第21話 迎撃態勢
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コウエンタク屋内。病室前。屋内に吹く風は、まだ止んでいない。
「はい、非戦闘員の人は病室前に集まって!! 押さない! 走らない! 喋らない! 戻らない!」
眼鏡女性——セイが、コウエンタク内で働いている従者達を病室前へと呼び出す。
現在病室内にいるのは、気絶したリメアとローレン、ハオの妹であるローコ、二人の従者——少女とお目付け役の女性だ。
無論、呼び寄せた従者達を病室内に入れないのは、入り口が一つだからだ。混乱によって、人と人がドミノ倒しになる未来は想像に難くない。
それ以前に、動ける者が動けない者を護るのが道理。故に、病室前だ。
「戦闘の心得がある人は私の元に集合!!」
非戦闘員の従者達が集まったのを確認して、セイは戦闘の心得——迎撃に志願した者達を病室前に呼び寄せる。
志願した者のほとんどが魔法か体術、或いはその双方の実力を併せ持っている。男女比率は七対三といったところ。
練度で言えば、新人騎士にも引けを取らない程だ。
通常であれば、戦闘に参加するはずのない者達なのだが。彼らに戦闘の心得があるのは、エンタクが選定して鍛え上げたからである。
頭が優秀であれば、手足も優秀に育つ訳だ。
「集まったね! じゃあ、今から武器庫に行って、それぞれ自分に合った神器を持ってもらうから! コウエンタクの中はシュルナ達やハオ達が護ってくれるから、基本的に安全だけど! 捌ききれないかもしれないから、気を抜かないように!!」
「「「はい! 承知しました!」」」
「じゃあ、二列になって私に付いて来て!!」
セイの掛け声を聞いて、従者達は言われた通り、二列になって彼女の後ろに並ぶ。走らず、歩いて武器庫に向かう。
——まさか十年後、本当にこんなことになるなんて……
武器庫。セイはその単語を胸中で思い浮かべて、とある青年を回顧した。
『十年後だ。十年後、ここは大きく変わる……』
白髪に蒼眼の青年。十年前、大量の神器を携えて、コウエンタクに訪れた謎の青年が言った言葉だ。冷然としていて、どこか温かさもある印象的な青年だった。
その青年は伝えたい事だけ伝えると、携えていた神器をコウエンタクに納め、風のように去っていった。
青年の言葉通り、アンコウエンには最悪な変化が訪れている。当時は、青年の言葉に『何を馬鹿なことを』と嘲笑したが、実際に起きると笑えない。
「あの白髪のイケメン、一体誰なの……敵の刺客? それとも予言者?」
無双窓から入って来る風に髪を靡かせながら、セイは述懐した。
敵の情報を知っているから、青年が敵という可能性は考えられる。だが、これはエンタクが青年を警戒していなかった為に、敵とは断言しがたい。
ただ純粋に、未来視の力があるだけなのだろうか。もしそうだとしたら、何故教えてくれたのか。
仲間、或いは単なる温情か。どれも、推測の域を逸しない。
そうやって沈思していると、いつの間にか武器庫前に到着していた。
足を止め、セイは既に開かれていた武器庫の中を覗き込む。そこには、
「お、セイか」
中から神器——愛用のトンファーを手に持ったハオが出て来た。
「お、じゃないし、てか、いい加減ねぇさんって付けろ!」
街で知り合いと、ばったり会ったかのような軽さだ。
この状況下でも、緊張感がないとは。経験が薄い割に、据わった胆力は恐ろしさを覚える程だ。ローガ譲りなのだろう。
遅れて、その後ろから、神将とともにコウエンタクに訪れた直情そうな少年——グーダが神器を持って出て来た。
グーダが持って出て来た神器は、なんと軽装の鎧一式だ。身体を動かして、鎧の着心地を確認する様は、着慣れしていない背景が窺える。
