンタクに残り、残った四人で下山し、調査を開始した。
今はエンタクが魔獣達に聞き込み調査中。シュウとミレナ、リメアはエンザンの麓で、エンタクの帰りを待っていた。
「…………」
「暇ね」
両腕を空に。身体を伸ばし、筋肉を弛緩して喋るミレナ。
言う通り暇だ。
十分間ほど何もせず、ぼーっと立っている。やる気十分で手伝うと外に出て、この現状。出鼻を挫かれたような気分だ。
「待たせたな! 訊いてきたぞ!!」
と、噂をすればだ。エンタクが戻ってきた。彼女は周辺の樹々を揺らしながら飛来、颯爽と地面に降りる。
四人は歩き出した。
「お帰り! どうだった!?」
「予想通りと、言ったところだな……全員が口を揃えて、二日前の朝ご飯を食べてから、妙にふわふわしたと言っていた」
「ふわふわ……? 朝ご飯の中に、何かを仕掛けたってこと?」
「だと思う。アンコウエンに定期的に運ばれてきて、かつ人類の元に届かないものは、魔獣用の食料と、外注した手入れの為の道具だからな」
——食料、ふわふわ。
ミレナとエンタクの会話を聞いたシュウは、妙な既視感を得ていた。
確かそう、あの時、前回の世界線だ。モワティ村を救おうと、尽瘁を厭わず賊と闘い、敗北して捕まってしまったあの時。サキュバスにタケの実のような乾物を食わされた、あの時だ。
誤嚥した途端、耐え難い浮遊感と、脳が甘い蜜のようなもので溶かされる感覚に襲われたのだ。
似ている。魔獣達が感じた感覚と、乾物を誤嚥してしまった時の感覚が、示し合わしたように酷似している。
「確かに理論上、食料に仕掛ければ、魔獣達を一斉に操れそうですが……」
「というか、食べ物に仕掛けたとして、どうやって操るの? 私、全く見当がつかないんだけど」
顎に手を当て呟くリメア。その彼に続いて、ミレナは根本的な部分に焦点を当てる。エンタクは腕を組み、首を傾げて煩悶している。
そうやって、三人ともに悩み苦しんでいる中、シュウは、
「タケの実、じゃないか? オドの補填に使う……」
問題の出題者であるかのように、ヒントを提示した。三人の視線が彼へと遷移する。
「なんでタケの実?」
「いや、昔、タケの実かどうだったかは分からないが……それらしい乾物をサキュバスに食わされてな。その時、浮遊感と、脳が甘い蜜みたいな何かで、溶かされる感覚に襲われたんだ……」
「それは本当か!? シュウ!?」
何故かと訊いて来るミレナに、シュウは回顧しながら答える。
すると、一番大きい反応を見せたのは、問うたミレナではなくエンタクだった。彼女はシュウを掴んで離さないように、両腕で彼の肩を掴んだ。
「え!? はい。本当っすね……」
シュウは呆気にとられながら、そう答える。エンタクはシュウの肩から両腕を離し「タケの実……サキュバス……」と、勘考を始めた。
「タケの実って、相手を操るような力ってあったっけ?」
「私が知る限りで、聞いたことは……」
ミレナの疑問に、リメアが分からないと回答。当然、当事者であったシュウも分からない。タケの実に相手を操作する異能があるのか、それともサキュバスにあるのか。
——分別はつか——いや、待てよ。
シュウの中に偶感が浮かんだ。
そういえば、小紫色の空気が体内に侵入した時も、乾物を誤嚥した時と同じ感覚に襲われた。
まさか、
「多分、タケの実自体に、相手を操る力は無いと思う」
そのシュウの偶感を後押しするように、エンタクが肯綮を見つけ出した。
「それは、一体どういう……?」
「シュウがサキュバスに、タケの実を食わされた時に感じた感覚は、淫魔が異性を魅了した時に感じさせる感覚と同じだ……」
話が見えないと主張するリメアに、エンタクが懇篤に説明する。
やはりそうだった。淫魔の魅了。それが、魔獣達が一斉に狼藉を働きだした主因だ。
「じゃあまさか!?」
「うん、タケの実、或いはオドの補填に使う食べ物に、何かしらの方法で、食した相手を魅了できるように改造。それを使い、魔獣達を操った……ということだろうな……」
驚くミレナにエンタクはコクっと頷き、見つけ出した肯綮を徹底解剖してみせた。それから、溜飲が下がったように溜息を吐き、
「どおりで、民衆を操れなかった訳だ。全世帯の食卓に仕掛けるなんて、無理だからな」
あっけらかんと言った。
正しくその通りだ。
エンタクが言ったように、魔獣達を操るのは、外から運ばれてくる魔獣用の食料に、タケの実を仕掛けるだけでよい。
