20.火と水の戦い
◇◇
プスプスと音を立て妖獣が燃えた跡が燻っている。
青い髪の青年は目の端にそれを認めると小川にゆっくりと歩を進めた。
「あら、何を逃げようとしているのですの?」
後方からかかった声にカラエスはぴたりと足を止めた。そしてさも嫌そうな顔で振り返りその声の主に答える。
「オレは可愛い女は好きだが、キャンキャン煩い犬は大の苦手なんだ」
「誰が煩い犬ですって!!?」
瞬間、ケルピーの焼け跡から燻っていた火が一気に燃え上がる。ゴオッと紅く燃え上がった火は風を受けてさらに激しく燃え上がり渦巻いた炎となった。
その炎の中にうっすらと人影がうつり、それは次第にはっきりと形を成していく。
燃え盛る炎の中から現れたのは、身に纏う炎と同じ燃えるような赤い瞳の少女だった。
人間ではありえないピンク色をしたウェーブのある長い髪、貴族のような豪奢な緋色のドレス。まるで人形のような美しい容姿だが、その顔は憤怒の表情で染まっていた。
「こっ、このワタクシに向かって犬とは...!!」
見た目は極上の美少女なのに、ギリギリと歯軋りし眉間にシワを寄せている姿がとても残念だとカラエスは苦笑した。彼女は常に周りに燃え盛る炎のような怒りを撒き散らしている。彼女の兄が傍にいるとき以外は。
まぁ、今回に限ってはカラエスの言葉のせいでもあるのだが。
「犬みたいなモンだろ。今だって火の精霊王に尻尾ふって光の精霊王探しか?ご苦労なこったな、マラヤ」
「くっ...尻尾なんて振ってないですわ!光の力をお兄様にお捧げしたいだけですわっ」
「兄ねぇ、今世では兄でも何でもないだろうに」
カラエスの言葉にマラヤと呼ばれた少女の赤い目がキッと鋭くなる。
「今世でもワタクシ達は魂で繋がった兄妹ですわっ! いまに見ていなさい水の精霊王。火の精霊王であるお兄様が光の力を手に入れた暁には我が火の精霊一族が、貴方の一族を従えてさしあげますわ!」
両手を腰に当て言い放ったマラヤはふふんっと笑った。
「風の精霊王は相変わらずの慎重派で様子見。土の精霊王は...まぁ、どうせいつものように武器を作ることに夢中で参戦することはないですわね。
となれば、ワタクシ達と貴方の一族のどちらかが光の力を手に入れるということになりますわ」
彼女の中では4大精霊以外の精霊王は論外らしい。
「これで歴代続く火と水の因縁の対決も結着がつくというものですわ。まぁ、勝利するのはワタクシ達素晴らしき火の精霊一族と決まっているようなものですがねっ!おーっほっほっほっ...って、あら?」
マラヤは、はたと小川の辺り一帯を見渡した。
そしてさっきまでの上機嫌はどこに行ったのか、一気に眉をつりあげ不機嫌になる。
「光の精霊王がいないじゃないですの!強い光属性の魔力を感じてここにやってきたと言うのに!さっきは王都に光の祝福が降ったと聞いたから駆けつけたのにそこにも居なかったですし!!まったく、まったく!すばしっこい女ですわ!!」
キーーッと叫びだす少女にカラエスは本気で帰りたくなった。
ここで起承転結の起の部分が終了です。次話からはあの2人が登場。名前すらまだ出ていないあの方々です。