武器だけでなく、武具や装飾品など分け隔てなく存在しているのが、神器の珍貴なところであろう。
「考えとく! コウエンタクは任せたぜ! 俺たちは、北に行って、攻めて来る敵を迎撃してくる!!」
ハオは前を見ず、手を振りながら走り去っていく。その様は、格好つけたがるお年頃の子供だ。
「分かった! そっちは任せたわよハオガキ!」
自身よりも若く、小さく、才能のあるガキ。生意気だが尊敬できる。セイはその万感を乗せて、ハオを全力で見送った。
「これ、本当に力を分け与えてくれんのか!?」
「本当だよ! 嘘つく必要ないだろ!」
ハオの背中を追って、グーダも鎧をガチャガチャ鳴らして走り去った。
「ったく、何が考えとくよ……」
——はぁ、才が少ない自分に辟易する……
だが、この感情は切り捨てる。これは雑念。エンタクに頼まれた任を遂行するには邪魔だ。
『よし!』っと心の中で頷き、決意を固めて、
「あ! 順番に、一人一つだからね! それと直感的に選ぶこと!!」
セイを先頭に、前列にいた従者達も武器庫に入っていく。
彼女から指示を受けた従者達は日光が通らない部屋の中、神器を恣意的に探し回る。
探し始めてから数秒が経ち、一人目が「これだ」と白槍を手に取った。その一人目に続いて、二人目が「これだわ」と、間を置かずして、翠刀を腰に番えた。
そして続々と、「俺はこれだな」「私はこれね」と言って三人目、四人目が神器を武器庫から持ち出していく。
嘆賞この上ないというべきか。元来、神器は選ばれし者しか扱えない代物だ。
その根拠となるのが、神器自体が稀有であること。他を顧みない者には扱えないこと。欲深き者は嫌われてしまうこと。そして、巡りあわせ。
この四つだ。
——とはいっても、
『神器が選定する者は、仲間思いの献身的な者だ。理由は判然、何も報いてくれない奴に、力を貸してあげたいなんて思わないだろ?』
エンタクが愛用する炎尖鎗について訊いた時の言と、
『神器は才ある者がその身を粉にし、傾注することで、やっと出来上がる無類の作品だ。故に相手を選ぶ。当たり前だが、運も大事だ。ま、神剣に選ばれた、神将みたいなもんだな……神器を選ぶ時は一つ。それも直感で選べ』
青年が神器を納め、去り際に言った言。
——全て、エンタクと神器を納めた青年の受け売りではある。
「私は、この神器。力を貸して……」
彼らの助言を再認識して、セイも従者たちのように神器を手に取った。灰色の盾だ。何の変哲もない、ごく普通の盾である。
「基本、受け身の私にはピッタリね」
さて、余韻はここまで。選べば武器庫から出て、後列にいる従者達と交代する。
続いて、武器庫に入っていく従者が、神器を持ち出して来るか否かを観察。最後尾の従者が武器庫から出て来たところを「貴方で最後ね」と、セイは確認を取った。返事を受け取り、従者達と目を合わせる。
神器を持っている割合は、ざっと三割程度だ。神器から選定されなかった者は、四つの内の何かが足りなかったのだろう。
及第点といっていい。
「じゃあみんな注目! 今から陣形を言うから、よく聞いてて!!」
セイは手を上げて、従者達から視線を集める。彼女は病室を指さし、
「今回組む陣形は、基本、病室を囲うようにして敵を迎撃する円形! もしかしたら、敵が屋根を壊して侵入してくるかもしれないから、屋根上にも陣形を組むよ! 神器に選ばれた人はなるべく前線に出て!」
喋る中途で屋上も指を差す。
「屋内の最前列は庭まで出て! 建物が壊されないように厳戒ね! 屋根上の人は、登ってこようとする敵を撃ち落して! 上空から敵が来た場合、魔法で攻撃! 負傷者がでたら、後列の人が負傷者と入れ替わること! もし、最後列まで入れ替わった場合、横の列の人が填補すること! 横から填補した場合、陣形を狭くして、防御を固めること!」
