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「何から何まで…本当にありがとうございます」
2人は礼儀正しく頭を下げてくる
「ところで、その、、、」
金髪少女が少し言いにくそうに此方に話しかけてくる
「何故、そんなに部屋の隅にいるんですか?」
そう、今の今まで対面で話してるわけではなく2人はソファに腰掛け、私はキッチンの奥におりカウンター越しに話を聞いていたりする
仕方ないじゃん。流石にフードまで被ってたら変だし、けど、顔見せるのは恥ずかしいし…人見知り舐めんな!
「気にしないでいいよ。ここが特等席だから」
と一番おかしくない様な言い訳を口にするが
「そんな!よければ色々とお伺いしたいですし是非此方でお話ししましょう!」
と、此方の些細な抵抗も虚しくあれよこれよでリビングへ引きずり出されてしまった
、で
「…何故フードを被っているのですか?」
先程から一転、かなり胡散臭気な視線が突き刺さる
「…諸事情で」
「はっ!こんな人里離れた山奥に住むなんて!もしかして極悪な犯罪者!?」
「いや、違うから!」
「では何故フードを?」
「…人見知りで…」
「…だからこんな山奥に?」
とそこから自分が何故ここに住んでいるのかなどを辿々しくも2人に説明していった
「…そうだったのですか。それは疑ってすみませんでした」
ゴソゴソ
「エーファちゃんは高位貴族の家系ですから正義感が強くて…すみません」
ゴソゴソ
「いやいや、此方こそ疑われる様な不審者でごめんなさい」
パタン
いやマジで
「不審者だなんて」
「…ところで、何してるんですか?」
あ、あった
「いや、2人とも怪我してるみたいだからね。よかったら使って」
と2人の前に小瓶に入った真紅の液体を差し出す
「これ!?」
「ポーション!?」
そう。魔法薬であるポーション。師匠に教えてもらったのだ。ポーションは簡単な怪我程度であれば1発で治る
「こんな、高価な物は頂けません!」
「このくらいなら傷薬で充分です!」
そう。ポーションは結構高いらしい。なので戦闘中、即座に復帰しなければならない状態でない限り普通は使わない。平時であれば、傷薬を塗ってゆっくりと治すのが一般的である
「大丈夫。それくらいなら幾らでもあるから、さっさと飲んで下さい」
有無言わさない態度に気付いたのか2人は観念して赤い液体を飲み干した
「これは!?」
「傷が、治った」
そりゃ治るでしょ。ポーションなんだから…
「…信じられない…。なぁ…マリア。傷を一瞬で治るポーションって…」
「はい。これ程の効果のポーションはそれこそ御伽噺で語られる様なものくらいです」
え?ポーションってそうなの?
驚いて2人に話を聴くと以下の事を教えてもらえた
本来一般の人が怪我をした場合でもポーションは使わない。そもそもそれ程流通もしておらず、単純に数が少ない、と言うのが一つ
なので、一般の人はポーションではなく、患部に傷薬を塗ってゆっくりと治すのが主流。
では、どんな場合でポーションを使うのか
それは先程も簡単に言ったが俗に言う冒険者や騎士などの戦闘中に即座に復帰したいときに使用するのが普通である。
更にそんなポーションだが、本来なら一瞬で傷が治るわけではない様だ
ポーションを飲むことによって生物の体内に活性化を促し傷の治りが早くなる程度なのだそうだ
そして、傷を一瞬で治すようなポーションは英雄譚なんかで秘境の奥地で発見される伝説の薬としてしか登場しないようだ
つまり、師匠特製ポーションは完全にぶっ壊れ性能の強力なアイテムだったのだ
これは、まずい…先程から何故このようなものを持ち、まるで食後のコーヒーの様にぽんっと出せるのか、など妙に食いついてくる質問が怖いですわ
そんな時、
こん、こん
凄く力無いノックに気付いた
「もしかしたら君達の友達かもね」
いい口実とばかりに玄関に逃げる
これ絶対自分が作ったなんて間違っても言えないね
ガチャと木製のドアを開くと
「ーーーっ!?」
彼女らと同じ制服とは思えないくらいズタボロになり、それを着た血濡れの少女がそこに倒れていた
これはまずい!
そう直感で感じた為、急いで少女を抱き抱えて部屋に戻る
「あ、おかえ…ルル!?」
「そんな!?どうして!!」
「そんなのはいいからそこ空けて!」
立ち上がり此方に駆け寄ろうとした2人を強い口調で制しソファに少女を寝かす
その後バタバタと家の中を駆け回りバスタオルと救急箱を持って部屋に戻る
「あ、ルルがルルが!」
「お願いします!ポーションをルルに…お金は幾らでも払いますから!!ルルを助けて下さい!」
すがりつく様に此方に来た2人に見えるように救急箱を開いて中から色々取り出す
「これ、この子に飲ませて」
そう言って師匠特製ポーションを金髪少女、エーファに渡す
「は、はい」
飲ませている間に色々と準備した
桃髪のマリアにはタオルを渡して濡れた服を脱がす様に指示しておいた
流石に師匠のポーションでも直ぐには治らないだろうから、傷薬や化膿止めなどを混ぜてマリアに渡していく
最後に包帯を巻いてもらって取り敢えず処置は終わった
「ふう」
「マリア!ルルは!?」
「…大丈夫。呼吸も安定して落ち着いてる。少しすれば目も覚めると思うよ」
「よかった…」
…ほんとよかったよ
「あの、何処に?」
踵を返した私に対してエーファが声をかけて来た
「…コーヒーでも、飲もうかなって。2人も、いる?」
結局3人分コーヒーを用意しました
「本当にありがとうございます」
「でも、凄いね。本当に」
2人は少し小さな声で話しかけてくる
まぁ、怪我人もいるからね。しょうがない
「まぁ、あまり詮索しない方向でいてくれると嬉しい、かな」
苦笑しながらそう答えつつもお茶請けのクッキーを食べる
「あーおいしそー」
そう言いながらトテトテとテーブルに座った妖精さん
クッキーを手渡すと即座にかじり始めた
「おいしー」
よしよし、とクッキーを頬張る妖精さんを撫でているとふと視線を感じその方向を見ると
「「……」」
2人が惚けた顔で此方を見ていた
「…2人とも、変顔しないほうがいいよ」
折角の美人が台無し
「え?え?」
「よう、せい?」
「え?うん妖精さん」
「「えーーーー!?!?」」
「ちょ!2人とも!起きるから!!」
なんとか宥め落ち着かせる
大きな声を出した2人も気付いて小声にはなったが、興奮冷めやらぬ、と言った具合でグイグイと此方に詰め寄って来た
「よ、妖精なんて…」
「初めて見ましたよ!」
そんな2人をスルーして妖精さんをなでなで…
しようとしたらいなかった
「しーはなんで被ってるのー?」
不意に頭の上から妖精さんの声が聞こえたと思い、頭を軽く振るとふわっとフードが後ろに流れていった
あ、と思った時には遅かった。きゃーと楽しそうな妖精さんの声とともにフードがずり落ちて視界が広がり見慣れた銀髪が瞼にかかった
2人の方を見ると更に唖然とした顔
「う、うーん」
と呻き声がソファから聞こえ其方を向くと次にそこに寝ていた少女が体を起こし、此方を見たと思ったら寝惚けた口調で呟いた
「あれ?女神様?私、死んだ?」