第33話…求婚
「王様からの褒美の品か!」
その日、碧竜伯ジャスパー・ファーウッドが滞在する辺境伯別館に陛下より褒美の品が届けられた。
ハルは、多数の包みの中に何が入っているのか興味津々。
「兄貴、早く開けてみようぜ」
「ああ、そうだな」
王都から一度逃げ出し、アンリエットと2人で王都近郊の温泉巡りをして帰ってきたジャスパーが一番大きな細長い包みを開けてみる。
「騎兵槍か」
ジャスパー好みの装飾が少ない無骨な騎兵槍。
下賜されたメドラウド王がジャスパーの好みを考え用意させた品だろう。
ハルが騎兵槍の匂いを嗅ぐ。
「兄貴、これは魔法の品だぞ」
ハルには魔法のかかった物の匂いが解る。
雷の短杖等の魔法具も匂いで魔力を感知していた。
「うん、威力を上げる定番の魔法効果みたいだな」
ジャスパーは騎兵槍が入っていた箱の中から説明書きを取り出し読む。
「雷の短杖みたいに使ったらブッ倒れるとか無いのか?」
「これは使用者の魔力を消費するタイプの魔法具じゃないからな」
その分、魔法効果は普通の騎兵槍より鋭さが増してる程度しかない。
「名前とか無いのか?」
「とくに銘は無いみたいだ」
少なくとも騎兵槍本体や説明書きに名前は無い。
名前が無いと聞いたハルは騎兵槍を手に取る。
「ならば私が名前を付けてやろう!
お前の名前は、ガング…」
「止めろハル…」
名付けようとしたハルをジャスパーが怖い顔をして止める。
「そんな中二病みたいな真似をするんじゃない!」
「お…おう…」
ハルは渋々名付けを止める。
ハルが何と名付けようとしたのかは誰にもわからない。
次の箱から出てきたのは長剣だった。
ズライグ王国では人気がない片手半剣。
「これも魔法の匂いがする」
「そうか、人気が無い片手半剣の魔法剣を短期間で見つけてきたのか…」
魔法の武器は、数が少ないし作るには時間がかかる。
一般的な片手剣ならともかく需要が少ない片手半剣型の魔法剣は簡単には手に入らないだろう。
それを見つけてきて下賜した国王陛下の力にジャスパーは感じ入る。
ハルは魔法剣を手に取る。
「魔剣か…
お前の名前は、七殺…」
「ハル!!」
「てぃひっ?!」
ジャスパーが珍しく怒った顔をハルに向ける。
「名前を付けるなと言ったよな!!」
「悪かったよ、兄貴」
ハルは渋々名付けるのを止める。
ハルが何と名付けようとしたのか考えてはいけない。
「魔法効果は威力向上。
特殊な力は無いみたいだな」
それでも魔法槍、魔法剣の2つだけで一財産な価値がある。
「この四角いのは何だ?」
ハルが手にしたのは厚みが少ない四角い包み。
「絵画かな?」
包みの形状からジャスパーは絵画かと思うが、ジャスパーに芸術を愛でる趣味は無いとメドラウド王は知っているはず。
何故に絵画と思いながら包みを解くと…
「うぇひっ?!」
「てぃひっ?!」
兄妹は出てきた絵画に妙な声を上げた。
その絵は美しい女性が描かれた肖像画だった。
そう、それは『銀色の髪の美姫』の肖像画。
「リーヴァ殿下の肖像画…」
ジャスパーは国王陛下から下賜された不本意な婚約者の肖像画を前に肩を落とす。
「兄貴、コレどうする?」
当たり前だが国王から下賜された物を焼き捨てるわけにはいかない。
「どこかに飾るか…」
問題は、どこに飾るか?
