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アンリーズナブル  作者: 犬犬尾
第二章 アルヒスト攻防戦
64/113

第31話 形勢逆転

——エンタクが復活する数分前。


 各地で警備隊の隊長、副隊長たちが急襲してきた賊と熾烈しれつな戦いを繰り広げていた。


 キーシュン西部の僻村へきそん、北側。マサムネとホウキュVSガオエン。

 マサムネとホウキュは攻撃を避けるばかりで、ガオエンに傷を付けられず、悪戦苦闘を強いられていた。


「カースライエ!」


「キュウ!!」


 ガオエンに向って、マサムネは右側面から呪いの球を連続で放ち、ホウキュは左側面から光柱を連続で放つ。マサムネとホウキュによる挟撃だ。


「ギギギャオォォォン!!」


 対するガオエンは両者を一睨いちげいすると、轟然ごうぜん咆哮ほうこうしながら炎を周囲にまき散らして相殺。そのまま、まき散らした炎の勢いを強くして攻撃に転じる。


「チッ! 炎で相殺されちまう!」


 一発一発の攻撃が致命傷になる炎だ。それを防壁としても使えるとは。

 自分の劣弱な闇魔法はともかく、ホウキュの洗練された光魔法でさえも、ガオエンに到達することなく滅失されてしまう。


 嘆かざるを得ない力量差がそこにはあった。


「これじゃあ、俺の傑出能力も効かねぇ!」


 マサムネはガオエンの炎が届かない場所まで後退し、ホウキュの方へと走る。


 マサムネが扱う傑出能力は、武具を自由自在に飛ばして操るというものだ。この能力の強みは、相手を翻弄ほんろうしながら仕留めることができる所なのだが。ガオエンのように翻弄できない相手には、全く意味を為さない。 


 武器を飛ばしたところで、炎に弾き返されて終わりだ。

 となれば、懐に入って攻撃を仕掛けたいのだが、


「キュキュウ!」


 それは至難しなんが過ぎる。

 合流したマサムネに、ホウキュが魔法文字で『マサムネが懐に入ったら攻撃は出来そうだけど、炎の壁が厚くて無理だ』と、その旨を伝える。

 マサムネはそれを概見がいけんして、

 