「「「はい! 承知しました!!」」」
その双眸を決然とさせる従者達。彼らのコウエンタクを護るという士気の高さを見て、セイは迎撃時に陣形が乱れることは無いと確信した。
——みんな、エンタク様と、このコウエンタクが大好きなんですよ。エンタク様……
その事実を間接的に知れて、嬉しさで頬が緩む。
「セイ! 手紙、送り終わったから、僕も参加します!」
「フク! ナイスタイミング! ちゃっちゃと武器庫から神器選んできて!」
「分かりました!」
眼鏡青年フクの登場だ。執務室から飛び出してきた彼に、セイは武器庫に行くように促す。
これで全員が揃った。後は例外に対して、臨機応変に対処する指揮を誰が担うかだ。
「よし、今から屋根上の隊長、副隊長と、屋内の隊長、副隊長を決めるよ!」
適任なのは胆力が強く、鋭敏な頭を持ち、場数を踏んでいる者。ゆえに、
「屋根上の方の隊長は私! 副隊長はレイ! アンタ!」
一番動けて、一番動かなくてはいけない自分が屋根上の隊長。副隊長は、俯瞰視が得意な男だ。
名前を呼ばれた男は、「うっす!」と敬礼して返事をした。
「屋内の隊長はフク! 副隊長はジン! アンタ二人ね!」
普段は頼りない童貞だが、やる時はやるフクが屋内の隊長。その彼を慕っている少年が副隊長だ。
任命され、ぎこちなくも「ハイ!」と答える少年に対し、フクは「了解って、え!? 隊長僕ですか!?」と、武器庫の中で頼りない反応をとる。
セイは『あぁこいつは』と嘆息した。
空気が読めない童貞だ。そこは、格好よく任せろと言ってのけるのが常だろう。
「そうアンタ! 口答え無し! 時間の無駄なので!!」
融通がきかないフクを、セイは怒りを含ませた言葉で一蹴する。武器庫の中から「いやちょっと!? もう少し考えません!?」と、抗議してくる声は完全に無視。
行動を開始せんと精悍な顔をする従者達に、セイは「みんな!」と、もう一度だけ声を掛け、
「こんな時って緊張しちゃうかもしれないけど、そういう時はポジティブに考え直すのよ! 緊張して心拍数が上がっちゃうのは、身体全身にエネルギーを行き渡らせようとしてるから! とか、こういった場面で緊張しちゃうのは普通のことだ! とかね! そうすれば、緊張を我が物にできるわ! それじゃあ、行動開始!!」
「「「ハイ!」」」
従者達が動き出していく様を、セイは見守る。
助言を受けた従者達は当然、セイも伝えたいことを伝え切ることが出来て、蟠りは皆無になった。
これで迎撃中、雑念に囚われることもないだろう。
「取り敢えず、僕が隊長でいいとして……それよりもセイ。絶対屋根上の方が危険ですよ。僕が屋根上を護った方が……」
憂思を募らせたように、神器——短剣を握ったフクが様子を窺ってきた。
何を言うかと思えば、心配とは相変わらずである。後々になって、格好つけてくるところが中途半端に男らしい。
憎み切れない男だ。そこが逆に腹が立つ。だから、
「ふん、アンタが取って代われるほど、私は落ちぶれてないわよ。そう、今も成長し続けてんの! アンタと私の差は一向に埋まらない! 現在進行形でエロさも成長中!」
鼻で笑って、セイはその心配を跳ねのけてやった。
というか、フクばかりに格好つけられるのは癪に障る。神将がエンタクを侮辱した時、フクに胸倉を掴みに行く役を奪われて、憤懣が胸の中を渦巻いていたのだ。
——今度は、私に格好つけさせろ……
「あ、はい……」
「おいィィィィ!! そこは童貞らしく、おっふとか、エッロ……みたいな感じで、もっともさい反応しろよぉ!!」
魚のように死んだ目をして見てくるフクに、セイは指を差して、全身全霊のツッコミをぶち込んだ。
——だから、てめぇは童貞なんだよ!
