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アンリーズナブル  作者: 犬犬尾
第二章 アルヒスト攻防戦
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第16話 賑やかな助っ人

大晦日に投稿、間に合いました。やった!

よいお年を!

 眠い。そう思いながら、目を擦って起床した朝。若干寝坊したグーダを除いて、シュウはリメアとリフの男衆三人で廊下を歩いていた。

 ふと階段の下から、シュウ達がいる方に向かって走る足音が聴こえてくる。足音を立てながら、姿を現したのはミレナだ。彼女は「あ」と声を漏らすと、登るのを止めて、


「おは!」


「おう、おはよう」


「何だか眠そうね」


 朝一から元気のよい挨拶だ。シュウは質問とハイタッチを要求してくるミレナに「寝てた所為で、あんま寝れなくてな」と、言って受け答える。


 快活っぷりは朝でも健在である。落ち着けない朝は、まだまだ続きそうだ。


「「おはようございます。ミレナ様」」


 シュウに続いて、リフとリメアが頭を下げてミレナに挨拶。ミレナは「おっは! リフ!」と返した後、リメアの顔をじっくりと眺め「リメアはしっかり寝れた?」と、昨日の彼の様態を見て訊ねた。


「はい! この通り、目の下の隈もなくなりました!」


 ミレナの質問に敬礼して答えるリメアの目元には、言葉通り隈はない。下手に気を使われないのは、周りにとっても楽になるものだ。

 これで気兼ねなく、エンタクとの対談に臨むことが出来そうである。体調は良好。後は、ブレーキと翻す精神力だろう。


「よかった。朝ごはん出来たって。メニューは魚のなますとお米、それと昨日の五目うま煮の残りだって」


 ミレナの言った朝食の献立に、シュウは何処か懐かしい物を感じ入る。

 魚の鱠。酢の物はかなりの期間、食べたことは無い。少し楽しみだ。


「そういえば、グーダは?」


「グーダは先程起こしたばかりで、顔を洗いに行くから先に行ってくれと」


 当たり前のように居なかったグーダの行方を、ミレナは三人の目を見て訊く。再度、リメアが少しだけ顔に怒りと羞恥を残しながら、彼女の質問に答えた。

 二度寝しようとするグーダを、無理矢理起こす姿は教育者のそれであった。寝坊しなくてよかったと思うシュウだ。


「わかったわ。でも朝に弱いのは許してあげて、リメア……」


 リメアの感情は全てお見通しというように、ミレナは苦笑い。そう言われた彼は少し考えた後、


「まぁ今回は、グーダにも助けてもらってますし……許しましょう!」


 この事実を知ったグーダの姿が、何故か簡単に想像できてしまう。


 恐らくこう言う『鬼の若頭が許すとか、ひょうでも降るぜこりゃぁ!』と。それも、大声で嬉しそうに。そして、次のコマで怒るリメアの姿もだ。

 ここまででテンプレだろう。


「じゃあ食堂に行こっか」


 ミレナが踵を返すと、足を止めていた三人も歩き始める。


「てか、宿借りるどころか、朝飯まで貰えるなんて、アゼルさんには頭が上がらねぇな……」


「そうよね。おんぶにだっこってやつ? リュウリンに着いた時に、シュウの病床を貸してほしいって街中を駆けまわったの。そしたら、直ぐにアゼルって子が名乗り出てくれたんだよ」