「あぁ、近寄れねぇ!」


 怒りを吐くように同意した。

 思い付いたことも同じで、至った結論も同じとは。余りの無常さに、投げ出したくなってしまう。


 そう胸中で冗談を言った矢先だった。


——オドの席巻と共に、肌が慰撫される。


「やばい!」


「ギャオオオオオオン!!」


 マサムネは後方に跳躍。傑出能力を用いて、着ている防具を操り、空中浮遊しながら後方へ退いた。ホウキュは光魔法で己の実を守りつつ、同じく後方に羽撃はばたく。


 次の瞬間、ガオエンの身体の周りから炎が奔出ほんしゅつした。

 肌を焼く熱風。マサムネは無秩序に飛んでくる火柱を、間一髪で回避。空中浮遊で更に後方へ退く。


「キュウウウウウ!!」


「サンキューホウキュ!」


 ガオエンが咆哮して炎をまき散らす中、ホウキュはマサムネの肩を足で掴み、彼を背中に着地させる。飛んでその場から離れ、高い位置からガオエンを俯瞰ふかんする。


「あれが、神獣であり、元四獣のガオエンかよ……」


「キュウ! キュウ!」


 『そうだね。強すぎだ……僕達じゃ、あれをここに留めておくことしか出来ない』と、魔法文字でマサムネに返答するホウキュ。

 マサムネはまさにその通りだと、苦虫を嚙み潰したような顔で頷いた。


 自分とホウキュに出来るのは、被害が拡大しないようにガオエンを留めておくことだけ。悔しいが、誰かからの助勢——それもとびっきりのが必要だ。


「ガ、ギガガ」


 炎の勢いがなくなり、ガオエンがマサムネ達を睨む。すると、ガオエンはたちどころに四肢を横に伸ばし、開口した。


「マズイ!! ホウキュ!!」


 口から何かを放出するかのように、低い吃音きつおんを零すガオエン。マサムネはそれを見て、攻撃が来ると達見な経験で気付き、ホウキュにかわすよう素早く指示を出した。

 何かとは、当然口から放つ火炎砲である。


 ホウキュは「キュキュウ!!」と首肯し、


「ギョォォォォ!!」


 ガオエンの口から放たれた、太く長く、そして蒼い火炎砲を横に飛んで躱した。離れているのに、炎の熱に肌が焼かれる。当たっていれば、骨まで焼き尽くされただろう。


「凝縮させた蒼い炎を、光線みてぇに撃ってきやがるとは……」


 ガオエンがやってのけた技に、冷や汗が額から垂れる。

 蒼い炎。それは火魔法師として、研鑽けんさんを積み重ねて来た証左だ。火魔法師が出せる炎には通常の『赤』から、最上位の練度である『蒼』まである。


 蒼い炎であれば、火魔法下位のフラマであっても殺傷力は高い。


 攻撃以外——防御や牽制に使う火魔法を通常の赤い炎にしているのは、オドの消費を抑える為だろう。

 相手を屠る時だけに、蒼い炎を用いる。腐っても神獣だ。 


「近寄ったら、周囲を炎で燃やされて、離れたら炎の光線で狙われる。厄介すぎんだろ!!」


「キュウ……」


 愚痴るマサムネに、ホウキュは力なく相槌あいづちを打つ。


「どうすりゃ……」


 自分の不甲斐なさに、マサムネは辟易へきえきすることしかできない。



※ ※ ※ ※



 場面は変わり、キーシュン西部の僻村から南。シノVSメルル。

 マサムネと同様、シノはメルルの地面を爆破させる能力に煩労していた。


「ほらほらほら! さっきまでの威勢はどうしたの!」


 攻めようとしたら、足場を爆破。それを避けて、違う方向から攻めようとしても、関係なく足場を爆破される。その繰り返し。

 一度爆発した地面から攻めようとしても、メルルは浅薄だと言うようにそこを爆発させてくる。

 シノはマサムネよりも身体能力の才能があるため、負傷することはない。とはいえ、


「クソ、うっざ……」


 鬱陶うっとうしいことに変わりはない。

 ひょうを相手の身体に差し込み、体内から爆死させるつもりだったのだが。成功の未来が見えない。煩労を越えて、怒りの感情が湧いてくる。


「ッ——!」


 爆発を避けた後だった。シノは崩れた地面に、一弾指いちだんしだけだが足を取られてしまった。


「キャハ!」


 メルルはその一弾指の隙を好機と見るや、彼女の足元を爆発させ、更に巨大な火球を射撃した。


「ッ!?」


 もろにではないが、爆発を食らってしまうシノ。そこに、舞う土煙を貫いて巨大な火球が彼女を襲う。

 世界がシノだけを除いて、遅く緩やかになっていく。


 土煙とシノの距離は一メートルない程度。火球の速度は速い。接触まで零点れいてん一秒を優に切る。シノはその絶望的に短い時間で火球に反応し、両腕を前に出した。

 直撃。シノは飛ばされ、マサムネのように家屋へ衝突する。


「……足元ばかり気にしてると、前方が疎かになる。前を見なきゃ、道端で人にぶつかっちゃうわよ……」


「いった……最悪」


 分かり切ったことをペラペラと。見下しやがって。


 シノは瓦礫がれきから起き上がり、身体を検める。火球を防いだ両手の状態——直撃した場所は多少の焦爛しょうらんは見られる。その周りは、火傷の疼痛とうつうはあるが重症という程ではない。どちらも、筋肉操作を使える。


