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アンリーズナブル  作者: 犬犬尾
第三章 絶対ルマティ教社会主義国 ルマティア
101/106

第18話 新年と初日の出

101話目だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

「いやぁ、楽しかったな……」


「ほんとほんと、いっぱい楽しんじゃった……」


 祭りを楽しみ、演劇を鑑賞した三人はコウエンタクに戻っていた。

 日も落ち始めて夕方だ。


 演劇は約二時間半ほどで、映画一本を鑑賞したような余情があった。題名は『セルシウス朝の覆没ふくぼつ~炎帝の逆鱗~』というものだ。


 概要は、アンコウエンを征服して昔のアルヒストであるアッシヒリアに攻め入ろうとしたクェンサ帝国と、アンコウエンとの戦争の話である。

 セルシウス朝最後の皇帝トラウィヌスが、卑賎国ひせんこくのアンコウエンを征伐する征賤皇帝せいせんこうていを名乗ったのが、演劇の始まり方だ。

 主人公はアンコウエンの西にある荒僻こうへきの村に住む、ごく普通の青年。


 ある日、主人公は友の青年とその妻と楽しく談笑しながら畑仕事をしていた。そこに突然、攻めてきたトラウィヌス軍に襲われ、敵軍の大隊長に友の青年とその妻を目の前で虐殺される。青年は憤慨ふんがいしたが、恐怖に打ち勝つことができず、命惜しさに逃竄とうざん

 青年は後にその選択に後悔、葛藤して仇を打つことを決意し、エンタクの元で修行することとなる。青年はエンタクの過酷な修行を受ける中、侍女じじょと恋仲になり結婚を誓うことに。


 そして、訓練を乗り越えて強くなった彼はエンタクの指揮の元、仇敵の大隊長を一騎打ちで見事に討ち果たし、エンタクがトラウィヌスの首を獲ったことで戦争は終結。恋仲の侍女と結婚して話は終了となる。


 史実を交えながら、物語に緩急を付けさせる架空の人物を加えることで、視聴者を楽しませる工夫がされた素晴らしい演劇であった。


 アンコウエンの古典演技故、エンタクが頻繁に出てくるが、彼女が主人公になることは基本的に無いらしい。

 理由は単純で、彼女が万能すぎるが故に、物語に緩急が付かないからだそうだ。世知辛い理由である。


「ミレナは食べてばっかだったな」


 エンザンの麓に付き、長い階段を見上げながらシュウは云う。

 自分達の足で登っていいが、エンタクがホウキュに迎えのコンタクトを取ってくれたので待機する。


「食い意地ミレナだな」


 シュウに続いて、エンタクがニタニタした顔でミレナを煽る。ミレナは「うるさいわね」と、苛立たし気な表情で二人を睨んだ。


「てか、夜も集まって飲み食いするんだから、本当に食ってばっかになるぞ」


「げ、流石にまずい、かな……?」


 シュウの言葉に冷静になったのか、ミレナは長耳をピンと立てて苦笑い。


「気にしてんじゃん」


 エンタクが言わんこっちゃないとツッコむ。


 まぁ、ミレナは華奢きゃしゃで細いからいっぱい食べてぶくぶく太れば、筋肉も付けられるだろう。

 いやまて、ミレナは純血のエルフだから身体が華奢なのは遺伝だと、彼女自身の口から聞いた覚えがある。となれば、このエルフ様はいくらでも食べても、太りにくい体質なのでは。


 純血エルフ恐るべし。


「キュウ」


「さ、僕たちも行くか」


 話している内、ホウキュが迎えに来てくれた。

 素早いお出迎えだ。


 シュウ達はさっそくコウエンタクまで戻った。


「集まってるな。約一か月ぶりか……」


 シュウの視界には、既に集まっている大勢の男女が映る。視線を動かせば、グレイやローレン達にローガやアウリヌス達などが確認できる。見る限り知り合いばかりだ。


「みんな修行でたくましくなってそうね」


「挨拶しに行くか」


「それじゃ、後で……」


 シュウとミレナはエンタクと別れて、地元勢の元に歩いて行く。

 

「久しぶりグレイ!」


「お久しぶりですミレナ様!」


「お久しぶりです!」「お久しぶりですね!」


「ローレンにアリスも久しぶり!」


 ミレナが挨拶すると、グレイは当たり前、気付いたローレンとアリスの三人が立ち上がって礼儀正しくお辞儀をする。

 若干一人、下心が見え隠れしているが。そんなローレンの頭をアリスは「それやめろお前」と軽く叩いた。


 遅れてクウェルとユリアが立ち上がってお辞儀をする。ユリアだけは、女性がとるお辞儀だ。アリスは騎士だから紳士のお辞儀なのだろう。


「その人は?」


 顔なじみが揃う中、一人だけ知らない顔がいることにミレナが問うた。


「呼んでないのに勝手に付いてきた馬鹿です」


「馬鹿は酷いだろ馬鹿は……」


 その人物と一番親しいであろうアリスが、辛辣な言葉でその人物をあっさり説明した。男だ。男はお手上げのポーズで言い返しながら立ち上がると、


「どうも、初めましてエルフ様。国の為に尽瘁してくださるエンタク様の、この大切な故郷を守るため、警備隊に入隊させていただきました。国防長官の孫の、クザブ・ゼルブスキーです」