 独り言ちるシュウに、ミレナが何気なく昨日の出来事を話し始めた。



 ※ ※ ※ 



 そうして遡行する時間は一日前。フイリンにあるリュウリンに着いた馬車は、街に入って早々、住民に救援を求めていた。


『誰か! 仲間の子が倒れちゃったの! ベットを! 病床を誰か貸して! お願い!! 火急なの!!』


『旅の方々、俺が貸しますよ。家なら、お連れの方全員がいらっしゃっても、手狭になることはないです。ですから、どうぞ家へ』


 ミレナが大声で救援を求めても、誰一人とて声を掛けなかった中、一人の男が彼女に手を差し伸べる。見た目は、紅い目が特徴の四十半ばくらいの男だ。


『ありがとう!! 図々しいけど、早急に案内してもらえると助かるわ!!』


 そうして案内されるまま、ミレナ達は男の私宅へと向かうことになった。



 ※ ※ ※ 



 ミレナから昨日の出来事を聞かされたシュウは「そうだったのか」と相槌を打つ。

 仲間にも心配を掛け、赤の他人にも救援されるとは。厚意に預かり過ぎではなかろうか。感謝と羞恥が行ったり来たりだ。


 歩みは進み、四人は池の見える縁側まで移動していた。


 ぴちゃっと跳ねる池の水にシュウの目が映る。食用ではなく、観賞用の養殖魚が泳ぐ池だ。


「それにしてもアゼルさん家ってどういう家系なんだ? 民家にしては中庭があるし、客用の広間もあったりするし……」


 突として、シュウは疑念に思ったことを全員に訊いた。


「そうよねぇ、モワティ村にある平屋あるでしょ? あれを建てるので、大体中央都で働いてる農民の子の、四半期分くらいの収入かな? 確かそれぐらいかかるのよ。二階建てで、中庭があったりするくらい大きな家だと、農民の子じゃちょっとね……」


「組合に所属している熟練の鍛冶職人の方でしょうか?」


「いや、もしかすれば警備隊の方なのでは? アンコウエンに騎士はいませんし、その代わりが警備隊と考えれば、二階建ての家や庭があっても不思議ではありません……」


 前を歩いていたミレナが、中庭を見ながら横顔でシュウに答え、次は後ろを歩くリメアが。その次はリフが、シュウの疑問を解消するように推測を述べる。


 鍛冶屋に、騎士の代わりとなる警備隊。異世界での賃金の相場を、元の世界と比べるのは浅はかだが、鍛冶屋や警備隊なら大きな家を持っていても不思議ではない。


 などと、考えていたシュウの耳に本日二度目の走る足音が聴こえてくる。音のなる方を四人は見ると、十字模様の扉がガラガラと開いた。

 見えたのは紅い目の子供だ。彼女はシュウを見て手を上げると、


「パパはフイリン警備隊の副隊長だよ!!」


 話を聞いていたのか、子供は紅の目を輝かせながら自慢した。

 どうやら、リフの推測が当たっていたようだ。


「おはようディーネ!!」


「おはよう! お姉ちゃん達!! ディーネだよ!! そういえば、お兄ちゃんの名前教えてもらいたいな!!」


 手を振って挨拶するミレナに、子供——ディーネも両手を振って挨拶を返す。それから、くるりと身体をシュウに向けた彼女は、自己紹介をしてほしいと両手を合わせて希求のポーズ。


「イエギク・シュウだ。よろしくな。呼び方はディーネでいいか?」


 シュウはディーネと目線を合わせて自己紹介。


「うんいいよ! よろしく! シュウお兄ちゃん!! 食堂まで案内するね!」


「おう、ありがとな。案内頼むよ」


「うん!」


 シュウから自己紹介をしてもらったディーネは、大きく顔を縦に振って頷き、縁側の奥へと走っていった。


 性格はミレナで、見た目はリザベート。まるで二人を、足して二で割ったような子供だ。


 ディーネの背中をミレナが「行こ!」と、言って早足で追いかける。すると、後ろに居るリメアが「行きましょうか」と促し、残った三人は前の二人に置いて行かれないように歩き始めた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ 