「治癒魔法で、治してもらわないとね……」


 シノは屋根を突き破り、革袋を片手に家屋の屋根に乗ってメルルを見下ろす。

 5.5けん——十メートルは離れている。爆発はない。この距離なら火魔法も避けられる。


「また鏢? それ、タネが分かっちゃえば簡単に避けられるのよね……もしかしてアンタ、ワンパターン馬鹿の雑魚……?」


 シノが革袋から鏢を取り出す仕草を見て、嘲笑したメルルがチクリと水を指す。当然、シノの手は止まる。


 メルルがワンパターン馬鹿という理由。何を隠そう、それはシノの攻撃全てが鏢によるものだけだからだ。

 何度も見れば、対処など容易。故にワンパターン馬鹿。


 メルルは鼻で笑った後「さっきの男の方が良かったんじゃない?」と、シノを嘲罵ちょうばした。


 キーシュン警備隊隊長である彼女が、そんな愚かな戦いしか出来ないのか。

 案の如く、応えは否である。


 シノは「あ、そう」と、革袋を屋根の上に捨てて、


「ご忠告感謝。ふぅ……能力は使いたくなかったんだけど……しょうがないね」


 屋根から降り、四足獣のように低く構えた。彼女が鏢しか攻撃に使わなかった理由は、先刻述べた通り、使いたくなかったから。使うと面倒だからである。

 その使うと面倒な傑出能力とは——、


膿痾纏のうあまつり」


「なに、黒い……呪い?」


 シノがそれを言葉にすると、彼女の身体を黒い液体が覆っていく。

 黒い液体はメルルが呟いた通り、闇魔法で出来た呪いだ。そう、彼女の傑出能力は、呪いを身体全身に纏い維持させる『膿痾纏り』と、それを自由自在に動かすものである。


『シノ、お前は呪いの耐性があるから、それを活かした傑出能力にしろ』


 本来、呪いを纏えば自分自身に呪いが被る事になる。だが、シノは特異体質の持ち主。もっと言えば、呪いの耐性がある貴重な存在なのだ。


 故に、呪いを纏ったとしても、身体が呪いでむしばまれることはない。強いて言えば、少し疼痛があるのと肌荒れすることである。

 使うと面倒な理由がこれだ。


「さて……」


 呟き、シノは呪いを纏った身体をシュバルツウェアで隠した。そして更に、足元から呪いを前に伸ばし、その伸ばした呪いをうさぎ型の呪いへと変化。

 都合、眷属けんぞくを十一体——大型のうさぎ一体と小型のうさぎ十体を顕現させた。

 

「眷属……? それも呪いの塊ってとこかしら。本体はこそこそ隠れて、眷属達に戦わせる……これがアンタの傑出能力ね」


 本体はこれ見よがしにシュバルツウェアで姿を隠した。そして、目視できる数は十一体の眷属だけ。本体のシノは、身を隠して虚を突こうとしている。

 だが、その先入観は罠だった。


——正確には違うんだけどね……


 胸中でそう思うシノ。彼女は、大型うさぎの中に居る。 


 シノの「行け」という言葉を起点に、小型の兎たちはメルルを包囲した。当然、半径十メートル以上離れた場所——爆発の範囲外でだ。


「膿痾、


「食らうかよ!!」


 兎たちはタイミングをずらしつつ、メルルに向かって飛びついた。



※ ※ ※ ※



 次なる場所はコウエンタク北の山中。ハオとケインVSオカマの魔獣。

 ハオとケインは、分身したオカマの魔獣に攻めることが出来ず、防戦一方となっていた。


 一対一。二人に分身した状態でも、戦闘能力の差は変わらず大きい。ならば、一対二の闘いに持ち込みたいところなのだが、


「「そらそらぁ!」」


「うッ!?」「グ!?」


 引き離された距離は広まるばかり。

 単純な体術のみで攻めて来るオカマの魔獣に、ハオとケインは傑出能力を用いても攻めに転じることが出来ない。

 ラッシュの速さに翻弄され、拳を食らって後退。怯んでいる隙に接近され、ラッシュを繰り出されては翻弄され、拳を食らう。


 どこかで、負のスパイラルを崩さなくてはならない。


——このままでは……機転を利かせるのだ。


「クソッ!」


 頭で考えていると、ハオはオカマの魔獣の拳を受け流し切れず、右手に持っていたトンファーを思わず離してしまった。

 トンファーはあらぬ方向に飛び、ハオの右脇腹付近ががら空きになってしまう。


「そこよ!」


 オカマの魔獣の左蹴りが、がら空きになったハオの右脇腹に直撃する。


「————ッ!?!?!?」


 芯まで伝わる鈍痛。ハオは嘔吐きながら吹き飛ばされる。

 後方では、ケインが射撃した火魔法をオカマの魔獣が避けていた。両手を前に出しての火魔法の射撃。その後隙を、オカマの魔獣は逃すことなく捕らえ、


「ここ!」


 ケインの胴体に両拳での突きが炸裂する。


「————ガァッ!?!?!?」


 ケインは開口して、ハオと同じように唾を吐きながら飛ばされた。


「もう、ここまでみたいね……」


 オカマの魔獣の攻撃を食らった二人は、膝を付いても起き上がれない。

 ほぼ同時の決着。


「「炸裂しろ」」


 ではなかった。


「どう、恐怖は味わえたかしラッ!?」「な!? うしゴッ!?」


 ハオとケインの攻撃が、二体のオカマの魔獣の心臓を背中から貫いた。そして、ハオはそのまま疾風を破裂させて心臓を。ケインは貫いた薙刀を爆発させ、オカマの魔獣の上半身を爆散させた。


