39.緑の町ナキュラ
「それにしても綺麗な花ね」
「あぁ、この白い花はアキレキアと言う花さ。別名『精霊花』と言われていてな。この地方の儀式やパレードなどで使われる祭事用の花なんだ」
荷馬車の馬の手綱を引きながら歩き出した男は、荷台の花の説明をしてくれた。
彼らはコランバイン男爵邸からの依頼で『精霊の森』近くに咲くアキレキアという花を摘みにきていたらしい。
アキレキアの花や森の動物達の話などを教えてもらいながら歩いていると野道が整備された石畳になった。両脇には色とりどりの花が植えられた花壇があり、花壇に囲まれた道を荷馬車と共にさらに歩くと蔦の模様が装飾された鉄の門が現れた。どうやらここがナキュラの町の入り口らしい。
荷馬車の男たちが門にいる警備兵に話しかけている。ちらちらと警備兵が私のほうを見てくるからきっと男たちが私のことを話してくれているのだろう。
(通行証とかいるのかな?)
身分を証明する物など何も持っていない私がドギマギしながら男たちと警備兵を見ていると警備兵がこちらに歩いてきた。
ラタはまだ誤魔化しの魔法が効いてるみたいで私の肩に乗っているが周りの人間は気づいていたいみたいだ。いまさら彼らの目の前で魔法を私にかけてもらうのも無理そうだし、うーん、身分が不明の者は町に入れることはできないとか言われたらどうしよう?
一旦引き下がる?それとも正面突破?
「お嬢さん」
(きた......!もうこうなったら正面から...!!)
「もしかして、アクア様を訪ねてきたのですか!?」
「おぅりゃああ.........って、え?」
正面突破してやる!と前に突き出した両手をがしっと屈強そうな警備兵の男に掴まれる。
肩に乗るラタが、うんうんと首を縦に振りながら私を見てくる。つまり、ここは『うん』と答えろってこと?
「えぇ、まぁ...」
アクアさん誰か知らないけど。
「なんてことだ!!!」
警備員は私を掴んだ手の片方を離し、その離したほうの手で自分の顔を覆った。
「えぇっ!?なんかダメだった!?答えまちがっちゃった?違うんです私!ちが......」
「アクア様に、こんな可愛いらしいお知り合いがいらっしゃったなんてえぇ...!!!」
は?泣いてる?
なんか屈強な警備兵のおじさんが筋肉隆々な腕で目を押さえながら大泣きしてるんだけど...。
「ね、ねぇ、なんで警備兵さん泣いてるの?おわっ!?こっちも!?」
「ずっと閉じこもったままだったアクア様にもちゃんと素敵な出会いがあったんすね...!」
「オレは嬉しいぜ...」
「本当良かったなぁ。男爵令嬢として辛い日々を送ってるんじゃねぇかといつも心配してたんだ」
振り向くと荷馬車の男たちまで泣いている。
あぁ、彼らの陽に焼けた頬っぺたが涙と鼻水でテカテカだよ。とりあえず鼻水拭いて喋らないと口に入るわよ。
「あぁ!!こんなことしてる場合じゃない!行くよ!」
「え?どこに?」
「もちろんコランバイン男爵邸だよ。君はアクア・コランバイン様に会いにきたんだろう?ちょうど見張りの交代の時間だったんだ。私が案内するよ。あぁ、執事長が喜ぶ姿が目に浮かぶよ!さ、行こう行こう!」
「えぇっ?ちょ、ちょっと待って」
何がなんだかわからないまま、ぐいぐい腕を引っ張る上機嫌の警備兵さんに連れられて、私はすんなりとナキュラの町へと入れたのだった。