だが民衆は、世帯ごとに食べる物が違う。それら全てにタケの実を仕掛けるというのは、物理的に不可能だろう。そもそも、食べないという者もいる。
「では、今すぐこの情報を、他の方たちにも! 手紙を書き、転移魔法で——」
「いや、大丈夫だ。僕が魔獣達に声を聞かせる……そこから、魔獣を調伏してる奴を介して、情報を広める」
エンタクの徹底解剖に、リメアが早速手紙で情報を広めることを提案。が、エンタクは彼の言葉尻を、心配ないと捕らえた。
「声を聞かせるって、まさか……大声で!?」
「違う」「違うだろ」
シュウとリメアの疑問をミレナが代弁。したかに思えたが、それは多分ない——というか絶対ないと、シュウはエンタクと一緒に否定した。
「なんでシュウまで違うって言うのよ!」
「それは、エンタク様が魔獣達に声が届かない、みたいなことを言ってたからだよ」
当然、情報を広める張本人ではないシュウの否定に、ミレナが納得する訳がない。指を差して勘問してくる彼女に、シュウはエンタクが話し合いの時に言っていた言葉を持ち出した。
正論を返されたミレナは「そういえば、そんなこと言ってた、かも……?」と、疑問符を浮かべつつも、納得したようだ。
「僕の傑出能力だ。調伏した魔獣に、僕の声を聞かせることが出来る」
「すごい便利な能力ですね……」
——傑出能力。
そういえば、エンタクは前にもそんなことを言っていた。果たして、どういったものなのか概要すら分からない。
リメアがざっくばらんと所感を述べたように、自分も凄いということしか分らない。
「そうでもないさ。声を聞かせるためには、魔獣を調伏して、承認してもらわなきゃいけないし、あと魔獣の声は僕に届かないし……割と煩雑だよ」
と、エンタクは謙遜してみせるが、それはそれとして凄いことに変わりはない。
何故ならば、大前提である魔獣調伏の難易度が高いから。あと、魔獣と意思の疎通をするのも、普通に難しそうだ。
「因みに傑出能力という抽象概念について、お聞きしても……?」
「あ、そういえば、前訊こうと思って以来、聞いてなかったわよね」
「そうだったな……」
リメアの言葉にミレナとシュウが賛同。更にミレナが右手を上げて「聞かせて! エンタク!」と、エンタクに説明を求める。
四人は止まって一時停止。
エンタクは「分かった、いいよ……」と、前置きして、
「でもその前に、魔獣達に僕の声を聞かせるから、待ってて……」
大きく息を吸って目を瞑り、集中を始めた。
挺然とした集中力。落ち葉がエンタクの頭の上に乗るが、彼女は構わず目を瞑り続ける。弱く拭く風に、エンタクの髪が小さく靡いた。
その端麗な佇まいに、シュウ達三人は息を呑んで待った。
一分ほど、環境音が感じられる沈黙が続いた。エンタクは目を開けると、
「おっけい。聞かせたよ……これで全員、氷室のところを探してくれるだろう」
ふぅと息を吐いて集中を解き、そう言った。
本当に今ので伝わったのだろうか。エンタクの言葉を疑っている訳ではないが、常識はずれが過ぎて、俄には信じ難い。
「信じられないって、顔だな……」
「すいません。あり得るみたいに言っておいて……何か、常識外れすぎて……」
「ハハ! シュウは正直だな! でも仕方ないさ、一見何も変わってないからな」
掌返ししてしまったことに自責の念を抱きつつ、シュウは頭に手を当てて謝罪。その彼の愚直な態度に、エンタクは何処か嬉しそうに微笑した。
社交辞令——嘘偽りなく、そして、自然と申し訳なさそうに、頭に手を当てた態度にだ。
「お願いしていい?」
ミレナに頼まれたエンタクは「任せて……」と、報答。シュウ達三人は彼女に視線を遷移させた。
「傑出能力とは、その名の通り、傑出した者が使える能力のことだ。体得できる能力は、基本的に自分を強化するものだけ。能力を体得する為には、長期間の修行を要する。一番基本の筋肉操作を体得するだけでも、遅くて一年、早くて一か月ってとこかな……」
抑揚のない淡々とした口調で、エンタクは傑出能力について詳悉した。そして最後、これだけは重要だと言いたげに、
「地道な努力、研鑽、精励……それが体得するのに一番大事なことで、一番の近道だ」
と、抑揚をつけて説明を締めくくった。
学校のスローガンにでも使われそうな言葉だ。
——学校。教育。ん……?
