第27話…幼なじみからは逃げられない
辺境伯家令嬢ユーリア・ウォードエンドは幸せだった。
鼻歌を歌いながら髪を櫛でとかし、軽く化粧をする。
昨夜の言葉を思い出すと嬉しさと恥ずかしさで、ベッドの上の枕に顔を埋めて脚をバタバタさせたくなるが、貴族家令嬢として、そんなはしたない真似は出来ない。
ユーリアが、そんな事を考えていると、ユーリアの部屋に泊まる事になってしまった竜騎士ジャスパー・ファーウッドは、ベッドからフラフラと立ち上がる。
「ユーリア卿…僕は自分の部屋に帰ります…」
もう一度愛の言葉が欲しいところだが、武人というのは女心には疎いもの。
ユーリアは、そう考えジャスパーを見送る。
「誰にも見つかりませんように…」
そんなジャスパーの呟きが聞こえ、ジャスパーは扉を開ける。
早朝に男が女の部屋から出てくる。
誤解されないはずが無い。
「……」
「……」
運が悪かったのだろう。
それも最悪に。
ユーリアの部屋から顔を出し、外を伺ったジャスパーと通路を歩いてきた一団の眼が合う。
複数の騎士と兵士、さらには従軍司祭の姿もある。
ジャスパーがユーリアの部屋で一夜を明かした事は、辺境伯を始め砦中に広まるだろう。
ジャスパーは青い顔で扉を閉めた。
「辺境伯に何て言えば…」
ユーリアは思う。
辺境伯は、最初からユーリアとジャスパーを婚姻させ、竜騎士ジャスパー・ファーウッドを味方につける腹積もりだった。
つまり、辺境伯はジャスパーとユーリアが一夜を共にしたとの噂を利用し縁談を纏めにかかるだろう。
領主騎士ファーウッド家が有力貴族ウォードエンド辺境伯爵家からの縁談を断る事など有り得ないのだから、二人の結婚は確定した未来と言えた。
ユーリアは未来を夢想する。
これから妻となり夫を支える事になる。
夫は、今は領地も持たない下級騎士の身分だが、直ぐに爵位と領地を得て諸侯の仲間入りをするだろう。
田舎の領主騎士の三男出身の夫が貴族として生きていく事には様々な苦労があるに違いない。
妾腹とはいえ有力貴族ウォードエンド辺境伯爵家の娘であるユーリアが夫のために出来る事は多いに違いなかった。
しかし、ユーリアは1つだけ勘違いしていた。
ズライグ王国では、一夫多妻が認められており、結婚=正妻となれるわけでは無い事を。
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「ジャスパーさん、お帰りなさいませ」
ジャスパーが自室に戻ると狐嬢が迎えてくれた。
テーブルの上にはパンが入ったバスケット。
既に朝食を終えたハルは傷を治すために眠っている。
傷を治すために安静にする必要があるなら翼竜に喧嘩なんか売るなよ、とジャスパーは思うが。
元々ハルは他人に無意味に喧嘩を売るような人間ではなかった。
もしかしたら竜種としての本能なのだろうか?
例えば複数の竜種が集まると群れの上下関係を決めるために力比べをするとか?
「いやいや、それにしたって野生動物みたいに本能で行動するなよ」
翼竜の方は、幼竜なんて喧嘩相手にはならないと本気で攻撃する事はなかったわけだが、本気で噛みつかれていたら幼竜形態のハルは大怪我していただろう。
そんな事を考えながら朝食にパンを手に取るジャスパーに狐嬢が葡萄酒を持ってくる。
日本のパンと違って固いズライグ王国のパンはスープや葡萄酒に入れて柔らかくして食べるのが普通だからだ。
「はい、ジャスパーさ…ん?」
葡萄酒を渡すためにジャスパーの側に寄った狐嬢が止まる。
「狐嬢さん?どうかしまし…えっ?」
狐嬢の奇妙な態度を不思議に思って、ジャスパーが狐嬢を見ると狐嬢の6本の尻尾が膨らみ立ち上がっていた。
その姿にジャスパーが連想したのは、前世で家の近所を縄張りにしていた野良猫が怒っている様。
狐嬢が怒っている?何故?