「はぁ、うるさいですよ……こっちはもっと処女らしく、可愛いこと言えって思ってますから」
ツッコまれたフクは憮然と、お手上げのポーズでセイにツッコミ返す。
二人がいつもやっている、童貞と処女を馬鹿にし合う痴話喧嘩だ。次の返しは、
「あぁはいはい……フク君スキ! いちゃラブちゅっちゅしよ? こんな感じ?」
役者のように、頓にキャラ変更。アイドルっぽく内股になり、ウィンクをした後に投げキッス。果然、キャラを戻す時も頓に戻す。
セイは『流石、今日も私は端麗ね』と自画自賛した。
彼女のわざとらしい嬌態を見たフクはというと、
「あざとい。それと言われた後、殊更にやったから尚悪し」
新人役者に苦言を呈す、うざったい中年おじさん監督が如くの指摘をした。フクがもう少し肥えていて、顔に無精ひげを生やしていたら、百点だったであろう。
「けっ! これだから理想厨は……」
「そっくりそのまま返しますよ……」
黙れ童貞。それはお前もだろ処女。
敵が迫っている状況下で、焦燥することなく諧謔を言い合えている。互いにそれが分かって、同時に安堵の溜息を零した。
「セイ、上は任せましたよ」
「当たり前! 中はアンタに任せたわよ!」
セイとフクは手を叩きあって、従者達の後を追った。
——絶対護ってやるから……
※ ※ ※ ※
セイに別れを告げ、コウエンタクを北側に抜けたハオとグーダ。中途、頓に風が止んだことに気を取られたが、エンタクが何かをしたのだと、二人は気にせず山道を走っていた。
「俺たちが防衛すんのは、コウエンタクの北側。ホウキュが護ってる山地の比較的平坦なとこ。コウエンタクからも近くて、敵の侵入を防ぎやすい下り坂の上だ。俺たちは、ホウキュと違って飛べないから、ま、迎撃するには便宜なとこだな」
「登って来る敵を、上からぶちのめすって訳だな」
ハオが目的地を、グーダがやることを要約する。
ハオが先頭を走り、グーダがその後を追う形になっている。
目の前に現れた崖を飛び越えながら、ハオは「ま、要約するとそうだな」と返した。
グーダも彼の後を追って崖に飛び移り、走ってはまた崖から崖に飛び移って、二人は目的の坂へと近づいていく。
「てか、すっげぇな神器って! 猿みたいに、颯爽と崖から崖へ飛び移れるなんて夢にも思わなかったぜ!!」
走る度に、グーダの着ている軽装の鎧がガチャガチャと音を鳴らす。
軽装とはいえ、山道で鎧を着ながら疾走するのは危険極まりない。本来なら、歩いて移動するはずなのだが、グーダが来ている鎧は神器だ。
危険を及ぼすどころか、寧ろ力を分け与え、身体を護ってくれているのだ。
「猿って……一歩ミスったら崖下まで真っ逆さまだから。あんま調子に乗り過ぎるなよ……」
少し癖のあるグーダの形容に、ハオは苦笑いしながら窘める。そして、またも現れた崖を飛び越え、後ろを見ると、
「分かってるよぉッ!?」
「て、おい!?」
案の定、調子に乗ったグーダが崖から滑り落ちそうになった。飛び越えた直後、不注意で足を滑らせてしまったのだ。
ハオは地面に足跡を残しながら、急停止。直ぐにグーダの元へと駆け寄る。
「わぁっとと……ぶねぇ……」
「何が分かってるよだ! 絶対俺の話、聞いてなかっただろ!?」
辛うじて崖に掴まったことで、落ちることは無かったが、言った直後にこの始末。流石に落胆してしまう。
「大丈夫だよ! 俺は鍛えてるし、土魔法師だ!!」
「何処から湧いて出てくるんだよ、その自信は……ほら、手」
左手で崖に掴まりながら、右手でサムズアップしてくるグーダ。
この状況でポジティブでいられる精神は才能なのか、鈍いだけなのか。後者だろうと思案しながら、ハオは右手を差し出した。
「助かる! うぉっ!?」