 恭しく、というか恭しさがわざとらしいお辞儀で自己紹介をした。

 クザブだ。


 それを見ていたアリスが顔を嫌厭けんえんで顰めると、


「胡散臭すぎる」


 という。

 クザブは手慣れたように五月蠅い五月蠅いと、


「おいおい、それ言ったら余計に胡散臭くなるだろうが」


 面倒くさそうな顔で手をひらひらさせる。

 嫌がっている訳ではなく、どこか受け流しているような返しは、気取った印象をシュウとミレナに与えた。特にミレナには、


「分かり易すぎる嘘を吐くからだ。それにミレナ様は、相手がどう思っているのか感悟かんごなされる。お前の見え透いた嘘はバレバレだ。ちゃんと、自分のキャリアアップの為と言うんだな」


 本音を偽り、諂巧てんこうしようとする便佞べんねいだと映ったことだろう。

 いや、シュウにもクザブが誠実な人物には見えなかった。


 アリスが真実を言わなかったとしても、第一印象は変わらなかっただろう。

 悪い人物ではないが、良い人物でもない。そんな感じである。


 多くの者が多くの目的をもって警備隊に入隊したのだから、クザブのような人物がいてもおかしくはない。むしろ、クザブのような人物の方が多いだろうか。


「マジか。あの、エルフ様、今のことはどうか御内密に……」


「あはは……いいけど、多分、エンタク達にもバレるわよ」


 クザブはもみ手をしながら媚びるが、ミレナは苦笑いで受け流す。


 「マジですか……」


 クザブは表情を固めてそう言う。


「エンタク様どころか、他の隊長の方々にもバレるな」


「俺もエンタク様に感謝されて、彼女の声を選挙に役立てようと思ってたのにぃ……」


 アリスから追い打ちされたクザブは、椅子に大きくもたれ掛かった。

 選挙に役立てようと漏らした言葉が本音なのだろう。 

 アリスは嬉しそうに「ざまぁないな。日頃の行いが悪いからだ」と彼を嘲弄ちょうろうする。


「うるせぇ。まぁでも、一応声はかけるわ。認知はしてもらいたい」


 そう言ってクザブは席を離れ、他の机に向かった。


「お食事お持ちしました!!」


「ありがとうございます」「ありがとう!」


 そうこうしている内、グレイ達の机に食事が運ばれてきた。

 何もない蕭索しょうさくたる机の上が瞬く間に忙しくなり、食べ物から美味しそうな匂いが漂ってくる。


 グレイ達は両手を合わせ、食事に手を付け始めた。

 手を付けたいが挨拶を済ませていない為に、ここは我慢だ。辛抱の必要すらない。

 シュウは食べ物に目を輝かせているミレナの肩を叩き「まだだぞ」と抑止した。


「そういえば、リフさんは?」


「フィアンさんが居ないのは分かりますが、確かにリフさんが居ないのは気になりますね」


 ふとローレンが疑問を言葉にすると、アリスも知らなかったのか食事の手を止め、そんなことを言う。

 シュウが言おうとすると、正面にいたグレイが『待て』と手を上げた。


 幼馴染のことだから、自分に言わせてくれということだ。


「リフはフィアンと一緒に、ニックの墓参りに行って今日と明日はいない」


「そう、だったんですか……」


 グレイの復答にアリスは一瞬だけハッとした表情になり、少しだけ俯いて言った。その訳知り顔の彼女とは対比的に、


「ニック? 誰ですか?」


 ローレンは疑問符を浮かべて問うた。


「フィアンさんの御令弟ごれいていだ」


 俯いたままアリスが答える。

 ローレンは分かりやすく表情を暗くして「すみません」と謝った。ローレンは若いから知らなかったのだろう。


「アイツなりのけじめをつけに行ったんだろう。知ってるだろ? リフの過去は」


「はい……」


 グレイの言葉にアリスは弱く頷く。

 他の机では談笑でにぎわう中、グレイ達の机だけは暗く凄寥せいりょうとなっていた。


「俺はアイツが前向きに立ち直れそうで嬉しいよ。同じく騎士を目指した幼馴染だからな!!」


 そんな曇った雰囲気を追い払うように、グレイは木製のジョッキをぐびぐびと飲み、机に叩きつけた。


「さ! 辛気くせぇ話してっと酒が不味くなる! 近況報告を兼ねて駄弁ろうぜ!!」


 確かに年越しのながらで駄弁ろうと集まったのに、辛気臭い話をしていては元も子もない。ここは、


「アンタは飲みたいだけだろ……」


 シュウはグレイに便乗して場を盛り上げようと彼につっこんだ。

 「それは言わぬが花だろ!」と言い返して来るグレイに、シュウはやれやれと言いたげに「言わなくても花じゃねぇよ」と、破顔した。


「クソぅ! シュウも飲め! 飲まないと許さん!」


 空の木製ジョッキに酒を注ぎ、軽く中身をぶちまけながら差し出して来るグレイ。シュウは両手でいらないとジェスチャーする。横からミレナも、