リメアの次の言葉は、もしや——、
「地道な努力、研鑽、精励、至言ですね!」
やはりそうだった。
リメアは双眸を爛然と輝かせて、エンタクを見つめる。
教育者である彼にとって、学校で使えそうな朴直な言葉は大好物そのもの。更に神人であり、領主であり、名傑列伝に間違って老父として載っている程、超然としているエンタクが言った言葉なら尚の事。
——ん、そういえば、ミレナも同じような事を——、
「うんうん! いい言葉だわ!!」
言っていたようだ。ミレナの表情が欣欣としている。
というか言っていた。前回の世界線で、魔法の練習をしていた時に言われたはずだ。
「そうそう、大童になって修行するんだぞ」
エンタクは意気投合できる同士を見つけられて、嬉しそうだ。胸を張って、エッヘンとしている。
振り返り、シュウは筋肉操作という、想像がつきそうでつかない単語が気になった。
「エンタク様、筋肉操作について、聞いても?」
「いいよ。筋肉操作は、オドの多寡によって才能が決まる……」
自然と言葉にしていたシュウに、エンタクは右腕を前に出した。
その右腕は、女性にしては筋肉質だが、男の腕と比べれば細い。
「ま、百聞は一見に如かずだ……見てて」
エンタクはそう言って小さく息を吸うと「…………」と声を漏らし、右腕の筋肉を肥大化させた。
「…………す、すごい……」
「血管が浮かび上がって……」
その変化に、ミレナは口に両手を当てて、リメアは顔を近づけて、感動に声を上げた。
別段、腕が太いというわけではない。巨漢の男に比べれば、華奢も華奢だ。だがそれは、およそエンタクの容姿や体躯からは、想像もつかない筋肉の肥大であった。
リメアが言った通り、筋肉の密度が高い為か、表面にある血管が浮かび上がっている。
「ちょっと、下がってリメア」
「は、はい……」
エンタクの腕を間近で眺めていたリメアが、数歩後ろに下がる。何をするのかと、三人はまじまじと彼女の腕を見ていると、その右掌の中心から、炎——紅蓮の何かが構築されていく。
——都合、槍が生成——出現した。
驚きにミレナが「矢庭に、槍が!?」と、声を上げた。
「因みに、これも傑出能力だ。シュウ、これ持ってみて」
エンタクは宙に浮いた槍を右手で掴むと、シュウに向かってそれを差し出す。シュウは下から、両手で受け取ろうと前に出た。そして、しっかり受け取ろうとしたのだが、
「はい、分かりッ!? 重!? え!!?!?」
その槍の度肝を抜く重さに思わず上体が傾き、そのまま転がり落ちそうになってしまった。
「これ、何キロっすか!?」
反射的に、生前の世界の単位で重さを聞いてしまったシュウ。
当然、異世界人であるエンタクが、キロという重さの単位を知っているはずもなく。
エンタクは「キロ?」と、訝し気に首を傾げた。
「いや、何貫っすか!?」
シュウはミレナに教えてもらった重さの単位を即座に思い出し、修正してエンタクに聞き返す。
そんなことより、おのれ創造主め。何故、重さの単位をわざわざ分かりにくい尺貫法にしたのか。そこはキロでいいだろう。まぁ、あのクソ野郎は変な理由で、尺貫法にしたのだろうが。
「あぁ……確か、約四十貫ほどだ」
不思議な面持ちを元に戻して、エンタクは重さを答える。答えたのだが、いや、え。
「「四十貫!?」」
リメアとミレナは目を見開き、愕然と大声を出した。シュウはすぐさま、四十貫という想像に難い単位をキロに戻し、
「え? てことは、百五十キロ!?」
その驚愕の重さに、目を丸くした。
これまた当然、キロという単位を知る筈がないエンタク達三人は「百五十キロ……?」と、意味不明な発言をしたシュウを、怪訝な顔で見やる。
シュウは咄嗟にわざとらしく笑い、
「あ! いや! 四十貫かぁ……すごく重いなぁ!」
と、下手過ぎる繕いで誤魔化した。
