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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王の娘と勇者に選ばれてしまった少年 -Daed End-

作者: 菓月 ヨミ

色々設定の詰めが甘いところがあると思いますが、温かい目で見てください

 「悪」とはなんだろうか。彼はそれを「その人にとって有害なもの」と定義する。

 つまり、見る人が変われば、見方を変えれば、それはまた別の正義であるのかも知れない。ならば絶対の正義なんてものは存在しないのかも知れない。


 では、多くの人々が掲げる「正義」のために戦ってきた、勇者と呼ばれた彼は本当に正義の味方であろうか?


「どうした少年、私を殺さないのか」


 彼の前には人々を長年苦しめてきた魔王の一人娘がいる。

 彼女は自身にこれから起こること、目の前の彼が今までしてきたことを理解した上で、恨んだり、一矢報いようとするどころか、全く抵抗する意思がないようだ。


「多くの同胞たちを、私の父を殺めてきただろう。何を今更迷う必要がある」


 彼の手はすでに多くの血に濡れている。


 人々の生活を脅かす魔物たちを屠った。魔物たちを操っていると言われる魔族たちも殺した。盗賊などの人々の生活脅かす同族も手にかけてきた。邪魔になるものは排除した。危険かもしれないというだけの芽も摘み取った。


 全て、かの王が掲げる「世界の平穏」のため。その目標のため感情を殺し、剣の鋭さだけを追求してきた。

 

 それが今更、今まで殺してきた多くの命によって錆びてしまったのであろうか?


「ねぇ、貴方の不安、きっとそれは私を殺そうとしている理由と同じなんじゃないの?」


 いくら待ってもその時が来ない事に焦れたのか、魔王の娘は、魔族の少女は先ほどとは違う口調で、その疑問に答えてくれる。


 実力主義の魔族たちだ。次期魔王も争いによって決められる。だが、現状の疲弊した状態で同族同士で争うのは悪手だ。そうすぐにはまとめ上げて人間へ復讐を始めることは出来ない。

 だが、彼女がいれば話は別だ。強大な力を持った前魔王の娘という御旗の元に集い、すぐにでも復讐を始めるであろう。

 その危険を削ぐため、彼は彼女を殺そうとしているのだ。


 それを彼女も分かった上で付け加える。


「私が死んだ後、次の人々への脅威は何か。それは単身で、人々を苦しめていた私たち魔族をここまで追い詰めた貴方自身なんじゃないの?」


 そうだ。言われて気づいた。いや、この旅の途中からずっと彼の胸の中にあった不安。


 平穏の訪れた世界に自分ほど似つかわしくない存在はいない。


 僕が魔族の戦力を殆ど削った事により、一般の兵士でも十分に対処可能となっている。ならば、自分は過ぎたる力、身を滅ぼしかねない危険因子なのだ。


 生き残った英雄なんて必要ない。「自身の命と引き換えに勝利を手にした英雄」として美談にした方が何十倍もマシだ。


「貴方自身が貴方を殺すべき敵だと認識してしまった。それを認めたくなかった、逃れられる道を必死に探していた、自分の中に悪があることが怖いのね」


 彼の価値観は王の掲げた平穏の邪魔になるか否か。邪魔するものは全て敵で悪だ。それは自分とて例外ではない。


 人々を救った英雄を恐れ、敬い、媚売る世界の何処に求めた平穏があろうか。


「……逆上して切ってくれると思ったけど、案外冷静なのね」


「そんなに死にたいのか、お前」


「ええ、お父様も、良くしてくれた従者たちも、仲の良かった友人もいないこんな世界で生きていくつもりはないもの。神輿になるのも真っ平ごめんよ」


「それは、すまな……」


「謝らないで、私たちも多くの人たちを殺してきたのよ?自分が生き残るため、誰かの掲げた正義のため、あるいは娯楽として。お互い様なの、だから謝ってはダメ、今まで貴方がしてきたことを他ならぬ貴方が否定しちゃダメ」