ジャスパーの背筋に冷たい汗が流れる。
何故だろう?
大猪鬼の戦士と対峙した時より恐怖を感じる。
「狐嬢さん…怒って…ます?」
ジャスパーが恐る恐る、そう問いかけると狐嬢は笑顔で答えた。
「ジャスパーさんの恋人でも奥さんでもない私が何を怒るんですか?」
顔は笑顔でも眼は全く笑っておらず、言葉には明らかな刺があった。
眠っていたハルが起きてくる。
「狐嬢、私にも葡萄酒をくれ」
そう言って葡萄酒を飲むハルは、ジャスパーの匂いをクンクン嗅ぐ。
「兄貴、香水でもつけてるのか?」
「うぇ?」
ジャスパーは自分の匂いを嗅ぐ。
ほのかに香るのはユーリアがつけていた香水の匂いだろう。
ジャスパーは狐嬢を見る。
ギンギンに立ち上がった6本の狐尻尾。
香水はユーリアの残り香で狐嬢に誤解されてる?とジャスパーは戦慄した。
ジャスパーが、浮気がバレた夫のような言い訳をしようとした瞬間、扉が叩かれる。
当然の事として、来客を迎えるためにハルがノテノテ歩いて扉に向かう。
「ハル、待…」
ジャスパーは悪い予感がしてハルを止めようとするが遅かった。
「ウヒヒヒ」
「ああ竜殿、出迎え御苦労」
奇妙な笑い声のようなハルの鳴き声に答えたのはユーリア。
ユーリアは、焼きたての白パンと林檎酒が入ったバスケットを見せる。
「ジャスパー卿と一緒に朝食をと思ったのだが…」
既に朝食を食べているジャスパーを見てユーリアは少しだけ残念な顔をするが、この部屋に巣くう魔獣は焼きたての白パンを受け取り齧り始める。
少し前に朝食をとったはずであるが、邪悪な魔獣に満腹という言葉はないらしい。
ユーリアは林檎酒を掲げて見せる。
酒を呑めないわけでは無いが、酒が好きではないジャスパーが、唯一美味しいと思える甘い林檎酒。
それを知っていて…というかジャスパーが林檎酒の美味しさに気づいたのはユーリアから貰った一杯が理由であり、それもあり林檎酒を持ってきたのだろう。
「ユーリア卿、ありがとうございます」
そう礼を言うジャスパーの横に当然のように座るユーリア。
その距離は異常に近かった。
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ユーリアは不快感を抑え込み無表情を維持する狐嬢を見る。
この獣人がジャスパーの寵愛を得ている事は知っていた。
しかし、これからジャスパーは貴族の仲間入りをするのは間違いない。
亜人軍の侵攻を受け続けているズライグ王国では、人間に友好的な亜人である森妖精や鉱妖精さえ快く思われない。
遥か東方に住む狐系獣人という亜人はズライグ王国では希少であり偏見や差別の対象になる。
さらに人間との間に子供が出来る事も無い。
そんな獣人の狐嬢がジャスパーの本妻になるのは無理がある。
公的な地位を与えるなら側室すら難しく公式愛妾がせいぜいだろう。
一方でユーリアは妾腹とはいえウォードエンド辺境伯爵令嬢。
ユーリアと狐嬢。
どちらがジャスパーの本妻に相応しいかなど議論の余地すら無い。
それでもユーリアに狐嬢を追い出したりする気はなかった。
ズライグ王国では貴族の男性が複数の側室や公式愛妾を囲うなど珍しくないからだ。
その程度の事を容認出来ないようでは貴族家の奥方は勤まらない。
ジャスパー・ファーウッドの公的な本妻は自分。
それだけでユーリアは満足だった。
公的な行事ではユーリアが常にジャスパーの隣に立ち、側室や公式愛妾は日陰に立つのだから…
ユーリアは狐嬢に悪意を持ち、嫌がらせをしたり、追い出したり、まして暗殺を企んだりはしない。
それでも、愛する人の寵愛を受ける獣人に、勝ち誇った笑顔を向けた。