ハオが右腕を使って引き上げると、グーダの身体が人一人程度飛び上がった。そのまま、グーダは地面に着地。事なきを得た。
「力持ちだな! 助かったぜ! ありがとな!」
「目的の坂はもうちょっと先だから、今度は落ちんなよ」
ニッコリ笑って謝意を述べるグーダに、ハオは右手を振りながら前に歩き出す。グーダも歩き出し、
「おう! もう二度とヘマはしねぇよ!」
「先が思いやられる」
またもや、サムズアップして過信を表明してくる。
——こいつは絶対鈍いだけだ……
ハオだけが憂いを残して、二人は走り始める。
「そういや。アンタ、名前は? 俺はハオ・サルビア。あぁ、フルネームで」
「家名はねぇ! グーダでいいぜ!」
家名はない。その答えに、ハオはグーダが孤児ではなかろうかと推考した。
付随して、神将たちやエルフ達と共に、コウエンタクに訪れた事が気になったが、ハオは直ぐに思考するのを止めた。
これから一緒にコウエンタクを護る仲間として、無粋な詮索は失礼だ。訊くなら、もっと踏み込んでからだろう。
「土魔法師だよな? 傑出能力は?」
「その、傑出なんちゃらってのはなんだ?」
聞き覚えが無いとグーダは眉を顰めて訊き返してくる。
そういえば、傑出能力はエンタクが認識の齟齬を無くすために名付けたのだった。知らなくて当然で、そもそも傑出能力という抽象概念すら知らない様子だ。
ハオは自身が知り得ている情報を、反芻して噛み砕き、
「詳しい事は言えないけど、コスパがよくて、利便性の高い、秀でた者が使える妙技みたいなもの、かな……つっても、習得するには莫大な時間と修行が必要だから、そういった面ではコスパはよくないけど……」
「とにかくスゲェってことだな!」
エンタクの厳たる稽古の数々を思い出しながら語るハオに、グーダはその苦難を露ほども知らない笑顔で感懐を述べる。
だが、その馬鹿らしさが逆にハオの苦難を薄くさせ、
「何それ! 単純すぎて面白れぇ! 嫌いじゃないぜ、グーダ! あ、そういや呼び方ってグーダでいい?」
「いいぜ! 呼び捨てで! その代わり俺もハオって呼ぶからな!」
「おっけい、グーダ」
——二人の仲が深まることになった。
直情的なグーダと、理屈的なハオ。年も近く、相性もよければ、二人が仲良くなるのは自然であった。このまま、時間を共にすれば親友になれる程にだ。
「土魔法はどこまで使えんの?」
「んっと、上位は厳しいな。プロテクションは比較的に使えるぜ」
「そうか、了解。俺は風。基本魔法は使わず、傑出能力を併用した魔法使うから。でも能力は絶賛修行中だから、まだ制度、稚拙だけどね……」
森を抜け、岩肌が剥き出しになっている山道に出た。
「…………?」
ふと地面に映る影。それも、物体が地面に面することなく、影だけがぽつんと映っている。上空だ。
気付くと同時に、ハオは空を見上げた。そこには、
「ん? 空に、あれはじっちゃんとピヨ達か?」
二匹の鳥の魔獣と、二人の人物が空を飛んでいた。ローガと、グーダと共にコウエンタクに訪れた青髪の女性だ。
疑問が浮かび上がって来る。
「何でホウキュじゃなくて、ピヨ達に?」
「あれは、アリスのねぇちゃんか! 多分、そのホウキュってのはイエギクのにぃ達の方に、いるんじゃねぇのか!?」
「じゃあ、じっちゃんが独断で作戦を変えたってことか? なんでわざわざ……」
「さっき風が止んだ時、何かあったんだ! きっと!」
顔に怪訝を浮かべるハオに、グーダは釈然と心当たりを口にする。
訝しんだ表情を変えず「何かって……」と、呟くハオ。
コウエンタクを抜ける直前に、吹き荒れていた風が唐突に止んだのだ。
ただ風が止んだ以外、特出した事が起きなかった為に気に留めていなかったのだが、そうもばかり言っていられなくなった。