 一時的だが、決着を着けたのはハオとケインだ。


 ハオは手から離れた——敢えて離したトンファーを、予め纏わせていた疾風で操作。トンファーの先端に疾風を凝縮させ、そこをオカマの魔獣の背中に接触。

 貫いた直後、凝縮させた疾風を一気に奔出させたのだ。これでは、筋肉操作を用いる間などない。


 ケインは後隙の大きい両手での魔法射撃を行い、敢えて攻撃を誘引。攻撃を食らった後、射撃した火魔法から薙刀を鋳造し、それを背中に刺して爆発させたのだ。


 要は、二人とも敵の虚を突いて一矢報いたということ。それも、意思の疎通を図ることなくほぼ同時にである。


「ケインさん!」


「はい! 合流しましょう!」


 ハオとケインはオカマの魔獣の死体から離れ、互助ごじょできるように合流。ケインが「ハオ君、怪我は?」と、ハオの両腕に触れ、


「それと動かない箇所などはありますか? 私は先ほどの攻撃で、胸部の骨が折れたようです。ラッシュを受けた両腕にも、痺れがあります」


「実は俺も、ラッシュを受けた両腕が痺れてる。蹴りを食らった右脇腹にもすげぇ鈍痛がある」


 ハオは右手から離したトンファーを、疾風を使って手元に戻す。それからトンファーを地面に置き、両手で握り拳を作った。

 力が入りにくい。両腕の痙攣けいれんは、筋肉操作で強化しても止まらない。

 それだけ、オカマの魔獣の身体能力と筋肉操作が格上であるということだ。


「右脇腹の骨は?」


「多分だけど、折れてると思う」


 怪我の深浅しんせんを問うてくるケインに、ハオはやせ我慢なく答える。それを聞いたケインは、ハオの右脇腹をさすり「痛みますか?」と、聞いた。

 摩られたことで、右脇腹の断続的な痛みが増して、ハオは顔をしかめる。


 痛みで分かった。これは完全に折れている。

 これで、二人とも満身創痍であるのが分かった。

 

「死して尚蘇り、更にこれほどまで強いとは……」


「つえぇ奴が使う分身は、厄介すぎるな」


 ハオとケインは慣れた手つきでタケの実を口に含み、胃の中に流し込んだ。

 満身創痍であるのなら、


「ハオ君、奴が起き上がるまでに、傑出能力を……」


 自分達の傑出能力を遺憾いかんなく発揮できる遠、中距離から戦えばいい。


 近距離戦闘は圧倒的に不利だと、痛い程分からされた。捨て身の攻撃も、二度と食らわないだろう。

 あれほど、距離を詰めて攻撃してきたのだ。敵は遠、中距離で強力な技は持っていないと考えていい。


「それより、再生するまえに、近づいて殺すのは……なんか変な表現だけど」


 そういえばと、ハオは後頭部を摩りながら唐突に言った。ケインは小さく目を見開いた後、死体を見て、右手を小さく上げ、


「……試してみましょう……鋳造」


 人差し指の先端で薙刀を鋳造。それをオカマの魔獣の死体——二つある内、ハオが斃した死体に向かって放った。

 すると、


「うおッ!? マジかよ……」


 薙刀が触れた瞬間、死体が火魔法を放ちながら爆発したのだ。

 もし、薙刀ではなく自分自身で死体を攻撃していたら。恐怖に、鳥肌が立つ。ハオはその結末を想像する前に、現実に戻った。


「やはり、思った通り……弱点の克服はしてある。死して尚、再生して蘇って来るのなら、再生する時が狙い目。故に、そこを狙ってくるところを狙う……あれは仮死状態なのでしょう。再生して蘇って来る理由も、そこにある」