「でも……」


「自分の正義を信じ、積み上げて犠牲に報いるためにも、死ぬその時まで貴方は信じ抜かなきゃいけない、自分は正しかったんだと」


 まぁ、その正義によって積み上がる最後の犠牲が自分自身かもしれないけどね、と自嘲する。


「君の言う通り、僕の正義の最後の犠牲者は僕自身なんだろうな。ここで君と僕自身を斬らなければ、今まで同じ理由で斬ってきた奴らに申し訳ないな」


 そう言って少年は少女の首元に刃を向ける。


「最終的に貴方自身も手に掛けちゃうんだね。そこまで貫けるのは凄いと思うよ。とても好感が持てる」


「もしかしたら、君を殺した後、のうのうと生き残るかも知れないよ?」


「そんな顔には見えないよ」


「そっか。正直迷ったよ。でも、君と話して決心出来た、僕は僕の正義を最期まで貫くって。ありがとう」


「貴方に死ぬ決心をさせた私に、多くの人々を殺してきた敵であるはずの私に感謝なんて……」


「君自身は多分数える程しか殺してないんじゃないか、多くの魔族を見てきたが、君からはあまり血の匂いがしない」


「わかるのね。でも、0ではないわ。私は間違いなく、この手で人を殺した。その事実は変わらないでしょ」


「少なくとも僕よりは罪深くないだろ」


「...そう、だといいなあ」


 そう言って、彼らは笑い合うのだった。


「私の大切なものを尽く奪った貴方とこうして笑いながら逝けるなんてね」


 少女の希望により、お互いの首の動脈を切り、失血による死を選んだ。


「僕には焼死なんかで苦しんで死ぬことがお似合いだと思うけどね」


「貴方は自分の耐性を舐めすぎ。焼死や溺死みたいなのはただ苦しむだけで死ねないと思うよ。今だって、お父様が残してくれた、一生塞がらない傷を与える呪いのナイフ、なんて都合の良いもののお陰でこうして死ねるわけなんだから」


「なんでそんなものがあるのに使って来なかったのかね」


「お父様は正々堂々と戦いたかったんだと思う。これで付けた傷で、自分が倒れても失血死で倒せるなんてやり方は嫌いそうだからね」


「そういうところ、勝つためなら何でもやってきた僕からしたらバカみたいだけど、尊敬できるよ」


「目的のために手段を選ばなかった貴方も、矜恃のために打てる手を打たなかったお父様もどちらも間違っているようで、どちらも正しいんだと思う」


 それは魔族も人間も同じで


「「結局、何が正しいかその人次第」」


「だな」


「だね」


「私たちは魔族のために人間を殺した、それが正義だと信じて」


 きっと魔王は魔族にとって正義の味方であっただろう。


「僕は人々のために魔族を殺した、それが正義だと信じて」


 きっと勇者は人間にとって正義の味方であっただろう。


「だけど、それはお互いにとって悪だった。だから、私たちは正義を賭けて戦った」


 そのどちらも両方の正義たり得なかった。争う以外の選択はなかった。


「結果は僕の勝ちだ、魔族は暫く人間に大きな被害をもたらす事はできなくなった」


 二人は死を前にそんな話をしていた。


 床に広がった血は混じり合い、もはやどちらから流れたかなどわからなくなっている。


「これだけ血を流してまだ意識があるなんて、お互いしぶといね」


「そういえば、こんな仲良く死んでるところを見られたら大変じゃないか」


「それなら大丈夫、ここには誰も来ない。それに私たちは死んだら塵も残さず燃えてしまうから、私のオリジナルの呪い(まじない)でね」


「そりゃすげーや」


 出血の量を彼らは寒さを感じだし、意識が朦朧とし始める。


「そろそろ終わりだな」


「そうだね」


「なあ、もし次があるとしたら」


「そうね、次があるとしたら」


 共に、笑い合って、同じ正義を語れる、そんな世界が良いな。


 そうして、二人は息を引き取るのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  良い死にざまだ。 [一言]  正義は陳腐だからこそムキになって守ってしまうのかも。生き汚い国王が勝者かもしれないが、負けた魔王様(既に故人)は間違いなく男前。
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