44.私にできること。
お待たせしました。Another Elementsを久々に投稿。作者自身もストーリー忘れかけていましたσ(^_^;)。
「っ......!!貴様...!」
「勝手をされては困るのですよ。」
ワタシノモノニネ
ぼそりと呟いた言葉の最後は私には聞き取れなかった。
険しい顔で目の前の白銀の髪の青年を睨みつけるバラガとは対称的に、急に現れたその人は剣先を突きつけているとは思えないほど落ち着き口元には微笑すら浮かんでいる。
「ルチル!?」
「申し訳ない、オパール。君の髪につけた青薔薇に私の魔力を付加してその軌道を辿らせてもらいました。
不便なことにこの世界では魔法を使っても自分の行った場所にしか転移できないですから。私の分身であるこの青薔薇に擬態した蝶達は私の魔力から生み出されたもの。貴方と行動を共にし、私をこの場に導く役目をしてくれました。」
目の前に幻想的に飛び交う青い蝶達がまるで私を守るかのように私を取り囲む。
その瞬間、ガシャン!!と音がして窓を突き破って2つの何かが部屋に飛び込んできた。
飛散するガラスを受け止めた蝶が次々と目の前で消滅していく。
ぶるるっと体を震わせ身についたガラスや木材を振り払い、グルルルルと低い呻き声をあげたのは、グランディディエ邸で出会った2匹の大きな魔狼だった。
「フェンとリル!?えと、いや、フェンリル!?」
私の驚いた声にちらりとこちらに視線を向けたフェンリル達だったが、すぐにバラガに視線を戻しグルルルルとまた威嚇の唸り声を上げた。
「さあ、森の少年。
私は興味のないものには、あまり気が長くないのです。ヘルヘイムからフェンリル達がわざわざ来た理由はおわかりですよね?」
バラガは、ルチルの言葉に顔色をさっと青ざめると、突きつけられた剣先を睨みながら、悔しげに顔を歪めた。
「......ダメだ!ダメだ!譲らないっ。アクアを死者の国になど行かせないっ!」
ぶわっとバラガの身体から黒い霧が噴き出す。
「せめて人の寿命の時間だけでも、アクアに、彼に幸せを感じさせてあげたい.....。だから!だから!」
悲痛なその叫びが私の心を突き刺した。
心が痛い。
たしかにアクアさんは何も悪くない。
他者の欲望の踏み台にされたアクアさんの人生。
自分の着たい服も着れず、自分のしたいこともできず、偽りの姿のまま終わった彼の人生。
バラガの悲壮な声に、私は言葉を発することさえできず寝台から身を起こしたまま固まってしまった。
人間の寿命分の時間。
平均的な人間の寿命の時間。
それは、精霊である私にはきっとごく僅かな時間。
(だったら、いっそ、私の時間を分けてあげたら.......?
精霊王として『器の記憶』を全て継承できていない自分にしかできないことなのだとしたら、いっそ......)
「いいよ。バラガ。」
「オパール!?あなたは何をっ!?」
私の一言にルチルさんがぎょっとして目線だけを私に向けた。
バラガは目を見開いて私を見つめている。
「私の精霊石を......」
「いけませんっ!!」
バラガに精霊石を渡そうと左手を動かした私にルチルが強い制止の声を放った。
「『力の器』に2つの魂が宿ることなど不可能なんです!人間の寿命である短い時間ですら、そんなことは危険すぎる!なぜなら......!!」
「え......?」
ルチルさんは私が精霊王だと知って...いた?
困惑する私の耳にフェンリル達が突き破った窓から大きな声が響いた。
「「門を開けよ!領主様のお帰りだ!!」」