「駄目です。私達は他の子達にも挨拶しに行くから、それまでは飲めません」


 姿勢を良くして首を横に振った。


「ミレナ様まで……」


 グレイは机の上に顎をドカッと乗せて愚痴った。

 完全に萎え萎えムードである。直ぐに立ち直るから大丈夫だろう。


「じゃあまた後で」


 シュウとミレナは机を離れて、次なる知り合いがいる机に。

 そうして、挨拶を終えた二人は、


「一周回って来たわ」


 エンタクが一人で座る机に腰を下ろした。


「おかえり。僕達も食べるか」


「食うか」


 既に机の上に用意された食事に手を付け始めた。

 

「おい」


「「…………ふふ」」


 鼎座ていざ状態で食事をとる筈が、エンタクとミレナはわざわざ左右に座ってくる。

 机は広いというのに、これでは反対側に置いてある食事に手が届かないではないか。


 せめて一人は反対側に座って欲しいものだが、


「分かった、仲良く並んで食べるよ」


 二人がそうしたそうなので受け入れることにした。

 エンタクとミレナは嫣然えんぜんと微笑む。


 食事を始めて少し時間が経つと、何やらキョロキョロ周囲を見回す男がアンコウエン内に入って来た。少し年を食った男で、四十手前といったところだろうか。

 シュウが何の用だろうと疑問に思った矢先、男はエンタクを見て顔色を明るくし、


「あの! エンタク様!!」


 彼女の前で唐突に跪いた。


「ん? なんだ?」


「エンタク様に、仕事の斡旋あっせんをしてもらったペッチンです!」


「ペッチン? ペッチン……あぁ! 病弱で就職できなかったお前か!」


 男が顔を上げて名乗ると、エンタクは思い出したと彼を指さす。

 その男の容姿は病弱というには的外れな程に快暢かいちょうで、その言葉と雰囲気だけで彼が挽回ばんかいできたことを如実にしていた。


「はい! そうです! エンタク様のお陰で、今は国営の農夫として安定した生活ができています! 本当に、本当にありがとうございました!!」


 男は上げた顔を恭しく下げて、エンタクに深謝の意を明らかにする。


「領主として当然のことをしたまでだ。お前達が居るから、このアンコウエンがあるんだ。立ち直れてよかったな」


 エンタクは驕傲きょうごうすることなく、ただただ謙虚に告げる。

 その厚く誠実な態度がまた、頭を下げる男の心を温かくする。

 

「はい! エンタク様がいなければ、俺は! 俺は! ……本当に感謝しています!!」


 男は立ち上がって深々と頭を下げ、


「では! お食事中失礼しました!!」


 コウエンタクから去っていった。

 それから他にも、


「ありがとうございますエンタク様!」「真っ当に働けるのは、エンタク様のお陰です!」「生活が安定しました! 本当に感謝です!!」


 何十人もの老若男女がエンタクの元に訪れ、彼女に対して感謝を告げていった。

 彼らの幸せな表情と感謝を聞くたびに、エンタクは笑顔を見せる。

 分かりやすい程に、社会福祉をやってよかったと彼女の顔には書いていた。


 ただ中には、


「エンタク様……」


 あまり顔色がかんばしくない者もいて、


「ん? どうかしたのか?」


 エンタクの前に立つのは二人の男女だ。

 一人は年配の女性で、もう一人は若い少年である。二人とも仕草がたどたどしく、視線をエンタクと合わせようとしない。まるで、癖のように染みついた自然な仕草である。


「それが、その……」「仕事先の先輩から、暴力を、振るわれまして……」


「ふむ、二人とも怪我したのか?」


 被害を訥々(とつとつ)と申告する二人の男女を、エンタクは上下流れるように見齧みかじる。

 彼女なら一目でどこが悪いか見抜いている事だろう。


 例えばそう、少年は右腕。


「はい、僕は右腕と左脇腹の骨にひびが……」


 女性は左腕。


「私は右足の骨と左腕が」


 分かった理由は、二人が今言った箇所を手で押さえているからだ。


「本当なら、傷害の罪だな。ただ無根拠にその先輩を裁くことはできない。証拠はあるのか?」


 エンタクの表情は憂患ゆうかんでありながらも、その言葉は人情とは相反する冷淡であった。

 被害者の肩を持つなら、彼らにそれなりの証拠がなければできない。

 これは領主としてのエンタクなのだろう。


「あります。毎日書いている日記と、それに違う先輩の証言と、他にも暴力を振るわれた方が何人か……」


 証拠は充分と来た。

 元の世界と違い、録画録音などができないこの時代に於いて、証拠の確保は容易ではない。故に、証拠不十分で不起訴に帰着することは稀ではない。この場合、名誉棄損や損害賠償で訴え返されるのが常だろう。


