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Another Elements  作者: 翡翠 律
ー新緑の瞳の王-
19/44

19.聖木の子

ラタトスク語りです。



 ーー気がついた時はもう誰も周りにいなかった。


 暖かかった巣穴にたくさん詰め込んだはずの緑の葉っぱは見当たらず、私の白い体毛に絡み付いて残っていた数枚の葉をかき集めると自分のシッポに大事にしまった。


 私の大切な木はどこに行ってしまったんだろう。


 うるさかった鷲も竜もどこかへいってしまったのだろうか。いくら探してもみつからなかった。

 木の上と木の下にいて毎日喧嘩ばかりするアイツらをうるさいなぁと鬱陶しく思っていたけど、いなくなれば静かすぎて逆に落ち着かない。


 とうとう本気で喧嘩してどこかへ行ってしまったのだろうか。せっかく白き聖獣である私が何度も仲裁してやったのに。


 大事な木がなくなった森の中央はいつまで経ってもなんの草花も咲かず木も生えなくてがらんとしていた。

 そんな何もない土の上に丸くなり今日も私はあの木やアイツらが戻ってくるのを待つ。

 1日経ち、2日経ち、3日、4日...1週間、1年間、何日も何年も...。

 白かったはずの私の毛は薄汚れてしまって灰色になっていた。

 あまりに時間が経ちすぎて、体力がなくなったのか魔力がなくなったのか、もう自分ではよくわからないけど、だんだんと力が入らなくなって体も冷たくなって私は目を閉じた。


 風が強く吹いたような気がして、薄く目を開けると森の景色が変わっていた。神さま達が喧嘩をして倒れていたはずの周囲の木々は元どおりになっていて、その木々の下には可憐な花が沢山咲いていた。

 でもやっぱり私の大事な木はなかった。

 悲しくて寂しくて、私はまた目を閉じた。


 次に薄く目を開けた時は森の木々は私の周りになかった。代わりに人間達が建てた箱のような家が沢山あった。子供が私を見つけて触ろうとしたけど、その親らしき人間が何かを喚いて子供を連れて行った。

 もちろん近くにはあの木がなかった。

 ため息をついて、また私はゆっくり目を閉じた。


 それから何度か私は目覚めたけど、やっぱり大事なあの木はない。

 目を開ける度に、不思議に世界は様変わりしていたけど、そんなことはどうでもよかった。



 ーー大事な木もアイツらもいないなら、もういっそ、このままずっと眠ってしまおうか。



 そんなことを夢心地に考えていた時、私の体が急に暖かくなった。


 ゆっくりと目を開けると、鮮緑と萌木色の混じった瞳が私を優しく見下ろし微笑んでいた。

 私を抱き上げているその人は、手櫛で私の汚くなった毛を整えると何かの呪文を唱えた。

 彼の左手から淡い黄緑色の光が出て、一瞬で私の毛が元の白さを取り戻した。


 ぐう、と鳴った私のお腹に、彼は目を見開くとにっこりと笑って、手を差し出した。

 彼の手のひらには沢山の木の実があってうれしくなって沢山食べてしまった。

 お腹がいっぱいになって、はたと周りを見渡すと私は深い森にいたことに気がついた。


 彼はこの森の精霊王だと言う。

 誰かと久しぶりに話したからか、それともお腹がいっぱいになったからなのか、私の心の中はなんだか暖かいもので満たされた。


 あの木はないけれど、彼がいてくれるから毎日が楽しくなった。

 彼は名前を教えてくれた。わたしの名前も聞かれたけど、ラタトスクと名乗ると大事なあの木を思い出して悲しくなるから、彼にはラタと名乗った。


 寂しさの中から救い出してくれた太陽みたいな微笑みの彼とずっと一緒にいたいと思った。

 大切だと思った。


 だから彼があの子を救いたいと思った時、私は協力しようと思った。彼の大切なあの子を失ったら、彼は悲しみ寂しがるだろう。

 大切なあの木を失った時の私のように。



 でも



 光のあの子が拐われたとき、私は迷わず追いかけてしまった。

 彼の指示も仰がずに。




 ーーねぇ、世界樹の木。

 大切なものが増える度に私は怖くなるの。


 また貴方やアイツらみたいに私の前からいなくなってしまうんじゃないかって。

 

 1人もひとつも失くしたくなくて、そばに居たくて。


 掴んだはずの指の隙間からこぼれ落ちる砂のような幸せを一粒もこぼれさせたくなくて。

 こんなに必死になってる私を、アイツらは笑うかな。


 本当は皆で一緒にいたいのに。

 どうしたらいいんだろう。

 

 答えはわからない。

 今はもういない大事な貴方は答を教えてはくれない。


 ...それでも


 それでも、私は今目の前のできることをしよう。


 待ってて、オパール。



「絶対に追いつくから」

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