6.真実
城下街に入る門をくぐると、まずは冒険者や商人のための飲食街や宿泊区域があった。
フラワーフェアリーたちの言った通り、今日は国をあげてのお祝い事があるらしく、通りに並ぶどの店や宿屋も綺麗な花飾りを扉や窓枠に付けていてとても華やかに賑わっていた。
どこかで音楽隊が演奏しているのだろうか。楽しげな音楽に合わせて子供達が歌っているのが聴こえる。
小さなカフェのテラスに続くガラス扉の近くで、店員に話しかける薄茶色の髪の少年を私は見ていた。
新緑の瞳の彼が何かを言うと店員は真っ赤な顔をして微笑んで彼に飲み物とお菓子がのったトレイを渡した。
店員はガラス扉を開け店内に戻り、トレイを受け取ったバラガはまっすぐ川沿いのテラスのテーブルにいる私に向かって歩いてくる。
テラスには私とバラガしかいない。
私達はいま城下街にきた旅人のフリをして休息をとっていた。
城下街に入るときにバラガに教えてもらったのだけど、精霊は普通は人間からは見えないらしいが、姿を見せたいと念じれば見せることができるらしい。
「ねぇ、オパール」
「なにかしら?」
「僕は君に何か悪いことをしたかな?」
「いいえ、むしろ怪我するところを助けてもらって感謝しているぐらいだわ」
「だったら、どうしてそんな不機嫌なんだ?」
ぐぬぬ。
いや、別に不機嫌になっているわけではない。
単に平凡な日本人だった私はバラガのあまりの綺麗さに臆して半目になってしまうだけなのだ。
この世界に来る前も、クラスメイトに男友達はいた。わりとカッコいい男子もいたが、バラガの顔の端正さ、骨格の美しさは桁違いだ。直視できないのも仕方がない。
最初に出会った美形のお姉さん...先代の光の精霊王?といい、金髪碧眼のクリストファー王子といい、この世界は見目麗しい人しかいないのだろうか。
(そういえば、部活の友達が貸してくれた乙女ゲームは美形しかいなかったな。初めて乙ゲーをした私はこんな世界あるか!と眉をひそめたけど、こんな世界は本当にあったんだね。あの時はごめん)
今はもう名前を思い出せない友達に心の中で謝罪した。
「オパール?」
(ひっ)
だから!小首かしげて顔を覗き込むなあぁぁ。
(な、慣れない...)
ガタガタと椅子を後方に少しずらして彼から距離をとると、バラガは不思議そうな顔をして私の前方の席に座った。
「はぁ、バラガは綺麗な顔をしているなぁって見ていただけだよ」
「僕が?」
ため息をつきながら私が言うと、予期せぬことだったのか彼は緑の瞳をパチパチとさせている。
「綺麗なのはオパールのほうだ。光の精霊王はこの世界全ての精霊の中で1番美しい精霊だと言われているんだ」
「1番美しい、ねぇ...」
私はバラガが持ってきてくれたお菓子がのった銀色の皿を覗き込んだ。
そこには白金の髪の美少女がうつっている。
金色の瞳に長い睫毛。小ぶりな薄ピンク色の唇。
(しかしだ)
めっちゃ童顔なんですけど!!
そもそもベースが日本人の時の私の顔そのままだった。元々二重で目は大きかったから、瞳の色が金色になってもそこまで違和感はないが、日本人特有の鼻の低さ、顔の丸さで細身のわたしは小さな子供のようだった。
オパールの石をくれた先代の精霊王はもっと大人びた美女だったのに...。
「君はもしかして前世の記憶が残っているの?」
私が自分の顔をペタペタと触っているとバラガが難しい顔で聞いてきた。
「前世、というか、この世界に来る前の記憶はあるけど...」
思い出せない部分もあるから歯切れ悪く答えると、彼はやっぱりという表情をした。
「僕たち精霊の姿形は記憶にひっぱられるんだ。人間も精霊も普通は死者の国で殆どの記憶を消された状態で転生する。
だから大抵は性別も容姿も新たに作り替えられる。でも格が高い精霊になる魂達は保有する力が大きすぎるために記憶の断片を持って生まれ変わってしまう時があるんだ」
「僕は今はもう前世の記憶の欠片すらないけど、今の姿から見ておそらく若くして死んだ魂だったんだと思う」
そう言うバラガは15.6歳の少年の姿をしている。
「それとさ」
クスッとバラガは笑った。
「精霊はほんとは食事をしなくても大丈夫なんだ。食べ物に興味を持つのは君の前世の記憶が影響しているとしか思えない」
なるほど、それでカフェの陳列棚に並ぶお菓子に目を輝かせた私をバラガは驚いた顔で見たのか。
「元日本人として、知らないスィーツを前にして背を向けるなんてありえないわ」
それは不戦敗を意味するっ
バラガが眉を寄せた。
「...日本?そんな国あったかな?」
「ここは異世界だから日本なんてないんじゃない?わたしの魂は地球からこのファンタジーな世界に飛ばされてきたんでしょ?」
でもそうだとしたら私は一度死んだのだろか。
あの一面の光の中、魂だけ飛ばされて異世界にきた?
私の体は魂が抜けたまま、まだあっちの世界で生きているんだろうか。
「何を言ってるんだ、オパール」
春の優しい日差しがテラスに降り注ぐ。
緑の瞳を眩しそうに細めて彼は言った。
「ここは、地球だよ」