「共用スペースはダメだな」
そんな場所に飾ればアンリエットの瞳からハイライトが消え、狐嬢の尻尾が立ち、ユーリアが細剣を抜くだろう。
「兄貴、この部屋にしよう」
ハルが提案したのは使っていない客用寝室。
使っていない部屋だが狐嬢が綺麗に掃除している。
「そうだな、この部屋にするか…」
ジャスパーは使っていない部屋の壁にリーヴァ・ペンズライグ王女の肖像画を飾った。
「見た目は好みなんだけどな」
だからと言って、騙されるように結婚させられる事に納得は出来なかった。
「何とか婚約破棄出来ないかなぁ…」
だがジャスパーを絡めとる蜘蛛の巣は、もう逃げられないくらいに包囲を狭めていたのだ。
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婚約発表から日は過ぎても王宮から動きはない。
王女の結婚となれば準備に年単位の時間がかかるなんて珍しくないのかも知れないし、今は戦時であるから婚約だけして結婚は後日という事かも知れない。
ユーリアは、ジャスパーとリーヴァ殿下の婚約の裏にある事情ついて、伝手のある貴族に聞いて回っており別館を出ている事が多くなった。
その日もユーリアは、知り合いの貴族宅に行き。
狐嬢は独自の使用人の一人もいないジャスパーの侍女として働き。
アンリエットは朝から料理の準備をしているようだ。
そんな日の事だった。
寛いでいたジャスパーに辺境伯爵家から借りている侍女が来客を告げに来た。
「来客?」
訪ねてくる客の心当たりが無いジャスパーが別館に案内するように侍女に頼み、玄関までジャスパーが迎えに出る事にする。
「…?」
侍女に連れられて来たのは、地味な色のフード付きマントで顔を隠した少女。
マントから垣間見得る服装は貴族の令嬢とは思えない程に地味な装いだが、趣味嗜好が前世の価値観に引き摺られているジャスパーには貴族令嬢の普段着であるドレスはパーティードレスかコスプレ衣装にしか見えないため地味な街娘のような衣装の方が好ましくある。
「碧竜伯ジャスパー・ファーウッドです」
侍女から相手の名前は告げられていない。
お忍びで訪問してきた貴族令嬢だろうか?
宮中伯という高位貴族の一員であるジャスパーが自己紹介しても相手は自己紹介を返さず、ただ被っていたフードを脱いだ。
フードの下から出てきた顔はズライグ王国で最も知られた女性の一人の顔だった。
「リーヴァ殿下っ?!」
「碧竜伯が私に会いに来てくれませんから、来てしまいました」
ズライグ王国で最も美しい姫君の一人。
白銀の姫君リーヴァ・ペンズライグは恥ずかしそうに微笑んだ。
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庭が見える屋敷の一室にリーヴァを通したジャスパーは侍女にお茶の用意をさせる。
贅沢をするつもりがないジャスパーだが、食欲を司る邪竜ハルが巣くう別館には高価で珍しい東方産の茶葉が常備されている。
ズライグ王国の貴族が愛飲する紅茶とは違う緑茶だが、王女殿下に出して失礼ない逸品だろう。
「まあ、東方の緑茶ですか」
「はい、少し癖はある味ですが…」
「とても美味しいですわ」
あの食欲魔竜が思わぬところで役に立ったようである。
ジャスパーは目の前の姫君を見る。
見た目は、客観的にも主観的にも美少女。
この姫君と結婚出来るなら大抵の男は、天にも登る気持ちになるだろう。
ジャスパーだって、ユーリアとアンリエットという婚約者が居なければ喜んで妻に迎えるところではあるのだが…
「リーヴァ殿下、実はお話しなければならない事がありまして…」
本人と二人きりで話せる機会に、あれは酒の席の戯れ言で婚姻を申し込んだわけではないと説明し、何とか婚約破棄に持って行こうとジャスパーは考え口を開くが…
「側室の事でしたら私は構いませんわ」
「うぇひ?」
「ウォードエンド辺境伯家のユーリア嬢と領主騎士シーパルニア家のアンリエット嬢でしたか…
御二人とも側室として迎えて構いませんわ」
「いや…あの…」
「そう言えば、もう一方おられるのでしたね。
獣人の亜人というのは王国貴族の側室と認められないと思いますけど。
公式愛妾であるなら黙認されるのではないかしら?」
王国で最も尊い身分の王族で、国王陛下の姪にあたる血筋。
その姿は美しく、側室どころか亜人の公式愛妾すら容認するという。
これ程の優良物件は他に無いだろう。
だが…
ジャスパーは椅子から立ち上がり片膝を床につき敬意を表す姿を見せる。
「リーヴァ殿下、実は私が殿下に婚姻を申し込んだというのは誤解なのです!