許してほしい。だって生前、キロで慣れてしまっているのだ。いやまぁ、ここは異世界だと言われてしまえば、ぐうの音も出せないのだが。でも許してほしい。
「エンタク様、これ……」
シュウは含羞を溢れさせた顔で、エンタクに槍を差し出す。エンタクは「う、うん」と、不思議な顔で槍を受け取った。それから、
「まぁともかく、僕はこれを……こんな風に……」
逸れた話を軌道修正するように、重さが四十貫もある槍を片手で、容易に振り回していく。
更に、その振り回しに単一ではない芸を混ぜてだ。
右手で振り回していた槍を、背中から左手に持ち替えたり、掌の上で回したり。上空へ放り投げ、回転しながら落下してくる槍を華麗にキャッチしたり。
「嘘!? すごっ!!」
「ひぃ! 風圧が、凄いです!!」
もう恒例になりつつあるミレナとリメアの驚愕。
重さ四十貫の槍を振り回した所為か。周辺の草や木の枝が風圧で揺れ動く。
とにかく、四十貫の槍を持っているとは到底思えない、明暢な表情で槍を振り回してみせた。
——それは、凄いの一言に尽きた。
「シシシ! 僕、結構凄いだろ!」
誇示するように胸を張り、出現させた槍を消すエンタク。その彼女のやってのけた離れ業に、
「本当に凄すぎでしょ……」
「凄すぎです……」
「ですね……フィクションにしか思えません……」
ミレナ、シュウ、リメアの順に、三人は感懐を口にした。
三人ともエンタクの離れ業が凄すぎて、呆然としてしまったのだ。そんな反応がエンタクは嬉しいのか「フフ、いい反応だ!!」と、笑顔になって、
「やっぱりこういった反応を見るのは、いつまで経っても面白い!!」
過去にも、誰かを驚かしたと吐露した。
四人は再び歩き出す。
過去。はてさて、一体いつ頃のことなのだろうか。少し気になる。というか、エンタクは何歳なのだろうか。ミレナは千歳ぐらいと言っていたが。
「というか、イエギクさん、四十貫の物を持てるんですね」
ふと思い出すように、リメアが言った。語尾に小さく「かっこい……」とリメアが言ったことは、彼以外知らない。
会話の最中であったことと、エンタクが凄すぎる故に色褪せていたが、シュウが四十貫の槍を持ったことも凄い事ではある。
色褪せ方が顕著すぎるが。
「まぁ、エンタク様みたいに、振り回すのは無理ですけどね……」
シュウは謙虚に返した。その彼にまた、リメアがカッコよさを見出したことを、他の三人は知る由もない。
そのリメアの横でミレナが「私は驚かないわよ、もう……」と、腕を組んで首を縦に振る。
ミレナはシュウの背中に乗って、一緒に戦ったことが何度もある。だから、シュウが四十貫の槍を持てた程度のことでは、彼女は驚かない。ただ、凄いとは思っている。
「ふふ……筋肉操作は、重い物も持てるようになるし、身体能力も上がったりするから、体得して損はしないよ……あと、奇襲対策になったりして便利。ついこないだ、金棒で頭を殴られたんだけど、僕の頭じゃなくて、金棒の方が砕けたからね……」
そんなシュウの凄い所を、エンタクがまたも褪色させる。傷つくわけではないが、自分がちっぽけに思えてしまうシュウである。
エンタクの卓絶した凄さに、ミレナが「それは、フィクションであってほしい……」と述懐する。
確かに、鈍器、対、人の頭で、頭が勝つというのは嘘であってほしい。とはいえここまで来たら、この願いもほぼ叶わないだろう。冷静に考えれば、叶わなくてもいいが。
「因みに、僕の体は、鍛造の剣、いや、快刀でも切れないぞ。今度見せてやる……」
そしてエンタクのフィニッシュブローが、精神的にふらふらになったシュウ達に炸裂。おまけに今度見せるという徹底ぶりだ。
こうなっては叶わないだろうではなく、叶わないだ。
「現実だと思えない……」
「シシ! いい反応いい反応!」
呟くシュウに、エンタクがにっこりと笑う。