 豪勢とは言えないが、朝食は美味しかった。


 食後は各々が落ち着きながら身支度を済ませ、合わせて一時間ほどの時間が経過。

 気を見計らっていたように——というか見計らっていたローガに、シュウ達は玄関で鉢合わせした。


 ローガの登場に、玄関で靴を履いているリメアの顔が興味と期待によって膨らむ。


「おはようさん。よう、寝れたか? 少し前に、エンタク様に連絡してな。来てもよい、とおっしゃられたぞ」


「本当ですか!?」


 靴紐を結びきる前に立ち上がったリメアの顔は、驚喜きょうきの一色だ。


「ここで嘘は吐かんわ」


 ローガは当然と言わんばかりに髭を弄って、興奮しているリメアを指摘。すると、リメアは「ぁ、ぁぁ……」と、まるで力を貯めこむように身体を縮こめて、


「ぉ、や、や、やったぁぁぁぁ!!」


 全力のガッツポーズ。


「しゃあ! 良かったな若頭!! これで、念願の夢が一つ叶うぜ!! なぁ! きっとそうだぜ!!」


「は、はい!! ぉぉおおおおおお!! こんなに嬉しい気持ちは、イエギクさんから魔女の切手を受け取った時以来です!!」


 横で靴を履き終わったグーダも、リメアと同じようにガッツポーズ。次に二人はハイタッチ。続いてリメアは、ローガの手を取って頭を何度も下げる。

 ローガは「よかったのぉ」と分かり易く笑顔を作った。


「やったね皆!」


「はい!」「ですね!」


 ミレナが遅れてリメアと手を合わせ、さらに遅れてリフとフィアンが小さく頷く。


「リメアさん、願いってのは?」


「あ、はい! 私の願いは貴族の方、所謂お金を多く持っていない家庭の方でも、入学ができる学校を作ることです!! これは私のやりたい事でもあり、当然、亜人迫害問題を解決させる為でもあります!!」


 シュウに願いが何なのかを問われたリメアは、彼に密着するくらいに近づいて応答。鼻息の荒いリメアに、シュウは上体を後ろに逸らして苦笑い。一歩後退する。


 やりたいことであり、亜人迫害の問題を解決する為でもある。何年、或いは十数年。

 彼と会って十数日しか経っていないシュウには、その願いの蓄積量はわからない。だが今リメアの立ち振る舞いから、素願そがんであるのは間違いないはずだ。


 故に、シュウは思った。


「…………」


 心を読んだように、またもやタイミングの良いローガからの目配せ。昨日の会話を振り返る。

 分かってますよ、じいさん。


「水を指すようっすけど、ここからが本番っすよ。浮かれず、冷静沈着に、発する言葉も吟味していきましょう、リメアさん」


 ——俺が、仲介を務めなくちゃな……


「はい。忠告感謝しますイエギクさん。巡り巡って来たチャンスですから! 当然ですとも」


 シュウに忠告されたリメアはグッと握りこぶしを作り、深呼吸をしてそう言った。


「ふふ、学校かぁ……実現させるためにも、神将君達が暴走しないように見ててあげないとね」


「そうだな。提耳面命ていじめんめいってやつだ」


 ミレナに囁かれ、シュウは数歩前に出て返す。


 リメアは歯止めが効かないかもしれない。ミレナ達も頼れるが、何よりローガが自分を選んだ理由が証左だ。

 まさか、自分に参謀の才能があるとは思いもしなかったが。


 ローガに続いて、シュウも玄関から出る。ミレナ達も出て、全員で敷地の外へ。


「では、ここで待っておいてくれ、騎士の二人組を連れてくるからの……」


「お願いします」


 リメアの言葉を聞いたローガは無言で頷くと、屈みながら足幅を広く、そして跳躍。瞬きすれば、次のコマでは右前にあった樹木に。もう一度瞬きすれば、もう一つ前の樹木へ。

 その残像を生じる速さに、ミレナが「早や!」と言って驚愕するのも当然だ。あっという間に、ローガの姿は見えなくなった。


「土魔法師、でしょうか? ただ、あれほどの身体能力はプロテクションではなく……」


「もしや、最上位のアダマントか?」


「可能性としてはね」


「ただ、詠唱をしなかったのが気になるな」


 傍では、リフとフィアンが真剣な面持ちで話している。異世界造詣が浅いシュウには分りもしない魔法の話だ。


 ——アダマントって何だ。スゲェ固いってことか……?