あれは酒の席の余興で言ってしまった言葉であって殿下に婚姻を申し込んだわけでは無いのです」
「…」
「ですから、この結婚はなかった事にしていただきたいのです」
よし!言った!僕偉い!と内心自画自賛するジャスパーに対してリーヴァはドス黒い怒りを感じていた。
自分は『白銀の姫君リーヴァ・ペンズライグ』
王国で最も尊く美しく誰もが婚姻を望む女。
それが側室も公式愛妾の存在も認め、降嫁するというのに、この男は断るのか?
そんな事が許されていいはずがない。
リーヴァ・ペンズライグが婚姻を拒否されるなど、絶対にあっていいはずがないのだ!!
普段は冷静なリーヴァ・ペンズライグが、怒りのままに叫んだ。
計算高く、目の前の男を絡めとり手駒にしようとしていた策略も忘れドス黒い怒りのままに叫んだ。
「グラァァァァームッッ!殲滅せよ!!」
その怒りの声に応え竜種の咆哮が響く。
力強い翼に太く強靭な両脚。
大きく開いた口からは鋭い牙が覗き、頭部には硬く伸びた4本の角。
全身を覆う赤い鱗が赤き竜の名を体現する王国最強の名をほしいままにする魔獣。
空より庭に舞い降りた赤き翼竜グラム。
「ギャオオオオーッ!!」
庭に王国最強の魔獣の咆哮が響く。
だが翼竜が王国最強ならば、ここには世界最強の魔獣が居る。
「あんぎゃ~」
竜種の咆哮を上げ跳躍する最強の魔獣。
太く強靭な四肢に背に広げた翼。
大きく開いた口には鋭い牙が並び、後頭部へと伸びる2本の角。
全身を覆うのは青と緑の中間、美しい碧色の鱗。
それは最強たる伝説の魔獣真竜ハル。
真竜ハルは跳躍し翼竜グラムを迎撃する。
空中で2匹の竜種は激突した。
激しくぶつかり合った2匹は空中で強靭な後ろ脚を使い蹴り会いながら地表へと降下する。
そして地表ギリギリで相手を蹴った反動で大きく間合いを取り、尻尾を立て翼を広げ咆哮し相手を威嚇する。
次の瞬間、2匹は再び跳び上がり今度は強靭な角が生えた頭をぶつけ合わせた。
王国最強と世界最強。
共に最強の銘を持つ竜種2匹は激しく闘う。
その激しい戦いは、大気を引き裂き、大地を砕くようであった…2匹が体長1メートル程度しかない幼体でなければの話だが…
2匹の幼竜は本気で戦っているつもりだろう。
だが幼竜でも竜種の鱗は鉄より硬く、さらに魔力消費で硬度を増す。
その圧倒的防御力は幼竜の蹴りや体当たりでは傷1つ付く事なく、本気で噛みついても血の一滴すら流れない。
幼竜とは防御力が極端に高く攻撃力には乏しい生き物なのだ。
「…」
「…」
ジャスパーとリーヴァは自分たちの愛騎たる竜種の戦いを無言で見ていた。
その様は子犬や子猫が喧嘩してる様子と大差ない。
それでも2匹は主のため兄のために全力で戦っているのだ!