どちらかというと、思いたくないが本音である。筋肉操作、恐るべし。
強くなる為——自分達の尻拭いを、自分達で出来るようになる為、是非とも体得したい傑出能力だ。
早くて一か月。奥に潜んでいる敵を追いたいが、今はアンコウエンに逗留してでも、エンタクに教えを乞うべきだろう。でなければ、死にに行くようなものだ。
停頓してでも、優先するべきだろう。
なるたけ早く体得する為にも、早くこの仕事を終え、敵の手がかりを見つけ出さなくては。
「てか、ミレナ、シュウ……お前達はもう、筋肉操作は使えてるぞ……?」
「「え……?」」
シュウとミレナは呆然と口を開けた。
——え? それはどういう……
「だって周囲の人類よりも、力があるだろ?」
エンタクは呆然としている二人に、正鵠を射った。
シュウは過去を思い出す。
『エルフは見た目は華奢だけど、獣人の男の子にも負けないくらい力持ちなのよ!!』
前回の世界線、中央都でミレナが言った言葉だ。もしミレナが筋肉操作を使えていたら、華奢でも力持ちという性質に説明が付く。
「そういえば、そうかも……少し前だけど、ごりごりマッチョの子に、腕相撲で勝ったことあるし……あと、シュウを一人で担いで、ベットまで運んだことも、あるわ……」
——確か、俺の体重は八十五、六くらいだった……え!?
「え!? ミレナって、そんな力持ちだったのか!?」
「う、うん……実は結構力持ち、なのよね」
自覚が無い。となれば、ミレナは常に筋肉操作を使っていたのではなかろうか。
「それは、元々から筋肉操作が使えたからだな……それにその様子だと、常時使えてるっぽいし……」
「そうだったんだ……実は私って、すごい?」
エンタクにそう言われ、ミレナは長耳を上下させて驚喜を露にする。
エンタクの意見に同意だ。
もし筋肉操作にムラがあったのなら、長生きしている彼女は何らかの形で気付くはずだ。だのに、そうではない。
「あぁ! 生意気言えるくらいには凄いぞ」
エンタクは嫣然と笑って、ミレナの凄さを賞揚した。ミレナは「イエェェェイ!! 私天才!!」と、目の横でピースして小悪魔っぽくウィンク。リメアからも「流石ですミレナ様!!」と賞揚され、今度は小さい胸を誇らかに張った。
それから、
「私も四十貫の物を、ぶんぶん振り回せるかしら!?」
エンタクが槍を振り回したのを真似するように、何度も決めポーズ。全力で快哉を表現した。
全く、調子のよい事である。
「先の話になるとは思うが、出来るようになるとは思うぞ」
「あの、エンタク様! 私もできるようになるのでしょうか!?」
「うん。リメアも修行をすれば、出来るようになるよ……」
「本当ですか!! やった!!! これなら、私もイエギクさんのように、かっこいい男に……よっしゃぁ……」
リメアは下を向いてガッツポーズ。かっこいい男を目指す彼にとって、力持ちは一つの目標だ。それが叶うと分かり、嬉しいのだ。
ミレナとリメアは、歓然と手を繋ぎ合ってジャンプ。それをエンタクが愉快そうに見る。
その中、シュウは一人だけ質実な表情で思惟していた。
エンタクは筋肉操作を使えると言ったが、自分の身体能力が高いのは、魔術で肉体を強化しているからだ。
果たして、それを伝えるかどうかを悩んでいたのだが。
「エンタク様、俺が筋肉操作を使えるって話なんすけど……俺は違うんすよね」
シュウは包み隠さず、エンタクに口伝した。
シュウにとって彼女はもう仲間だ。隠す意味はない。
「ん? 違うのか? あの身体能力は、てっきりそうだと……」
「母親から受け継いだ力でして、魔法とは違う魔術っていう力なんすけど」
エンタクは「そうなのか……」と、腕を組んで呟く。すると、ミレナがこちらに一歩近づいてきて、
「シュウそれ、私を背負いながら下山した時、言ってたよね……」
途中までシュウと視線を合わせ、それからエンタクの方に視線を移動させると、