「あ、よかった! シュウお兄ちゃん!! ちょっといい?」


「……? ディーネか、どうした?」


 異世界に来て何度目かの、自身への辟易。落としどころのない恥ずかしさ。それを誤魔化すように、頭を掻いていたシュウの元へディーネが玄関から走って来た。


 何故か顔に期待を膨らませている彼女は、シュウに耳を貸してとアピール。口の横に手を当てて声をこもらせる仕草に、シュウは屈んで応えた。




 ——視点が、上空へと変わる。


 その高さ、約五千メートル。そこに空を飛ぶ大きな龍の影と、小さい人影が二つ。その者達は、


「いますね。レイキ君の言っていた壁男にエルフの少女。騎士の二人も……いまから合流するようです」


 空を飛ぶ翠の龍。その龍の背に立つレイキ。そして、龍の頭部に立つアメジスト色の髪と目をした少年だ。


「へぇ~この距離でも見れるなんて、すごいね先輩。僕には山と緑しか見えないよ」


「連絡はしたんですか?」


「あぁ、はいはい。したから大丈夫。先輩はもう少し、話に乗ってよね」


「相変わらずの傲慢っぷり。自責が一切ないのは感嘆しますよ」


 噛み合わないレイキと少年の会話。要点と嫌味を顔色一つも変えずに喋る少年。対して、無駄話と敬いの色が一切見えないレイキ。

 相性の悪さは見ての通り最悪だ。


「チッ……あの馬鹿強い神人は任せたよ先輩」


「えぇ、当然です」


 少年の首に掛かる手鏡が、陽の光を反射する。





——視点は元に戻る。


「待たせたな、連れて来たぞ……」


 往路の時とは違い、復路は荷馬車に乗ってローガは戻ってきた。そして、彼に続いて荷馬車の後方から降りてくる二人の騎士。

 ローガの口伝通り——神将ローレン・アメニア。その彼と共にアンコウエンへ訪れた青髪の女性騎士と、シュウ達は合流した。


 シュウの第一印象では、創作の騎士をコピペしたような雰囲気だ。


 三人は御者にお礼を述べ、離れていく荷馬車を見送った。


「お待たせしました……私はアリス・ヒーリッグです。初めまして、ミレナ様と護衛の方。リメア殿とグーダ君、フィアンさん、お久しぶりです……」


 青髪の女性騎士——アリスは先ず、初対面のミレナとシュウに一礼。シュウも彼女に倣って「どうも」と一礼。ミレナは軽く手を振る。

 次に、アリスは名前を呼んだリメア達に一礼。三人も同じく礼を。グーダは少しだけぎこちない。

 最後に、彼女はリフを見て、何かを掻き抱くように深呼吸。


「ゲッケイジさんも、お久しぶりです」


「あ…………」


 憂いの感情を抑えきれなかったフィアンの吐息。彼女に見られるリフは、不自然な程に無表情だ。ミレナの長耳がピンと逆立つ。

 話の中心にいるリフは「久しぶりですね、ヒーリッグ君」と、言って一礼した。


 時間が、空気が一弾指いちだんしの間だけ止まる。胸の内が切りつけられるような痛痒つうようがリメア一行に走ったのを、シュウは感覚的に理解した。

  