ジャスパー・ファーウッドの妻となるのは自分だと勝利を宣言する笑顔を向けた。
この時、ユーリア・ウォードエンドは幸せだっただろう。
愛する人の公的な一番になる未来が確実だったのだから。
しかし、運命はユーリアに簡単に勝利を与えなかった。
その証拠に、扉が再び叩かれ来客を告げた。
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ユーリアは、ジャスパーに腕を絡ませ狐嬢に勝ち誇る。
狐嬢は無言で無表情だが、その尻尾だけは怒りと不快感を表していた。
そんな美少女2人が火花を散らす間でジャスパーは全身から脂汗を流す。
ジャスパーとて男の子。
沢山の美女を侍らせたハーレムなんて物を妄想した事はある。
しかし、リアルなハーレムとは天国ではなく地獄であった。
女が寵愛を得るために戦う戦場であった。
脂汗を流すジャスパーは再び扉が叩かれる音を聞いた。
何故だか解らないのだが、絶対に扉を開けてはいけない気がする。
そんなジャスパーの危機を告げる勘を無視してハルが扉へノテノテ歩いていく。
「ハル、待…」
制止の声は届かず扉は開けられた。
そして1人の少女が飛び込んでくる。
「ジャスパー様!!私、来ちゃいました!!」
「アンリエット殿ーっ!?」
少女は、ジャスパー・ファーウッドの実家ファーウッド家の領地の隣に領地を持つ領主ベルトラン・シーパルニアの娘であり、ジャスパーの幼なじみであるアンリエット・シーパルニアであった。
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ベルトラン・シーパルニア卿が率いるシーパルニア家の兵と共にロバに乗り旅してきたアンリエット。
この時、ジャスパーだけは知らなかったが、ファーウッド家とシーパルニア家が決めたジャスパーの婚約者であるアンリエットは室内を見て、状況を察した。
「てぃひ!?」
最強の魔獣、真竜の幼体が引く。
アンリエットから笑顔が消え、その瞳からハイライトが消えていた。
「ジャスパー様、これは、どういう事でしょうか?」
アンリエットは自分の婚約者、いやアンリエットの認識では既に夫であるジャスパーに腕を絡めるユーリアをハイライトが消えた眼で見る。
次に狐嬢の方を見て、地獄の底から響くような声を出す。
「辺境伯爵様の街で、ジャスパー様が獣人の遊女を囲っているなんて根も葉もない噂を流す輩と出会いましたが…
まさか、私というものがありながら卑しい遊女などを囲っているわけは無いですよね?」
単純な戦闘力なら騎士として武芸を修めているジャスパーやユーリア、最強の魔獣ハル、それどころか人間より肉体的に多少なりと優れる獣人の狐嬢にも劣るだろうアンリエット。
この場で最弱のはずのアンリエットにジャスパーは真っ青になりガタガタと震える。
「どうしたんですか、ジャスパー様?
黙っていては解りませんよ?」
アンリエットがジャスパーに迫る。
ジャスパーは座っている椅子ごとジリジリと逃げるが、当然逃げられるわけは無い。
蛇に睨まれた蛙。
いや大人になり力が強くなっても幼い頃からの付き合いである母親や姉に頭が上がらないような感覚であろうか?
ジャスパーは平均より小柄な自分より、さらに小柄なアンリエット相手にガタガタと震える。
「さあジャスパー様、答えて下さい。
この獣人の女性との関係は?」
ジャスパーは失禁しそうな恐怖を感じながら観念する。
嘘など言えるはずもなく、真実を話すしかなかった。
「彼女は、僕が身請けした娼…」
バキッ!