作戦が変わったのだ。
「作戦が変わったってことは、おい」
作戦が変わったということは、周囲が意図していない動きをするということだ。周囲が意図していない動きをするということは、仲間間で疑念が生まれるということ。疑念が生まれれば、当然だが行動が鈍くなる。
故に、作戦を変えることは基本的に無い。作戦が変わる。それ即ち、
「何か、まずい事があったんじゃ……」
事が悪い方向へと傾いたということだ。ならば、コウエンタクに引き返すか。
否。
——俺がやるべきことは、コウエンタクに敵を侵入させないこと。
依然として、坂にて敵を迎撃することは不動だ。
自分の中にあるじっちゃん——ローガの心象が、背中からそう語り掛けてくる。
「分かってるぜ、じっちゃん……お前はお前の任を貫徹しろ、だろ? コウエンタクの事は、コウエンタクを任された奴が対処することだ……」
握りこぶしを固める。数秒後、それを解き、破顔した。
「グーダ! 俺たちは変わらず、坂で敵を迎撃だ! 構わず行くぞ!!」
疑念を吹っ切ったことで、薄志弱行が進取果敢へと昇華する。
それに、自分達が作戦を変えればより一層、周囲を混乱させることになるだろう。
もう迷う事はない。
「おっしゃ! 分かったぜ! ハオは俺より年下の癖に、頼りになんなぁ!!」
「お褒めに預かり光栄! 妹がいるもんでな。頼りになるお兄ちゃんなんだよ、 俺は……」
グーダから褒められ、少し上機嫌になったハオは冷淡に格好つける。
ませた性格の反面には、子供らしい素直な感情がハオにもあるのだ。
「マジか!? ハオも兄弟が居んのかよ!? 俺も妹と弟が居てよ! なんだ、俺たち気が合うじゃねぇか!!」
「ちょ、走りながら肩組もうとすんじゃねぇよ! あぶねぇだろぉが!!」
意外な部分での共通点に、グーダが馬鹿みたいに肩を組もうとしてくる。が、ハオは本当に危険なのが半分、暑苦しいのが苦手なのが半分で、それを拒否する。
向こう見ずというか、考えなしというか。とにかく見た目通り直情的だ。ツッコミが休まることを知らない。
「タハハ! そうだな! わりぃわりぃ!」
グーダのいかにもな表情と言葉選びに、ハオは「ったく……」とため息交じりに呟いた。
索寞。目的の坂まで、目算あと数分といったところだろう。その数分間、何も話さず走り続けるというのは、少し手持無沙汰だ。
何か仲が深まるような話題はないかと、今までの会話を振り返り、
「そういやさ、さっき妹と弟がいるって言ってたけど、何歳くらいなの……?」
共通している兄妹の話を振った。
単純に気になったのが近因ではあるが。
「えっと、十一と十二だ」
「へぇ、俺より二つ以上下なのか。一緒に暮らしてんの?」
「そうだぜ。他にも、妹と弟だけじゃなく、いろんなガキとも一緒に住んでるぜ。ハオの妹は何歳くらいなんだ?」
「十歳だよ」
訊き返され、ハオは妹であるローコのことを答えながら、過去の会話を追懐し始めた。
一年前、田畑に植えられた麦がまだ緑色の出穂期の時だった。
『お兄ちゃん! またエンタク様の稽古サボってるでしょ!』
こっそりエンタクの稽古から抜け出し、コウエンタクの屋根に登ってサボっていたハオ。その彼の元に、ローコが下から注意しに来た。
日陰に包まれた、バレにくい場所で寛いでいたのに、見つけられた時は『なんで場所が!?』と、大いに焦ったものだ。
ハオは知らないが、エンタクは場所を把握している。
『エンタク様の稽古厳しいんだもん! 無理! 死んじまう!』
『無理じゃない! 死にもしない! 可愛い子には旅をさせよ! 打たれても親の杖! エンタク様は、お兄ちゃんの為を思って厳しくしてるの!』