その声が庭に響くまでは…
「お鍋が出来ましたよー!」
ジャスパーの位置からは見えないが庭に響くアンリエットの声。
大鍋の蓋を開けたためかハルとグラムが同じ方向を向き鼻を動かす様が見えた。
そして2匹の竜種は戦いを止めアンリエットの声がする方に走っていく。
「グ…グラム…?」
竜鍋の威力というか、あの鍋がハルにとって異常なレベルで美味しい事を知っているジャスパーはハルが戦いよりも鍋を優先した事を不思議に思わないのだが、竜鍋を知らないリーヴァは呆然としていた。
それはそうだろう自分の愛竜が自分の命令を無視し食事を優先したのだから…
ぽたりと雫が床に落ちた。
「グラム…貴女まで私を置いて行ってしまうの…」
小さな呟き。
ジャスパーはリーヴァの瞳から涙が溢れ床に落ちるのを見た。
「お父様…お母様ーっ!」
リーヴァは号泣し、その慟哭が部屋に響く。
ジャスパーは王女殿下の泣く姿を余人に見せるわけにはいかないと咄嗟に窓を閉める。
ジャスパーが知るリーヴァ・ペンズライグの情報はユーリアや他の貴族から伝え聞いた程度。
それでもジャスパーは目の前で慟哭する少女の過去を聞いていた。
15歳、ズライグ王国では成人と認められる年齢でも日本では中学生か高校生の子供でしかない年齢の少女。
5歳にして両親を失い、自分を引き取った伯父に父親の残した爵位と財産を奪われ政略結婚の道具にされた少女。
そんな少女が唯一の希望としてすがったのが、自分が降嫁する相手が自分に恋し妻にと望んだという事ではなかったのか?
両親を失い、肉親の愛を失った少女が、自分の夫となる人が自分を愛してくれているという事にすがったのではないのか?
しかし、それすらも幻想だった。
その愛の言葉は嘘偽りで少女は愛されてなどいなかった。
そして、今、彼女は自分の愛竜にすら裏切られたのだ。
そんな傷ついた少女を放っておくなどジャスパーに出来るはずがなかった。
「リーヴァ殿下…」
ジャスパーはリーヴァの肩に触れる。
次の瞬間、リーヴァ・ペンズライグはジャスパー・ファーウッドの胸に飛び込んだ。
そして、その胸で泣き続けた。
ジャスパーは自分の胸で泣くリーヴァを抱き締めるべきか悩み天井を見上げる。
そして、自分の胸に顔を埋めるリーヴァの美しい銀髪に目を落とした時、リーヴァの髪から甘い匂いがした気がした。
シャンプーなど存在しないが洗い粉か香水の匂いだろうか?
不思議な香りにジャスパーはリーヴァの髪に顔を寄せ…耐えられない睡魔に襲われ意識を失った。
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「ギャオオオオーッ!」
目の前の大鍋から漂う匂いにグラムは興奮し咆哮する。
そして大鍋に突撃しようとしたグラムに対して、鍋奉行アンリエットは大鍋の上に岩塩を掲げた。
「ギャッッ?!」
「てぃひっ?!」
2匹の竜種はヤバいと理解する。
あんな塩の塊を鍋に入れられたなら鍋の味が全く別物になってしまう。
「ちゃんと行儀良くしない子にお鍋を囲む資格はありませんよ」
野生の本能に支配されながらも、それに勝る食欲で2匹の竜種は大人しく席につく。
人間並み…というか中身が人間のハルはともかく、中身まで竜種のグラムまで大人しくさせる竜鍋の威力恐るべしであろう。
アンリエットは竜種が2匹に増えている事に疑問は持たず、大きな木皿に鍋をよそって2匹に差し出す。
「お代わり沢山ありますからね」
「ウヒヒヒ」
「ギャギャギャ」
2匹の竜種は木皿に顔を突っ込み鍋を堪能し始めた。
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朝、窓の鎧戸の隙間から朝日が差し、庭から小鳥…ではなく竜種の咆哮が聞こえる。
朝からハルとグラムが戦っているらしい。
「どうして…どうして、こうなった…」
ズライグ王国国王メドラウド・ペンズライグの姪である王女リーヴァ・ペンズライグは、隣で小さく嘆くジャスパー・ファーウッドを見る。
