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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

バイト

作者: Suga32

『はあ。』 俺は預金通帳を観てため息をついた。

次の給料日まではまだ日があるというのに、つい買ってしまった携帯電話。 新機種が発売されたというのでちょっと店に行ったのがまずかった。 いままでの機種と違って動きは早いし画面も大きくてキレイだ。「いいな〜」と思ってたら、お店のお姉さんの笑顔に背中を押されて買ってしまった。

ただ、前に買った携帯電話の残債があったのでそれを一括で払わなければいけなかった。それもけっこうな額だったのだが、後先考えずに思わず払って最新機種にしてしまったのだ。

俺『まいったな〜 来月彼女と温泉旅行行くつもりで貯めといた金なんだけど。これじゃ諦めてもらうしかないな。』

彼女にはいろいろと部屋の掃除とかやってもらっているので、温泉旅行に連れて行くと云ってしまっていた。

俺『これで携帯電話買ったから行けなくなった、って云ったら怒るだろうな〜 呆れ返っちゃうかな〜』

俺には出来過ぎの彼女だと思っていたし、友達からも同じように云われていた。 ちょっと遅れたが彼女への誕生日プレゼントのつもりでもあった。

考えてもいい案は浮かばない。

俺『ちょっとバイトでもするしかないかな?』

そう思って携帯電話でネットでバイトを探してみた。 バイトで検索するとけっこうな結果がでてくる。 その中から良さそうなのを選んで応募のメールをしてみるが、ほとんどが時間的に無理、或は場所が無理なものが多かった。

また、割のいいバイトは既に募集を締め切っているものも多かった。


俺『なんかね〜かな〜。』そう云いながら探していると「携帯電話で出来る、割のいいバイトあります。」と書かれた広告が見つかった。携帯電話だけでできるのなら、時間を気にすることもない。時給は1,000円程度を割といい。これなら1週間もやれば温泉旅行代全部とは云わないまでもかなりの部分を稼げるだろう。 さっそく応募のメールを送ってみるとほどなくして返信のメールでバイトが始められる事になった。

仕事の内容も事細かに書かれている。 内容は「指定された番号に電話をかけて相手がでたら、切る。」或は「メールで指示された内容を一方的に話して切る。」というごく簡単なものだった。しかも電話をかける時には必ず指示された番号を先に付けてかけるので、自分の電話番号が相手に知られることはないらしい。

俺『電話をかけるのか・・・仕事中だとちょっと苦しいな。でも、トイレに行くふりをすればできないことはないか。』

そしてその日からそのバイトを始める事にした。バイト代は自分の指定した金額になったら自分の口座に振り込んでもらうらしいが、小額の場合は振込料金がバイト代から引かれるらしい。俺は2万円で振り込んでもらう事にした。

早速次の日の朝メールが届く。最初の電話は「相手が出たら切る。」という内容だった。 こんな楽なバイトも無い。電話して相手がでたら切ればいいのだ。なんとなくワン切りで嫌がらせの電話をかけているみたいだったが、相手の事は何も知らないのだ。そう気にする事はない。 そのうち指定された内容を一方的に云って切る、という内容の指示もくるようになってきた。内容を観て驚いた。明らかに嫌がらせの電話だ。しかも嫌がらせに心を込める為の練習用の電話番号までついてくる。俺は嫌だったがこのバイト代がかなり効率がいいので金欲しさに続ける事にした。

電話をかけて相手がでたら一方的に怒鳴り散らして電話を切ればいいのだ。 そのうちだんだんとそれにも慣れてきて面白くなってきた。まったく知らない相手に怒鳴るだけで金になる。


だが、このころから何となくだが、彼女も会社の同僚も俺を避けるようになっているような気がする。

毎日のように怒鳴っているから顔でも険しくなってきたのかとも思ったが、そうでもないらしい。初対面の人とはなんということも無く接している。だが、2〜3回会ううちに段々と疎遠になっていく。

とうとう彼女とはお金が貯まる直前にささいな事で喧嘩して別れてしまった。 彼女の最後の言葉は『あなた普段何してるのかわからない、なんか性格が変わったんじゃない?もうお付き合いできないわ。さようなら。』と云われた。

俺は訳もわからないまま別れたが不思議と寂しいとは思わなくなっていた。

なんとなくせいせいした気分だった。 会社はと云えば別に仕事の話は普通にしているし、余所余所しいだけで特に仕事に支障がでているわけではない。 前はあれほど飲みに誘ってくれた同僚から誘われなくなったのは一抹の寂しさを感じたが、それもすぐに慣れた。

そんなある日俺はアパートで新聞を何気なくながめていた、たいした記事も無いと思っていたがふとある記事に目が止まる。

「現代人のうつ病増加さらに自殺者も上昇。」いままでも似たような記事はなんどとなく眼にしていたが、その記事はうつ病の原因として、携帯電話による嫌がらせが増えているという事が書いてあった。1日に何度となくかかってくる無言電話、怒鳴るだけの電話でノイローゼからうつ病を発症する人が増えているらしい。という事で記事は終っていた。

俺は無言で黙っていた。いままで続けてきたバイトがこんな結果を引き起こしているなんて想像もできなかった。 確かに俺からの電話は1日に1回かもしれないが、他にも同じようなバイトが10人いれば1日10回、100人いればと考えただけで恐ろしくなってきた。

いい加減お金も貯まったしバイトはいつ辞めてもいい状態だったので、バイト先に「バイトを辞めたい。」とメールしてみたところ、あっさりと辞める事ができた。


ただ、そのご毎日頻繁に無言電話や怒鳴られる電話、嫌がらせメールがくるようになっていた。

そろそろ限界かもしれない・・・・・・


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