——そこに、一刀両断の乾いた音が鳴る。


「初めまして、アリスって呼んでいい?」


 ミレナが手を叩いて、空気を変えたのだ。ミレナはアリスに手を差し出して、握手を半ば強引に求める。

 ニコッと笑みを作る彼女に、アリスは表情を緩めて、


「あ、はい! 結構ですよミレナ様。よろしくお願いします」


「よろしくね、アリス!」


 嫌な空気がミレナを起点にして払拭されていく。心なしか、リフの無表情だった顔は軽くなっている。


「リメア殿にフィアンさん、お久しぶりです」


 アリスの自己紹介兼、再開の挨拶が終わり、次に前に出たのは神将のローレン・アメニア。顔を見て分かる通り、善と正義を擬人化したような少年だ。

 シュウとは似ても似つかない性格の持ち主である。


「どうも、お久しぶりですアメニア君」


「そうだな。アメニア」


 何故かリメアとフィアンには声を掛けておいて、グーダに対してはそうしないローレン。初めて顔を合わせた時と変わらない、美しいもの大好き唯美ゆいび野郎である。


「ミレナ様は十数日ぶりですね……」


 果然、ローレンはエルフであるミレナへと一直線に話しかけた。


「あいつ、絶対自分が気に入った奴としか話さないタイプだろ……」


 『マジでな』とシュウは胸中で頷いた。

 思いの丈をぼやいたグーダの指摘は、言い得て妙。名声相まってといったところだろう。直行型で、分かり易い程に裏表がない。


 良くない感想を抱いているシュウとグーダの横から、ミレナが「そうね」とローレンの手を取った。

 次の瞬間、ミレナは「二週かnッ!?」と鳥肌を立てて言った直後、握ったローレンの手を漫画のように跳ねて離し、


「いや! え!? 何!? 背筋がッ、え……? エッチな目で見た!?」


「お前……」


「え! そんな! 私は全く!」


 ミレナの言葉の真意を確かめることなく、アリスがローレンを厭忌えんきな顔で睨む。こうなってしまえば、ローレンの言葉は意に介されることはない。

 先刻とは違う形で時間が凍り付く。


「誠に申し訳ございませんミレナ様。こいつ、本当に下心が隠せない奴で……」


「いえ! そんなことは絶対!」


 アリスは諦念ていねんを孕ませながら、頭を下げて謝罪。同情するように、ミレナへ歩み寄った彼女を見て——全員の目を見て、ローレンは必死に抗弁する。が、


「諦めるんだな。ミレナは感情の表面が読めるんだ……エロい目で見たことは認めろ」


 シュウの言葉が虚しく砕き割った。


「誠に申し訳ございません。ミレナ様……」


「あ、はは……き、ぃ、いいわよ、別に」


「き、と言われているぞ、このスケベが」


 謝るローレンに、ミレナとアリスの言葉のナイフが容赦なく突き刺さる。

 粉々のガラス片と化したローレンは、魂が抜けたように固まった。仁王立ちする姿は、地に打ち上げられた魚と言っても違和感はない。

 プッと笑いを堪えきれないグーダでフィニッシュだ。


「初めまして、俺はミレナの護衛役のイエギク・シュウって言います。よろしくお願いしまッ」


 そうして一区切り。シュウがアリスに自己紹介をする中途、固まっていたローレンが我に返る。そして、アリスへ差し出すシュウの手を、彼は右手ではたいた。


「なッ!?」


「そのような悪なる男と、握手を交わす必要などないですよ。アリスさん」


「はッ?」


 一触即発を超えて爆発四散。不遜だったとはいえ、今までのは許容範囲内だ。だが、今度のは弁明の余地などない粗相。

 どうしてか笑顔でいるアリスの額に青筋が浮かび上がる。


「いや、ですからそのような悪なる——ッ」


「お前は馬鹿かぁぁぁぁ!!」


「ぐほぉぉぉッ!?」


 怒髪天をく勢いで、アリスはローレンの頭を掴み、みぞおちに渾身の膝打ちを食い込ませた。食らったローレンは腹を抑えて、地面に突っ伏せる。


「ぉ、ぃぁ……なッ、何するん、です、か……」


「いや! それはこっちのセリフだこのアホ!!」


 顔だけ上げて、悶絶しているローレンにアリスは指を差して叱責する。

 嫌われているとはいえ、握手の邪魔までされるとは考えもしなかった。殺虫剤を吹きかけられた直後の虫のように、痙攣けいれんしながら話すローレンは中々にいい気味だ。

 因みにミレナは『グッジョブ、アリス!』と胸臆でサムズアップ。他のメンバーは顔を背けて鼻で笑う。いや、グーダは隠していない。


 全員から軽蔑の目で見られるローレンは、突っ伏せた状態から立膝になって、


「アリス、さんは、私が、相手が善なる者か、悪なる者かを……ぅ、ぉぇ、見抜く術があることを、知っています、よね……? ぉ、ぅぇ、この男は、悪なる者なんです、アリスさん……ゴベぇ」


「だからってこの世界のどこに、握手の邪魔をする奴がいるんだ!? 疑わしきは罰せずだ! てか、なんなんだお前は! 汚名を汚名で汚したいのか! 馬鹿だって分かってないの!? 自覚ないの!?」