 強いうえに、弱点の克服もしている。厄介極まりないことだ。


「ナイス推理、ケインさん。疾風・虎狼ころう


 ハオはケインを見ずに謝意を伝え、疾風で虎と狼を生成。トンファーと顔を除いた身体全身に疾風を纏い、万全な状態で臨む。

 ケインも謝意に対し返答することなく「鋳造」と、頭上に四つの薙刀を生成させ、一つを自身の手に。残り三つを頭上に浮遊させたまま、オカマの魔獣との闘いに臨む。


 爆発で弾け飛んだ死体と、上半身のなくなった死体が、徐々に元へ戻っていく。


——それを目を離さずに見ていたケインの胸中へ。


 分身の傑出能力が解けないことに、ケインは疑問を抱いていた。仮死とはいえ、死であることに変わりはないはず。だのに、分身が消えないのは何故なのか。何かがおかしい。


 ただ、その思索しさくの結論が出るよりも先に、オカマの魔獣は起き上がった。


「ッ!!」


 ハオはオカマの魔獣が起き上がったと同時に、二本の疾風を走らせる。


「食らわないわよ!」


 対抗する分身であろうオカマの魔獣が、その二本の疾風を弾く。

 それから万全の状態である二人を見て、後ろのオカマの魔獣が窃笑せっしょうした。


「武器を投げて確かめたのね? 頭が良いわね貴方……捨て身の攻撃も、素敵だったわよ。正直、舐めてたわ……これからは、普通の敵と見做みなしてあげる」


 恐怖を教えると言った発言の撤回である。その発言を境に、オカマの魔獣の殺気や闘気がさらに上がったのを、ハオとケインは肌で感じ取った。


 これほどまでの強さ。疾風怒濤しっぷうどとうな時代のエンザン警備隊の長。エンタクの従者でありながら、主に反逆した逆賊。エンタクの宗教を嫌厭けんえんする存在。


 合致するものがある。


「思い出しました……貴方は、約四百年前、まだアンコウエンが民主制だった時代。エンタク様、神からの逸脱。神去かみさるを企て、実行した逆賊。その首魁……マルティナですね」


 ケインはオカマの魔獣の正体を道破した。

 彼の倏然しゅくぜんとした言葉を聞いて、オカマの魔獣は固まる。

 図星だ。


 騙っていることも考慮して、候補はいくつかあった。が、強さ、そして相手の言葉を真実だとして推理すると、マルティナという人物が一番符合するのだ。


「神去る。逆賊の首魁……それも四百年も前って」


 ケインの言葉に、ハオは瞿然くぜんと彼の顔を見る。それと同時に、ハオの顔から怒火どかにじみ出てくる。


「まぁ、アタシの事を知る子がいるなんて……というか、アタシが死んでから四百年も経ったの!! いやぁ、無常迅速!! 時間の流れって残酷だわぁ!!」


「ッ!!」


 オカマの魔獣——マルティナは身体をくねくねさせて、言葉とは裏腹なうざい行動を取る。黙れと、ハオは無数の疾風で攻撃を仕掛けるが、


「やん♡! 話の途中で攻撃しないの! 野暮な坊やね、全く……」


 マルティナは分身と本体の周りに火球を展開させ、ハオの疾風を全て相殺した。

 それに痺れを切らし、憤慨ふんがいの形相で飛び込もうとするハオ。その腕を、ケインは掴んで抑止した。

 ハオの疾風で掴んだ掌が傷付こうとも、ケインは「ハオ君、冷静に……」と、ハオを強く押しとどめる。


 ハオは「ごめんケインさん」と、怒りをかみ殺すように謝り、押し留まった。


「可愛いわね、坊やわ……緑髪の貴方、国史を、いや、というよりか、今はアンコウエン史、と言った方が適切かしら……歴史が書かれた竹紙ちくしの本でも読んだの……?」


「どうやら、間違いないようですね……」


 ケインはマルティナの言葉を——竹紙という単語を聞いて『かもしれない』を確信へと昇華させた。

 その理由は、


「竹紙は四百年以上前、出版が盛んになったと同時に、大量生産され始めた筆記媒体……羊皮紙や紙ではなく、竹紙が自然に言葉として出て来るなら、やはり貴方は当時の逆賊……」