「確か、プロテクションを使った馬車よりも、全然早かったよ」
感想を伝えた。
言われた通り、シュウもプロテクションの馬車より早い自負はある。
本気を出せば百キロは越えそうか。
「中々だな……シュウ、一連の問題を解決したら、付き合ってくれないか? 君の力を試してみたい」
「はい、全然いいっすよ」
「よし、決まりだ! 絶対だからな」
シュウは嬉しそうにガッツポーズするエンタクに「承知しました」と、肯んじた。
そしてようやっとかな。賑やかな人の声が聴こえてくる。街だ。
やはり、アンコウエンの壁がない駘蕩たる街は新鮮だ。魔獣達が敵ではないだけで、これほどまで解放感が感じられるとは。
それに生前の世界のように、高層ビルや無骨なコンクリートの建物はない。
住むには持って来いの場所である。という偶感はさておき。
「それじゃあ街に着いたことだし、早速、氷室の中を徹底的に取り調べるぞ!」
エンタクが一歩前に出て走り出す。ミレナは「うん!」と、シュウとリメアは「はい!」と返事をして、エンタクを追った。
さて、真相を探るとしますか。
※ ※ ※ ※
石造りの白く大きい分厚い建物——氷室の中に、シュウ達は足を踏み入れようとしていた。
氷室を管理する管理人の男が鍵穴に鍵を刺し込み、重く分厚い扉をゆっくりと開ける。薄暗い室内が視界に入り、そこからひゅうっと吹いた肌寒い風が、シュウ達の肌を掠める。
氷室とは、所謂食べ物などを冷蔵や冷凍保存する為の冷温施設だ。電化製品が普及した時代に生きていたシュウにとっては、歴史に触れるような感覚である。
「こちらです」
管理人の男に招かれ、シュウ達は寒く薄暗い室内に入った。
管理人の男は光の魔刻石にオドを込め、それをランタンに嵌めて室内を照らす。
シュウ達の目に入ったのは、積み上げ並べられた木箱と、その周りを囲む数多の氷だった。
「ここは暗いから、外に出して解凍するからな」
「はい、ご自由に」
全員が仁王立ちする中、エンタクだけが氷室の奥に入り、上に積まれていた木箱を体を浮かせて持ち上げる。そして着地し、それを扉の所まで持ち運んだ。
「シュウ、ミレナ、一つだけでいいから、君らも運んでくれ」
「うん」「はい」
ミレナとシュウはエンタクに返事をして、扉から左右に退く。名前を呼ばれなかったリメアが「あの私は……?」と、言外に運ぶ必要はないかと問うが、
「リメアは危ないからいい……床滑りやすいし」
エンタクはそう言って、外に出た。
四人の中で唯一力持ちではないリメアだ。氷が溶け、床に流れた水が凍った所為で、一般人のリメアが重い木箱を運ぶのは危ない。
滑ってしまった場合、大怪我だ。
「分かりました!」と、リメアだけが外に出て、シュウとミレナは指示された通り木箱を持ち上げる。
これは確かに、リメアが持つには危ないだろう。
シュウは大丈夫かとミレナに視線を送る。彼女はシュウの視線にウィンクをして、大丈夫だと示唆した。
二人は滑らないように外まで木箱を運び、
「ちょっとだけ、滑りそうで怖かったわ」「だな」
置かれた木箱の横に並べた。
そして、もう一度氷室の中に入ったエンタクが外に出てくるのを待ち、
「よし、それじゃあ調査だ」
四人一箱ずつ、冷凍保存された食肉の中身を調べ始めた。
それから、解凍。調べ始めてから五分も経たないうちに、
「あった、これだな、タケの実の断片」
エンタクが食肉の中に混入された異物を見つけ出した。彼女は目を向けて来た三人にその異物——タケの実の断片を見せると「そっちは?」と、有無を問う。
すると、
「私もあったよ!」「俺のところも!」「私の所もです!」
エンタクに続いて、三人全員が食肉の中からタケの実の断片を見つけ出した。
こんなにあっさりと、タケの実を見つけ出すことが出来た理由は、