「ウェヒッ!?」
アンリエットが平鍋をテーブルに叩きつけ。
銅製の古い平鍋の柄が折れた。
「あら?買い換え時だったのかしら?」
アンリエットは、ハイライトが消えた瞳で、そんな事を言って折れた平鍋を見る。
ジャスパーからすれば『次はジャスパー様を平鍋と同じような目に会わせますよ』との警告にしか見えなかった。
アンリエットは1つタメ息をついて微笑む。
「ジャスパー様も若い男性ですものね。
女性の身体に興味を持つのも仕方ない事ですね」
そう言ったアンリエットは、ジャスパーに頭を下げる。
何故?と、疑問顔のジャスパーにアンリエットは、眼だけ全く笑っていない笑顔を向けた。
「私が、いつまでも身体を許さなかったから辛かったんですよね。
それで遊女なんかと過ちを犯してしまったんですね」
アンリエットは、よしよしとジャスパーの頭を撫でる。
「結婚するまで純潔を守るのが騎士家の娘の勤め。
それがジャスパー様を傷つけていたんですね。
でも、今夜からは婚約者である私が居ますから安心して下さいね。
ジャスパー様が望む事なら私が何でもして差し上げますから」
そう言ってアンリエットは赤面した自分の頬に手を当てるが、この場の女性陣には聞き捨てならない単語があった。
自分がジャスパーの実質的婚約者だと自認しているユーリアがアンリエットを問いただす。
「アンリエット嬢だったか?」
「領主騎士ベルトラン・シーパルニアの第2子アンリエット・シーパルニアと申します」
アンリエットが騎士家令嬢らしくスカートを摘み礼をする。
それに対してユーリアも立ち上がり自己紹介する。
「ウォードエンド辺境伯アンドレイが第5子ユーリア・ウォードエンド」
互いに令嬢らしく挨拶を交わすが、それは決闘前の騎士が名乗りを上げるようであった。
そう、これから始まるのはジャスパー・ファーウッドの正妻の座を賭けた決闘である。
「今、アンリエット嬢は、ジャスパー卿の婚約者を自称したようだが?」
「まあ、ユーリア様、自称ではありませんわ。
私はシーパルニア家とファーウッド家が認めた正式なジャスパー様の婚約者ですから」
アンリエットは、旅用の袋から大事にしまっていた羊皮紙を出す。
ジャスパーとアンリエットを将来結婚させるという両家の公式文書。
「ユーリア様、こちらを御覧くださいませ」
ユーリアは羊皮紙を見る。
王国の紋章が入った公式な羊皮紙にモンド・ファーウッド卿とベルトラン・シーパルニア卿のサイン。
「ジャスパー卿、これに見覚えは?」
モンド卿とベルトラン卿のサインを知らないユーリアはジャスパーに確認させる。
ジャスパーは羊皮紙を上から下まで読む。
読み終わると再び上から読み直す。
それを三度繰り返し、内容に間違いない事をやっと理解した。
「アンリエット殿…僕は何も聞いてないんですが…」
「そうだぞ、アンリエット嬢。
ジャスパー卿からは婚約者はいないと聞いている!」
そんな2人にアンリエットは、不思議そうに小首を傾げた。
「騎士家の結婚は、家同士の取り決めが全てで本人に伝えられていないなんて珍しくないと思いますけど」
正論である。
騎士家や貴族家の結婚とは基本的に政略結婚。
結婚する当人たちが相手の顔や名前を知らないなんて珍しい話では無い。
「でも…」
ジャスパーは何とか反論しようとするが無駄だった。
「ジャスパー様は、私と2人きりで遠乗りに行くのを誰も止めなかった事を疑問に思わなかったのですか?」
「あっ…」
未婚の令嬢と2人きりで人目につかない場所に遠乗りに行く。
普通なら周りが止めるはずが、誰も止めなかった。
つまり間違いが起きても大丈夫と認識されていた。
それは2人が両家が認めた婚約者だったから…
そう解釈するのが自然だ。
「それにジャスパー様が、私を妻にと望んだのではありませんか?」
ユーリアと狐嬢のジャスパーを見る眼が一気に冷たくなる。
「えっ?そんな覚え…」
覚えはないとジャスパーは言おうとするが…