 詳述した通りである。


「今、生きてんのは……」


「えぇ……傑出能力が主因でしょうね。但し、彼ではなく違う誰かの能力だと」


 確認してくるハオに、ケインは頷いて肯定する。それがマルティナの傑出能力ではない根拠は、彼がそれを使っているところを目にしていないからだ。


 赤黒い容姿の人型の魔獣も、マルティナ同様に死者が傑出能力でよみがえった姿。となれば、マルティナは誰かの能力によって蘇ったと考えるのが妥当だ。


「強ぇ理由は……」


「単純な強者。反逆を起こせるのです……力が無ければ、まかり通らない」


 弱者が反逆を起こせるはずがない。となれば、マルティナが強い理由は他者から力を与えられたのではなく、研鑽によって築き上げたものと言える。

 即ち、弱体化を図ることは不可能。真っ向勝負で勝たなくてはならない。


 こういう時『あぁ、クソだるい』と、吐き捨ててみたいものだ。


「はぁ……さっきから聞いてれば、二人とも、アタシのことを逆賊逆賊って……人聞きの悪いこと」


 唐突、マルティナが心底、不満げな顔と態度でそう言った。彼は深呼吸した後、右手を自身の胸に当てて、


「時代の先駆者って呼んで欲しいわ!」


 的外れが過ぎる意味不明な発言をした。

 ハオは「はぁ?」と、勃然ぼつぜんと声を出し、


「何が新時代の先駆者だ!! エンタク様の従者で、反逆を起こしたってんなら逆賊だろうが!! 被害者面すんじゃねぇ!!」


 被害妄想も甚だしい、自分に都合が良すぎる解釈だと叱咤しったする。

 当然だ。物が言いようとは言っても限度がある。今のマルティナの発言は克己こっきの欠片もない、独りよがりの発言だ。ハオだけではなく、ケインも同じ気持ちである。

 ケインも被害者面するなと、罵ってやりたいところなのだが。


「何も分かってないわね……そもそも反逆じゃないわ。政権交代、政変、民意による暴力革命、アンコウエン革命……まぁ色々言い方はあるけど、エンタクは政治で負けたのよ。紙面での情報しか知らないから、間違えても仕方ないかもだけど」


 ケインは、マルティナの言っていることが事実であるのを知っていた。

 逆賊と呼ぶ理由は紙面での情報もあるが、それ以上に感情が大きく作用しているからだ。


 ただ、ハオはマルティナの発言に青筋を浮かべ、


「は……? 意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇ」


 その鬱憤うっぷんを言葉で発散させるように、彼を睨む。

 発散させたはずなのだろうが、ハオが身に纏っている疾風は大きく揺れ動いている。怒りの余波が疾風に呼応しているのだ。


 ハオの怒りはもっともだ。四百年前のことを知らないハオにとっては、マルティナの発言は荒唐無稽こうとうむけいでしかない。


「だから、独裁政治を形作るクソみたいな悪弊あくへい宗教を潰して、鬱陶しい神なんていない、人類だけの、真に平等な国として再スタートする。その選挙で、あの女は負けたのよ!」


「ふざけんな!! エンタク様がいなきゃ! 魔獣達が暴れ出すんだぞ!! んな馬鹿なことあり得るか!!」


「あり得るわ!! だって教養もクソもない、噂程度の醜聞しゅうぶんを本気で受け止める、俗輩ぞくはいにすらも選挙権があったんだもの!!」


「ッ!」


 弄舌ろうぜつに、見下すように、過去の出来事を開示していくマルティナ。論破されてしまったハオもケインと同じく、怒りや悔しさといった万感ばんかんを、歯を食いしばって潰すことしかできない。


「馬鹿よねぇ!! 民衆を思い、平等をいた所為で、墓穴を掘る結果となった!!」


「いけしゃあしゃあと……」


 いけしゃあしゃあ。改悛かいしゅんなど毫末ごうまつもない。エンタクと、その従者や宗教を嫌悪し見下すだけの感情のみ。

 だからこそ許せない。何故、施される側が施す側を罵るのか。


「うふふふ……俗輩は、猿たちは生まれてから死ぬまで猿。その猿たちがどれだけ集って物事を考えても、猿知恵から脱することは無い。それが、民主制。民意で国政や執政する党、統領が決まるの。民衆が馬鹿だと、危険思想の持ち主でも国のトップになれちゃうわけ。持ちつ持たれつなのよ……」


 何故、異心いしんを抱けるのか。反逆するのか。殺すことを、しいすることに呵責が無いのか。どうして、そこまでして潰したいのか。

 考えるたびに、その行動への理解が遠ざかっていく。


寡頭的かとうてきな共和制だったら、結果は違ったでしょうに。だから! アタシはそれを、哀憐あいれんしながら利用してやったわ!!」


「黙れペテン師!!」


「いやぁん! 不評!!」


 見下し続けるマルティナの発言にもう辛抱できないと、ハオは疾風の虎を先行させた。マルティナは展開した火球を飛ばして疾風の虎を崩し、崩れてなおせまる疾風を両腕で弾き返す。