「えッ!?」


「えッ!? じゃない!! やっぱり自覚無かったし!! 駄目だ、こいつは性根から叩き治さなくては……」


 自分には正当な理由があると言い連ねるローレンには、流石のアリスも怒りを通り越した哀憐あいれんの感情。額に手を当て首を振る姿は、まさしく憐れんでいる。


「疑わしいって」


「おい」


「ふにぃぃぃ!!」


 嘲弄ちょうろうしてくるミレナの顔が今日一うざかったから、長耳を引っ張る。「うぅ……」と呻き、彼女の耳が赤くなるのを確認して折檻終了。

 前では、この期に及んでアリスに言い訳をするローレンが。後ろでは、恥ずかしい姿を晒すローレンを見て、高笑いするグーダと微笑するリメア達。


「カカカ!! 賑やかというか、騒がしいというか。とにかく多様に富んだ奴じゃな! 騎士さんや!」


 喧騒けんそうとしていく場を取り纏めるように、ローガは更に大きな声で哄笑。思惑通りと言ったところか、彼に全員の視線が集まった。


「あ、誠に申し訳ないローガ殿にミレナ様方! 騎士にあるまじき野卑です……深い反省を……ほらお前も」


「アタッ! ……はい! 申し訳ございません!」


 分かり易く顔を赤くして、アリスは頭を下げる。だのに、気付きもしない大馬鹿野郎の頭を、彼女は頭を下げたまま勢いよく掴んで一緒に謝らせた。


「私はもう気にしてないわよ。でも、神将君はシュウと仲良くしてほしいな。これから、大事な事しに行くんだし、ね?」


 静まり返った場で頭を下げる二人に、ミレナは両手を胸の前で振って意を示す。愛嬌あるミレナの頼みに、重ねて粗相の許し。ローレンは「分かりました」と頷いた。


 その通りだ。これから大事な対談が控えているのだ。エロい目で見られたことや、手をはたかれたことは水に流し、仲良くするのは最良だろう。

 エンタクの前で仲間割れしていては、話にならない。


「エルフ様と同じく、ワシも気にはしとらん。おぬしら二人の根は今ので、何となく理解したわ。若いもんは、そうでなくてはな。賑やかでなんぼじゃ……それに、今は厳粛な場ではないからな。ま、言葉には気を付けるんじゃぞ……」


 ミレナの言葉を裏付けるように、ローガ。特に目を細めて言った最後の含蓄がんちくある言葉に、アリスとローレンは息を呑んだ。

 礼節無くしては、騎士の名がすたる。二人は姿勢を整え、顔を引き締めて、


「はい! 忠告感謝いたします!」


 芯に受け止めたアリスとローレンを見て、ローガは分かれば良いと言いたげな顔で頷いた。


「さて、そろそろ行くか」


 そろそろと言っておいて、馬車もないのに独りでに道の中央へ出て行くローガ。意味が分からず、彼以外全員が確認し合うように目を合わせる。


「あれ? さっき御者の子厩舎に行っちゃったよ? 歩いて行くの?」


 たまらず、ミレナが疑問を口にする。

 彼女の言う通り、本当に歩いて行くのではなかろうか。そう邪推してしまう程に、マジで周辺には乗り物らしき物が何もないのだ。


「何を仰りますかエルフ様。ここはアンコウエンですぞ……馬などよりも、早く移動できる存在が居るとは、思いませぬか」


 もったいぶった物言いだが、ミレナ達の邪推はローガによって切り伏せられる。そして、その言葉の真意を真っ先に理解したであろうミレナが「……? あ、それって、まさか……」と、答えを求めた。


 ローガは振り返り。


「はい。そのまさか、です」


 指が鳴ると、三つの影が木々を揺らし、空を飛んだ。

魚の鱠を食べた反応


リメア「酸味が……これは、好みが別れそうですね」


ミレナ「ホントだ、すっぱ! 私は好きかな」


シュウ「俺は全然いける」


リフ「僕も酢の物は、子供の頃から好きですね」


フィアンとグーダ「…………」

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