 それ故に取られた手段が、毎日日記などを書くこと。被害を受けた証言を周囲の者からしっかり聞き出すことである。

 この対策によって、起訴になったはずの裁判が不起訴に終わる事例は逓減ていげんしていった。


「分かった。それだけあれば充分だろう。もし裁判で有罪となれば、そのカスは僕の権限で解雇処分の後、慰謝料の徴収と、君達とその親族への謝罪を強制させよう。執行猶予でカスを逃がすのは、社会の構造だけだ」


 これぞ国営と君主の良い所だろう。

 エンタクが営む店であるからこそ彼女の一存で解雇でき、君主であるからこそ権利を執行できる。福利厚生がしっかりしている。


「「ありがとうございます!!」」


 男女は頭を下げて感謝した。


「礼はいらないよ。そのカスを雇った僕達側にも責任はある。もし、事件のほとぼりが冷めた後でも、体や精神に支障があったなら言ってくれ。それ相応の処置を約束するから」


 驕らないエンタクに薄い涙を浮かべて女性が欷泣ききゅうする。少年もその女性と一緒に諸涙もろなみだを流した。

 相当辛い暴行だったのだろう。安堵の表情と、その上を伝う彼らの涙が全てを物語っている。


「「ありがとうございます!! ありがとうございます!!!」」


 二人は泫然げんぜんと涙を流しながら、何度も頭を下げて深謝。そうしてコウエンタクを去った。

 今日は彼らで最後だろう。夜も更けて来た。


「すっごい明君してるじゃん!」


 やりとりを黙って見ていたミレナが両手を合わせ、エンタクを褒めた。

 多分もらい泣きをしたのだろう。目じりは赤く鼻水をじゅるるとすすっている。

 感受性が豊かなのもミレナの特徴だ。


「今は君主じゃないけどね……」


 エンタクはミレナの褒辞ほうじを聞いても特に嬉しがることなく、ただジョッキに入った水を飲んだ。それから「それに……」と前置きをして、


「お礼ばっかり言われる訳じゃないぞ。去年は直接、お前の所為で不幸になった!! とか、あなたの店で病んだので慰謝料を請求します!! とか言われたし……」


 いちゃもんを付けてきた相手を真似するように片足を椅子に乗せ、こちらを指差して怒鳴って来る。次は、


「勧誘しに行った時には、そうやって私達を引き入れて、働くのが正しいって洗脳しようとしてるんでしょ!? 宗教反対!! 悪弊撲滅!! とか言われたぞ……」


 自分自身を抱きしめて、身を震わせながら身体を引いてみせる。

 最後は身体をダルんとさせて、ため息をしながら椅子に座った。


 なかなかな表現方法。今日見た京劇の役者の演劇と比肩している程だ。エンタクは結構演技派のようである。

 

「いい事ばかりじゃないってことか。それでも、エンタクはそういう社会福祉を続けてるんだろ? 凄いじゃねぇか。純粋に民衆の幸福を願ってる。君主でなくても、お前が賢く清く正しいのは間違いない。絶対だ」


 シュウはエンタクの目を見つめて言った。


 嫌われても罵られても、民衆の幸福を願って社会福祉を続ける。

 彼女の社会福祉行動の源泉が、もし民衆の笑顔や感謝だったのなら、こうも続いていなかったのかもしれない。エンタクことだから、当たり前のことだからと考えているだろう。

 彼女の奉仕に報い続けられる姿勢は敬仰けいぎょうできる。 


「ありがと、シュウにそう言われると嬉しいな」


 エンタクはとても嬉しそうに笑った。


「僕らの宗教は、界繋かいけである信者を三界から解脱げだつさせ、清浄で幸福な国土に導くこと。いわば死後の話になる。だが、僕らが教えを説くのは今を生きる、相手を思いやれる生物だ。その彼らに死後だけでなく、生きてる時も幸せになってもらおうってことで生まれたのが、今の運動なんだ……」