「これでも生前は結構支持を受けてたんだけど!!」


「ッ——!!」


 ハオに続けてケインも、舐め腐っているマルティナへ浮遊させた薙刀を飛ばして攻撃。接触する寸前で爆発させるが、マルティナは容易くそれを避ける。


「だが、虚しく敗北に終わった……」


 感情的にはなっても、情動的じょうどうてきに動くことは無いケイン。その冷静な彼も、マルティナに対し怒りが限界値を越えていた。その証拠に彼は、今までマルティナの発言を静聴せいちょうしていたはずが、揚げ足を取り返すように反射的に言い返していた。


 冷静でいようとするのが、馬鹿げていると思える程の怒りだ。


「そうよ。だからアタシは死んだの……でも! 今は違う!!」


 マルティナはケインの指摘に反言を言うことなく、開き直るように認めた。また、その潔さが頭にくる。


 重ねて、彼はケインとハオの怒った顔を見て殊更ことさら、煽るように戯笑ぎしょうすると、


「今は政治なんて必要ない! 邪魔で気持ちの悪いあの女と宗教を、真っ向から潰せる勢力が味方に居る!!」


 両手を大の字に広げて、そう言ってみせた。

 そして高らかに吐露とろした後、マルティナは展開した火球をケインとハオの足元に向かって撃つ。

 舞い上がる土と煙。一瞬だが、ひるんだ二人に接近していく。


 しかし、ケインとハオは怯みながらも、接近してくるマルティナに遠距離攻撃で反撃。だが、身体能力が高いマルティナには、二人の攻撃はかすりもしない。懐に侵入され、


「ふひッ!」


「づッ!!」「ガァッ!!」


 ハオは前で攻撃を防いでいた分身の殴打を、ケインは後ろで弄舌を決め込んでいた本体の殴打を食らってしまう。


「「今度こそ、エンタクのカスを! 目障りな女をひざまずかせられる!!」」


 吹き飛ばされる二人に、マルティナがもう一度接近。先程と同様に、ラッシュを繰り出す。

 遠、中距離で対処しようとしていた今の二人に、マルティナのラッシュを防ぐ術はない。


「ぅ、ぃ、あ、グ、ガァ!?」「ぅ、ギ、ヅッ、オォ!?」


 ラッシュを食らう拳が、世界が、遅く緩やかになっていく。


 弑する理由など浅はかなものだった。自分勝手で自己中心的なことだと、薄々気づいてはいた。

 独裁政治だの悪弊宗教だの。政治での勝利か何かは知らないが。


——『何を言っても!』『お前はやはり逆賊だよ!!』


 殴られ、意識が飛びそうになる中、ケインとハオの心境は図らずとも合致していた。

 世界と同じく、遅く緩やかになっていたハオとケインの動きが、まるでそこだけ切り抜かれたように早くなった。

 遅く見えるマルティナの拳を、ハオとケインは避け、


「絶対に!」


「エムッ!?」


「お前のようなカスの好きにはさせねぇ!!」


「ムベェ!?」


 ラッシュの間に割り込み、反撃の一撃をお見舞いした。

 真っ向からの接近戦で、初めてマルティナに有利を取った。防ぐ術を、死闘の中から編み出したのだ。勝負は、まだまだこれからだ。


「「んふ……」」


「「ッ!?」」


 反撃の一撃を食らい、マルティナは三歩後退する。だが、彼は強烈な一撃を食らったにも関わらず、顔を上げて歪に莞然かんぜんと笑った。こうでなくては楽しくない、と言いたげだ。


 マルティナは分身と本体共に突貫の態勢を取り、


「「じゃあ、アタシを止めてみなさい!! 盲目な傀儡かいらい!! 九割九分九厘九毛(くりんくもう)、無理でしょうけどね!!」」


 先程よりも、更に速度を上げたラッシュを二人へと叩き込む。


政治の話が出てきましたが、飽くまで異世界での話ですので、現実世界と一緒くたにしないでください。

ご理解の程、お願いします。


それと、お待たせしました!!

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