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まだ幼い子供が庭で遊んでいた。
「回想シーンというヤツだな」
そこはシーパルニア家の庭。
シーパルニア婦人の見守る中、幼いジャスパーとアンリエットは飯事遊びに興じていた。
ジャスパーが夫でアンリエットが妻という役割。
「ねぇアンリエット」
「なぁに?」
「大人になったら、僕のお嫁さんになってくれる?」
「うん、私、ジャスパーのお嫁さんになる」
それは、幼い子供の戯れ言だろう。
大人になる頃には忘れている約束だろう。
そのはずだった
「なるほど、確かに兄貴はプロポーズしてるな」
「待てハル!!何故、お前が僕の回想の中に居る?!」
「兄貴、細かい事は気にするなよ」
昔の事を思い出したジャスパーの脳内世界。
そこでは花婿姿のジャスパーと花嫁姿のアンリエットが並び。
多数の幼竜たちが参列していた。
幼竜たちが余興に歌を唄い、幼竜たちが踊りを披露し、空から天使…では無く色とりどりの幼竜たちが紙吹雪を降らせる。
それは幸せな結婚式…
「いや待て!!勝手に進めるな!!」
ジャスパーは叫び、回想が終わった。
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「この公式文書の通り、私はジャスパー様の公式な婚約者です」
全く膨らみが無い胸を張るアンリエットに、ユーリアはジャスパーに抱きついて見せる。
「既に私はジャスパー卿から愛の告白を受けている。
アンリエット嬢には、ご遠慮いただこう」
ジャスパーがユーリアに告白したという話に、アンリエットは暗黒のオーラを放たんばかりに不快感を表すが、ユーリアは涼しい顔で勝ち誇る。
しかし、アンリエットが黙って負けを認めるはずもなかった。
「ジャスパー様、私、少し変な噂を耳にしたのですが…
なんでも猪鬼に手篭めにされた貴族家のご令嬢がおられるとか。
私、怖いですわ、ジャスパー様が守って下さいますよね?」
貴族家令嬢が結婚前に婚約者以外を相手に純潔を失う事は、婚約破棄の理由になる。
それが強姦といった、本人が望まぬ理由であってもだ。
つまり、ジャスパーはユーリアが猪鬼に襲われていた事を理由に結婚を拒否する事も出来る。
アンリエットは、そう言っているのだ。
2人の令嬢は、睨みあい火花を散らす。
そして同時にジャスパーに叫ぶ。
「ジャスパー様!!私を妻にするんですよね!!」
「ジャスパー卿!!昨夜、愛を囁いてくれたよな!!」
ジャスパーは、腰を抜かして椅子から落ち、床を這いずるように2人と距離を取ろうとするが、もちろん逃げられるはずは無かった。
ハルは、窮地の兄を黙って見ていた。
アンリエットからサンドイッチとリンゴを貰った。
ユーリアから砂糖菓子と林檎酒を貰った。
だからハルは2人の戦いには中立だ。
むしろジャスパーが、どちらかを不当に捨てるなら必殺の竜爪脚をブチ込むだろう。
しかし、ハルは窮地の兄を見捨てるほど薄情では無い。
「兄貴、ズライグ王国って一夫多妻OKなんだろ?」
「ハル?」
「両方、娶っちまえよ!」
ハルは親指を立てて見せる。
その意味は『幸運を!』
ジャスパーは涙目で精一杯の声を出した。
「2人と結婚します!!」
愛しい殿方からのプロポーズに2人の美少女は不快げに眉根を寄せた。
二股宣言されたのだから当然だろう。
「それで、私が本妻でユーリア様が側室ですよね?
私は両家が認めた婚約者なんですから!」
「いや私は辺境伯爵家の娘だぞ!
家柄からして私が本妻だろう!!」
アンリエットとユーリアは再び睨み合う。
2人の戦いは、まだ決着が着きそうに無かった。
その様に、ジャスパーは、床に倒れ混み気絶したふりをした。
そして、2人の争いが決着してもしなくても、ジャスパーには、6本の尻尾をパンパンに膨らませた狐嬢のご機嫌取りが残っているのを忘れてはならないのだった。