2人は全裸でベッドの上、シーツの乱れと床に散乱した衣服が昨夜に何があったのかを物語る。
リーヴァはベッドから起き、まだ茫然自失としているジャスパーを後目に衣服を身につけていく。
そして床に落ちていた空っぽになった薬瓶を拾いポケットに隠した。
「何て事をしてしまったんだ」
そう嘆くジャスパー・ファーウッド。
ジャスパーに昨夜の記憶は無い。
いきなり強烈な睡魔に襲われ、気づいたら隣で全裸のお姫様が寝ていた。
記憶が無くても何があったのかは一目瞭然。
リーヴァが隠した薬瓶に入っていたのは森妖精の作った眠りの魔法薬。
ジャスパーに抱き着き、隙を見て魔法薬を使った。
その効果に抗えず、ジャスパーは眠り、後はジャスパーの服を脱がせてベッドに寝かせ、リーヴァも脱いで隣に添い寝したという事。
もう一押し必要だろう。
リーヴァは、そう判断して涙目でジャスパーを上目遣いに見る。
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「うぇ…」
ジャスパーは涙目で自分を見るリーヴァの瞳を見た。
リーヴァ・ペンズライグはジャスパー・ファーウッドに傷物にされた。
それでも王女という立場ならば、国王の権力で幾らでも縁談を纏められるに違いない。
それでも、それが幸せな結婚になるはずがない。
国王に傷物の王女を無理矢理押し付けられた。
リーヴァの夫となる相手は、そう思い続ける事だろう。
そんな不幸な結婚からリーヴァ・ペンズライグを救える人間は一人しかいない。
すなわちリーヴァ・ペンズライグと一夜を共にしたジャスパー・ファーウッドしかいない。
リーヴァは何も言わない。
涙が溢れそうな目で唇を噛みながらも何も言わない。
既にジャスパー・ファーウッドには婚姻を断られているのだ。
自分を妻にして欲しいなどと言えるはずが無かった。
断られると解っていながら口に出す事など出来ない。
ジャスパーは床に膝をつきリーヴァの手を取る。
そして、その言葉を口から紡いだ。
それしか無かった。
「リーヴァ・ペンズライグ王女殿下。
私、碧竜伯ジャスパー・ファーウッドの妻となっていただきたい」
顔を伏せたジャスパーにリーヴァの表情は見えない。
「碧竜伯ジャスパー・ファーウッド。
私、ズライグ王国グズルーン公爵が第1子にしてズライグ王国国王メドラウド・ペンズライグが養女リーヴァ・ペンズライグは、貴方の妻となりましょう」
ジャスパーはリーヴァの手の甲に口付けした。
この瞬間、碧竜伯ジャスパー・ファーウッドとリーヴァ・ペンズライグ王女の婚姻が成立した。
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「帰りますよグラム」
リーヴァは庭でジャスパーの碧竜と遊んでいる翼竜グラムに声をかける。
お土産らしい大きな骨付きハムを咥えノテノテ歩いてくるグラムを従えリーヴァは執事が操る馬車に乗り込む。
お忍びで来たリーヴァのお供は、父の代からリーヴァに支える執事と愛竜グラムだけ。
見送る夫ジャスパーに軽く手を振り、リーヴァは辺境伯別館を後にした。
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翼竜という亜竜は飛行に特化した竜種である。
その飛行能力は幼竜であっても限定的ながら保有し短距離ならば飛行可能だ。
朝食に骨付きハムを食べたハルは心地好い満腹感に身を委ねながら庭で微睡んでいた。
朝市の時間になったら狐嬢を連れて市場を見に行こうか。
そんな事を考えながら微睡むハルは、辺境伯爵別館の塀を飛び越え墜落するように庭に降りた翼竜の幼体を見た。
「どうしたグラム?」
「キュ~キュ~」
悲しく鳴く翼竜の幼体にハルは察した。
「お前の主に何かあったんだな?」
そして、飛行するグラムの両足に掴まりハルは別館から飛び立った。