 エンタクは食事を一口食べて、語り始めた。

 清く崇高すうこうな思想だとシュウが思ったのも束の間。エンタクは急に「うそ、今のは建前……」と、下を向いて零した。


「生きてる時が不幸だったのに、死後は幸福になれますよなんて、都合が良すぎるおかしな話だろって思ったのが、原初なんだ。生きてる時も幸せの方が、いいに決まってる」


 社会福祉行動の源泉は、素朴な疑団ぎだんであった。

 言いたいことは理解できる。その通りだと思う。何故そう思うのかは説明できないが、確信とも言える何かが心の奥底にあるのだ。


 敢えて言うなら、生きてる時も幸せの方がいい。これに尽きる。

 多分、自分だけでなく、同じく聞いていたミレナも同じように思っただろう。彼女も口にはせずに、ただただ理解できると頷いている。


「なんか、エンタクが尊崇そんすうされてるのは、神人だとか領主だとかもあるだろうけど、それ以上に民衆を思ってるからだったんだな」


 疑団を疑団のままで終わらせず、自分の信念に従って行動する。

 彼女の行動が民衆の幸福を実現したのなら、それだけで大成功だ。真実はあまり関係ない。


「善因善果ってやつね」


 ミレナの言う通りだ。


「……もっと褒めてくれてもいいんだぞ、シュウ。例えば、頭をなでなでするとか……」


 エンタクはキュッと身を引き締めて目を瞑ると、シュウに頭をそっと差し出す。

 期待に満ち満ちた表情だ。


「お、おう、すげぇよエンタクは……」


 シュウは少し戸惑いながらも、エンタクの頭を優しく撫でた。

 頭を撫でられ、エンタクは「んー!!」と嬉しそうな声を漏らす。そんな彼女は、どこか可愛らしい。

 

「う、うん……じゃあ次はぎゅって———ッ」


「おい待てこらァァ! それ以上いちゃいちゃするんじゃなぁァァァイ!!」


 今度は抱きしめて欲しいと両手を広げるエンタク。そんな調子に乗る彼女に、ミレナが席を立って割って入って来る。


「なんだミレナ、嫉妬か?」


 エンタクはニヤッと笑いながら、割って入ってきたミレナの鼻を突っついて弄る。


「は、はぁ!? 嫉妬なんかじゃないし!! なんかうざいだけだし!!」


 ミレナは顔を赤く染めながらエンタクの手を退け、プイっと外方を向いて言い返す。

 分かりやすすぎる照れ隠しだ。


「じゃあ別にいちゃいちゃしてもいいよな? ねぇシュウ?」


「え? あぁ、ミレナがそう言うならそうだな」


 エンタクは頬を紅潮させながら、両手を広げて身を寄せて来る。シュウは頬を掻き、戸惑いながらもエンタクの悪乗りに便乗する。


「ほら……じゃあシュウ、ぎゅってしてくれ」


 嫣然と笑って抱擁を促すエンタク。ミレナはというと、


「別に、嫉妬なんかしてないし、好きにすれば、いいじゃない……ふん」


 外方を向いたまま知らんぷりを突き通す。というより、突き通そうとやせ我慢している。

 ツンツンしたままだ。


「ということで! シュウ!」


「改めると、なんかハズいな。というか、抱きしめる必要あるか?」


 力強く両手を広げて目を瞑るエンタク。その彼女をシュウは抱きしめようとしたが、直前で恥ずかしくなって躊躇ってしまう。

 エンタクのミレナ弄りに便乗したのはいいものの、急に恥ずかしさが奔騰ほんとうしてきた。


「ある! 大いにある!! 僕にいつも助けられてるだろ? ほら早く!」


「抱きしめて恩返しできるのなら、まぁ」


 エンタクは矢の催促が如く、更に身を寄せて来る。

 ここまで頼まれては、漢として中途半端なシュウでも抱きしめざるを得ない。シュウはエンタクを抱きしめ――、


「やっぱりだめェェェェェ!!!」


「アイタァァァ!!!」


 短兵急な衝撃。ミレナの拳がシュウの顔面にぶち当たる。

 エンタクを抱きしめたが引きはがされてしまった。


「な、なんで俺!?」


「シュウが意地悪するから!!」


 突然、殴られたことにシュウは問い質すが、完璧なカウンターパンチで復答されてしまう。

 そうだった。悪乗りしたから殴られて当然だった。ごめん。


「やっぱ嫉妬してるじゃん、ミレナ。ツンデレだな」


「誰がツンデレじゃ!! このぉ!!」


 口に手を当ててにゅふふと哄笑こうしょうするエンタクに、ミレナは長耳を立てて激憤。とっつかまえて分からせようと飛び掛かる。

 だがエンタクはさっと空に飛んで逃避。上空から「ほら! 捕まえてみろ!!」と、手招きして嘲弄しまくる。


「空中に逃げるなぁ!! 卑怯よ!!」


「卑怯じゃないもんねぇ!! ミレナが空を飛べば解決する問題だもんねぇ!! べろべろベェ!!」


 猫のように長耳を逆立たせるミレナだが、エンタクは一向に降りようとしない。それどころか舌を出して、変顔でミレナを煽り散らかす。

 何時ぞやかに聞いたことがある暴慢ぼうまんなセリフだ。


「ムカァァァ!! 私が出来ないからってぇ!! 撃ち落としてやるわ!!」


「当たらない当たらなぁい!!」


 空を滑空するエンタクにミレナが氷柱を飛ばす。飛ばして飛ばしまくる。だがエンタクはたなごころを返すように避ける。華麗かれい秀麗しゅうれいに氷柱の周りをくるくると、祭りの舞踊を魅せるように避けて避けまくる。