「ふむ。バレないように細かく切り刻んて、なるべく多くの魔獣を魅了する為に、所かまわず食肉の中に紛れ込ませた、といったところだろう。ふたを開けてみればだな……」
エンタクが腕を組んで代弁した。
ふたを開けてみればとは、古典的なやり方に対してだろう。飲食物に何かを仕込む。手っ取り早く、見つかりにくい楽な手段だ。
「おい、魔獣達用の食肉を外注している場所は、フェアラードの何処だった?」
「はい、トライゾという場所です。フェアラード領の北西にある都市ですね。店名はプロドス……国営の店です」
管理人の男は胸ポケットから紙を取り出す。領収書か何かだろう。
そこに書かれていた店名を口伝した。
国営。何とも裏がありそうな、きな臭い雰囲気が漂う。
「助かる。これで証拠は確保した。中にある食料は全て破棄しておけ……」
エンタクに指示された管理人の男は「はい」と頷く。そして、
「まさかこんなものを紛れ込ませていたとは……許せぬ、プロドスめ。何の目的の為に、こんなことを……」
その胸中にある激情をさらけ出すかのように、手に持った紙をくしゃくしゃに握りつぶした。
どういった関係だったのかは分からないが、信頼はあったのだろう。それ故、裏切られたことに対する怒りが溢れた訳だ。
彼らにとって、魔獣達は家族と同然。許せないと思うのは、理解できる。
「そこは洗い浚い吐かせるつもりだから、後に分かることだ」
そうエンタクは淡々と言う。だが、その言葉の中に混じっていた怒り、冷厳な双眸から、シュウは決して奸曲を赦さないという堅固な意志を感じた。
「これを証拠に、プロドスって店を訴えるんだよね?」
ミレナもその堅固な意志を感じ取ったのだろう。彼女の双眸にも、赦せないという感情が孕んでいた。
ミレナの中では既に、エンタク達は名実ともに仲間なのだ。
「そうなるな。でもこれだけでは、一部地域だけ、誤って紛れ込んでしまった、と言い訳される可能性もある。だから、全地域から証拠を確保する必要があるな」
推理系の話に出てくる犯人が、如何にもいいそうな言い訳だ。
その言い訳すらも腹案し、容赦なく叩き潰そうとするエンタクの姿勢。嫌いではない。
上に立つ者として、彼女がいかに優秀なのかが推知できるというものだ。
「あと、タケの実に魅了を補助する力があることは、周知ではない。これに、本当に魅了の力が付与されているのか、確かめなくてはならない……訴えるなら、証拠を厳然たるものにしてからだ……」
「あのエンタク様、訴えるなら、法曹協会の方を雇いましょう。相手は国営の店。現地の裁判官だと、買収されている可能性もあります」
「分かってる。今朝、アンコウエンにある支部に手紙を送っておいた。最初から、そのつもりだよ」
エンタクにリメアが提言する。が、彼女はタケの実を探す前から、魔獣達が狼藉を働いた原因について、目星がついていたと返した。
全くもって無駄のない行動に、リメアは恭しくお辞儀をして、
「流石神人兼、領主様。すばらしい達見に感服しました」
恐々謹言と返した。
全くだ。
だが、エンタクの達見以上に、傑出能力というものの凄さにもシュウは感服した。強くなる為にも、これは益々体得しなければ。
「ありがと。素直に受け取っとく」
エンタクはお辞儀をするリメアに嫣然と笑い、崩すようにと手を振った。
リメアは『分かりました』という意として、下げた頭を更に下げ、お辞儀を崩した。
「それじゃあ、他の街に行くぞ。喧嘩を売る相手を間違えたってこと、思い知らせてやらないとな」
「うん!」「「はい!」」
——舌戦が待ち受ける。
明らかに刑事裁判なのに、検察官じゃなく裁判官が出てくるのは何でだ?
と思った方もいると思います。
なので、講釈します!
この異世界は糾問主義なので、検察官と裁判官の役割が分かれていません。
因みに、中世の時代は殆どが糾問主義だったそうです。




