27.再会
◇◇
「眠れない!!」
ふかふかの大きなベッドに寝ていた私は、掛けてあった薄手の布団を両手でバサリとはね除けた。
自慢じゃないが小学校の校外学習のキャンプも中学での修学旅行先のホテルでも「寝つきがいいねぇ」とクラスメイトに羨ましがられたほど私は外泊先での就寝に緊張するタイプではない。
じゃあなんで寝れないんだって?
(広すぎるんだってばあぁぁぁ!!)
前世なんてたった8畳の部屋だったんだ!これでも一人っ子の戸建てだから広めでいいねとマンション住まいの友達に羨ましがられたほうだぞ。しかし、この今の部屋ってその子のマンションの全部屋合わせたぐらいあるんだもの。
「お、落ち着かない...」
前世で典型的庶民の私にはこの開放感は逆にストレスになりそうだ。しかもこんな薄暗い広い部屋に1人でいると余計な想像をしてしまう。
「な、なんか窓枠ガタガタ言ってない?」
いや、あれは風の音だ。うん。
「というか、なんで部屋にやたら肖像画あったりするの?」
目が怖い。目が怖い。全世界の画家さんそんなに忠実に描かないで。
いや、思考を切り替えよう。
寝れそうにないなら、余計な想像をしないように違うことに集中するのだ。
そこで、はたとベッドに入る前のことを思い出す。
ーー食堂でルチルと別れ4階の部屋に戻ろうとした私は使用人の女性数人に両腕をつかまれ、その部屋の横の衣装部屋に押し込まれた。
不敵な笑いの使用人達に一瞬身の危険を感じたが、彼女達の手にはナイフなどの凶器はなく、その手にあったのは数点のドレスに宝飾品の数々。
手をワキワキさせながら、私の髪を結い飾りあげる使用人が話すには、どうも今現在この屋敷の領主には女性親族が共に住んでおらず、久しく着飾らせる対象のなかった彼女達は私が来たことに対して狂喜乱舞だったらしい。
ひとしきり着せ替え人形よろしくあれもこれもとドレスを着せられ、最後には感極まった女性使用人達がハンカチを手に涙を流しながら喜んでいたので、慣れないコルセットだのパニエみたいな腰に巻くパッドだのに疲れたけど、まぁ、お役に立てれて良かったと思う。
しかし、だ。
ぜひ明日の出立までだけでもお召しくださいと使用人達に部屋に用意されたドレス一式を眺める。
彼女達が持ってきた白地のサテンドレスは、袖口に金の刺繍模様があるリボンの縁取りでとても上質な代物だと思う。ただ、
「似てるよね」
そう、私がこの世界で目覚めた時から着ている白地のワンピースに驚くほどデザインが似ている。
たしかに足元まであるドレスと膝下の長さのワンピースでは形が違うが、同じデザイナーがシリーズで作った?とでも言いたくなるほど雰囲気が似ていた。
(私が精霊王だということを知っている?ううん。でもこのドレスや宝飾類は全て、昔この部屋に住んでいた親族の女性の物だと言っていた)
確かに胸元はかなり生地が余って......じゃなくて、全体的に私のサイズではなかった。
「王国ではこういったデザインが多いのかし...」
ガタン!!
「....................。」
ガタガタガタガタ
「私には何も聞こえないわ。うん、あれは風の音、風の音」
ガタガタガタン!!
「.........よ、4階だから」
ガタガタガタガタ
「よ...、ひっ...」
『さっさと開けなさいよーーーっ!!』
窓の隙間から飛び出してきた球体が、恐怖で叫び掛けた私の口を塞ぎ小さな声で怒鳴りつけてきた。