空を見上げたまま、言い訳を連ねるハオと、口の左右に手を当てて、大声で叱りつけるローコ。
ただローコの道理に合った言葉を、子供が理解して真に受けるわけもなく、
『知るかよ! そんなの!!』
ハオは不貞腐れて、ローコの言い分を跳ねのける結果になった。
自分に非があるにも関わらず、それを認めないのは年相応といえるだろう。反抗期と言ってもいい。
『知るかよじゃない! この根性なし!! 三日坊主!』
『んだと! じゃあやってやんよ!!』
往生際の悪さに、ローコは勃然と頬を膨らませてハオを罵った。
ボディーブローのように利く痛言だ。売り言葉に買い言葉。ハオはローコに罵られたのが気に食わず、奮起して稽古に戻ることとなった。
今は、ローコが憂憤して叱ってくれていたのだと理解している。
「ちょっと生意気だけど、俺より責任感があって、優しい奴さ」
追懐し終わったハオは、なんだかんだでローコの尖った言葉が、見返してやるというやる気へと変わっていたことに、ありがたさを感じていた。
「妹思いだな! ハオは!」
ハオの思惟していることを、まるで見透かしたかのように——いや、誰でも考える所感だろう。だって、妹の話をした後に真剣な顔つきになったのだ。
妹の為を思い、剛毅たる決意を胸に抱いた。そう考えるのが自然だろう。
「は!? そんなんじゃねぇし!!」
背中を軽く叩かれたハオは、グーダの嘲弄に顔を赤くして反論する。
妹思いなど、恥ずかしくてどうにかなりそうである。
「あ、坂! 見えて来たぞ! あそこが、俺たちが敵を迎撃する場所だ!」
「あっこか。しゃ! ぜってぇコウエンタクには入らせねぇからなぁ!!」
ジャストタイミング。ハオは顔を赤くしたまま、見えて来た目的地の坂を指さした。釣られて、グーダも目的地の坂を見て決意表明する。
気を散らさない為にも、流石に話をそらさずを得ない。
よかった。
棚田状になった下り坂を降り、二人は迎撃しやすい坂の上にある平坦な場所に立った。
「はぁ……言っとくけど、俺の邪魔だけはするなよ」
「そりゃあこっちのセリフだぜ! 俺には若頭と馬鹿を護るっていう、約束をしちまったからよぉ! 全身全霊で迎撃してやんだ!!」
言い返してやりたいという気持ちを糧に、ハオはグーダに挑発的に出た。対し、グーダは『言ってくれるじゃねぇか』と、言い返す。
「へぇ、頼もしいじゃん……じっちゃんが認めただけはあるな……」
この場面で言い返してくるくらいの豪邁さがなければ、仲間としては力不足だろう。これで遺憾なく、迎撃に挑めそうだ。
深呼吸する。
コウエンタクにいる者は、誰一人傷つけさせたりはしない。一匹たりとも、ローコがいるコウエンタクに入れさせない。
入れさせて堪るか。
——完全試合、果してやらぁ……
意気込み、坂の下を見ると、魔獣達が首を揃えて登場する。
「早速お出ましだ!」
目視できる魔獣の全てが、まるで正気を失ったように吠え、獰猛に目を血走らせている。狼藉。エンタクの言った通りだ。
普段、温厚にしている魔獣達全てが一斉に狂気に陥いるという、異常事態。敵が何かをしたのは確実だろう。
「考えんのはここまでだな……グーダ! あれはエンタク様だけが調伏してる、はぐれの魔獣達だ! 気絶させて、無力化すっぞ!」
「おうよ! 任せとけや!!」
「来るぞ!!」
迎撃が始まる。
コウエンタクを抜ける途中のグーダとハオ
グーダ「神器がこんなにすげぇなら、イエギクのにぃ達にも知らせてやりたかったなぁ!」
ハオ「急襲じゃなかったら、それも出来たかもな……もし事が無事に済んだら、俺からエンタク様に頼んでやってもいいぜ」
グーダ「まじか! 太っ腹だなオイ!」
ハオ「てッ!? 背中叩くんじゃねぇよ!!」