 何気にというか、普通に繊巧せんこうである。


「それ以上はやめとけ。周りが驚いてるし、自然破壊になる」


 感賞の気持ちは置いておいて、シュウはミレナを掴んでじゃれ合いを抑止した。

 撃って落下した氷柱が今頃、一部の樹々を破壊している事だろう。これ以上はやめておいた方がいい。


「む! むむ!! むむむぅぅぅぅぅ!!! 仕方ないわね!!」


 ミレナは積もり積もった積憤せきふんひねり潰すように、うなりながらシュウの抑止を受け入れる。ぷくーと頬を膨らませて、どすどすと残った怒りをこちらの横っ腹にぶつけてきた。


 氷柱の嵐が止み、エンタクはやれやれとお手上げのポーズをとって舌を出す。そして下降して、元の場所——シュウの左隣に座り、


「イェーイ、僕の勝」


 余計な煽りをミレナにした。

 人差し指を立てた両手の前後の動きが妙にうざい。


「エンタクも煽るな」


「ウガッ!?」


 シュウは火に油を注ぐなと、エンタクの頭に軽くチョップ。

 叩かれ反省したエンタクが「ごめん」と軽く謝る。


 なんやかんや、二人のじゃれ合いを仲裁した。

 仲裁できたのはいいのだが、 


「盛り上がってんな! おいシュウ! 一緒に酒飲むぞ!」


 騒ぎに気付いた仲間達が寄ってき始める。


「グレイさん、もうべろべろじゃねぇか。マサムネさんも」


 グレイと、その彼と肩を組むマサムネ。


「兄さまはマサムネさんと意気投合しすぎなんですよ。無礼講とはいっても、節度を持っていただきたい」


「まぁまぁ、クウェル様。普段修行ばかりですし、息抜きもグレイ様には必要だと」


「駄目です!! この間の親睦会もそう言って許して、恥ずかしい目に遭ったんですから!! ユリアさんは兄さまに甘すぎます!!」


 勝手に席を立って何かしでかさないかと、グレイの後を追うお目付け役にクウェルと、夫に甘くなってしまうユリア。


「俺も早く酒飲みてぇぜ!! 一年くらい早めてもいいだろ!? 若頭!!」


「絶対にダメです!!」


 軽く挨拶しただけで、今日は特筆するような会話をしていないグーダとリメア。


「酒ときいてきました」


「「け、ケイン!?」」


 言葉のまま酒と聞いて足を運んだケイン。

 彼の登場に驚くのは、恐れの感情もあるか。想像通り、飲み比べに完敗したグレイとマサムネだ。


「賑やかネ! 酒は飲まないけど、楽しそうだから駄弁りに来たネ!」


「ピョッピョォォォォォ!! もっと盛り上げる為に腕相撲とかどうだ? 当然エンタク様は抜きで!!」


 騒がしいのが好きなラウラとボトーに、


「フハハハハハ!! その勝負乗った!!」


 虚栄きょえいを張るように胸を大きく張って哄笑するアウリヌス。


「食べた後の手と机で腕相撲は却下。勝手にやっといてください。てか、自分達が楽しみたいだけでしょ? ボトーさん、アウリヌスさん」


 調子に乗ろうとするアウリヌスとボトーに、いい大人がやめてくださいと抑止するシノ。


「浅はかですね父上。エンタク様抜きなら勝てると踏んで、名乗り出たのがバレバレです」


 いつも通り虚栄を張りがちな父をさげすむプルウィア。


「「何故わかった!?」」


「そりゃ、エンタク様抜きだから」「エンタク様抜きだからです」


 シノとプルウィアに見透かされて驚くのは、当たり前だがボトーとアウリヌスだ。ツッコミ返すのもシノとプルウィアである。


「やはり父さんは小心者だな!! ハハハハハ!!」


 プルウィアがいるのなら兄のペルニオもいる。


「よし、仕方ないから僕が勝負してやろう」


「「遠慮しておきます!! 肩の脱臼と腕の骨折はこりごりです!!」」


 何も仕方なくないが、右腕をスッと上げてやる気満々のエンタクに、ボトーとアウリヌスは素早く手を上げて辞退する。


 これで終わりではない。まだまだ人が集まる集まる。

 クレイシアとリザベート、フクにセイ、ローレン、アリス、クザブ、セルヴァ、ロジェオ、ディーネ、フロリナ、バーバラと挙げればキリがない。


 コウエンタクの外からは、リュウランにホウキュ達が楽しそうに見守っている。

 因みに、リュウランの手には無数の氷柱が握られていた。


 ともかく、シュウとエンタクとミレナの三人だけだった机が、あっという間に人だかりで騒がしくなる。


 遅れて、


「おうおう、多様に富んどる富んどる。こんな時でも、静かに過ごすワシを見習ってほしいものじゃ……」


 背中の後ろで手を組むローガが登場。


「ジジイは年甲斐もなくはしゃげないから、もっと騒いで楽しませてくれ、だってさ」


「エンタク様!?」


「エンタク様、流石に今のは親父が可哀想だ」


 察言観色さつげんかんしきしたエンタクの辛辣な言葉に、唖然とするローガ。その彼を息子なりにフォローしてあげるハクロウも登場する。


「じっちゃんはエンタク様の前だと情けないよな」


「おじいちゃんちょっと可哀想」


 子供のハオとローコ。


「お邪魔します!!」


「こうやって集まるのは、親睦会以来だったっけ?」


 敬礼する熱血漢のフェンとほろ酔いのギンジも。


「私達もいますよ!!」


 それに加え、シノに寄りかかるノノチヨ。


「どうも」


 お辞儀するケイシュン。


「俺達ももう警備隊の一員だからな!!」


 サムズアップのリクライ。


「僕はぁ~嫌って言ったんですけどぉ~」


 最後に猫背で気だるげに喋るテンジだ。


「お前は修行の後の補習も、神前晦日の集合もサボろうとするから、無理矢理にでも連れてこないと来ないだろうが!」


 サボり魔のテンジにノノチヨが指を差して怒る。

 この少年、最低限の訓練だけを受けて、補修は一切受けなかったのだ。まるでギンジのような無気力っぷりと協調性のなさである。というのも、

 

「さすがおじさんの従弟だ」


 実はテンジはギンジの従弟なのだ。

 似ていない姉妹はいるのに、似ている従兄弟はいるのが世界の広さだ。これにはフェンも「誇ることではない!!」と、ツッコんでしまうのも仕方ない。


「おねぇ様!! お酒一緒に飲みませんか!?」


 まだ十八歳になっていないノノチヨが、期待に満ち溢れた顔でシノを誘うが。


「え、アタシ、ハクロウさんと飲みたいんだけど」


 シノはちょっと下を見ながら彼女の誘いを断った。

 実をいうと、シノは本日、ハクロウと二人でデートをしてきたのだ。因みに明日もデートをする予定である。


 メルルを倒した後に考えたこと――翹首ぎょうしょうしていたことを彼女は実現したのだ。受け身で実行力があまりないシノだが、本当にやりたいことは実行できてしまうのが彼女のいいところ。隅に置けない。


「なっ!? おねぇ様に色恋沙汰!?」 


 今まで色恋沙汰など合切なかったシノに、突然芽生え始め――たわけではなく、ノノチヨが知らなかっただけで、以前からハクロウに恋していたのだが。

 ノノチヨにとっては突然であり、姉大好きっ子の彼女にとっては由々しき事態だ。


「でもハクロウさんなら許せてしまいます!!」


「あれ、怒んないの?」


 姉が奪われるという喪失感は彼女にとって耐えがたく、いきなり発狂しだすかに思えたが、以外にも受け入れた。

 本来嬉しいことなのに、稀に見ないことにシノは問うてしまう。


「はい! だって、エンザンの警備隊隊長ですよ!! とても誠実で、頼りがいがある方だと聞き及んでいますし!!」


 それに結構好印象である。

 ちなみに不倫ではない。ハクロウには妻がいなく、それも、 


「そろそろ鰥夫やもおをやめよってもいいんじゃないかの? 十年じゃぞ十年」


 ローガの指摘通り十年以上の鰥夫なのだ。


 ハクロウの妻は産んだローコを守って、匪賊ひぞくに殺されてしまったのだ。

 殺したのはローガに因縁のある匪賊で、彼の元仲間でもあった。その匪賊が報復でハクロウの妻と緑児みどりごのローコを拉致し、ローガ諸共家族を抹殺しようとしたのが元凶である。


「待て、急に話が飛躍しすぎだ親父。確かに今日は付き合ったが、シノとは決してそういった関係ではない」


 否定する奥手なハクロウにローガは「お前のぉ……」と、呆れてため息を吐く。

 親のローガとしては、二人きりでデートまでしたのなら、男らしく関係をもってほしいと思うばかりだ。


 一通りの会話が終わり、集まった面々たちが騒ぎ始める。


 酒を飲みあうグレイとマサムネにケイン。

 腕相撲を始めるボトーとアウリヌス、ラウラにフェン、リクライ、ハオ、ペルニオ、グーダ。それを観戦するディーネとフロリナにローコ。

 立って学がある会話をするケイシュンとセルヴァ、クウェル。

 エンタクとミレナの容姿に息を荒げるフクとセイなどなど。

 その他は椅子をもってきて食事だ。


 とまぁ、シュウ達三人の周りに人だかりができ、面白おかしく喋りあって数時間。

 夜も更け始め、年越しが間近となった。あれだけ躁狂していた彼彼女らも、今は静かになっていた。


「もうすぐ年越しか」


 シュウの左に座るエンタクが、星を眺めながら話しかけてくる。

 空には雲がなく、星を眺めるには絶好の天気だ。瑩然えいぜんと光っている星々と月がよく映える。


「ミレナは寝ちまいやがった。綺麗だな……」


「うん。深妙しんみょうな景色だ」


 シュウは少し遅れて喋り返した。

 エンタクと同じように、空の深妙な星々に見惚れて幽趣ゆうしゅに浸っていたのだ。


 ミレナはシュウの膝の上に頭をのせ、寝息を立てている。

 『酒に強くないのにいっぱい飲むと眠くなるぞ』と指摘したのに『大丈夫』と言って何杯も飲んだ挙句に、楽しみにしていた年越しを寝過ごそうとしている。

 なんとおバカなのだろうか。


「てかさ、こいつはほんと、甘え上手だよな。ほれ、うれうれ、うりうり」


 シュウの膝の上で熟睡しているミレナのほっぺを、エンタクは指で突っつく。快眠を邪魔され不機嫌になったのか、寝ながらミレナの表情が険しくなる。


「それを意識せずに、素でやってくるからな、こいつは……意識し出すと急に赤面しやがるし……」


 エンタクの言葉に共感したシュウは、ミレナを見ながら憮然ぶぜんとぼやく。エンタクは「ぷふ、ほんとそれ」と、我慢できずに吹いた。


「お、花火が上がるぞ。東の方だ」


 突として、エンタクは予覚よかくしたかのように――否、予覚して空を眺めながら呟いた。彼女の傑出能力だ。


「ホントだ」


 数秒後、東の方角から花火が上がる。 

 標高千メートルの場所に位置するコウエンタクよりも高い位置に花火が上がっているため、少なくとも同じような山の上から花火をあげているのだろう。


「年越しまであと十分を切ったか」


 シュウは呟くエンタクの顔――花火の光で彩られる顔を見た後、膝の上で寝るミレナを見る。そして、また花火を見て「綺麗だな」といった。


「だな。年越しは緑と青を、年を越したら赤と黄色の花火が上がるようになってる」


「それで大晦日の最後と、新年の最初を盛大に祝うんだな」


「そうそう、年越しの最後の一分間と、新年を迎えた一分間を合わせた二分間の花火ラッシュは、盛観で目を見張るぞー」


 緑と青から赤と黄色に変化する二分間の花火ラッシュ。視覚的にも年越しと新年を迎えたことがわかるとは。楽しみだ。


「丁度タイミングよく寝てやがるこいつを、起こしてやるか」


 寝過ごして花火を見れなかったというのは流石に可哀そうと思い、シュウはミレナを起こしてやろうとしたのだが。

 エンタクが「待って待って、それは無し」と止めてきた。


 訳を知りたいとシュウがエンタクに「なんでだよ?」と問うと、彼女は「やりたいことがあるんだ♪」と、どこかウキウキでそう返す。

 ふわっとした言葉にシュウは疑念を深めた。


 緑と青の花火ラッシュが始まり、年越しが盛大に祝われ始める。

 盛観に目を見張って、すっかり疑念など忘れていたシュウの裾を、エンタクが引っ張る。シュウが疑問符を浮かべながら見据えると、エンタクは気恥ずかしそうに視線をきょろきょろとさせる。


「なんだっ」


「……………」


 シュウが問おうとした直後、エンタクは何も言わずに彼の唇に人差し指を当てて黙らせた。そして、


「ん……」


 急にチューしてきた。

 シュウは急なことに驚いて頭をのけぞらせてしまう。


「ミレナに恋人繋ぎで先越されたからな。今年最後の接吻、いや、チューだ。そして……」


 今まで緑と青に光り輝いていた花火が、盛大に音を立てるとともに赤と黄色に変化する。

 その瞬間、瞠若どうじゃくしたまま固まっているシュウに、エンタクはもう一度チューした。


「「…………」」


 時間にすれば三秒のチューだったが、驚きと戸惑いと恥ずかしさで心拍数を上げるシュウには、その三秒が十数秒にも感じられた。


「今年初めてのチューだ。ふふ」


「ん? あれ? 今何時? シュ、う……アァァァァ!?!?!??」


 ミレナが目を覚ました。

 かくかくしかじか。仮眠をとりながら清雅せいがな初日の出を拝んだ。

こっから一気に進めていきたい!

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